噛ませ転生者のかまさない日々   作:変わり身

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三年目 2

◇月 ◇日

 

 

ざらざら、ざらざら。大粒の雨が土砂の如く降りしきる。

 

窓の外に目を向ければ、濁った鉛色の雲が空を覆っていた。その厚っこさと色の濃さを見る限り、雨はまだ暫く降り続けるであろう事が伺える。

俺としては雨は結構好きなのでそれでもいいんだけども、やはり何となく鬱な気分になるのは止めようがない。ダラダラと寝転がりながらその音色を聞いていた。

 

ざらざら、ざらざら。いやぁ、にしたって何とも眠くなる音である。低気圧のせいか脳も身体も異常な程に怠くて堪らず、ゲームをする事すら億劫で堪らない。

やっぱこんな日はアニメと漫画に限るな。最近ゲーム漬けだったお陰か未視聴の積みDVDもちょっとシャレにならなくなってきたし、いい機会だ。少しは消化しておこう。

 

俺は本棚のように並んだDVDラックからFF:Uっぽい何かを取り出し再生機器にセット、湿気でひりつく膝を引きずり抱き枕に体を埋めた。

なんとこの世界はどこぞの会社が映画制作を行わず赤字を生み出す事が無かった世界線だったらしく、きちんと完結まで持って行ってくれていたのだ。嬉しい限りである。

 

俺がこの世界に来た当初はそれに気付かず見逃しまくっていたのだが、次番組の時期になっても終わらなかった事により発覚。

結局途中から見る気にもなれず、DVDを買っただけで何となくズルズルと引き伸ばして居たのである。いやはやお恥ずかしい、新聞のテレビ欄くらい見とけって話だ。

 

まぁそれはさておき上映スタート。主人公の一角であるハヤカワ姉弟が異世界に迷い込む様をのっそり鑑賞する。

大抵の異世界モノに言える事ではあるが、異世界転移とか聞くと何かシンパシー感じちゃうよね。まぁあっちはチート貰ってないけど。つか今見るとリサだいぶエロいなぁ。

 

……ちょっと肌寒く感じてきたのでタオルケットを用意し、ついでにお茶菓子と焙じ茶をテーブルに配置。そうして深くソファにもたれ掛かる。

すると偶然にも超リラックスする姿勢を見つけ「ほぉ゛ンぉぉ……」声にならない嬌声を上げた。

 

 

「……お前に相応しいソイルはきまったぁー……」

 

 

そうして俺はモソモソと大福を頬張り、指についた白い粉を弄びつつアニメの世界に没入していくのであったとさ。

そーれダイフクホワイツ。ぱらぱら。

 

 

◇月 ◇日

 

 

夏休み明け、メガネっ娘からお土産を貰った。水族館で買ったというイルカのキーホルダーだ。そんな事よりエロ絵以下略。

話を聞くと夏休み中にオリ主含めた原作メンバー達と泊まりがけで遊びに行ってきたらしく、俺を誘えなかった事を申し訳なく思い買ってきてくれたのだという。

 

そうかそうか、俺が30日耐久アニメパレードを開いていた最中に、彼女はそこまでなのは達原作メンバーと親しくなったのか。

最初はただのモブだったのになぁ……そう思うと心に良く分からない温かみが湧いてくる。強いて言うなら自分の作ったオリキャラが公式に採用された気分というべきか、不思議な感覚だ。

 

……そして俺から少し離れた所でアリサ以下二名が得意気に笑っていたので、これからもこの子をよろしくお願いしますとその場のノリで頭を下げてみた。

そうしたら何故か「悔しがりなさいよ! 当たり前でしょ!」と良く分からん感じで怒られた。なんでやねん。これだから三次元は読みにくくていかんのだ、選択肢を寄越せ選択肢を。

 

 

とりあえずキーホルダーは筆箱に付けておく事にする。メガネっ娘が嬉しそうに笑ってたので、この選択は間違っていない筈だ。多分

 

 

◇月 ◇日

 

 

我が家でゴールデンアイっぽいゲームで遊んでいると、インターホンのチャイムが鳴った。

 

結構いい所(死にそう)だったので無視しようとも思ったが、遊びに来たぞーとオリ主の声が聞こえたので仕方なく重い腰を上げる。

そうして今度から合鍵でも渡しとくかなぁと思いつつ扉を開けると――――最早見慣れた面倒臭そうな顔の他に、女顔の少年の姿があった。

 

……誰? 一瞬思考に空白が生まれたが、オリ主がユーノと呼んだ事で疑問は氷解する。ははぁ、これがユーノ・スクライアの実物か。初めて見た。

 

なるほどこれはショタコン大歓喜ですわと一人頷いていると、そんな俺の顔を見たユーノが微妙な表情をしてオリ主に耳打ちをしている。

別段興味も無いので聞く気は無かったのが、俺のチート聴力がその小さな音を無意識のうちに拾ってしまったようだ。聞こえて来るのは本当に小さな囁き声で――「君、こんないやらしそうな人と友達なの?」瞬間、俺は勢い良く扉を閉じた。

 

しかしオリ主の爪先が扉の隙間にねじ込まれ、強引に開け放たれ室内への侵入を許してしまう。チート持ちの俺より力あるとか何者だよ。そうかオリ主か。

まぁ上げてしまったものは仕方がないので、ユーノに対しイケメンチビームを照射しつつも居間に案内してやる。オラついてこい淫獣、遅れんじゃねぇよ淫獣!

 

そうやって助平呼ばわりの意趣返しに淫獣呼ばわりしてやると、ユーノは慌てた様子で謝罪し、弁解し始めた。何でも俺の身体がとてもいやらしい雰囲気を纏っていて、存在自体が卑猥に見えたのだとかなんとか。喧嘩売っとんのか。

よっぽど尻にコロコロカーペットを突っ込んでコロコロカーペットしてやろうかと思ったが、割と真面目な話らしく詳しい話を聞いてやる事にした。

 

彼曰く、俺の内包する魔力から常にいやらしい波動が出続けていて、周りの人々に俺が「エッチな人物」だという印象を与えている……らしい。ユーノは俺を魔法関係の人物だと知らない所為か所々ぼかされた説明だったが、多分そういう感じだった筈だ。

 

ハハハ、そんな馬鹿な――――そう軽く笑って一蹴したい所だったが、しかしこの世界に来る前の希望に溢れた俺を思い出すとあながち無いとも言い切れないのが怖い。

転生前の「原作キャラのハーレムが欲しい」「女の子デバイスくれ」「原作キャラに俺tueeeするんだい」という欲望や願いが強すぎて、与えられた身体にまで妙な影響を及ぼした――とか。それを否定する要素が無いのだ。

 

もしかしたら、アリサ達名ありの原作キャラや四角形に嫌われているのもその所為だったりするのかもしれん。その証拠に、元より興味の外にあったモブやオリ主達は俺に何も感じていないようだったし。

うわぁ、何か正解っぽいぞ。これはちょっと困った事になっ――――

 

 

「……いや、困りはしないか」

 

 

そうだな、だって三次元だもんな。幾ら原作キャラでも三次元ならどう思われたって別にいいやな。

 

それより長年の疑問に一応の答えが出て、何だかスッキリした気分だ。先程とは打って変わって爽やかにユーノを案内する。淫獣とか言っちゃってごめんね? 待っててね今お茶菓子用意するから、ウフフフ。

 

ユーノは突然態度の変わった俺に不気味なものを見る視線を向けてきたが、促されるまま部屋に上がり込み――壁一面に貼られた美少女ポスターやタペストリーを見て凝固した。

「やっぱりいやらしい人だよ……!」そうしてオリ主に助けを求める視線を向けたが、残念。奴は今日借りてく美少女ゲームを吟味している最中である。

 

彼は一緒に攻略本も借りて行き、一週目から利用するギャルゲーマーとしては外道な部類に入るのだが、「ゲームの中でくらい面倒臭くない女付き合いがしてぇ……」という切実な一言を聞いてから俺は黙認する事にしている。

三次元ハーレムなんて可哀想な状況に陥ってしまったのだ、それ位のお目こぼしはしてやってもバチは当たるまい。うん。

 

 

そうしてその後、俺とオリ主はユーノを巻き込んでゴールデンアイ、ゲッターラブ、スマブラの64対戦ゲーム三種の神器……っぽい何かで盛り上がった。

 

最初は泣きそうになって戸惑っていたユーノだったものの、黄金銃で虐殺され、麗香爆弾を浴び、自殺ドンキー殺法を受け終えた時には立派な戦士へと成長。

チョップを使いこなし、デートイベントを次々潰し、崖掴まりの妨害をする。その先の先まで見据えた計略で敵をハメ殺す戦法は正に智将。俺達はとんでもない化け物を生み出してしまったのかもしれない……!

 

とりあえずムカついたので、爆ボンっぽい何かで調子に乗ったユーノをオリ主と結託しボムサンドの刑に処して爆殺してやった。いやぁ、ユーノの悲鳴はエロいなぁ。

 

 

◇月 ◇日

 

 

夜中ダラダラとスーチーパイっぽい何かをプレイしていたら、突然胸元から手が生えてきた。

 

何の前触れもなく、にょっきりと。妙な光と共に現れた女性の腕らしきそれは、同じく胸から飛び出してきた何か宝石のような物を掴み取ろうとしているようにも見える。

……あれ、もしかしてこれA'sのアレか。シャマルの使う旅の鏡とかいう残酷チート技で、宝石は俺のリンカーコアと。そうか、もうそんな時期なのか……。

 

身体をチートで無理やり動かしてカーテンの外を見てみると、少し離れたビルの屋上で何かが発光している様が俺のチート眼球に映る。多分あそこで術を行使しているんだろう。

何日も続いた徹夜の所為か、頭がぼんやりしていてあんまり痛さ苦しさは感じないから良かったものの、物凄い勢いで力が抜けていく。どうすっかなこれ。

 

何か原作に関わる事をしておくべきだろうか。いやでもそっち担当はオリ主だしなぁ、俺としてはデバイスをやった時点でお役御免のつもりだったんだが。

 

そんな事をうんうん考えている内にもどんどんと目が霞んでくる。おそらく後二分も持たずに俺は気絶するだろう。

何か今しか出来ない事はないか、今しか出来ない事は。妙な義務感に駆られた俺は、白みがかった思考の中で必死に考え続け――――ピコーン! と頭の上にロウソクが灯った。

 

――そうだ、今こそ俺の新たな可能性が開く時なのだ。

 

 

「ぐ……うおおお……!」

 

 

俺は掠れた声を上げつつ戸棚の中からビデオカメラを取り出し、適当な場所に設置しスイッチを入れ――――その眼前で腕と脛と頭頂部を床に押し付け、服をはだけさせた上で胸を空へと突き出した。少々変則的なブリッジの姿勢である。

そうしてぷるぷると震えながら最大限腕を突っ張ってシャマルの腕を空高く持ち上げ、「――あはぁぁああああああああぁあンッ!!」残る全ての力を持って幼気な少年を意識して叫ぶ。加えて、表情も艶かしくする事を忘れずに。

 

するとそこが限界だったらしい。ちょっと力んだ拍子に俺のリンカーコアがピキリという音を立て、何やら慌てた様子でシャマルの腕が引っ込んだ。

これにて作戦終了である。残された俺はブリッジのまま白目を剥き、ぼやけた視界に緑で金髪の女性が駆け寄ってくる姿を幻視しつつ気絶したのだったとさ。

 

 

さて、そんなこんなで迎えた翌日の朝。俺は布団の中で目が覚めた。おそらくシャマルが介抱か何かしたのだろう、アフターケアも万全でよろしんじゃないですかね。

 

しかし今はそんな事はどうでも良いのだ。気を抜けば気絶しそうな程に体力を消耗した身体を引き摺って、カメラの確認へと向かう。

件のカメラは床からテーブルの上に置き直されていた。ひょっとしてテープが抜き取られたかとも思ったが、流石にそこまではしなかったようだ。俺は半笑いになりながら、震える手で再生ボタンを押しこんだ――――。

 

 

――――そこに映っていたのは、薄暗い部屋の中で体を突き上げ悲痛な悲鳴を上げる銀髪オッドアイの美少年のあられもない姿だ。

 

艶かしく眉を歪め、口端から涎を垂らし。見ようによっては胸から突き出した腕に性的興奮を感じているようにも見える。これまでの俺とは違う、倒錯的な雰囲気を前面に押し出したエロチシズム溢れる光景である。

 

 

「フ……フヘ、ウフフフ……」

 

 

……見てよ、本当にギリギリの状態でしか撮れなかっただろうこの俺の艶姿。

 

何とも淫靡、何とも耽美。これだから俺は超格好いいんだ、三次元に産まれた生ける二.五次元たる美しい俺の新たな一面が花開いてしまったよ。フフ。

そうして俺は俺の美しさを再確認。ビデオデータを六千六百六十六堂院ベルゼルシファウストファイルに厳重に保管し、学校に休みの連絡を入れた後うっとりしながら再び意識を手放したのであった。がくり。

 

 

◇月 ◇日

 

 

疲れが取れない。

 

先日のリンカーコアぶっこ抜きからこちら、どうも身体が怠くて堪らない。熱は無いにも関わらず関節の節々は痛むし、頭はふらつくし、まるでインフルエンザを患った時のようだ。

身体チートが無ければ心臓を動かす事すら億劫で、学校も休んで今日で四日目。まぁ何時もと変わらずにゲームしたりアニメ見たりしてる訳だが、常に疲れた状態なのは如何ともしがたい。寝落ち率が高すぎる。

 

なのはの時って確か数日で治ってたよなぁ、だったらもうそろそろ何とかなっても良い筈なんだが。

スースーと胸元から何かが漏れる感覚を感じながらサヴァイヴっぽい何かを鑑賞していると、聞き慣れたインターホンのチャイムが鳴る。

 

ここ最近見なかったオリ主がゲームレンタルに来たのかと思ったが、カメラを見てみればそこに居たのはメガネっ娘だった。

何でもオリ主から住所を聞いて様子を見に来てくれたようで、ついでに学校のプリント類も持ってきてくれたそうな。ここまでの歩き疲れと高級マンションに対する萎縮の中に、俺に対する心配が見えて何か嬉しい。

 

まぁこのまま追い返す理由も無いので、俺はマンションのエントランスを開放し玄関の鍵を開けようとして――――はたと気付き、居間の中を見回した。

そうして俺の目に映るのは、壁伝いに並んだ大量の漫画本とゲーム機、ソフト、フィギュア、アニメDVDの山。そしてクリアファイルに入れた美少女ポスターが壁一面に隙間無く掛けられた光景だ。

 

……招くの? この部屋に? オタク臭丸出しのこの場所に……? それって俺にとっての自殺行為なんじゃ――――

 

 

「ま、いっか」

 

 

俺は家でも学校でも何も隠してないからな。にも関わらず普通に接してくるメガネっ娘なら大丈夫だべ。そんな良く分からん信頼を感じつつ特に何も考えず鍵をオープン、彼女を部屋へと招き入れた。

メガネっ娘は最初俺の聖域に驚いたようだったが、すぐに興味津々とした様子であれこれと見回し始めた。その姿には嫌悪感は感じられず、純粋な好奇心だけが伺える。な? 言っただろ?

 

何となく得意げな気分になりながら、原作連中の様子や俺の持つグッズの事を話しつつ一時停止していたアニメを再開。するとメガネっ娘も興味があるらしく、彼女も一緒になってサヴァイヴ鑑賞をする事になった。

まぁまだ序盤だし、犯罪者三人組のシーン以外は特に問題ある場面もないだろう。そんな感じでしばらくは穏やかな時間が流れていたのだが――――テレビの中でシャアラが小説を書いているシーンを見ていたら、ふと思い付く事があった。体を引きずり、PC横の戸棚を開く。

 

そうしてメガネっ娘が不思議そうにこちらを見つめるのを他所に、一つのダンボールを引っ張り出して彼女の目の前に置いた。中身は、二年生の頃に絵の練習に使った画材道具一式である。

あれから半年くらい経って居るものの、未開封のまま仕舞い込んでいた物が殆どなのでまだ使える物もあるだろう。俺は見舞ってくれたせめてもの礼として、これらをメガネっ娘へと差し出したのだった。

 

……え? いらない物の押し付け? 恩を売っての打算? 何とでも言うが良いわフハハハ。

 

最初こそは申し訳ないからと遠慮していた彼女だったが、チラチラと視線が彷徨い興味を隠せていない。

素直になーれと何時かのようにねちっこく耳元で説得すると、目をグルグル回しながら了承。焼却の生き残りであるスケッチブックやペン類を受け取ってくれる事となった。相変わらず扱いやすい奴である

 

まぁ流石にフォトショップといったペイントソフト類は彼女に自由に使えるPCがない事と、値段的に高すぎる事を理由に拒否されたので仕方なく諦める事にしたのだが――――その時、俺の頭に悪魔的な名案が過ぎった。

 

――――そうだ、この家に限りPCとソフトの貸し出しを許可する形にすればいい。そうすればPC内のイラストのデータを後でこっそり拝見できる。

 

例えそれが書きかけの練習絵であろうと、メガネっ娘の絵の上手さから言って相当高いレベルの筈だ。締め切り間際のエロ同人作家の走り書きにも萌えられる俺には何の問題もありはしない……ッ!

 

一瞬の内にそこまで考えた俺は俺議会にレンタル制度法案を提出。俺議員の全員が賛成の意を示した。

臨時議員のメガネっ娘も本当はソフトを使ってみたかったようで満場一致で法案成立、条約締結の内閣樹立。上手い事妥協点を見出した事にテンションの上がった俺は、もうそろそろ門限の時間だと帰り支度を始めたメガネっ娘を送るべく、ベランダへ続く窓を開けた――――!

 

 

……開けてどうしようとしたのだろう。流石に今の最悪なコンディションでダイナミック直帰を、それも人一人背負った状態でやるのはリスキーに過ぎるだろう。

我に返って頭が冷えた俺は素直に玄関まで付き添い、見えなくなるまで手を振るに留めたのだった。

 

…………今日は大人しく寝とこう、うん。

 

 

◇月 ◇日

 

 

未だ胸から何か漏れてる感覚はするが、一応体力的には回復した。

体の怠さも大凡は無くなり、ダイナミック直帰も難なくこなせる程だ。なのでちょくちょく家に遊びに来るようになったメガネっ娘にベランダの窓を開けながら「俺がタクシーになるぜ!」と提案したのだが、青い顔で首を振られてしまった。手っ取り早いのになぁ。

 

そうして久しぶりに学校に登校したのだが、何故かアリサとすずかが浮き足立っていたのが気にかかった。聞き耳を立ててみると、どうやら近々なのはの友人が転入してくるのだそうだ。十中八九フェイトの事だろう。

 

……とすると、もう少しで原作カルテットが完成するのか。この世界が二次元なら夢のハーレムが完成したのに、つくづく三次元である事が惜しまれる。

俺は手の届かない理想郷を妄想しつつ、溜息。憂鬱な気分を上げるためストレンジ・プラスっぽい漫画の最新刊を開いた。

 

……そう言えばオリ主となのはの姿が見えんな。漫画を楽しみつつさりげなく教室の入口を注視していたのだが、結局始業のベルが鳴っても彼らは姿を現さなかった。今日は欠席のようだ。

多分A'sを頑張ってるんだろうなぁ。是非とも俺の仇を打ってくれたまえ。

 

そんな感じで適当に応援しつつ、欠伸をしながらオリ主達の健闘を祈ったのであった。

 

 

――後日フェイトが転入してきたのだが、俺の姿を見た瞬間「……うわ、いやらしい……」と宣いやがって下さった。

声だけだったらご褒美だったのにな、ホント何で二次元じゃないのかと小一時間以下略。

 

 

◇月 ◇日

 

 

胸から漏れ出てた何かが止まった。

 

……本当なら喜ばしいと思うべきなのだが、どうもやらかしてしまった感じがする。

何というか致命傷的な何かを自然治癒に任せてしまい、致命的な結果になった気がしてならない。良く分からんが後遺症とか大丈夫かしら。

 

 

まぁそんな不気味でくだらん話はさておいて。

以前俺とメガネっ娘が結んだPCとソフトを貸し出す契約だが、あれから二週間近く経った今も尚続行中だ。

 

よほど絵を描く事が好きなのだろう。ペイントツールという新しい機材に彼女は興味津々のようで、アニメやゲームを楽しむ俺の背後で家の門限一杯までマンションに居座りPCに齧り付いている姿がちょくちょく見られるようになっている。

慣れぬペンタブを前に四苦八苦する彼女は楽しそうな表情を浮かべており、絵を書く事が好きだという気持ちが俺にも伝わって来る程だ。

 

上手く描けると嬉しそうにPC画面を指さして見せてきたりして、そこまで楽しみ喜んでくれるとこちらも貸出した甲斐があるという物。何となく鼻が高くなった気分である。

……しかし帰宅の時間が来る度に、後ろ髪を引かれた物欲し気な表情を浮かべるのは何とかならんものか。何故か意地悪をしている気になるぞ。

 

ともかくとして、今日もそんな感じでメガネっ娘が帰宅した後にPCに残ったイラストデータを半笑いで眺めていたのだが――ずらりと並ぶ画像データの中に一つ。以前俺が成り行きで作った棒人間格闘ゲーム、その題名が付けられたファイルがぽつんと存在しているのが目に付いた。

何でこんな所にこんな名前が? 疑問に思い開いてみると、そこには可愛い女の子キャラクターが――おそらくは操作キャラの棒人間を擬人化したと思われるイラストが描かれていた。棒人間を擬人化というのも変な話ではあるが。

 

どうやらPCを弄っている最中に、デスクトップに放置していた件の格闘ゲームを偶然にも発見して遊んだ事があるらしい。

しかもそれなりの思い入れを抱いてくれたのか、デコボコとした線で作られたキャラの不格好さが無駄にリファインされ特徴に当てはめられていて、元棒人間である事が一発で分かる良く出来たイラストである。

 

…………何だろう。凄いとは思うのだが俺的に結構キッツいんですが。萌えるんだけど心が痛む、萌えるんだけども恥ずかしい……!

 

羞恥にゾクゾクしつつもマウスホイールをギュルギュルしていくと、その他にも動きを付けたパターンが何種類かあるようだった。

このまま見なかった事にするのは容易いのだが、それだと何か負けた気がして悔しい気もする。まぁせっかくなので、格闘ゲームの棒人間グラフィックと取っ替えてみようかね。

 

俺のドット打ちの腕は棒人間の惨状からしてお察しであるが、今回は元絵があるのである程度は様になるだろう。イザとなったらペラ勢にすりゃ良し。

 

ウーフフフ、自分の絵を勝手に利用される恥ずかしさをメガネも味わってみると良い。俺はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、ポチポチ作業を開始したのであった。

 

 

◇月 ◇日

 

 

虹野さん、メイ様、恵美姫。そのほか大勢の魅力的なヒロイン達。

学校の終業式を終え帰宅したマンションにて、プリントしたときメモシリーズ歴代ヒロインの一枚絵に囲まれクリスマスパーティを開いていると、突然世界の色が変わった。封時結界である。

 

何で急に結界? 何かあったっけ? 暫くクエスチョンマークを飛ばしていると、窓の外から爆発音が轟いた。あ、そうか今日は総力戦の日だったな。

パーティを一旦中断しカーテンを開ければ、少し離れた場所で大戦争が起こっていた。おそらくリィンフォースと戦っているのだろう、あちらこちらで色鮮やかな魔力光が炸裂している。

 

よく目を凝らしてみると見知った顔が沢山だ。

真っ赤な手甲と大鎌を装備したオリ主や無手で頑張ってるユーノに、カートリッジをガシュンガシュン言わせているなのはとフェイト。

それに加えて何か思ったよりも若々しいプレシアとリニスのような女性、アリシアっぽい奴の姿は見えなかったが、それでも錚々たる面子だ。

 

凄いな、殆ど一期オールスターじゃないか。手に持ったままだったフライドチキンをムシャムシャしながら感動する。俺は三次元には萌えないが、燃える事はできるのだ。

そんな迫力ある戦闘シーンを繰り広げるオリ主達を応援しつつ、チート視力で彼らの姿を追っていると――戦場から少し離れた場所にアリサ達の姿を発見した。彼女達は突然の非日常に狼狽え、焦っているようだ。

 

あー、こんなシーンもあったっけなとぼへーっと眺めていると、どうも人数が一人多い。アリサ、すずかの他にメガネっ娘がそこに加わっていた。わーお。

ついに完全に原作サブキャラコースですか。何となく嬉しく思いつつ目を丸くしていると――――戦いの最中で彼女達を見つけたリィンフォースがごんぶとビームを発射した。物凄い衝撃と共に、通り道のビルが次々吹き飛んでいく。すげぇ、ハリウッド映画のCGみたいだ。

 

直撃したらタダじゃ済まなそうだが、まぁ原作じゃなのは達が反応してたし大丈夫だべ。そうタカをくくって目を向ければ、件のなのははオリ主やフェイト達共々、リィンフォースの魔法で生み出されたらしい銀髪オッドアイの触手に絡まれ身動きが取れなくなっていた。かなりブッサイクにされているがアレ俺じゃねぇか!

どうやら俺の魔力が収集された所為で、原作の何かが悪い方向にブレイクされたらしい。言っとくけど俺の所為じゃねぇぞ全部シャマルの所為だからな!

 

――――あのクソ俺触手! このままじゃメガネ達が死……ッ!?

 

超格好いい俺とは似ても似つかぬ触手への憤りと、顔見知りのピンチによる焦りで混乱した俺は、感情のままに勢い良く窓ガラスを開け放つ。

当時の俺が何を考えていたのか。後でよく考えてもイマイチ分からんかったが、しかしまぁ悪いものではなかった筈だ。多分。

 

そうして今まさに欝展開が発生しようとしている空間へ突っ込むべく、チートの許す限りの力を足に込め――――思い切りそれを解き放とうとした瞬間、突然俺触手がなのは達を投げ捨てた。あれっ?

 

本当に、ポイっと。それは何の興味も感じられず、心底どうでもいいと言った風情であり。なのは達も一瞬呆けた様子だったが、直ぐに我に返りアリサ達の下へ急行。何とかギリギリのタイミングで彼女達を守りきる事に成功する。

そしてアースラに保護されたのか、三人の姿が何処かへ転送されて行くのを見て俺はホッと一息。あぁ心臓に悪い、これだから三次元はいかんのだ、伏線無しで予想外の事が起こりよる。

 

ともあれこりゃもう心配いらんだろう。俺はいそいそと窓を閉め直しつつ、不可解な行動をした俺触手へと視線を戻して、「……?」首をかしげた。

 

俺触手の様子がどうもおかしいのだ。ニョロニョロとした身体を丸め、細かく震えながら何か魔力のような物を漏らしている。

最初は何をしているのか分からなかったが――その気持ち悪そうな様子を見ている内に、ふと思い当たる事があった。

 

――そう、俺触手は吐いていたのだ。何も戻す物の無い身体から無理やり魔力を捻り出し、ゲロゲロと、ゲロゲロと。

 

 

「…………可哀想に」

 

 

……思えば、幾らブサイクでもこの俺の要素を持っているのである。三次元相手に触手リョナプレイなんて物をさせられそうになった暁には、そりゃゲロの一つも吐くだろう。

うむうむとこれ以上無い程に俺は共感。そのまま何となく俺触手――否、彼が苦しむ姿を見つめていると、少しずつその身体が消えていく。どうやらゲロのしすぎで身体を構成する魔力が足りなくなってきたらしい。

 

……醜く、しかし決して穢くは無いその散り際に、俺は何とも哀しい気持ちになりながらこれ以上は見ていられないとカーテンを閉めた。

そうしてときメモヒロイン達の元へと舞い戻り、彼の事を悼みつつ合掌。窓の外で再び巻き起こる轟音を無視して、戦いが終わるまでの間ヒロイン達と共に黙祷を捧げ続けたのであった――――

 

 

 

……今日がこれって事は、明日でA'sも大体終了か。結界が解かれた後、ときメモ攻略パレードを行っている内にふとそんな事を思う。

 

残りの原作本編は後十年後。舞台も地球から離れちゃうし、俺が原作のシーンを見る事ももう無いだろうな――そんな微妙な寂寥感を抱きつつ、俺は決闘と言いながら召喚魔法に頼る自称友人に奥義を叩き込んだのだったとさ。

いやぁ、自分で言っててなんだが恋愛シミュレーションの描写じゃねぇよな、これ。

 

 

◇月 ◇日

 

 

ピンポーン、とまたまたチャイムが鳴った。

 

インターホン画面を見れば、シャマルっぽい女性と何故か生き残ってるリィンフォースっぽい女性が菓子折を持ってマンションのエントランスインターホン前に立っていた。多分、魔力収集のお詫び回りとかそんなんだろう。

正直どうでも良かったので最初は居留守しようとも思ったのだが――カメラに映るその表情はとても申し訳なさそうで、無視するのも気が咎め仕方なく招いてやる事にする。優しいな俺。

 

そうして部屋の扉を開ければ、俺の顔を見た銀髪の方が「う……なんてエッ」とか宣いやがったので最後まで言葉を聞く事無く菓子折だけ強奪して扉を閉めた。バンバンとドアを叩く音がするが、俺は知らんも。知ーらんも。

 

 

ともかく菓子折の確認である。少しワクワクしつつ開いてみれば、どうやら中身はシュークリームとオリジナルブレンドのコーヒー豆のようだった。前者はともかく後者はあまり馴染みの無い物なので、少々扱いに困る。

まぁ捨てるのも勿体無いし、せっかくなのでコーヒーメーカーを特急で取り寄せ淹れてみたのだが――これがまた趣深く、大変よろしい感じである。

 

コポコポという独特な音と、ふんわりと漂うコーヒーの良い香り。穏やかな雰囲気が部屋に広がり、心がしっとりしてとても落ち着く。

肝心の味も酸っぱすぎず苦すぎず、一緒に入っていたシュークリームと合うようになっていて良い塩梅だ。

 

どこの製品かなと紙袋を見てみれば、そこには燦然と輝く「喫茶店翠屋」の文字。成程そりゃあ美味しい筈だわ。俺は多分高町の男衆に痴漢扱いされてズンバラリンされるかもだから行けんけど。

 

……ネット販売とかやってないかな。早速検索にかけたが、残念ながら通販はやっていないようであったとさ。無念。

 


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