遥か彼方で   作:アズマオウ

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書き溜めしてたやつです。すぐに投稿できました。

最終回をなぞっただけですが、ちらちらと解釈を見せています。


第二話:孫悟空の、最後の旅・前篇

***

 

 

 百年前。

 

 

 

 

「い、今まで、ドラゴンボールに頼りっぱなしだったけど……今度は、オラが守るんだぁっ!!」

 

 目の前に迫る禍々しい赤の球体を受け止めている悟空。腕のリストバンドは破け落ち、手は焼けるように熱い。足は砕けそうなほどにぎしぎしと痛み、あまりの強大な力に萎えそうになるも、意志の力でどうにか受け止め続けていた。

 

「ふんっ、これで終わりだぁっ!!」

 

 だが、悟空の努力を踏みにじろうとするのか、はるか上空にいる邪悪龍の究極形態の超一星龍は、胸にある七つの紫のドラゴンボールから、光線を放った。それは瞬く間に球体へと飲み込まれ、膨張していった。その勢いに悟空は耐えきることが出来なかった。

 

「うわああああああぁぁっっ―――!!!!」

 

 断末魔を挙げながら、悟空は球体へと飲み込まれて、その命を散らせていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『悟空よ……』

 

 声が聞こえる。太く、聞きなじみのある声だ。痛みや、熱さは遠ざかっていく。はっきりとその声が意識に届いた時、悟空は望みを口にした。

 

『オラはまだ、死ねねえんだ……』

 

 いつの間にか、悟空は冷たい地面に横たわっていた。視界は白かったけれど。

 

『仮に、お前の存在が、あの世からもこの世からも切り離され、はるか遠い世界にて孤独になってもか?』

『……かまわねぇ』

『そうか……わかった。これが、最後の願いだ』

 

 突然、悟空の抜けかけていた力が戻っていった。表面に残る傷は消えなかったけれど、これなら奴を倒せる。

 

『あ、ありがとよ……。じゃあ、行ってくる』

 

 悟空はそれだけ言って、手を空にかざした。

 

『地球中ならば、声を届けられるぞ。ただし、超一星龍の近くは無理だ』

『……構わねえ。頼むぜ』

『了解した。お前の気が済むまで、やればいい』

 

 いつの間にか、太い声は消え去っていて視界は、冷たい岩肌が映っていた。遥か上にはどす黒い空が拡がっており、直径5メートル以上、高さは15メートル程ある穴にいるようだ。鼓膜には、ベジータや悟飯たちの悲鳴が響き渡っていた。しかもかなり辛そうだ。恐らく超一星龍の猛攻を受けているのだろう。

 

「早くしねえと、あいつら死んじまう! 早く元気を……!」

 

 悟空は目を瞑りながら元気を集めていく。すると、欠片ほどでしかない大きさの元気を一つ感知した。

 

 ―――よし……!!

 後はもう休む暇さえ与えないほどの感覚で迫ってきた。頭上にある気の塊はどんどん膨張していく。

 やがて膨張は止まった。これで地球の元気は集まった。あとは―――宇宙だけだ。

 悟空は祈った。誰かからもらった命がまだ続くようにと。最強の敵を、滅ぼすまで生かしてほしいと。皆が再び平和に暮らせる世の中にさせてほしいと。

 悟空はフワッと地面から離れ、浮いていった。ふと目に映るのは、右腕をだらしなく出しているベジータの姿だった。ベジータは相当負傷しているようで、目をきつく閉じていたが、悟空を見た瞬間、驚き、そして勝利の笑みを浮かべた。まだ終わりじゃないことが伝わった。ベジータはいつもの不敵な笑みを浮かべ、外側へと頭を向けた。

 

「フフ、フフフ……」

「ふん、ついに頭がイカれちまったか。貴様も悟空と同じ墓で眠れ」

 

 超一星龍はベジータを哀れむようにいう。奴に言わせれば、既に死にかけているベジータが笑ったとなれば、頭がトチ狂ったと思うだろう。だが、これは奴の間違いだった。それを、数秒後に思い知らされることになる。

 

「何を言ってやがる……貴様の敗けだ」

 

 それだけいってベジータは意識を失った。たぶん超一星龍ははったりか最後の強がりだと思っただろう。

 しかしーーー奴の顔は驚きで塗りつぶされた。ドでかい穴から、大きな光の玉がゆっくりと浮上していったから、ではない。それを掲げている、孫悟空の姿を見たからである。

 

「な、何っ!? 貴様生きていたのか……!!」

 

 悟空は超一星龍のエネルギーボールをまともに喰らって消滅したはずである。だが、確かに存在していた。

 驚く超一星龍に悟空は掠れた声で笑った。

 

「へ、へへ……まだ死ねねえよ……。オメェを……ぶっ倒すまではな……!」

 

 悟空はまだまだ上昇していく。いつしかそれは、雲海を阻む黒いマイナスエネルギーに触れ始めた。マイナスエネルギーは必死に抵抗したが、玉のエネルギーは余りに強大で、マイナスエネルギーを突き抜けていった。穿たれた穴は徐々に広がっていき、視界にあるマイナスエネルギーはすべて消え去っていった。恐らく玉にあるプラスエネルギーが、浄化していったのだろう。

 

「こいつはなぁ! 地球人皆の願えだぁ!! めちゃくちゃにされた地球の叫びだぁっ!!」

 

 超一星龍は舌打ちをかました。だが、内心は恐怖に震えていた。マイナスエネルギーを打ち消せたのは、ついさっき戦った融合戦士・ゴジータだけだった。ゴジータに全く歯が立たなかった。つまり、あれには超一星龍を吹き飛ばせる可能性を秘めているということだ。

 超一星龍は、内から沸き上がる恐怖を否定した。自分が宇宙最強だ。負けるわけがないんだ……! 手をかざしながら孫悟空に叫ぶ。

 

「そんなはずはないっ、お前は確かに死んだ筈だ!!」

 

 それに対し、悟空は笑うだけだった。超一星龍は苛立って気弾を何発か放った。それらは全部悟空に直撃し、煙で覆い尽くされる。

 だが、薄れる煙の中にあったのは、笑う悟空の姿だった。

 

「くそぅ……!」

 

 超一星龍が唸る間、悟空は目を閉じて思念した。

 

『なあ、界王様。聞こえっか?』

 

 その瞬間、悟空の脳裏に聞き覚えのある声が響く。

 

『聞こえるぞ悟空。ナイスじゃ、とどめをワシの教えた元気玉で刺すとはな―――』

『それじゃあ駄目なんだ!! とても奴は倒せねえんだ……!! けど、地球の元気は全部もらっちまった……』

 

 思念で会話している間にも、超一星龍は掲げた手から気弾を連射し続けている。衝撃が胸を打ち続けていき、吹き飛ばされてしまいそうだった。だけれども死ぬわけにはいかない。いかないんだ……。

 

『だから今度は、宇宙中から元気を集めるんだ』

『う、宇宙中の元気を集めるじゃと? これまたすごいことを考えるな』

 

 界王様はあきれながらも感心した。かつて育て上げた戦士が、これほどもなく壮大な存在になるとは、思いもよらなかっただろう。

 

『頼む、界王様!! オラの声を宇宙中に流してくれっ!!』

『よーし、任せとけ!!』

 

 界王様は頼もしい返事とともに、弟子の頼みを聞いた。悟空は衝撃に耐えながらも準備が整うのを待った。おそらく界王様なら数十秒でできるだろう。悟空は憶測で判断し、大きな声で叫んだ。

 

「宇宙の皆―――!! オラに元気を分けてくれ―――!!!! なあ、空に向かって手を挙げてくれ―――!!」

 

 ありったけの声に対して返ってくるものはなく、ただ超一星龍の攻撃が続くだけだった。

 ―――と思われた。

 

 突然だった。何筋ものの光が、一直線に元気玉へと向かって、吸い込まれていくのである。それに伴い、急激なペースで膨張し続けていく。これならば、目の前の強敵を倒せる!! 今の元気玉は、地球以上の大きさはある。何よりも、宇宙中の元気を集めたエネルギーは、何物にも劣ることはない。

 

「―――! サンキュー、界王様―――! サンキュー、宇宙の皆―――!!」

 

 

 そんな悟空の自信、いや、確信を霞み取った超一星龍はまずいと直感的に察した。奴を殺さねば、自分が殺される。ならば、先ほど死に追いやりかけた技を当てればいい。超一星龍は両手をかざして禍々しいエネルギーボールを作り、悟空目がけて投げつけた。

 

「死ねぇっ―――!!!!」

 

 エネルギーボールはまっすぐ悟空へと迫り、爆発した。超一星龍は勝ったと確信した。仮にも地球を吹き飛ばすほどの威力を秘めた攻撃だ。まともに喰らえば、死ななくても、無事では済まない。

 だが、結果は全くの予想外、いや、予想内だった。

 悟空は、生きていた。しかも、傷一つついていない。しかも、無邪気すぎる笑みを浮かべながら、超一星龍を見つめている。

 超一星龍は今度こそ恐怖を覚えた。単なる強さの差じゃない。どこか、孫悟空は別の世界へと達してしまったのかもしれない。自分とは似て異なる存在へと昇華してしまったのかもしれない。そう思うと、怖くなった。

 

「き、貴様……何者なんだ……?」

 

 悟空は、答えない。ただ、超然的な風格だけは嫌でも漂っていった。もうここにいるのはみんなが知っている悟空じゃない。それは、悟空と、超一星龍が一番理解していた。

 いつの間にか、悟空の仲間たちである人間が、続々と戻ってきた。その中の一人である孫のパンは、とてつもなく大きな元気玉を掲げている悟空を見て、感激した。それも、普段のおっちょこっちょいで、食いしん坊で、天然で、優しくて、強い悟空ではない、別の世界の悟空を見て、パンはうっとりとこう言った。

 

「おじいちゃん……神様みたい……」

 

 悟空はそれを背を向けながら聞いていた。悟空は目を閉じ、考える。これが、最後の、孫悟空としての役目だ。この敵を倒し、地球を救う。すべては、これから生きる人間たちのために―――。

 

「―――いくぜっ!!」

 

 悟空が叫ぶと、超一星龍は狼狽した。これほどの奴を相手にして生きられるはずがない。

 

「ま、まま待てやめろっ!!」

 

 普段の自分ならば絶対に言わないセリフだった。けれど、それすらも意識せずに悟空に懇願した。

 でも、悟空はやめなかった。両手を前に振り下ろし、巨大な元気玉を投げつけた。

 大気を揺るがすほどの振動音が超一星龍の鼓膜を揺らす。光色の絶望が視界を覆う。

 超一星龍はどうにか受け止めようと両手を前に突き出した。だが、無駄だった。

 ずしんと大きな衝撃とともに受けたそのエネルギーは強大だった。受け止めようにも思わず離してしまうほどに。がら空きになった超一星龍の体は、何の抵抗もなく元気玉に飲み込まれていった。

 

「うわああああぁぁぁぁっっ―――!! あぁ、あああああぁ、あああああああ―――!!!!」

 

 ゆらゆらと体は溶け始め、断末魔とともに、超一星龍の体は消し飛んだ。元気玉はそのまま地面に平行に滑るように飛んでいき、やがて、空の彼方へと消えていった。

 

 ―――終わった……。

 

 悟空は、頭の片隅で、そう確信した。その瞬間、体の力の糸が切れたように悟空は宙から落下していった。

 

「お父さん!!」

「カカロット!!」

「孫君!!」

「悟空さ!!」

「おじいちゃん!!」

 

 孫悟空を呼ぶ声がした。けれど、悟空は、それを聞くことはなかった。

 だけど。

 

 

 

『悟空よ、まだくたばる時ではないぞ』

 

 

 

 声が脳に響く。その瞬間、光が悟空を包み、疲れが癒えていく。

 

 目が覚めた時には、雲一つない青空が見え、仲間たちが心配そうな顔をしていた。

 

「ご、悟空さ……」

 

 悟空の妻のチチが声をかける。悟空はチチを見て、かすれた笑いを浮かべる。ふと正面を見ると、そこには大きな緑色の龍・神龍がいた。空は明るいままだが、なぜか現れた。その理由を、悟空はひそかに察していた。

 これが、神龍の最後ということを。

 

「お、神龍じゃねえか! オラみんなやっつけたぞ!!」

 

 悟空は起き上がって、元気いっぱいな声を上げたが神龍は声のトーンを低くし、問うた。

 

「なぜ邪悪龍が現れたか、わかっているな?」

「ああ、分かっている。ドラゴンボールがおかしくなっちまったせいだ」

 

 そして、自分たちがドラゴンボールを使いすぎたせいでもあることを。そのせいでドラゴンボールに蓄積されたマイナスエネルギーが暴発し、邪悪龍が出現してしまったことも。

 

「お前たちはドラゴンボールに頼りすぎたようだ。これ以上お前たちに使わせるわけにはいかない」

「え?」

 

 驚く仲間のブルマ。けれど神龍はそのまま続ける。

 

「ドラゴンボールはお前たちの前から消滅し、そしてこの私も消える」

 

 みんなが唖然とする中、ただ一人悟空が首を降った。

 

「そっか、分かった。けどさ、最後に一つだけ願いをかなえてくれねえか?」

「……何だ?」

「今回のことで地球の皆が死んじまった。でも、その理由がドラゴンボールにあるとしたら、みんなは関係ねえ。だからみんなを生き返らせてくれねえか。めちゃくちゃになっちまった地球を、元に戻してえんだ!!」

 

 悟空は必死に訴えた。今までは街とかも直せといった。でも、それは間違いだった。何でも頼っていいものじゃない。当たり前のことに、いまさらに気づいたのである。

 神龍はその過ちの危うさを理解したと認め、よしと渋い声で答えた。

 

「これが、最後の願いだ」

 

 目を赤く発光させ、願いを実行した。すると、どうにか感知できるほどの小さな気がちらほらと出現し始めていく。恐らく生き返っていったのだろう。

 さらに悟空たちと一緒に旅してきたロボットのギルも復活した。命を授かっていないロボットのはずなのに、生き返るとはなかなかのサービス精神だと思う。ギルはパンに近づいていき、再会を喜んだ。

 

「サンキュー、神龍!」

「願いは叶えてやった。では、いくぞ悟空」

 

 えっと、周りの皆が驚き、神龍の方を振り向く。悟空は目を大きく見開いて、皆と同じように疑惑の声を上げるかと思ったら違った。

 

「あれ? もうそんな時間か!」

 

 神龍はそうだと云わんばかりに、頭を低くして、悟空へと近づけた。

 

「乗れ、悟空」

 

 そう促すと、悟空は皆の方を向いて一言だけいった。

 

「じゃあ、オラ行ってくる」

 

 悟空はあくまで、普通の笑顔で、いつもと何ら変わりもない表情で言った。この時、誰も悟空が迎える運命を知るものは居なかった。

 悟空は背を向けてぴょんと神龍の頭に飛び乗った。

 

「待て、カカロット!」

 

 しかしベジータは悟空を呼び止める。ベジータは若干怒っていた。またどこかへ、消えるのかと。何年も前に悟空が天下一武道会にて勝手にどっかへ行ってしまったときのように。

 

「また修行か……―――!?」

 

 だが、ベジータは言葉をつまらせた。悟空がこれから受ける運命を察したのである。目を大きく開き、掠れた声を出す。

 

「カカロット……貴様……」

「しぃー……。じゃあな、ベジータ」

 

 悟空は唇に指を立てた。ベジータはその意味や、そうする理由も察していた。だから、何も言わなかった。別れの挨拶に、何も返さなかった。

 

「じゃあな皆―――!!」

 

 神龍が上昇すると共に悟空は大きく叫んだ。元に戻ったドラゴンボールは輪を描きながら浮遊していく。何が何だか分からない仲間たちは、唖然と見守っていた。

 悟空はずっと笑顔だった。再びどこかへ消えてしまうことになれているから、という訳じゃない。悟空は、そういう人間だからだ。

 神龍は上昇を続け、遥か彼方の雲海へと消えていった。長い尾を引きながら、どこまでも、どこまでも飛翔し続けていった。

 

 雲海を翔ぶ神龍の頭に乗る悟空は、遥か下にある世界を見ていた。そこには、懐かしい仲間たちがたくさんいた。愛用の車を修理する、元盗賊の心優しい戦士・ヤムチャとその手下のプーアルや、修行を続けている天津飯に餃子、修行をつけてくれたカリン様やその近くにいるヤジロベー等、悟空と出会った様々な人々が見えていた。生きていた。悟空は会いに行きたいと思ったけど、それほど時間は残されてない。全員に会う時間はないので、特に会いたい人間のところだけにしようと思った。

 

「なあ、神龍。ちょっと寄り道していいか?」

 

 悟空はとある地点に近づいたとき、神龍に声をかけた。神龍は了解したと承諾し、悟空は頭から下界に飛び降りた。

 柔らかい感触と共に着地した悟空が見たのは、小さな一軒家だった。周りは海に囲まれており、カモメが穏やかに鳴いていた。家には“KAME HOUSE“と書かれていた。

 悟空は懐かしい感慨に胸を打たれた。ここにはもう何度も訪れている。自分の師匠の亀仙人や、無二の親友のクリリンが住んでいるのもあるが、ここで刻み込まれた思い出は大きなものがある。悟空は自然にこぼれる笑みを少し抑えて、空いている窓から中を覗き込んだ。そこには、揺り椅子に座ってエッチな本を読んで興奮している亀仙人がいた。あまりに集中しているせいか、悟空に気づいていない。

 すっかり白髪を生やしてしまったクリリンはテーブルにてお茶を飲んでくつろいでいたが、エッチな本に浸る亀仙人を見て呆れ声で話しかける。

 

「ほぉ~~!! こ、これは久々のぴちぴちギャルじゃて!!」

「相変わらずスケベなんだから、武天老師様」

 

 それを聞いた亀仙人は心外だと言わんばかりにクリリンに吠えた。

 

「バカモン!! お前が持ってきたんじゃろうが!!」

 

 そういって本へと視線を戻すと、盛大に鼻血を吹きだした。

 自分の世界に浸っている亀仙人を放っておいて、クリリンと共にお茶を飲んでいるウミガメがお茶をすすりながら話しかけた。

 

「しかし、クリリンさんもよく何度も死にますねえ」

「俺はお前が何年も生きているほうが驚きだよ」

「亀は万年といいますから……」

 

 せんべいをかじりながら皮肉を返すクリリンだったが、ウミガメの巧みな返しに、苦虫をつぶしたような顔をせざるを得なかった。

 一方で亀仙人はなおも興奮していた。

 

「んほぉ~~これはすごいっ!!」

「やれやれ、ほんとに好きなんだから……」

「ですね……」

 

 二人は呆れながらも笑いあった。

 

「悟空っ!!」

 

 突然出てきたフレーズにクリリンは思わず笑った。が、すぐに驚きに変わった。

 

「悟空だってこのスケベ……、悟空っ!?」

 

 懐かしい親友が窓の外にいた。クリリンはドアを開けてそばへと寄っていき、再会を喜んだ。

 

「悟空、悟空じゃんか!! お、おい、俺また生き返ったんだ!!」

 

 久方の再会に言葉が弾丸のごとく飛び出てくる。だが、クリリンは悟空の表情を見て何かに気付いた。若干得意げだった。

 

「……もしかして、今度もまた、お前が?」

 

 悟空はそれには答えず、ただ笑うだけだった。まあ、それだけでクリリンには答えがわかったのだが。

 

「ははは、久しぶりだなクリリン。それにじっちゃんも。あ、ウリゴメ!!」

「ウミガメ……はぁ……」

 

 いつまでたっても正しい名前で呼んでもらえず、萎えかけるウミガメを見て、クリリンは改めて懐かしさを覚えた。

 

「お前まだちっこいままか?」

「うん、じっちゃんも相変わらずだな」

「こうしてみると、昔に戻ったみたいだな……」

 

 クリリンは、背の低くなった悟空を見て呟いた。もう何十年も前のころの悟空とは比べ物にならないくらいに成長したけれど、それでも似ていると感じてしまう。

 クリリンはその辺に落ちている手のひらサイズの石を拾った。それをポンポンと弄びながら、語り掛けるように悟空に言う。

 

「思い出すなぁ……俺たち、一緒に修業したんだよな。亀って書いてある石を探しに、行かされたりよ!!」

 

 クリリンは石を海へとひょいと投げつけた。それは、水面をぴょんぴょんとはねていき、やがて沈んでいった。子供の時にこうやって遊んだなとふと思いながら浜辺に座り込んだ。

 

「負けたほうは晩御飯抜きだったな」

「オメエズルばっかしたっけか」

「ははは、そうだったな。悟空も相変わらず子供のままだしよ、武天老師様も変わんねえ」

 

 かつて小さかった頃、悟空とともに切磋琢磨しながら、亀仙人の修行に耐えていった。その一環としてジャングルの中にある、ちょうど今クリリンが握っているのと同じくらいの大きさの、亀と書いてある石を探しに行かされたのだが、慣れていなくて不利だったクリリンはズルをして悟空に勝った。まあ罰が当たったのか、せっかくの夕飯が有毒のふぐで、寝込んでしまったのだが。懐かしい思い出である。

 あのころは、悟空に追いつこうと必死に頑張っていたのに今では、悟空とは一生かかっても埋められない差ができてしまった。悟空だけが未知なる世界へと足を踏み入れていく中で、クリリンは安寧な暮らしを望んだ。一人の妻と、子供を持つ普通の暮らしに逃げ込んだ自分をみじめに思う部分もあれば、これでいいんだと妥協する気持ちもあった。

 ただ、悟空は変わっていなかった。いつだって正直で、いつだって前に進んで、いつだっていい奴だった。いつだって、逃げなかった。亀仙人だって、相変わらずスケベで、だらしなくて、けれど人間はできている。その中で、自分だけは、違っていた。

 

「なんか俺だけ年取って、すっかり変わっちまった……」

 

 髪の毛は白くなっていき、力も弱ってきて、爺臭くなって、置いて行かれた自分は、変わっていった。天津飯は、限界を見つけるために修業を重ねているし、ヤムチャも己を探すために相変わらず旅を続けている。その中で自分だけは、歩みを止まってしまったのである。

 クリリンは物憂げな表情を浮かべながらも、かすかに笑った。悟空は何も言わずに、笑顔で見つめていた。

 

「―――なあクリリン、久々にいっちょやんねえか?」

 

 悟空は突然立ち上がって、提案した。クリリンは苦笑し、突拍子もない申し出を断った。

 

「おいおいよせよ今更。敵うわけねえじゃねえか」

「いいからかかってこーい!」

 

 丁重に断るが、悟空は分かったと頭を下げるわけはなく、構え始めていた。クリリンは苦笑しながらも避けられないなと諦めていた。戦いたいといい始めた悟空を止めることなんてできない。それは友人である自分ならよく知っていることだ。クリリンはやれやれと言いながら立ち上がった。

 

「変な奴だな、あんまり恥かかすなよ」

 

 そういい終えると、クリリンも構え始めた。お遊びのつもりだけど、若干本気でやらないとやばいなとクリリンは思いながらパンチを悟空目がけて繰り出す。悟空は的確にそれを腕で受け止める。小出しの技を防がれることは承知していたので蹴りを入れる。ただ、それも受け止められてしまった。まあわかりきっていたけれど。

 今度は悟空の攻撃だった。クリリンのそれより何倍も速い攻撃が迫り、どうにか受け流す。二連撃を防ぎ切り攻撃のチャンスを図った。

 悟空は攻撃をやめた。その隙を狙ってクリリンはミドルキックを与える。悟空はそれを難なく受け入れた。これで悟空の頬はがら空きだ。

 

「てやぁっ!!」

 

 クリリンは拳を思い切り握りしめて、渾身のストレートを繰り出した。悟空は避けずにそれを受けて大きく派手に吹っ飛んだ。砂浜にバウンドしてあおむけに倒れた。もしかしてダウンしたのかと、淡い期待を持ちながら悟空を見る。しかし、いややはり悟空は難なく起き上がって、一息ついた。

 

「へへ、昔のまんまだ。ちっとも変ってねえぞクリリン」

 

 悟空の感想を聞いてクリリンは、照れるように笑った。お世辞かもしれないけれど、素直にうれしかった。

 自分は変わってしまった。でも、悟空との間柄はちっとも変わっていなかったことに、今気づいた。悟空は、そこまで器用じゃないし、いい奴だったことに改めて気付かされたのだった。

 

「ああ、いや、俺もたまには18号と組み手を―――あれ?」

 

 クリリンは少し悟空から目をそらしながら話していた。しかし、視線を元に戻した時にはもう、悟空の姿はなかった。

 

「おい、悟空!? 悟空―――!!」

 

 クリリンがいくら呼んでも返事はなかった。そして知る由もなかった。悟空がこれから迎える運命を。亀仙人がすべてを察していたことを。

 

(悟空よ……神龍に伝えてくれ。ドラゴンボールをありがとうとな)

 

 悟空がつけた足音は、風に運ばれて消え去っていた。

 

 

 

 

 

『これで、終わりか?』

 

 神龍は尋ねてくる。

 

「わりい、もう一つだけいいか?」

「……仕方ない奴だ、どこへいけばいい?」

 

 悟空はちょっと思い出すように顎に手を当てて答えた。

 

「地獄に行ってくれねえか?」

「…………分かった」

 

 神龍はしぶしぶ従った。地獄など、到底行きたい場所ではないけれど、悟空の最後のわがままくらいは聞いてやろうとも思った。

 悟空は、長年共に戦ってきた仲間であり、元は敵だった奴の顔を思い浮かべながら雲海を翔んでいった。

 

 

 

 

 

 




中途半端に切りましたが、文字数がべらぼうに大きくなってしまうので。
すぐに投稿できればと思います。


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