「お、ここがそうかね?」
10分程歩いて男が言っていた洞窟らしきものを見つけた。縦は3m、横は4mくらいの大きさの入り口で奥が暗いことからそれなりに深いことが伺える。
「さーて、それじゃお宝を頂きましょうかね♪」
気分はルンルン、思わずスキップをしてしまう程にアゲアゲである。そうして洞窟の入り口に差し掛かった時ーーーーーーーー
「ッ!?臭っ!?めっさ臭っ!!!」
鼻に刺すような痛みが走った。思わず口元を腕で押さえて距離を取ってしまうほどである。こんなの前の世界でダチとふざけて買った世界一臭い缶詰めを学校の教室で開けたときに匹敵するぞ!?
※それは室内では開けてはいけない物です。そして言うまでもなく学校で開けてはいけない。
「服に臭いが移るか?‥‥‥‥嫌、虎穴入らずんば虎児獲られずとかいうしな‥‥‥‥クソッ、掃除くらいしとけよなまったく‥‥‥‥」
仕方ないので持っていた布切れで鼻と口を被うように巻いて即席のマスクを作る。恐る恐る近づけば臭いのには変わり無いがそれでも少し和らいだ気がする。
「雅と神楽が入ってきたら発狂もんだぞ畜生め」
何時までもうだうだしていてもしょうがないので洞窟内に入る。中には脱ぎ捨てられた服や食べ残しらしき物に酒瓶からキノコやカビが生えていて放置されている。片付けろよおい、偶々この洞窟見つけて暫くしたら移動するつもりだったかもしれないけどよくこんなところで暮らせたな。
「‥‥‥‥グズン」
「ん?」
何か音が聞こえたので薙刀を構えつつ、枝分かれした横道の内の一つを覗き込む。するとそこには少女が縄で縛られて転がされていた。
「おい、大丈夫か?」
「グズン‥‥臭いよ‥‥‥」
「それには俺も同意だよ」
第一声からして平気そうだったので縄を短刀で切って少女を自由にする。
「嬢ちゃん、どうしてここに?」
「お父さんと一緒に木の実とかキノコを取りに来たの‥‥‥‥そしたらあいつらが‥‥‥‥」
「あーうん、もういいから」
たぶんこの娘の父親はあいつらに殺されたんだろう、でこの娘を拐ってきたと。ロリコンかよ、yesロリータnoタッチという格言を知らないのか。
「立てるか?お兄さんが近くの町まで連れていってやるからな」
「待って、お姉ちゃんが」
「お姉ちゃん?」
「うん、お父さんがあいつらに殺されてからお姉ちゃんが助けに来てくれたの。でも私があいつらに捕まって‥‥‥‥」
「それでその人も捕まったと。分かった、じゃあ探そうか。その前に自己紹介だ。俺は雲雀っていうんだ、好きに呼んでくれ」
「‥‥‥‥司馬懿仲達」
「しば‥‥‥‥ファ!?」
少女の、司馬懿という名前を聞いて奇声をあげてしまった俺をどうか許してほしい。だってこの娘の名前が予想外過ぎたんだもの。
司馬懿仲達、それは確か三国志に登場する魏という国に仕えていた軍師の名前だったはずだ。無双ゲーでしか三国志を知らないにわかではあるが流石に有名どころは知っている。確か諸葛亮とライバルみたいな立ち位置の天才軍師だったはず。扇ブン回してビーム出すんでしょ?
その司馬懿がロリコンが垂涎しそうな幼女だったとは‥‥‥‥まさしく小説は奇なり?真実は奇なり?だな。
「‥‥?どうしたの?」
「いいや、よくわからない電波を受信してな‥‥‥‥そんなことはおいといて、そのお姉ちゃん探しにいこうか」
「‥‥‥‥うん」
司馬懿に着いている泥を払ってやってから、手を引いて洞窟の奥に進む。司馬懿はこの洞窟の刺激臭に慣れたのか、臭いについての文句は一言も言わなかった。
そうして洞窟の一番奥まで進んでいくと、そこには木でできた粗末な檻があって、その中には一人の女性が縛られていた。盗賊たちの趣味なのか胸を強調するように縛られた女性は自分が犯されるかもしれない状態だというのになんと寝ていた。
「緊縛状態で寝てるとは‥‥‥‥難易度高ぇなぁおい」
「‥‥‥この人」
「ホントか?」
「‥‥‥間違いない」
「それなら助けてやらないとな」
そう言いながら木の檻を蹴る。本格的に作られた物なら兎も角、適当に作られた物なら蹴るだけで壊れる。その考え通りに檻はバキィといい音を立てながら壊れてくれた。
そしてその音を聞いて眠っていた女性も目を覚ます。辺りを見渡して俺に視線を向けた女性は自虐的な笑みを浮かべた。
「そうか、私のことを犯すのだな‥‥‥‥覚悟はしていたがよもや始めてがこの様な悪臭漂う場所でとはな」
「何勘違いしてるのかな?俺、お前犯さない。俺、お前助ける」
「‥‥‥‥それは本当か?」
「俺、嘘つかない」
「そんなふざけた話し方をされても信じられないのだがな」
ふざけ過ぎたな、反省反省。そう思いながら女性に近づき、縄を短刀で切ってやる。拘束が無くなった女性は確かめるように体を動かして伸びをして、俺の方を向いて頭を下げてきた。
「感謝しますぞ。あのまま盗賊たちに私の純潔が奪われる物だと覚悟しましたからな」
「間に合って良かったよ。いや、間に合って無いのかな?」
女性から視線を外して俺が向いたのは父親を殺された司馬懿の方。目の前で父親が殺されたというのは結構来るものがあるのだか‥‥‥‥司馬懿は思っていたよりも平然としていた。
「‥‥‥‥どうしたの?」
「お父さん殺されて悲しくないのか?」
「‥‥‥‥あいつは最低の親。いつも私のことを殴ってた。血の繋がりのあるだけの他人。死んでくれて清々した」
「あらあら思ったよりも重たい家庭事情だこと」
それならショックは受けないよな。考えてみれば司馬懿が泣いてた原因はここが臭いからって理由だったし。
「貴方はなぜこの様な場所に?」
「盗賊の首狩り。懸賞金と盗賊の溜め込んだ物を狙ってたの。ところでお名前は?俺は雲雀だ」
「これはこれは申し遅れました。私は趙子龍と申します」
「趙、子龍?」
「?いかがなされた?」
趙子龍ったらあれだよね!!蜀に仕えてた趙雲のことだよね!?確か劉備に「趙雲まじすげーわ、お前肝っ玉で出来てんじゃねぇの?」とか言われてた趙雲だよね!?めっちゃ有名人じゃん!!なんでこんなとこにいるの!?そういえばまだ蜀が出来てませんでしたね!!
「‥‥‥‥何でもないっす。で、子龍はどうしてここに?」
「お待ちを、私のことはどうか星とお呼びください」
「それって真名だろ?初対面の男に気軽に渡していいのかよ」
この世界には真名とかいう別の呼び名がある。それはその人が認めた人間や親しい者が呼ぶことが出来て、許可なく呼んでしまえば首を跳ねられても文句を言えないほどに神聖な物なのだ。ってか首跳ねられたら文句も言えないよね。
それをこの趙雲は俺に呼んでもいいと言ってきたのだ。疑問に思わない方がおかしい。
「雲雀殿が居なければ私は盗賊共に純潔を奪われておりました。であるなら、我が真名を預けるのが礼儀という物です」
「‥‥‥‥俺の真名は預けないけどいいか?」
「無論ですとも」
「あーはいはい、分かりましたよ。んじゃ、趙雲の真名預からせてもらうぜ、星」
「はい、雲雀殿」
大切な物だっていうのにポンポン気軽に預けて来るから対応に困るんだよな‥‥‥‥面倒さ。
「俺は盗賊の集めた物漁りに行くけど星はどうする?」
「御一緒させてもらいます。私の荷物もそこにあるやも知れませぬので」
「ヘイヘイ、んじゃ行きましょうか」
「思っていたよりも溜め込んでいたので俺の懐具合がホクホクな件について」
「‥‥‥大漁」
「いやいや、私の荷物も無事で良かったです」
盗賊の集めた物を三人で漁って、持ち出せそうな物だけを持って洞窟から出る。刺激臭漂う洞窟にいたせいで嗅覚はボロボロだがそれでも外の空気が美味いこと美味いこと。
「俺は司馬懿を町に連れていくけど、星はここで別れるか?」
「迷惑でなければ御一緒させてもらいたいが」
「ん、いいよ」
右手でわっかを作って了解の意を示すと目の前の草むらから口の周りを真っ赤に染めた雅と神楽が現れた。どうやら食事を終えたみたいだな。
「虎!?雲雀殿お下がりください!!」
「警戒しなくていいぞ。こいつらは俺の連れだから」
「‥‥‥」キラキラ
星は現れた雅と神楽を警戒して槍を構え、司馬懿は雅と神楽を見て何故か目をキラキラ輝かせている。何て言うか‥‥‥‥反応が両極端だな。
「お帰り。腹一杯になったか?」
「ガ‥‥ウッ!?」
「ガ‥‥オッ!?」
俺に近づこうとした雅と神楽だが、一歩歩いた瞬間に動きを止めて前足で鼻を押さえた。
‥‥‥‥‥‥‥‥どうやら危惧していた刺激臭が俺に移ったようだ。
「‥‥‥‥水場を探そう。どうやら俺たちは臭いらしいからな」
「確かに、乙女のたしなみとして臭いのは少々辛い物がありますからな」
「‥‥‥意義なし」
この後池を見つけて、服を着たままダイブした俺を誰が責められようか。
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