東方因果録 作:醤油
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原作の改変やオリキャラが多数含まれます。
そういったものに耐性が無い方はブラウザバックを推奨します。
東方因果録 ▽
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長い夢を見ていた。
いつも通り縁側で巫女さんと過ごしていたら、魔法使いがやってくる夢。
そしたら巫女さんと魔法使いが境内側で戦い始める夢。
そんな、いつも通りの夢を見た。
目が覚めて仰向けで見えるのは、古ぼけた天井。
水に浮かんでいる様な意識のまま、再び瞼が落ちてくる。
今日の予定を立てることを放棄して、そのままゆっくりと
夢の中の境内で再び見えたのは、笑いながらこちらに駆け寄ってくる巫女さんの姿。
手にはお祓い棒を持って、紫色の髪を揺らしながら語りかけてきた。
……ああ、勝ったんだね。
■
まだ雨の香りはほんのりと残っており、そばに見える水溜まりには、照りつけた太陽の光が反射してきらきら光っていた。
セミの鳴き声も一層煩く聞こえ、遠くに見える妖怪の山は青々とした色彩に染まっている。
空を飛んでいる鳥は楽しそうに
憂鬱気味である。
面白い事は何も起こらず、面白半分に取っている鴉天狗の新聞には殺害事件だの窃盗事件だの物騒な事ばかり。お陰で碌に外も歩けやしない。
気まぐれに人里へ出てみても、いつも通りの平和な日常が広がってる。だからと言って薬草摘みや香林堂に行く気も起こらず、ただ家の中でのうのうと無駄な時間を過ごしていくのみ。
このままでは駄目だと思ってみても実感がわかず、机を離れ、ふらふらとした歩みで傍にあるベッドにば倒れ混んだ。
太陽の光を存分に吸収した布団の感触は最高で、今更ながら窓の傍に置いて良かったと実感する。このまま寝てしまいそうな気分だが、それで時間を無駄にしていくのも良くない。
「はぁ……」
思わず溜め息が出る。
溜め息を吐くと幸せが逃げていくらしいが、今の私にはそんな幸せなぞ持ち合わせていない。あるのは肩にのしかかってくる疲労感と憂鬱感のみ。いつもの私だったら何の気兼ねもなく幻想郷を飛び回っているんだが、どうもその気にはなれない。
しかもこの憂鬱感の所為で魔術の研究も
「こういう時、どうすりゃいいんだろうなぁ……」
魔術が上手くいかないと思い出したのは、いつも笑っている師匠の顔。
あの人はこんな憂鬱感に囚われることなく、のびのびと魔術の研究をやってそうなものだ。昔はあったのだろうが、今の師匠の姿を見てもそんな姿は想像できない。
そういえば、師匠は今博麗神社に住んでいる――本人曰く、
分かるのは、時折人里で会う今代の巫女――博麗霊夢に師匠の愚痴をつらつらと吐かれていること。
……。
「会いに行くか」
久しぶりの挨拶も兼ねて、私は早々に準備を始めた。
いつもの服に、お気に入りのトンガリ帽子。白黒と呼ばれるのは複雑な気持ちだけど、こればっかりは譲れない。私と師匠の信頼の証なのだ。
立てかけておいた箒を手に取り、ドアを開ける。暑苦しい空気が部屋の中に入ってきて、セミの鳴き声がより一層大きく聞こえた。
そうして地面を蹴って、目指すは東。第118季、七の一二の事である。
■
しばらく箒にまたがって東の方を飛んでいると、長い階段と真っ赤な鳥居が見えてきた。その手前には小さい神社、その向こうには大きな青々とした山が見えてくる。境内に降り立って辺りを見回してみると、何ともいえない静けさが感じられた。いつもは境内を掃除している筈の巫女の姿は見えない。セミの鬱陶しい鳴き声が響くばかりだった。
幻想郷の東の外れに位置する神社であり、幻想郷と外の世界とを隔てる博麗大結界を管理している場所、らしい。代々博麗の巫女と神主がこの神社に住みながら結界を監視し、幻想郷のバランスを管理しているそうな。
霊夢の姿は見えず。この時間にいないとなると、買い出しに行っているのだろう。
「おじゃましまーす」
境内を正面から見ると、真っ赤な鳥居と古ぼけた鳥居が目に立つ。横に見えるとうろうを目で流しながら後ろを振り向くと、気が遠くなるほどに長い石畳の階段と一面に広がる森が見えた。
博麗神社は人里から見て山を一つ挟んだ裏側に位置している。その所為で博麗神社への参道は無駄に長く、またその山も妖怪達が
そんな事を考えながら、何をすることもなく無心で境内を歩く。私が来たとたんに魅魔様は出てきそうだが、そこらを数分歩いても魅魔様は一向に姿を現さない。神社の敷地内はいまだに静けさに包まれている。
「魅魔様~、いるのか~?」
大声で呼んでみても、帰ってくるのは蝉の鳴き声のみ。やけに広い境内の中で、取り残されたような孤独感が私を襲う。
「魅魔様――」
しばらくしても現れる気配がなく、もう一度呼んでみると辺りが重い気につつまれた。あれだけ煩く鳴いていた蝉がぴたりと鳴くのをやめて、先程とはまた違う緊張感のような静けさが場を包み込んだ。
目の前に見えるのは、黒く渦巻いている何か。それが一瞬揺らいだかと思えば、一瞬で大きくなって人の形を成していく。
魅魔様が、現れた。
暗い青色の服に、それと同じ色のスカート。緑色の髪の上には、また暗い青色の帽子が乗っかっていた。いつも持っている月の装飾を付けた杖を持って、魅魔様は閉じていた瞳をこちらへ向けた。緑色の瞳が視界に映った。
「なんだい魔理沙、変な風の吹き回しじゃないか」
目に映った緑色の瞳を歪めながら、魅魔様は頬を緩めた。舐めるような視線が、私に突き刺さる。
えっと、私は魅魔様に会いに来ただけだし、訊きたいことはいっぱいあるけど……じゃなくて、どうしたらこの憂鬱感がなくなるか……だったっけ、あれ、えっと――
「……なんか言ったらどうだい」
混乱して何も言えずに黙っている私に、魅魔様は呆れた顔で言ってきた。
「ま、あんたが私を頼りに来るってことは修行で何か躓いたんじゃないかい?」
……当たりだ。
私が何も言わなくても、この人には分かるらしい。
「あんたの体に流れている魔力を見ればわかるさ。今のあんたの魔力は非常に曖昧だ。
魔力ってのは持ち主の感情や状態に現れるから、私みたいな魔法使いになれば体を巡る魔力の状態ぐらい簡単にわかるのさ。覚えておきな」
「あぁ……はい、そうです」
「そうです、って。あんたらしくないねぇ」
魅魔様はそう行ってくすくす笑い、私の方へ寄って来た。魅魔様が怨霊だからなのか、それとも魅魔様に流れている魔力がそうなのか、周りの空気が一瞬冷たくなったような気がした。
「ま、なんだい。中でゆっくり話そうじゃないか。今のあんたは少し疲れているようだからね」
そう言うと、魅魔様はすぐに振り返り、神社の母屋へと入って行った。ふわふわした魅魔様の独特な動きを追いながら、私も母屋の中へと入って行く。
まず母屋へ入ると、それなりに長い廊下に出た。壁には襖が並んでいて、それらはすべて閉まっている。魅魔様は廊下の真ん中を抜けて、一番奥にある部屋へと入って行った。
私も後を追って部屋に入ると、そこは居間だった。魅魔様が適当に座りな、と私に言った。
こうして博麗神社に入るのは久しぶりだ。普段は霊夢と里で会うだけだし、魅魔様が居たから博麗神社に入ることは滅多に無かったんだった。
いやぁ、それにしても霊夢が言う割には結構広いじゃないか――
すぱーん。
「
甲高い音がしたかと思うと、魅魔様は声を張り上げて叫んだ。
驚いて魅魔様の方に目をやると、魅魔様は腕を組んで怒っている様だった。その視線の先では、白い布に挟まれて一人の人間が寝転んでいた。
まず目に入ったのが、黒く長い髪。どうやら腰あたりまで伸びているらしく、とても邪魔そうだった。
その人は、むくりと起き上がると、寝ぼけた目でこちらを見つめてきた。眠たげな黒い瞳がこちらを見つめてくる。とりあえず会釈で返すと、数秒した後にその人は魅魔様の方を向いた。
「魅魔が出せばいいじゃん」
「こういうのは家主が出すものだろ」
冷たい目線で魅魔様が言うと、その人はゆっくり立ち上がり、奥の方へと覚束ない足取りで消えていった。
「すまないね、役立たずの家主で」
いや、それ魅魔様が言えることなのかな。
そんな事を思ったが、口にするとからかわれそうなのでやめておく。
「……ああ、あんたはあんまり知らなかったっけ。此処の宮司のこと」
「あ、うん。あまり知らない……知りません」
思わず素が出てしまって、慌てて言い直す。
顔が途端に熱くなって、とても恥ずかしい気分になった。魅魔様もさっきみたいにくすくすと笑っている。
うう、敬語なんて私のキャラじゃないのになぁ。
「そんなに気負わなくていいさ。今のあんたは客人なんだからさ」
「……はい」
「それで……ああ、秘之依の事だったね。あいつは昔からあんまり外に出なくてねぇ……」
はくれい、ひのえ。
さっき寝ていた人物が、そのような名前だったという。
まるで昔の思い出を話すように秘之依の事を語り始めた魅魔様の言葉に、私は耳を傾けた。
■
御年四十二歳の男性。博麗神社第十六代目神主――魅魔様によると、宮司でも神主でもどちらでも良いとの事――であり、尚且つ同じく十六代目巫女の博麗霊夢の義父にあたる人物である。
性格は温厚。人に怒ったり愚痴を吐いたりすることは滅多に無いらしく、彼が起こるのは八年に一度だという。また、生粋の甘い物好きであり、一日に三回は甘い物を口にしているという要らない情報までは聞いた。
そんなとても中年男性とは思えない人が、目の前に羊羹を運んできてくれた。
「ごめんね、これしか無くて。多分、霊夢が今買いにいってくれてると思うから」
私の方を見て、秘之依さんは申し訳なさそうにして頭を下げた。とても男とは思えないほどに艶やかな髪の毛が揺れて何処か甘い匂いがしたのは気のせいだろうか。
「あんたもいい加減外に出な。霊夢ばっかに買い出し任せて、親としてどうかと思うけどね」
「だから、外に出たくないんじゃなくて、外出はちょっと控えてるんだって……」
僕は日光に弱いから、と秘之依さんは付け足して自分で持ってきた湯呑みに口を着けた。
魅魔様の言う通り、人里でこの秘之依さんを見かけたことは一度もない。秘之依本人は出ていると主張しているのだが、魅魔様によると三ヶ月に一日の頻度ではあるが、人里に足を運んでいるらしい。
……元々、霊夢から義理の父が居るとは聞いていたが、こんな女々しい人だったとは。
体つきは華奢な方だ。初めて見たときは分からなかったが、白い小袖の腕から覗く手首は驚くほどに白く、細い。そのまま風に飛ばされていっちゃいそうなんじゃないか、と思うくらいには体つきは軽そうだ。
そんな事を少し考えながら出された羊羹を食べていると、いつのまにか秘之依さんが私を見つめている事に気がついた。やっぱり顔も白くて細く、そこにある黒い瞳と私の視線がぶつかった。
「…………」
「…………」
……気まずい。
おそらくあっちの方は別にどうして貰っても構わないんだろうが、そんなに見つめられても困る。
およそ数秒間、じぃっと見つめられた後に秘之依さんは私の目を見ながら口を開いた。
「おいしい?」
「……あ、はい。とても」
「そう」
それだけ言うと、秘之依さんは魅魔様に声をかけて耳打ちをした。声が小さくて聞き取りづらいが、ちらちらと黒い瞳がこちらの方を見てくるので、恐らく私に関する事なんだろう。
一通り聞き終えた魅魔様はなぜか驚いているようだった。そしてひとつ溜め息を吐いた後に、私の方を向いた。
「魔理沙、来てもらって悪いけど今日は帰りな」
「え?」
「急用が出来た。明日以降なら何でも聞いてやるから、今日はとりあえず帰りなさい」
そうやって言うと、魅魔様は秘之依さんに何か小声でで伝え、私を追い出すようにして外へ行くように促した。
なんだよー、折角魅魔様を頼って来たのに。
なんで急に? と聞いてみても、明日全部話すから、と言われて受け流された。
……一体、なんだったんだろう。
私は渋々魅魔様に別れを告げて、魔法の森へと帰っていった。
■
「行ったか」
遠くの空で魔法の森へと帰ってい魔法使いを見て、秘之依は静かに呟いた。
「あれが今年引き取った魅魔の弟子ね。調子はどうなんだい?」
「上出来さね。ま、あの娘には劣るけど」
呆れた表情で返した魅魔に、秘之依は黙ったままで固まっていた。いや、固まっていたというよりは昔を思い出していたと言うべきか。
脳内に映るのは、いつも無邪気な笑顔を浮かべていた赤髪の魔法使い。
思い出した昔の記憶を振り払うようにして秘之依は立ち上がり、窓側に立って遠くを見据えた。今の幻想郷は梅雨明けで、突き抜けるような空と青々しく葉をつけた山々が連なっている。
そんな今の幻想郷を眺めて、秘之依は口を開いた。
「明日は、
「……なんだって!?」
ぼそりと呟いた秘之依の言葉に、魅魔は声を張り上げた。
「聞いてないよそんなこと! それに、例え聞いていたとしても、まだあの娘には――」
「だからこそ、出す」
言葉をつづけようとした魅魔にかぶせるようにして、秘之依は強い声で言った。魅魔はそれにたじろいで、秘之依は一呼吸おいてから再び口を開いた。
「早いからこそ、これからの幻想郷を知って貰いたいからこそ、出す。それに、今はあのルールがある。魅魔がしっかりしていれば死ぬようなことは一切無い」
「…………」
「それか、何だ。自分の弟子が信用できないのか?」
挑発するような視線に対して魅魔は声を張り上げ、何処かへふわりと消えていった。残った秘之依はその場に座り込み、すっかり晴れている青空を仰ぐ。 太陽の下では、二羽の鳥が小さな羽根を懸命に動かして飛んでいた。
秘之依にとってそんな事はどうでも良い筈だった。しかし、何故か秘之依はどうしてもその小鳥を見つめていた。
「……いいなぁ」
ぼそりと呟いた後、秘之依の耳に博麗霊夢の声が届く。秘之依はゆっくりとした動作で起き上がり、買い物袋を持っている霊夢の元へ歩いて行った。
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