グレモリーと呼ばれる悪魔の一族があった。
ソロモン72柱56位、世に冠たる《悪魔》という存在として在る72族の一つであるグレモリー族。イエスがこの世に誕生し10世紀近くが経った時、グレモリー族に知力、武力、カリスマに富んだ三兄妹が生まれた。
長男は魔王として、長女は龍を番えさす制龍魔として。
しかし、次男には他の二人と並ぶ名声も、良い話での知名度も無かった。兄のように特に魔力に秀でたと言われるわけでもなく‥‥‥。妹のように恵まれ、そして忠実無比の多くの眷属を持ったわけでも無かった。
だが、何故か悪魔たちは彼の名を聞くと「
同時期に狂気の悪魔が存在したが、そのようなモノとは違う。悪魔の代名詞たる存在、超越者、それが彼の悪魔としての矜持としてあった。
悪愛の凶魔、アクスレア・グレモリー。
知られざるグレモリー三魔将の一柱。これは、その彼の生涯を通して貫いた真の悪者の話だ。
さて、何から話せばいいだろうか。
私の生涯としての話など、そう笑いや感動に包まれた面白おかしいものでもないのだが。まあ、そんな話でも聴いてくれる物好きがいるのなら、生きてきた価値があるというもの、かな。
私はアクスレア。アクスレア・グレモリー。
家族は父母兄妹の5人構成で、背丈は高い方、目はいいかな。得意な魔法は元素魔法で、その中でも対軍魔法は得意だ。スーツが、好きでね。クローゼットに百数着ぐらい保管してあるくらいには好きだ。
どうでもいいね、そんなことは。あはは。
まあ、こんな私でも割りと慕ってくれる人は思いの外多くてね、いや自慢じゃないんだ。ほんとに不思議だった。多くの罪を犯してはいたが、逆に私が成したことと聞かれても、自信を持って答えられることは無いからね。ああ、使い余るほどにできた巨万の富ならあるかもしれないね。
まあ、そうだな。私の自伝というのなら、この辺りが話し始めるのであれば最適なんじゃないだろうか。
――――そう、私が私と成り得たあの日の話からなら、上手く私というモノを理解していただけるんじゃないかな。
♠ ♥
三竦みの戦争、というものがあった。天使、悪魔、堕天使の三勢力による大戦が残した爪痕は、どの勢力にも目に現れる形で前体制に、大きな変換期を迎えさせた。旧魔王が死に、新しき魔王が再びこの世に現れる、それが悪魔側の新たな革新であり、悪魔達を2つに分ける亀裂が生じた原因でもあった。新魔王として、四大魔王に選出された四人の悪魔に反抗的な意思を持った悪魔、後に旧魔王派として裏で暗躍し始める奴らの存在、それが大きな亀裂だった。
兄、サーゼクス・グレモリーが四大魔王の一人『ルシファー』に選ばれ、任命当初は兄の命を狙う輩は絶えなかった。それを排除、殲滅、処理するのが私の役目であり、使命でもあった。魔王秘書、として兄の妻であるグレイフィアと共にサーゼクスをサポートした。
ただでさえ、戦争により悪魔の半分近くが消滅されたあの時期には、内側で争っている場合ではなかったが、階級を重視する我ら悪魔に取って、やはり新魔王問題が真の意味で解決することは、難しかった。
兎にも角にも、いち早く問題の収集をどんな形でもつかせなければならなかった。天使、堕天使らの針のように細部を刺すような一部分的な攻撃は、地盤が完全に緩みきった悪魔陣営にとって、根本的に体制が崩れかねない事態だ。旧魔王派にはかまって入られない、そうして計画されたのが旧魔王派の武力行使による鎮圧、である。
指揮官に任命されたのは私だった。兄は荒れ続けている政務に務めなければならない。魔王秘書、と同時に魔王候補の一人でもあった私に下された使命は虐殺と言っても過言ではない内容だった。ただでさえ半分に減った悪魔は、例え敵対意思をこちらに向けてこようとも貴重。しかし、兄ら新魔王四人はそう、決断せざるを得ないまでに追い込まれていた。
結論を言えば、成功した、と言えるだろう。
私が率いる軍勢は、旧魔王派の抗戦勢力をほとんどを殲滅せし得た。一割ほどの逃亡者を出してしまってはいたが、上々の結果といえた。
その目に見える結果として、旧魔王派の発言力は皆無となり、政務は順調に済んだ。だがしかし、一点だけ、処理すべき問題は残っていた。
私だ。
任務といえど、同族を殺害した罪は重い。そう言って、私は罪に処したのは他ならぬ兄だった。「耐えて、くれ」。単純明快なその命令に、私は冥界にそびえ立つ巨樹ディゴニアによる無期懲役拘束刑に処されることとなった。
納得はしていた。兄は私のことを溺愛してくれていたし、受刑中に面会に来たグレイフィアから、ある程度理由は聞いていた。小難しい話だが、簡潔に言えば、私や兄の母であるヴェネラナ・グレモリーの実家であるバアル大王家。そこの重鎮が、魔王に並ぶ強大すぎる力、そして女子供も構わずに旧魔王派を殺戮したその異常性を恐れた、というのが事の真相だった。私の指揮す軍勢は、他の悪魔が指揮する軍勢よりも数レベル統率がとれていたこともあり、かつての戦争において、比較的損害は少なかった。その強力なアクスレア軍勢を、手元に置き、管理できるようにしたかったというのもあるらしい。
数世紀経ったぐらいだろうか、一年に一度面会に来るグレイフィアが、母ヴィネラナが新たなお子をお宿しになったことを私に話した。名を、リアスというらしい。数百、数千単位で生きる悪魔は個体の性質的に子を宿すことが難しい。祝辞を申し上げたいところだが、こう拘束されていてはな……。そう苦笑気味に言った私に、グレイフィアは苦痛でか、顔を歪めながらそっと私だけに聞こえるようにこう囁いた。
「もう少しです」
幾分か、生きる希望が生まれた気がした。
いや、ね。流石に数世紀も身動きひとつ取れない状態というのは、かなり辛かった。ディゴニアから生を保つ上でギリギリ最低限の栄養しか与えられていなかったし相当に参っていた。ここから出られる、という嬉しさもあったが、一番はリアスという妹ができた事、彼女に会いたい。ただその一心で、グレイフィアが言うその日を、待ち付けた。
遂にその日がやってきた。
兄とグレイフィアの二人が立会人として見守る仲、ディゴニアの拘束がゆっくりと解け、私の体が自由になった時。グレイフィアが号泣しながら骨が軋む私の体を抱きしめ、兄もその上から優しく抱いてくれた。ディゴニア以外のその抱擁は暖かく、私も静かに涙したものだ。
そんな、私が出獄することをバアル大王家が許した理由は3つあった。
一つ、長期間の拘束で私の力が弱体していること。
一つ、私が拘束されている間に冥界が随分と安定したこと。
一つ、四大魔王が全力で監視につくと、約束したこと。
だった。どうやら自由とはまだ程遠いみたいだったが、ディゴニアにいた時よりかは格段にマシだ。そう思えばこれからどんな事があろうと、耐えられる気がした。
何も、私を拘束したバアル大王家を恨んでいるわけではない。多少私だって生物であるし、怒りは感じるが、あの混乱期にあった冥界を鎮静化させる上で必要であったことであるし、それに貢献できたことは私自身喜びもあった。だが勘違いしてほしくないのは、私は決してマゾヒストではない、そこはしっかり把握してもらいたいね。
兎にも角にも、まあ私の新しい生が始まったのだ。
長い与太話に付き合ってくれてありがとう。だが、話は申し訳ないがここから始まり、なのだ。
巨冥樹ディゴニアからの拘束から開放された私、アクスレア・グレモリーの話を、どうか聞いてほしい。