拉致られて今日から女子校ライフを送る事になったんだが…   作:タンホイザ◎

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第4話を投下します。

今回は会話が多めでかなり長いです。

そしてチョロインが誕生しました。間違えないでください。ヒロインではありません。チョロインです。その辺を踏まえて読んでいただければ幸いです。

ではどうぞ




第4話 サンデーデートラプソディー

『あんたね。どうなってるのよ?連絡ぐらいしてきなさいよ』

「ごめんごめん。バタバタしてて忘れてた」

 

どうも。今、電話で文句を言われている天河隼です。相手は江ノ越高校の同級生で風祭環。スポーツ万能で成績も優秀なのだが、キレやすく、口より先に手が出るタイプの女の子。特に祐介はよく殴られてたな。だけど、不思議と僕に対しては手をあげてこない。口で文句を言われる事があっても殴られた事は一度もないんだよね。

 

『忘れてたって、あんたね…』

電話の向こうで呆れ顔をしている環の顔が浮かんで、ついクスッと笑ってしまった。

 

『……何、笑ってんのよ?』

「ごめんなさい」

 

たぶん、ジト目で言っているんだろうな。その顔がまた浮かんでしまって吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。

 

『はぁ、まあいいわ。ところで隼、怪我とかしてないでしょうね?』

「大丈夫だよ。手荒な真似はされなかったから」

 

スタンガンで気絶させられた事は内緒ね。

 

『ならいいけど。でも驚いたわよ。いきなり目の前で拉致されるんだもの』

「助けてくれてもよかったんじゃないかな」

『うっ!し、仕方ないじゃない!いきなりだったんだから。あんたも抵抗くらいしなさいよ!』

「僕は環より強くないんだよ」

 

言ってて情けなくなるけど、これは事実だから仕方ない。

 

「でもありがとう。心配してくれたんだね?」

『は、はぁ?べ、別に心配なんてしてないわよ!』

「……そうか。心配してくれてなかったのか…」

『えっ?いや、あの…それは…ううぅ…』

「……環は心配してくれていると思ってたのに違うんだね…」

『うっ!……も、もう!……知ってるくせに…』

「雑音でよく聞こえないよ」

『くっ!心配したに決まってんでしょうが〜〜!!!………どう、これで満足?』

 

なんちゅう大声を出すんだろうね。おかげで僕の耳はかなりのダメージを受けてしまった。

 

『………意地悪……』

「え?」

『な、なんでもないわ。それよりどう言うことよ?」

「なにが?」

『いきなり転校って、意味わかんないんだけど?」

「ああ…」

 

どうやら転校手続きは終わったようだな。親がやったのか?それとも学園か?

 

『事情を聞こうと思って師匠の所に行ったら、旅行に行くって張り紙があるし…』

「旅行?どこに?」

『あんた、知らなかったの?』

「いや、家に帰ってないからね」

 

ここに来てなし崩しに寮生活だからね。まさか両親が旅行に行っているとは思わなかった。道理で連絡がとれないはずだ。

 

環が言っている師匠って誰だと思う?親父?違うんだね。お袋の事なんだ。お袋は空手の有段者なんだよ。環はお袋に稽古をつけてもらっている。とは言え家に道場があるわけではなく、近所の空手道場に通っているみたいだけどね。

 

『……あんた本当に何をしてんのよ?』

「こっちにも事情があるんだよ。でも姉貴は家にいるんじゃないの?」

『お姉さん?そういえば見てないわね』

「そうか…」

 

両親は旅行中で姉貴は行方不明って、一体何がどうなってんだよ。

 

『それよりどこよ?』

「なにが?」

『転校先くらい教えなさいよ!』

「え、えっと、あの、信じてもらえるかどうか…」

『なによ!あたしには教えたくないって言うの?…どうしてよ?』

 

なんか涙声になってるんだが。環の弱々しい声は初めて聞いた。

 

「別に教えたくない訳じゃないから落ち着いて」

『………じゃあ何よ?』

「えっと、聖クロビス学園」

『……なにがよ』

「だから転校先だよ」

『………………』

 

これはマズイ。電話の向こうから嗚咽が聞こえるんだが、同時に、怒りの黒いオーラが伝わってくるのがわかる。

 

『………あんた、なめてんの?』

 

声は泣き声なのだが、怒りのあまりか声が極度に低くなっている。泣きながら怒ると言う器用な芸当。環は再現しようとしている。

 

僕は来るべき衝撃に備え、携帯電話を耳から離す。

 

『ふ、ふ、ふざけんじゃないわよ〜〜〜!!』

 

ものすごい衝撃だった。電話を耳から離してなかったら、鼓膜が破れていたかもしれない。

 

『なにが聖クロビス学園よ!そこがどんな学校かくらい、あたしでも知ってるわよ。お嬢様学校じゃない!なんでそこにあんたが転校できるのよ?嘘つくんならもう少しましな嘘つきなさいよ!ふざけんな!』

「い、いや、ふざけてなんか…」

『あんたの気持ちがよく分かったわ!そんな嘘まで付いてあたしから離れたかったのね!人の気も知らないで!なによ!どうして…一緒に…いて…くれないのよ』

 

限界が来たのか、環はついに泣き出した。

 

『あたしが…どれだけ…心配したか…分かってる?眠れなかったのよ…助けて…やれなかった…って後悔したよ…それなのに…嘘までついて…』

「嘘なんかついてない!!」

 

思わず怒鳴ってしまった。離れて見ているエーミ達がびっくりして僕を見るけど気にしてられない。こんな弱々しい環は、僕の知ってる環じゃない。

 

「僕が環に嘘ついた事ある?」

『だけど…』

「詳しい事情は言えないけど、僕は聖クロビス学園に転校する事になったんだ」

『……本当に本当ね?』

「神に誓って!」

『…そうなんだ』

「落ち着いた?」

『…ごめんね』

「よかった。でも、泣いている環も新鮮でよかったよ」

『なっ!わ、忘れなさい!いいわね、今すぐ忘れなさいよ!』

「うーん、無理?」

『……本当に意地悪なんだから』

「なんか言った?」

『何も言ってないわよ!バカ隼!』

「ひどくないですか?」

 

よかった。元の環に戻ったみたいだ。

 

『はぁ、あんたも色々大変だったみたいね』

「分かってくれるか?」

『それで何人くらいいるの?』

「なにが?」

『男子生徒よ!20人くらい?』

「僕一人だよ」

『………は?な、何よそれ?どういうことよ?』

「僕はモルモットなのさ。いや、珍獣かな。パンダなんだよ」

『言ってる意味はわからないけど、言いたい事はわかった気がするわ。あんた本当に大変ね』

 

さすが環。よくわかってくれた。

 

『………決めたわ!』

「何を?」

『今度の日曜日にそっちに遊びに行くわ』

「えっ?」

『なによ!あたしが行ったら問題でもあるの?……まさか、彼女でも作ったんじゃないでしょうね?』

「違うよ!」

 

エーミに告白されたのは内緒にしておこう。これは僕とエーミの問題だ。人に話す事じゃないよね。

 

『じゃあ決まりね。いいわね?覚悟しときなさいよ』

なんの覚悟だよ?

 

環はそれだけ言うと電話を切った。日曜日に環に会えるのか。少し嬉しいかな。

 

 

 

 

「隼君?」

「天河君?」

 

電話が終わったと見て、エーミと司が近づいてきた。

 

「ごめんな二人ともお待たせ」

「今の電話、女の子からやんな?」

「間違いないわ。女よ。女からの電話だったわね?」

 

えっ?あれ?なんか二人の様子がおかしいぞ。助けを求めるようにチビッコ理事長に目をやると、西条姉妹と一緒になって手を合わせてるし。なにそれ?謝ってるの?それとも拝んでいるの?もしかして両方?

 

「白鷺さん。天河君にじっくりと話を聞く必要があるとは思わないかしら?」

「ほんまやな司ちゃん。隼君には色々説明をしてもらわんといかんな」

「え、えっと。僕はもう疲れたから、寮に帰って休もうかな?じゃあ、そういう事で…」

 

僕がその場を立ち去ろうと回れ右をした瞬間だった。誰かに左腕を掴まれた。

 

「どこに行こうとしているのかしら?天河君?まだ話は終わってないわ」

「い、伊集院さん?」

 

司だった。振りほどこうにも、すごい力で掴んでいるから無理だ。その身体のどこにそんな力が?

 

そうこうしていると、今度は右腕を掴まれた。

 

「隼君?どこに行くんや?話、終わってへんで…」

「ちょっ!エ、エーミ?」

二人はいつの間にか僕の腕に抱きついている。もう逃げられそうにない。

 

「それじゃあ…」

「行こか…」

「行くってどこに?」

 

二人に引っ張られて連れて行かれる僕の姿は、さながら刑場に向かう死刑囚のようだったろうね。あながち間違いじゃないけど。最後の希望、チビッコ理事長達に救いの目を向けると、相変わらず、手を合わせたまま微動だにしない。あれは拝まれていたんだな。妙に納得をしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は日曜日。

 

あれからエーミ達の追及をのらりくらりと躱して、無事、今日という日を迎える事が出来たわけだ。

 

エーミは大丈夫なのかって?大丈夫!僕が部屋を抜け出す時には、まだベッドでグッスリ眠っていたから。寝顔が天使みたいだったから、つい頬っぺたに軽いキスをしてしまったのは秘密ね。

 

エーミに黙って行く事に罪悪感がないわけじゃないよ。後でたっぷりと謝るつもりだ。

 

《聖クロビス学園駅》

 

島唯一のモノレール駅。この改札前で、環の到着を待っている所だ。

 

日曜日には面会希望の人が多いようで、出迎えの生徒が割と多い。

やがて、プラットホームが賑やかになってきた。モノレールが到着したようだ。乗客が次々に改札に向かって降りてくる。その一団の中に環の姿があった。

 

ディズニーキャラのTシャツに赤と黒のチエックのミニスカート、カーディガンを羽織り、キャップを斜めに被った環は、僕の姿を見つけると、嬉しそうに手を振った。

 

「しゅ〜〜ん!」

「お、おい環」

 

いきなり抱きついてきた。すごくいい匂いがする。胸の柔らかい感触も…そう言えば環も胸が結構…

 

「隼?あんた今、エッチな事考えてたでしょ?」

「なんでわか……いやいや、考えてないよ」

「あたしの胸か?この、この」

「おいこら……環、まさか?」

「気が付いた?あたし、ノーブラだよ」

 

環はそう言ってグイグイ胸を押し付けてくる。気持ちいいけどやめろ。

 

「あんた、やつれてるけど大丈夫なの?」

ふと顔を上げて環が聞いてくる。心配そうな声だ。

 

「大丈夫だよ。だんだん慣れつつあるから」

 

まあ、この程度の嘘は許されるかな?実際はブームは去るどころか、激化の様相を呈してきているんだが、環に心配かけたくないからね。

「それならいいけど…」

「そ、それより祐介は元気にしてるか?」

 

あれから祐介には連絡してないんだよね。別に面倒くさいとか、そんな理由じゃないよ。本当だよ?

「祐介にあんたの事話したら羨ましがってたわよ」

 

あの野郎。他人事だと思いやがって。

 

「そうだ!いっそのこと、祐介と入れ替えたらいいんじゃない?祐介は行きたがってから、ちょうどいいんじゃないかな?」

「うーん、いい案だけど……」

 

「なにを言うてるの?隼君がここから転校するわけないやろ?」

 

僕の後ろから、ありえない声が聞こえてきた。振り向くと、ミニスカートを履いた仁王様が、腕を組んで立っていた。

 

「エ、エーミ?な、なんでここに?」

「昨日から隼君の様子がおかしかったから、寝たふりして様子をうかがってたんや」

「ね、寝たふり?」

「そうや。そしたら隼君、あんな事してくるやなんて…もうバカ」

「うっわぁぁぁぁぁああああ!」

 

自分の軽はずみな行動を後悔してしまった。

 

「隼?あんた何をしたのよ?」

 

環がジト目で聞いてくる。

 

「隼君、何をイチャイチャしとるん?」

「イチャイチャなんてしてないよ」

「その体制で言われても、説得力あらへんよ?」

「へっ?」

 

エーミに言われて気が付いた。環が僕にしがみついて胸を押し付けている所だった。

 

「いつまでくっ付いてるんや。はよ、隼君から離れんかい」

 

そう言って、エーミは環を僕から引き離す。

 

「な、何よあんた?なんのつもりよ」

「うちは隼君の幼馴染や」

「幼馴染?」

「そうや。白鷺恵美や」

「風祭環よ。そう…あんたがそうなのね」

「なんや?」

「隼に何も言わないで引っ越ししたひどい幼馴染がいるって、あんたの事だったのね」

環さん、そこまで酷い事は言ってませんよ?

 

「な!うちにも事情があったんや。隼君に再会した時に謝ったら許してくれたもん」

 

 

「お前達は何をしておる?往来で恥ずかしいとは思わんのか?」

「ん?」

 

別の声が二人の口論を止めに入った。チビッコ理事長が西条姉妹を伴って、いつの間にか僕の側に立っていた。

 

「今度は誰よ?」

「た、たまちゃん?」

「姉小路さん。なんでここに?」

「うむ。学園長が別の仕事でしばらく実家に帰る事になったのでな、その見送りに来たのだ。そして寮に戻ろうとしたらこの騒ぎだ。何事だ、一体?」

 

チビッコ理事長は呆れたようにため息をついた。

 

「なんなのよ?このチビッコは?」

「な?チビッコだと?」

「環、やめろって」

「な、な、玉姫だと?」

 

チビッコ理事長が僕を睨みつける。たまきが二人、ややこしいな。

 

「姉小路さん、誤解だから落ち着いて。こちらは風祭環さん。江ノ越高校の同級生だよ」

「なるほど、もう一人のたまきと言う訳だな」

「環、こちらが姉小路玉姫さん。同級生だよ」

「ふーん、あんたもたまきなのね?」

「ちなみに姉小路さんは学園の理事長でもあるわけだ」

「……マジで?」

「ふふん!」

 

チビッコ理事長が胸を張る。なんか変なファンファーレが鳴り出しそうな雰囲気だ。西条姉妹が紙吹雪を撒きそうだね。

 

「そろそろ場所を移す事を提案するわ。このままじゃ注目の的よ」

「そうだな。よし、みんなでカラオケでも……って、オイ!」

 

いつの間にか、僕の後ろに司が立っていた。相も変わらずの無表情である。気配を消して後ろに立たないで。

 

「…いつの間に?」

「気にしたら負けよ」

 

もう、負けでもいいかな?

「……誰なのよ?」

「つ、司ちゃん?」

「なんだ。司もおったのか?」

「えっと、環、伊集院司さんだよ」

「天河君のお姉さんから頼まれた、監視兼ボディーガードよ」

「……風祭環よ」

 

司の登場で、場に変な空気が漂い始めた。司の提案通り、場所を移しますか。

「こうなっては仕方ない。みんなでカラオケにでも繰り出しますか?」

「ふむ、カラオケか。一度は行ってみたいと思っておったのだ。悪くない提案だ。ましろ、はくろ、それでいいな?」

「はい、玉姫様。わたくしには異議はございません」

「はいお嬢様。私も一度は行ってみたいと思っていたので楽しみです」

「ふふふ、うちの美声、隼君に聞いてもらうで」

「カラオケも悪くないわね」

 

約1名を除いて、同意を得られたみたいだ。

 

「なんでこうなるのよ〜〜!」

 

環の魂の叫び。すまん環、この埋め合わせは必ずするからね。

 

 

 

 

 

 

 

《カラオケ道 極》

 

島にある唯一のカラオケ店。しかし、なんちゅうネーミングだよ。

 

とりあえず歌い放題でドリンクバーを頼んで、部屋に向かう。チビッコ理事長や西条姉妹は物珍しさからか、さっきからキョロキョロと落ち着きがない。

 

とくに食いついたのはドリンクバーだった。

 

「おい!ドリンクバーってなんだ?」

「好きなドリンクが飲み放題って事だよ」

「の、飲み放題?これ全部か?」

 

このカラオケのドリンクは種類が多い。さらにドリンクバーでソフトクリームも食べ放題になるのはすごいね。

 

「そうだよ。例えば、こんな使い方もある」

 

僕はグラスを持つと、早速コーラを入れて、それにまたカル◯スを入れる。

 

「カルコークの出来上がり」

「本当にあんた、カルコークが好きよね。でもね、その上にメロンソーダを入れると、また美味しくなるのよ」

「なんだと?」

早速試してみる。うん、環が言うように美味い。

「ここにグレープフルーツジュースがあるやろ?」

「あたし、それ酸っぱいから苦手なんだ」

「これにカ◯ピスを入れるとやな」

「どれどれ…嘘!味がまろやかになってる」

「せやろ」

三人の会話についていけないチビッコ理事長と西条姉妹。

 

「なあ、ましろ、はくろ、あの三人は何の話をしているのだ?」

「さあ、わたくしには理解出来かねます」

「私もよくわからないよ」

 

庶民と金持ちのギャップってやつかな?

 

部屋は割と広い。ステージまであるのか。防音もしっかりしているので、思い切り歌っても大丈夫そうだ。

 

「もうヤケクソよ。唄うわよ〜」

 

早速、環が曲を入れてマイクを持つ。一番手は環か。イントロが始まって、すぐにステージに立つ。

 

環が選んだのはバラードのようだ。気持ち良さそうに唄っているな。しかし、聞いている方は、環の美声にパニックになりつつある。

 

「な、なんやあの子?めちゃ上手いやんか?」

「すごいとしか言いようがないわ」

「風祭様の歌声は素敵ですわ!」

エーミが、司が、西条姉が環の歌を褒める。環はカラオケの最中に、歌声を聞きつけた芸能プロデューサーが、部屋にスカウトに乗り込んできた伝説をもっているんだから。その場には僕と祐介も居合わせた。意外にも環は、即答でお断りを入れていたな。もったいない。

 

「どうだった隼?あたしの歌声?」

 

唄い終わった環が、僕の隣りに座って聞いてきた。

 

「相変わらず、すごく上手だったよ」

「ムーッ!次はうちやで。隼君しっかり聞いとってな!」

 

次にエーミがマイクを持ってステージへ。アイドルソングだが、これまた上手い。

 

「エーミも上手だな」

「むっ!次はあたしが唄う!」

 

環が曲を真剣に選び出した。さて僕も曲でも選ぼうかとリモコンに手を伸ばした時に気が付いた。チビッコ理事長がすごく難しい顔で、腕を組んで考えていた。

 

「どうかしたの?」

「お前か?カラオケと言うものが初めてなのでな。何をどうしたらよいのかわからんのだ。それにあたしは歌を知らん」

「そっか。じゃあ練習しない?」

「練習と言っても歌を知らんのだ」

「一緒に唄ってあげるよ」

「な、何?本当か?」

「それにこのタイプのカラオケなら、練習モードもあるから大丈夫だよ」

「練習モード?」

「歌声が流れるから、それに合わせて歌えばいいよ」

「そ、そうなのか?」

そうと決まれば、僕が曲を選んでリクエストする。そしてチビッコ理事長と一緒にステージに立つ。

 

曲は最近のヒット曲。歌声に合わせて、二人で唄う。チビッコ理事長にたまに目で合図を送る。いや〜、気持ちいいよね。カラオケがストレス発散になるのも頷ける。

 

曲が終わると、西条姉妹が拍手をしてくれた。

 

「あ、ありがとう。天河隼」

「どういたしまして」

 

席に戻って、自分が唄う曲を選んでいると司が声をかけてきた。

「天河君」

「なに?」

「私、これが唄いたいのよ」

 

これってど演歌じゃないですか。女子高生の唄う歌ではないよね。

「い、いいんじゃないかな」

「そう。じゃあ、一緒に唄うわよ。来なさい」

「えっ?僕も?」

 

司に引っ張られてステージへ上がる。そしてイントロ。ど演歌なんて唄えないよ。でも、司はコブシを効かせて唄ってるよ。しかも上手いし。なに、演歌歌手になりたいの?

 

唄い終わって満足気に司は席に戻った。僕も席に戻って自分の曲を……。

 

「隼、次はあたしとデュエットね」

「え?」

「何よ、嫌なの?」

「そういう訳じゃないけど…休ませて」

「ダメなの?」

 

出た。環の上目使い。この目で見られたら断れないよね。

 

「……わかったよ」

 

こうして今度は環とステージに立つ事に。環はなぜか腕を絡めて唄ってる。

 

やっと終わった。

 

「隼君、次はうちと…」

「却下!」

「なんでやの?」

「お願いだから、少しだけ休ませて」

「うち…じゃ…あかんのやな」

「エ、エーミ?そうじゃなくて…」

「もうええよ…隼君に…再会出来て…よかったわ…」

「ま、待て、エーミ。わかった、わかったから一緒に唄おうぜ!」

「ほんま?やったー」

 

こいつ…策を講じてきやがったな。

 

結局、エーミともステージに上がる事になってしまった。

 

よ、4曲連続。さすがにこれはきつい。

 

「天河様、次はわたくしと同伴していただけますか?」

「天河さん。私ともデュエットしてください」

「天河隼、あたしは次はこれが唄いたい。一緒に唄ってくれ」

「天河君、この演歌もどうかしら?一緒に唄うわよ」

「隼、次はこれをデュエットしましょう?」

「隼君、次はこの曲や。一緒に唄おうな」

えっ?ええぇぇぇぇ?

 

 

 

昔、『死んでもマイクをはなさない』という曲があった。カラオケ好きな男を唄った歌だ。僕は今、その曲の題名通りになっている。ただ、僕の場合は『はなさない』のではない。『はなせない』のだ。みんなが競うようにデュエットばかり選んでるんだよ。ここはカラオケ地獄なのか?

 

 

 

 

 

「いやぁ〜、唄った唄った!」

「ふむ。カラオケと言うものも、案外楽しいものだな」

「……よかったね」

 

よかった。僕の声帯はまだ生きてる。これは奇跡に近い。

 

二人のたまきは大満足のようだ。

 

カラオケの次は、環のリクエストに応じて、ゲーセンに行く事なった。

 

 

 

《ゲームセンター DEASOBO》

 

…………ネーミングの事は言うまい。ここが島唯一のゲーセンか?なかなか立派な建物だね。

 

ここでもチビッコ理事長と西条姉妹は、キョロキョロと落ち着きがない。まあゲーセンなんて滅多に入らないだろうし、物珍しいんだろうね。

 

「なんと言うか、うるさい所だな」

「そうかな?こんなもんだよ」

「こんなもんなのか?」

 

ゲームの電子音やメダルの流れる音は、聞く人が聞くとうるさく感じるだろうね。

 

「ねえ隼。これ?」

「ん?これは?ここにもあるとは…」

 

環が見つけたゲームは『チャンピオン・ガイズ』。典型的な格闘ゲームで、僕と祐介の得意なゲームである。

 

「隼、勝負よ!」

「望むところだ!」

環と僕はゲームで対戦した。

 

僕は環よりも弱い。これは紛れもない事実。だが、対戦ゲームは別だ。

 

「うははははは!環、まだまだ未熟だな」

「くっ!あそこまで追い詰めたのに。本当にあんた、このゲームは強いわね」

「必殺技をずっと温存してたからね。僕に勝てるのは祐介くらいかな?」

「もうひと勝負よ!」

「よし、受けて立とう」

「待った!その子の相手はうちがする」

「エーミ?」

「その子はうちのライバルや。ここで潰さなあかんねん」

「あんたね。あたしに勝てると思ってるの?」

「絶対に勝つ!」

「面白いじゃない。相手をしてあげるわ」

「ほな、始めるで」

「REDY…」

「GOや」

 

二人の女の子の勝負が始まった。結果は見なくても大丈夫だろ。えーと、他の連中は?

 

「な、瞬殺やと?」

「あんたがあたしに勝とうなんて100万年早いわよ」

「まだや、勝負はこれからや」

「勝負は決してるんだけど?」

 

………二人が楽しそうでよかったよ。

 

「いたいた」

他のビデオゲームのコーナーに司がいた。なんのゲームをしているのか興味をもったので、後ろから覗いてみた。………なんで脱衣麻雀やってんの?しかもかなり脱がしているし。こんなゲーム置いてて大丈夫なのだろうか?僕はそっとその場を離れた。

 

「なんでや。なんで勝てへんのや?」

「いい加減諦めたら?」

「まだや。まだまだ終わらへんよ。うちが勝つまでおわらんよ?」

「いつ終わるのよ!」

 

……まだやってたんだな。…まあ、いいか。

 

「これはどうやっても取れんだろ?」

なんかUFOキャッチャーのコーナーに、チビッコ理事長と

西条姉妹がいたんだが、中のぬいぐるみを見ながら話をしている。

 

「どうしたの?」

「むっ!天河隼か?実はな、あのぬいぐるみが取れるかどうか話をしておったのだ」

「どれどれ?」

 

大きな可愛らしいクマのぬいぐるみ。どうやらチビッコ理事長はこれが欲しいようだ。

 

「取れるよ」

「えっ?ほ、本当なのか?」

「これなら大丈夫だよ」

 

そう言って、僕は100円を入れてアームを動かす。

 

「あ、あ、ズレてますよ天河様」

 

西条姉が心配そうに言ってきた。

 

「大丈夫だから」

 

アームを操作して、ぬいぐるみに当てる。その瞬間、ぬいぐるみは見事に穴に落ちた。

 

「あっ!」

 

三人の口から驚きの声が漏れた。

 

僕はぬいぐるみを取り出すと、チビッコ理事長に差し出した。

 

「はい」

「なんだ?」

「欲しかったんでしょ?」

「うっ!だ、だが、受け取るわけにはいかん」

「どうして?」

「こ、これはお前が取った物だ。あたしは施しは受けん」

 

そんな事言いながら、顔には欲しいって書いてるよ。そんな顔してたら説得力なんかない。本当に頑固だな。よし!

 

僕は機械に備え付けの袋にぬいぐるみを入れて、再び、チビッコ理事長に差し出した。

 

「だ、だから、あたしは……」

「プレゼントだよ」

「プレゼント?」

「日頃のお礼だよ。エーミの件でもそうだけど、いつも僕の為にいろいろと便宜を図ってくれてるよね?」

「……………」

「姉小路さんには感謝しているんだよ。だから、これは僕からのお礼だよ。受け取ってもらえないかな?」

 

これは正直な僕の気持ち。チビッコ理事長にはなんだかんだ言っても感謝はしてるからね。

 

「わかった。プレゼントと言うなら受け取らん訳にはいかんからな。その、あ、ありがとう」

 

やっと受け取ってもらえたよ。チビッコ理事長は袋を大事そうに抱きしめている。

 

「天河さん。私も取って欲しいものがあります。いいですか?」

「ああ、いいよ」

「待て、隼!」

 

西条妹と一緒に行こうとした僕を、チビッコ理事長が呼び止めた。あれ?今、隼って呼ばれたような?

 

「今度からあたしの事は玉姫と呼べ」

「わかったよ。玉姫ちゃん」

「ちゃんも付けなくてよい」

「今は無理かな?」

「な、なぜだ?」

「だって…」

 

そう言って、ゲームに興じる二人の方を見る。

 

「ふふふ。まだや、まだ諦めへんよ」

「もう、勘弁して」

エーミも諦めが悪いからね。環は頭を抱えているよ。

 

「もう一人、たまきがいるからね」

「あ、ああ。そうだったな」

「学園では玉姫と呼ばせてもらうよ」

「そうか?それで構わん」

 

嬉しそうにチビッコ理事長改めて玉姫は頷いてくれた。

 

そして、僕は西条姉妹や玉姫のリクエストに応えて、次々と景品を取る羽目になってしまった。これってカラオケの二の舞じゃない?

 

 

 

 

 

「結局、一勝も出来へんかった…」

「当たり前よ!」

 

エーミと環の勝負は、環の全勝となったようだ。司はあと一枚と言う所で、いつも天和を喰らい負けた事を悔しがっていた。無表情で。

 

「たまちゃんは上機嫌やな」

「見ろ!全部、隼に取ってもらったんだ」

 

そう言って、戦利品を見せびらかす。ぬいぐるみの入った袋だけは後生大事に抱きしめたまま。

 

 

 

 

楽しかった時間はあっと言う間に過ぎていく。

 

環が帰る時間となり、僕達は環の見送りに駅まで来ていた。

 

「何、結局、全員が見送りに来てくれたのね」

「悪かったな環、こんな事になって。この埋め合わせは必ずするから」

「いいわよ。なんだかんだで、あたしも楽しかったしね」

「環ちゃん、次は絶対に負けへんからね」

「恵美。次に会う時までに腕を磨いていなさい。返り討ちにしてあげるから」

「うち、負けへんよ」

「あら。あたしも負ける気ないわよ」

 

二人の間に火花が散り、それからがっちりと握手を交わす。女の友情が芽生えたようだ。

 

「司にたまき、ましろ、はくろも楽しかったわよ」

「うむ。またいつでも遊びに来てくれ。歓迎するぞ」

「そうね、風祭さん。また会いましょう」

「風祭様、また会える日を楽しみにしております」

「風祭さん、またね」

 

4人が思い思いの言葉をかける。

 

「じゃあ、あたし行くね」

「ああ…」

「隼、病気とか怪我なんかしたら承知しないからね」

「わかってるよ」

「でも、たまには病気とか怪我をして、あたしを心配させなさいよ」

「どっちだよ!」

「あははは!じゃあ、またね」

「ああ、またな」

 

明るい笑い声を残して、環は改札口を抜けてプラットホームへ上がって行く。何度も振り返り手を振りながら。

 

僕は環の姿が見えなくなっても、いつまでも改札口を見ていた。

 

 

 

 

 




今回の登場人物の簡単な説明及び次回予告

◎ 天河隼 本編の主人公。普通の高校生。恵美の幼馴染。
父親は概要不明、母親は空手の有段者と判明。茜音と言う姉がいる。恵美曰く、エッチ君。学園長曰く、少しアレ。ゲームがすごく得意。

◎ 白鷺恵美 隼の幼馴染。6年ぶりに再会した隼に愛の告白をする。たまに大暴走をする癖がある。隼の事が本当に大好き。歌は上手い。エセ関西弁で話す。

◎ 姉小路玉姫 聖クロビス学園の理事長兼学生。名門 姉小路家のご令嬢。隼を認めており、学園生活を無事に送れるようにあれこれと便宜を図る。隼の優しさに絆された。

◎ 西条ましろ はくろの双子の姉。玉姫のメイド兼ボディーガード。柔術の達人。近寄りがたい気品を醸し出す、神秘的な美人で巨n。意外とウブで、強い刺激を受けると、目が虚ろになり、譫言を繰り返す。

◎ 西条はくろ ましろの双子の妹。玉姫のメイド兼ボディーガード。ムエタイを学ぶ。姉とは対称的にフランクで親近感を抱かせる雰囲気を醸し出す。開けっ広げな性格。

◎ 伊集院司 隼の同級生。黒髪ポニーテールと縁なし眼鏡が特徴。自称、隼の監視役兼ボディーガード。隼の姉、天河茜音と親交がある。常に無表情で一見するとクール系だが、実はぶっ飛んだ性格。演歌が上手く、脱衣麻雀にはまっている。

◎ 風祭環 江ノ越高校の隼の同級生。スポーツ万能で成績優秀だが、口より先に手が出てしまう女の子。だが隼に対しては暴力はない。アイドルにスカウトされる程、歌が上手い。隼に対する好き好きオーラを遠慮なく醸し出す。



次回予告

???「これで大儲けだね」
天河隼「させるかよ!」

???「えっと…あの…その…ごめんなさい」
天河隼「落ち着け!」

???「ちょっと待ちなさいよ!」
天河隼「誰だ?」


またまた新キャラ登場の予感。レギュラーになれるかは不明。さて、天河隼はどう絡む?

天河隼「また新キャラなのか?」
小田切「やる気をだせ!」
つかさ「やる気じゃなくて、◯◯を出してもいいのよ」
エーミ「何を言うとるんや?」

次回 やる気が出すなら違うところ。男一匹頑張ります。

ご期待ください。

予告タイトルは当然、嘘です。

更新は不定期です。

次回もよろしくお願いします。
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