とある修羅の時間歪曲   作:てんぞー

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八月十四日

『個人的には気に喰わないけどぉ? それでも”予定通り”絶対能力者計画には終了してもらわないと困るのよね。だから死なない様に御坂さんの護衛をお願いねぇ。あの子、途中で絶対”妹達”の件で絡んでくるから』

 

 それが操祈の言葉だった。だから非常に面倒な事になっている。そもそもレベル5に護衛必要なのかよという言葉もあるが。操祈が言うからには必要なのだろう。自分の女を信じられずに何が男だ。絶対能力者計画とか妹達とか良く解らない事が多いが、とりあえず計画通りというのなら計画通りな事があるのだろう。それはそれでよし。

 

 そう思いながら双眼鏡を通し、御坂美琴を護衛する。

 

 遠く、数百メートル程離れた先からでも双眼鏡を使えば学生服姿で街を歩く御坂美琴の姿を確認できる。楽しそうに、笑顔を浮かべて学友であるツインテールの風紀委員、白井黒子と楽しく歩いている。既に操祈が”仕込み”を一応、という理由でやっておいてくれた。おかげで美琴の友人コミュニティ、黒子をはじめとする彼女たちの脳内には自分が友人である、という記憶がでっち上げられている。もし接触したり探したりする必要があるなら、それなりにスムーズに進ませるためだ。

 

 まぁ、仕方がない。全部終わったらこっそり消してもらおう。

 

 ともあれ、なんだかよく解らないが、美琴が死ぬ可能性があって、今死なれると物凄い困る、というのが操祈の言葉だ。個人的には美琴が死ぬような状況なんてそれこそ暗部の四位と二位の相手をするか、それとも一位に正面から喧嘩を売るか以外で想像がつかないのだが、操祈がそう言うのならそうなのだろう。決して考えるのが面倒で脳筋になっている訳ではない、必要以上に考えるとお腹が空いて、食費が増えてしまうだけなのだ。

 

 きっとそうに違いない。おのれ学園都市め、これも貴様の計略か。

 

 おふざけは止めておく。

 

 ともあれ、レベル5という領域はともかく凄まじい。操祈を見ていれば大体解ると思うが、操祈はレベル5としては割と下位、つまりは弱い方だ。洗脳は同じレベル5であれば防げる、という理由が存在するからだ。ただそれを抜きにしても、自分と当麻とレベル5を除いた人間全てを問答無用でマインドハック、洗脳、操作、何でも出来てしまうのは恐ろしい。その気になれば法律を自分の思うままに捻じ曲げる事だってできる。操祈のレベル5としては弱い方ではあるが、それでも本気を出せば国一つぐらい簡単に傾ける事が可能だ。そう考えれば簡単にその生物としての恐ろしさが伝わってくる。

 

 そしてレベル5である御坂美琴も同じ領域にある。人を蒸発させるほどの高圧電流を操り、その応用で磁力を操る事だって出来る。電子のパターン化で機械にハッキングやアクセスを行う事が出来る。その上で電磁バリアーを身に纏っている為、洗脳等の干渉に対する耐性を持っている。もはや存在そのものが兵器と言えるレベルだ。あえて言えば人間であり、そして体が少女である事が限界とも言えるが、能力だけを見て言えば現在の電子化社会では最強の一角とも呼べる能力になっている。

 

 磁力で砂鉄を操り、電撃を操ってスタンから蒸発までをこなせる彼女が本当に護衛を必要とするのだろうか……?

 

「まぁ、それでも操祈に甘々の俺はしっかり職務をこなしちゃうんだけど」

 

 双眼鏡を通して美琴を観察する。一日の授業が終わって自由時間にある為、友人たちと外でクレープタイム、と用意してあるメモ帳に記入しておく。やってる事がストーカー同然の事だが、こまめにメモを取っておくことは将来的にパターン把握に役立つと思っておきたい。きっと役立つはずだ。あとで操祈が焼却処分を求めてきそうな気がする。でも研究員たちには高く売れそうな気がする。ここは小遣い目的で写真を何枚か取って、それを売るべきだろうか。

 

 人間として大事なモノを失う気がする。止めよう。

 

「ふぁーあ……暇だなぁ。朝から昼までは授業、一度休みを挟んでそっからまた午後までは授業。そして漸く外出してるからなぁ……外出時間は三時間程度で、あんまし護衛のしがいがねぇわ」

 

 常盤台にいる間は操祈の”派閥”があるから、監視に関しては一切の心配をする必要がないのだ。だから自分の仕事は美琴が外に出ている間のみとなる。が、これも結局は数時間程度の事だ。常盤台中学には厳しい門限が設定されている。操祈の様に騙せるなら問題ないが、美琴はそこらへん、普通だし騙せるような能力でもない。だから割と門限は守っている。

 

「あんまし遣り甲斐はねぇなぁ……お」

 

 と、思いながら双眼鏡を通してクレープを食べている集団を見ていると、その集団に接近する二人組が見える。ツンツン頭の少年と、修道服姿の少女―――当麻とインデックスのコンビだ。双眼鏡を通しても見える、美琴がなんだかんだで当麻を意識しているのが。甘い青春だなぁ、とその光景を眺め、

 

 数分後、雷撃と噛みつきが当麻を押そう光景を目撃し、何時も通りのオチで終わったな、とどこか満足している自分を発見する。

 

「こういう日常が永遠に続く様に……時が止まればいいのにな」

 

 馬鹿みたいにふざけて、遊ぶような毎日。それの一体何が悪いんだろうか。美琴が、当麻が、インデックスが、あんな風に笑ってふざけている光景を見るとそう思う。

 

 未知は怖い。

 

 一寸先は闇―――未来には何が起きるかは解らない。それは今よりも良いかもしれないし、悪いかもしれない。ただ怯えているだけかもしれないが、それでも今の、この瞬間は心地いいんだ。だったらこの楽しい時間を無限に味わおうと、時を止め、時を戻して、何度でも味わおうとして一体何が悪いのだろうか。それが不可能である事は理解している。だけどこういう光景を見る度に思ってしまう―――時よ止まれ、お前は美しい、と。

 

 でもきっと、その考えは間違っているのだろう。

 

「ままならないなぁー」

 

 双眼鏡を通してみる世界の中、当麻とインデックスが美琴達と別れて別の方向へと向かう。その方向はホームセンターの方向だ。また何か部屋の物を壊したんだろうかアイツは、なんてことを思っていると、美琴達もクレープを食べ終わっていた。口を開き、何かを喋っているのを唇の動きを読んで把握する。

 

「昨日は帰りが遅くなっちゃったしそろそろ帰ろうか黒子……もうお帰りか。ま、こんなもんじゃろ」

 

 双眼鏡から顔を離し、それをベルトのフックにひっかけてしまう。あとはどうせ常盤台へ帰るだけだろうから、そこまで神経質に追いかける必要はない。ここから常盤台はそれなりに近いのだ。あぁ、終わった終わった、と呟きながら体を軽く伸ばし、近くに置いておいたギターケースを右肩に背負う。この前の火織戦の事を反省し、フル装備を持ち歩く様になったため、ギターケースの重量が今までの約二倍に増えている。その為、ずっしりと来る重みが肩に来るが、この程度なら全く問題はない。それを感じながら六階建てのビルの屋上の端まで移動し、

 

 欄干を超えて、下へと飛び降りる。

 

「よ、っと、そ、っと、っと」

 

 落下の時間を歪め、半減させる。ゆっくりと落下する時間の中でビルとビルの間の隙間、そこを交互する様にビルの壁を蹴り、左右へと移動しながら速度を殺して下まで一気に移動する。今までの自分ならまずできない事だったが、レベルが2に上がったことで出来る事は大幅に増えた。未だに現象への遅延は難しく、物体の動きを遅くしたりする事しか出来ないが、それでも出力が大きく上がった所はいい、と思っている。

 

 本格的に武器として意味を成すのはレベル3からなのだから。

 

 よ、と声を漏らしながらビルとビルの間、路地裏の隙間に着地する。視線を持ち上げる先で、

 

 常盤台中学の制服の少女がいた。

 

 髪色は茶色、ショートカットのその姿は御坂美琴そっくりである。しかし、その頭に装着しているゴーグル、そして本人から感じられる強者特有の強い”気配”が彼女には存在しない。その事から彼女が御坂美琴本人ではなく、別人である事と即座に判断し、一瞬で美琴に見られたかと思って焦った事を後悔する。

 

「妹達か」

 

「私をしっている様ですね、とミサカは軽い驚きと共に肯定します」

 

「俺はつい最近知ったばかりだけどな。それに見た目は一緒でも気配がまるで違うからな。クローンっつーからもっと、こう、似ている物かと思ったけどなんだ、別人じゃねーか」

 

 膝を曲げた着地姿勢から立ち上がりながらギターケースを背負い直す。良く見れば”妹達”も似た様なギターケースを背負っている。姿はまんま、此方が使用しているのと同じタイプ―――つまりは銃器や武装を格納する事が出来るタイプのギターケースだ。これから戦闘、あるいはそういう感じの実験が待っているのだろう。どうしたもんか、と一瞬だけ思うが、自分が関わる部分はここではない。

 

 と、”妹達”を見て固まっていたのか、目の前の”妹達”が表情を変える事無く言葉を投げかけてくる。

 

「どうしたのですか、とミサカは軽く困惑しながら言います。もしかしてミサカに惚れてしまったのでしょうか、と軽く胸の高鳴りを感じながら質問してみます」

 

「悪いけど俺の恋心は売約済みなんだ。俺の心を握りたいってならまずは俺の女を超えてみるんだな」

 

「真顔でそう言い切るのだから末恐ろしいものをミサカは感じます。あ、今の発言仲間との間で共有して宜しいでしょうか、と一応許可を貰いたいと申告します」

 

 無言のサムズアップを”妹達”へと向けると、おぉ、と無表情のまま感嘆の声を上げ、”届け私の電波ー”なポーズを”妹達”が決める。その姿を無言で数秒眺めていると、無表情のまま、ポーズはそのまま、視線だけを此方へと”妹達”が向ける。

 

「ツッコミがなくて少々寂しさをミサカは感じています」

 

「いや、ここはボケ殺ししたほうが絵的に面白いかなぁ、ってノブノブは困惑しながら答えるぞ」

 

「芸風を学習された……!? とミサカは恐怖を感じながら驚愕します」

 

「お前、ホント面白いわ」

 

 こういうキャラは嫌いじゃないわ、と思いながら握手の為に右手を前に出す。それを見た”妹達”が数秒、そのまま手を見て動きを止め、首を傾げる。その行動を知らない、というよりは意味が解らないといった様子だった。その姿に軽く苦笑しながら開いている左手で”妹達”の手を取り、しっかりと握手をする。大きく、そして強く手を振って、

 

「マイ・ネーム・イズ・信康」

 

「ツッコミどころの多さに戦慄しながらもミサカは九九七〇号であると名乗ります」

 

「お前の名前の方にツッコミどころが多すぎるわ。もっと、こう、言いやすい名前はねぇのかよ! つかなんだその数は。俺ちょっとビビるわ」

 

 そう言うと、九九七〇号は首を傾げる。

 

「そう言いましても、数が多すぎて番号以外ですと管理が面倒ですので」

 

 そう言う問題じゃないんだよなぁ、と呟く。しかし無表情のまま、まるで意味が解ってないかのように九九七〇号は首を傾げる。まぁ、伝わらないならそれはそれでいいだろう。だったら、

 

「んじゃお前今からきゅーちゃんな」

 

「絶望的なネーミングセンスにミサカは人生初の絶望を感じています。小学生だってもう少しマシな名前を犬につけると思います」

 

「えらい個性豊かだなお前! でも、まあ、無個性の名無しよりはこっちの方が人生楽しいと思うし、適度に頑張れ。草葉の陰で応援だけはしてる」

 

「死んでるのかよ、とツッコミのタイミングを学習しつつミサカは後悔します。さっきの百均でハリセンを購入すべきだったと。この後ミサカを実験が待っているので購入しなかった。その判断が今の状況に繋がってしまったと」

 

 やだ、この子面白い。”妹達”全員がこんなものなら、相当な面白集団だと思う。操祈から聞いた絶対能力者計画は何やらこの”妹達”との戦闘を重ねる事で一方通行をレベル6にする計画らしいが、先に一方通行が芸人としてのレベルを上げてしまいそうな気がする。

 

 軽く同情だけはしておこう。実験の詳細は知らないが、操祈が教えなかったという事は重要ではないのだろう。

 

 ともあれ、軽く手を伸ばしぽんぽん、と九九七〇号の頭を叩く。

 

「えーと、なんだっけ?これから実験なんだっけ? お前の様な面白ガールを相手にする百合子ちゃんの事を心底同情するよ。アレって割と沸点が低いからネタにして遊ぶと超面白いリアクションが見れるぞ」

 

「マジですか、とミサカは興味津々に食いつきます。ですが残念なことに実験の開始時間が近いので名残惜しさと共に去る準備を始めます」

 

「ん、実験の邪魔は出来ないな。とりあえずこれから一方くんの事を百合子ちゃんって呼んであげるといいよ。たぶんそれだけで笑えるぐらいブチギレるから」

 

「任せてください、と気合をミサカは入れます。きっとノブノブの期待に応えて見せましょう。それでは失礼します」

 

「頑張れよきゅーちゃーん」

 

 そう言うと軽く頭を下げて九九七〇号が去って行く。その背中姿を眺め、本当に面白い集団だなぁ、と”妹達”の事を評価する。あんなのが九千以上も存在しているのだから、その分だけ世界はもっと愉快になってそうだ。

 

 まぁ、学園都市にいるならまた会えるだろう。その時は実験の時の一方通行のリアクションを聞いて、大爆笑でもしておこう。

 

「……うっし、なんか今日は気分がいいし、奮発して大好物のポテトサラダでも食うか」

 

 鼻歌なんかを浮かべながら路地裏に背を向け、まだ人が溢れる表通りへと踏み出す。




 暗躍(仮)フェイズ。あと5000万突破ですってよ!!

 シスターズが自動人形亜種に見える今日この頃。

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