とある修羅の時間歪曲   作:てんぞー

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八月十六日-八月十七日

 ―――行動開始、と言って即座に襲撃を始める訳じゃない。

 

 日中にテロ行動を起こせばいらぬ騒ぎを発生させてしまう。敵が不特定多数の状況で、そんな事が出来る訳がない。こういう事はなるべく早く、そしてスマートに行うべきである。故に朝日が昇ってしまったために即座に動く事は諦め、美琴は変装用にカジュアルな服を用意し、そして自分も二刀の処刑刃の他にも装備を幾つか用意する。

 

 そうやって準備を整えて夜になる。

 

 下調べは完了させており、どこに標的となるデータが保存されているのか、機械が設置されているのか。既に美琴の能力を通してハッキングは完了している。故にやる事は単純にして明快。

 

 月明かりのみが光源と成る様な時間に、公衆電話にPDAを繋げ、それを媒介として美琴がハッキングを完了する。レベル5という絶対的能力の強者に普通のプログラムやセキュリティでは相手にならない。電子世界への侵入は一瞬、仕掛けも一瞬、美琴がハッキングし、用意を完了するのに一か所で一分。同時に操作できる場所が三か所であるためにトータル三分。

 

 ―――宣戦布告開始。

 

 椅子代わりにしているガードレールの上に座りながら、夜の学園都市に耳を澄ませる。夜空に三か所の大爆発の音が聞こえる。軽く口笛を吹き、手を振る。それを横目で確認していた美琴が既に次の作業を進め、そしてそれを実行に移しながら口を開く、

 

「宣! 戦! 布告! 完了ッ!」

 

 再び、三連続の爆発の音が夜の学園都市に響く。帽子で顔を隠してはいるが、美琴の表情には爽快感が見て取れる。一方通行相手にはほとんど何も出来ずに負けたのだ、こうやって大打撃を与える事が出来たのであれば、爽快感を感じるのはしょうがないだろう。かくいう自分も、正面切って学園都市に喧嘩を売る、というのは実際未経験だ。学園都市全体ではないが、それでも一方通行に関連する研究と言えば一大セクションだ。それに対して喧嘩を売るのはかなり大きなこと、それに自分が関われると思うと、少しだけ興奮を覚える。

 

「次ッ!」

 

 再び夜の学園都市に三連続の爆発が響く。夜の学園都市が更に賑やかになってくる。流石に九回も隠す事のない爆破が発生すると気付く人間が出てくる。騒がしくなってくる遠くの気配を感じつつも。ガードレールから腰を下ろし、近くに停めてあるバイクのエンジンを入れ、それにまたがりながら時計を確認する。

 

「十五分経過してるぜ」

 

「これで十二ィ!」

 

 爆発、そして爆発が発生する。サイバーテロだと気付かれ、防壁が強化されるころあいだろう。それでも美琴はサイバー経由での爆破テロを止めない。寧ろ今まで以上の集中力を発揮し、一秒でも時間を削る事に集中している。そうやって能力を高め、妹を救う事だけに考えを注いでいる。それが彼女を直進させている。ある意味盲目にもさせている。考えればもっといい手段があったかもしれない。誰かが、無理し過ぎないように舵取りをするしかない。

 

「チッ、気付かれたか大分硬くなってきたわね―――十五」

 

 爆音が響き、今度こそ夜が騒がしくなってくる。おそらく今頃、相手も此方の襲撃に気付いて専用の対策も組んでいるだろう―――というよりも、そもそも前後の状況からして美琴が破壊工作に乗り出さない事なんて想像できない訳がない。美琴に対する専用のサイバーを通した対策を今頃漸く組み始めている頃だろう。だがまだ、まだ美琴は粘る。

 

「十六、十七、十八ッ!」

 

「うっし、そこまでだ。場所がバレる前にとんずらするぜ」

 

 バイクのエンジンを唸らせながら美琴へとアピールすると、公衆電話からPDAを外し、それをポケットに入れた美琴が軽い跳躍でバイクの後ろ側へと乗り込む。それを確認してから再びエンジンを唸らせ、一気にバイクを走らせ、人目の多い通りへと移動する―――こういう状況では下手に人気の少ない所に隠れるよりは、人ごみに紛れた方が身を隠しやすかったりする。

 

「3ケツは基本的に事故るからな! 2ケツまでならセーフ!」

 

「何よその意味不明なルールは!」

 

 これは割と最近、といっても数か月内の出来事だが、当麻と元春と三人でバイクで3ケツした結果、1メートルも進まずにトラックと衝突した。時を巻き戻すとかそういうレベルの範疇を超える衝突だった。後日また3ケツに挑戦したら今度はタンクローリーが衝突コースに入ったため、寸前にバイクを蹴って二人抱えて跳躍するハメになった。それ以来3ケツは絶対事故る、という確信を共有している。

 

 不幸ってレベルじゃない。いや、不幸というレベルを超えている。もはや呪いとか運命とか、そう言う領域に到達している。故に3ケツは封印している。2ケツ、もしくは4ケツからだ。

 

「―――ま、どうでもいい事さ! それよりも宣戦布告したんだ……覚悟は出来てんだろ?」

 

「問われるまでもないわ」

 

 そうか、と小さく呟き、

 

「ふんぞりかえって数字しか見ない馬鹿な連中にいったい誰に喧嘩を売ったのか教えてやるわよ」

 

 容赦をする必要は一切ない。同情する余地はない。テンションが高くて冷静に思考出来ているならそのまま突っ走ればいい。相手は外道である、だから遠慮なくぶっ飛ばす。その為に手段を選ぶ必要はない。相手はレベル5で、こっちもレベル5がいる。まともにぶつかって勝てないのであれば、まともにぶつかる必要はない。得意な領域に引き込んで一瞬で終わらせる。

 

 ゲリラとテロと蹂躙。必要なものはこれだ。

 

 小さな戦争が始まる。

 

 

                           ◆

 

 

 十九カ所目。

 

 サイバー経由が不可能となると直接襲うしか手段がなくなる。ただ馬鹿正直に乗り込んで戦うのは賢くはない。レベル5であればその程度簡単にできる。しかし、それとは別に、美琴はまだ学生で、そして子供だ。体力は緊張感、そしてストレスと合わせて直ぐに限界が来る。いくら運動神経は良くても、限界は直ぐに来る。訓練し、慣れている様な人間の様に常に自然体で活動できるわけじゃない。故に襲撃は最低限に、一日のノルマを作り、そして効率よく破壊を行う。

 

 時間は敵である。しかし味方にもなりうる。

 

 やる事はいたって簡単。元々各施設の地図はハッキングと白衣の少女のおかげで入手している。後は目的とする機械類が地上にある施設を確認し、障害物などを無視した場合に直線になる位置へ移動する。美琴が装填するのは何時も使用としているコインではなく、軍用ライフルに使用されるライフル弾。それをレールガンの弾丸とし、弾丸自体の物体としての時を止める。そこに二倍速の力を加え、レールガンを発射する。

 

 普段より貫通力と速力の増した弾丸は本来衝撃に耐え切れず空中で分解、焼けきれるだろう。しかし、時が停止したことにより、僅かな特例を除いて不変の存在と化す。故に破壊されない弾丸が完成し、本来よりも高い出力で放っても問題のない一撃が完成する。

 

 それをまっすぐ、機械の存在する部屋へと向けて放つ。

 

 サイバーテロの時は優先的に侵入しづらい、あるいは破壊が面倒な位置にある物を優先的に狙った。たとえばターゲットが地下にあるものや、もしくは特殊な防壁が存在する研究所や、ガードが特別に硬い所など。そういう施設を優先的に爆破した。故に残されているのはレールガンで破壊する事の出来る研究施設。故に発射された弾丸は予想通り壁を粉砕する様に貫通し、その射線上にある存在を余波の電撃と電磁波で破壊しつつも、真っ直ぐターゲットへと向かって直進し、爆発と共に破壊を巻き起こす。

 

 双眼鏡で破壊を確認し終われば、留まる必要はなく、そのままバイクに乗って素早く区域から離脱する。

 

 

                           ◆

 

 

 二十カ所目。二十一カ所目。

 

 一方通行との戦いの疲労が残っていたのか、酷い汗を掻いていたために初日は一か所だけを襲撃し、休んでから次の日に実行となる。

 

 拠点となるホテルから出て、今度は前日と違い、昼間の内に実行する。

 

 前日は余計な騒ぎを集めない為だったが、逆に捜査の手が入るとなると騒ぎを大きくした方が人ごみに隠れやすい。その為態々人の多い時間帯に研究所へと向かう。前日に行った時間強化型レールガンは既に警戒されており、狙撃地点にはアンチスキルが配備されている。故に取る手段はまた簡単であり、研究所に一番近い電線を美琴に握らせ、そしてそこから自身にダメージが返るほどの電撃を電線を通し、直接研究所内へと送り込む。

 

 ブレイカーでさえ押さえきれないほどの電流が逆流し、施設をその内部から完全に爆破、粉砕させる。反動によるダメージは時を戻して回復し、今度は徒歩で人ごみに紛れる様に逃げ、隠れる。その足のまま、二十一カ所目へと向かう。場所の選定は終わっており、距離は近い所を選んである。徒歩で二十一カ所目まで移動を完了させると、そのまま対策が取られる前に電線から全力の雷撃を送り込ませ、そして二十カ所目の様に強制的な暴走で破壊する。

 

 そのまま逃げ、拠点となるホテルまで逃れる。

 

 

                           ◆

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 荒い息を吐きながら美琴が地図を広げてあるベッドの上に倒れ込む。その様子をホテルのソファに座りながら見て、頬杖をつきながら軽く溜息を吐き、判断する。これは明日一日、休みに当てた方がいいな、と。元々美琴はまだ中学生で、そして人の生き死にを背負うにはまだ幼すぎる。といよりも、そういう環境に育ってはいない。この二十を超える研究施設の襲撃、かなり派手に、そして手段を選ばずにやっている―――死人が何人か出ていてもおかしくはない。その可能性を考えない彼女ではあるまい。

 

 それが精神的なプレッシャーとして押しかかっている。自分の様に”目的と願いの為だったら他人は知った事じゃない”というタイプだったらまだ楽だっただろう。俺の刹那を邪魔するやつは絶対に殺す、と簡単に割り切れてしまう自分とは違い、彼女はそこらへんを割り切れていない、割り切ってはいけない。だから目に見える形で疲労が溜まっている。誰かの為、守る為、救う為、そう言っても結局は犠牲の上に成り立っているのだ。きれいごとでは何も成せない、理解していても、それに心と体が追いつくのとは別だ。

 

 八月十七日夜現在―――どう考えても明日、美琴が戦闘出来る様なコンディションではないのは確定だった。軽く溜息を吐きながら、視線を美琴へと向ける。

 

「明日、休みな」

 

「……」

 

 ベッドに突っ伏す様に美琴は黙る。その殊勝な態度には少々驚かされる。感情的なタイプの美琴であればこのまま怒鳴って言い返すぐらいの事はするのではないかと思っていたが、その予想を裏切る様に美琴は黙り、そして顔をベッドの枕に埋める様に蹲る。そのまま数秒経過してから漸く美琴が口を開く。

 

「……注意されなくたって自分の様子が客観的に見てどうなのかぐらい解るわよ」

 

「じゃあ気を楽する為にちょっとだけ言葉を付け加えよう。一気にに十カ所吹っ飛ばしたから、相手が相当焦って研究を進める必要がない限り、おそらく研究は一時的に停止か遅延している。つまり”妹達”の殺害ペースも落ちている筈だ」

 

 十中八九、計画が止まる事はありえないのだろうが。おそらく研究所を全て潰しても、施設を別の所へと移して研究を続けるだけ。もっと根本的な所からこの計画は潰さないと、どうにもならない。冷静になって考えてみればそれぐらいは解ってくるだろう。だけどその事実を理解してしまったら、今度こそ本当に美琴は絶望してしまう。本当に一方通行を倒す、という手段以外には方法がなくなってしまう。

 

 そうなってしまうと完全に詰みだ。あるいは本気で手段を選ばずに殺す方法が必要になってくるが―――それに美琴が耐えられる訳でもない。つまり、

 

 ”妹達”は詰んでいる。

 

 助けようがない。

 

 バッドエンドが確定しているのだ。

 

 態々そんな事実を美琴に伝える必要はない。そうやって絶望させる必要はない。その前になんとか、自分が別の手段を思いつけばいい。そう、完全に詰んでしまうになんとかしまわなくてはならない。現状限りなく詰みに近いが、それでも完全な詰みではない。まだ、まだ抜け道が存在する。か細いが、まだ間に合うかもしれない。

 

 そう希望を抱くのはまた、勝手な話なのかもしれない。そしてまた、残酷な話でもある。

 

 あー……見捨てる事が出来なくなってる……泥沼にはまってるな……。

 

 まだ、操祈との約束の範疇だ。まだ。この程度ならまだ許容範囲だ。しかし、本気で一方通行とぶつかる必要が出てきた場合、この時はさすがに、

 

 いや、どうなのだろうか、

 

 果たして御坂美琴は、自分の刹那の一部なのだろうか?

 

 もしそうだとしたら、その時はきっと―――。




 ただの中学生にテロやって平気なメンタルがあるわけないだろ!! いい加減にしろ!!

 不良ぐらいならいいけど、人の生き死に関わるってのは結構凄いストレスなんだよね。まぁ、そんな訳でサクサクしつつもお休み。そろそろ獣殿っぽくて黄昏の様なあの人の登場かもしれない。

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