爆音が響く中、それを意識から排除させながら疾走する。
加速する意識と体で一気に沈利へと接近し、首を刎ねる動きで刃を滑らせる。それを理解していた沈利が刃を首に掠らせるように、紙一重で回避しながらカウンターに原子崩しを放ってくる。それを切り裂こうとする短針の処刑刃は切り払うのに成功するのと同時に、その一撃で溶け、半ばから崩れ去る。それを時を巻き戻す事で修復しつつ、消えた原子崩しの空間を抜く様に右の短針を振るう。しかし連続で攻撃を入れるには遅すぎる。時を更に加速できたなら殺せた。相手を確実に止める事が出来たら殺せた。
或いはレベルや経験そのものを回帰させる事ができれば殺せた。だがレベル2ではそんな事は出来ない。所詮は便利な程度だ。使い方をまるで生まれる前から師っている様に熟知している、故に武器として機能している。だが、圧倒的に出力が足りない。殺しきれない。そうと理解していても動きを止める事は出来ない。一撃必殺を狙って斬首の動きに入る。しかし、それは沈利をかすめるだけで、空間に血のアーチを描いて終わる。
「隙だらけなんだよッ!」
沈利が踏み込み、拳が胸に叩き込まれる。原子崩しを軽く使用して速力を上げているが、女の腕にはあるまじき衝撃が胸に突き刺さる。それを歯を噛み締める事で耐えながら、両手から刃を手放し、殴った反動で動けない沈利の顔面に拳を叩き込む。拳の先で顔面を殴る感触を得ながらも、それが骨を砕く感じはしない。硬い、と評価しながら逆に沈利を殴り飛ばし、刃が落ちる前に回収する。口の中に溜まった血を唾と共に横へ吐きだしながら殴り飛ばした沈利に追いつこうとし、横へステップを取る。
原子崩しの光が横を抜け、浅く服を焦がすのを確認しつつ、加速したまま再び斬首する為に駆け抜ける様に刃を振るう。
「ちぃ! ちょこまかうっぜぇぇんだよぉ!!」
沈利が捉えられない様に高速で動きながら横を抜ける様に刃を振るい、その首を狙って行く。沈利はそれを紙一重で回避しながら反撃の原子崩しを出力を絞り、反動の少ない連射型のスタイルで放っている。しかしそれは此方の体を完全にとらえる事はなく、かすめる程度で壁や床に穴を開けて失敗を証明する。
完全な千日手だった。
沈利の攻撃は此方を捉えきれず、攻撃よりも回避と牽制を目的とした動きに変えた此方では決定力がない。お互いがお互いの動きを封じ込め、そして勝負のつかない空間が生み出していた。あえて言うなら時間を巻き戻してダメージを回復できる分、此方の方が一歩有利かもしれない。しかしそれも今、沈利が自爆覚悟で戦わないからだ。
―――レベル5は恐ろしく強い。
―――その能力は能力者本人の体が耐えられない程強力だからだ。
沈利が全力で原子崩しを放てば、おそらくは”死に続ける環境”を生み出せるのではないかと思う。しかしその場合、周りへの被害や沈利自身はどうなる? この研究所は間違いなく吹き飛ぶし、沈利自身も生きていられるかは怪しい。彼女の仲間がほかにいたとしても、その者達も間違いなく巻き込まれるだろう。つまり、今のこの状況は沈利自身のリスクへの認識、そして良心を利用したものだと言ってもいい。
自爆覚悟で殺さなくてはならない。そこまでのレベルに到達しない限り、この拮抗状況は維持できる。
故に気合を入れる。歯を食いしばって、体から抜けて行く体力を管理しつつ、全力疾走を続ける。時を歪めて加速するだけでは駄目だ。その程度の速度では簡単に見切られる。体術や歩法と合わせた動きの瞬間加速とジグザグの動きを組み合わせ、目でとらえられない様に動かなくては簡単に潰される。それぐらい、自分に道を教えてくれた人たちはやれたから。
「吹き飛べ……!」
「ちっ」
床を沈利が踏むのと同時に、彼女を中心に円形に原子崩しが広がる。物理的に突破不可能な破壊の壁。やる事は今までと同じ繰り返し作業。刃の時を止め、そのまま不変の物質として、絶対干渉不可の刃で原子崩しを正面から処刑する。人が通れる距離を切り裂き、開けた向こう側、既に指を突き出す様に構え、原子崩しを放つ沈利の姿がある。刃を振るった後の状態ではどう足掻いても間に合わない。
故に時を巻き戻し、腕の位置を二刀の処刑刃を振るう前の場所へと戻す。リピートアクションとも呼べる行動によって、正面から原子崩しを切り払い、内側に入り込んだところで再び閃光となって沈利の横を駆け抜ける。再び沈利の首に切り傷が増える。それを舌打ちしながら沈利が薙ぎ払う様に、距離を産む為の攻撃を繰り出す。
「首フェチか何かかよ!」
「うっせぇ! 低レベルだと殺傷力低いから自然とこういうスタイルになるんだよ―――まぁ、殺せるなら別に首にこだわらなくてもいいんだけど―――」
言葉を放ちながら体勢を低く、逸れこそ蛇の様に地を這う低さまで体を下げ、滑る様に駆け抜けながら沈利の足を切り裂く様に動く。それを出だしで理解した沈利が爆風で跳躍し、上空へと駆け上がりながら下へと向かって原子崩しを放つ。
沈利との戦いでの動き、経験を自身へと還元させる。
一方通行の場合は一方的な暴力だったため、生存の為の参考にしかならない。
だがある程度戦える相手であれば、経験は貴重な宝となって戦術を、動きを生み出すツールとなる。戦いながら経験を血肉に変えて、成長している事を理解し、上空へと逃げる沈利を追いかける。空を飛ぶわけではない。時を止める訳ではない。加速したまま、沈利が跳躍の為に巻き上げた鉄の破片、爆破によって粉砕されたそれら全ての動きの速度を半減させ、鈍くさせる。結果、
それを足場に空を駆け上がる。
「けど届かないかっ!」
「技術特化の奴ほどめんどくせぇのはないなぁ!」
駆け上がり、浮かび上がった沈利と原子崩しと時の止まった刃がぶつかり合い、お互いに弾かれながら吹き飛ばされる。それと同時に沈利が顔を顰める。着地しながら追撃しようとした瞬間、沈利があらぬ方向へ―――横へと原子崩しを放ち、壁に巨大な穴を穿つ。牽制の為に此方へと放ってくる原子崩しを回避しつつ、口を開く。
「おい」
「ちっ、悪いけど勝負は預ける」
そう言った沈利はそのまま素早く原子崩しの光と共に穴を抜け、研究所の奥へと消える。素早く去って行ったその姿を確認し、軽く頭を掻き、ポケットの中に入れておいた時計を取り出して時間を確認する。作戦時間通りであれば、今頃美琴が破壊を完了しているはずだ。先程の日と岩大きな爆発がおそらく破壊完了、もしくは沈利の仲間の撃破、という所だろう。
―――再び爆発が聞こえ、研究所が揺れる。
「こりゃ脱出した方が良さげだな」
美琴には目的以外の事は二の次にし、しっかり目的を遂げたら即撤収しろ、と言っておいてある。だから余計な戦闘はせずに、そのまま逃げてくる筈だ。そう思いながら沈利が消えた穴の向こうへと視線を向けると、
―――美琴が全力疾走していた。
帽子は完全に吹き飛んで顔が見え、来ている服もボロボロになっていて素肌が露出している。微妙にブラジャーが見えるが、その胸のサイズでそれはどーよ、スポーツブラにしたほうがいいんじゃねぇか、とは思わなくもない。そんな事を考えていると、磁力の反発を利用して超加速している美琴が一瞬で此方へと追いつき、横へ抜けるのと同時に襟首を掴んで、そのまま研究所の出口へと向かって疾走する。その時を加速させる事で支援するが、
「目的達成した?」
「した。けどなんか今おもっくそ不愉快な事を考えてなかった?」
「はぁ? 俺が不愉快な事を考えないわけないだろ! ネタと愛だけで生きているような人間だぞ!」
「聞いた私が悪かったわよ」
呆れた様な声だが、それでも少しだけ、美琴が笑っているように聞こえるのは僥倖だった。少しは精神的に余裕があるらしい。それともここが終了すればあと一か所。その事実が彼女の心を支えているのだろう。そこさえクリアしてしまえば、絶対能力者計画も終わる。そういう考えを持っているからだろう。
―――学園都市がそんな甘い筈がないのに。
そんな事を思考している間に、移動しながら全ての機械類を無効化しつつ研究所の外へと一気に飛び出す。襟首を掴まれている関係上、美琴の背後から追いかけてくる姿が良く見える。研究所の正面口から金髪の少女を片手で掴んだまま、怒りの表情を浮かべた沈利の姿が出現する。
「オラァ! 三位! 斬首野郎ォ! 逃げないで戻って来いよオラァ!」
叫びながら乱射して来る原子崩しを反射的に刃で時を止めつつ切り払う。そのまま超高速移動は美琴に任せ、
―――襲撃を完全に成功させ、学園都市の夜へと姿を眩ませる。
その際に、中指を突き立てて挑発する事を絶対に忘れない。
◆
『―――あとは消化試合なだけでしたけどネ。少々面倒な事になりました』
「あら、いいじゃないかしらぁ? これぐらいイベントがあった方が少しは刺激的じゃない。それにこれぐらいだったらどうにかなるんでしょう? 貴方に対する期待力を上げているわよぉ」
『そう言われると仕事だから頑張らないといけないのですがネ。無茶振りは止めて欲しいデス』
常盤台中学に存在する庭園、そこから夜空を見上げれば、遠くの空が炎の色で明るくなっているのが見える。また襲撃に成功したのだろう。護衛しろとは言ったが、ここまでやれとは言っていない。まぁどうせ彼の事だから、関わってしまった手前放り投げるのが嫌になったのだろう。悪ぶっているようで彼は結構人情家というか、優しいのだ。ヒーローの素質ではないが、味方ではある。そんな彼だから好きになったのだが。
そんな事を思いながら椅子の背もたれに寄り掛かったまま、スマートフォンの向こう側にいる相手との会話を続ける。聞こえてくるのは外国人特有の訛りのある日本語、若干不慣れなのか言葉の端がカタコトになってしまっている。その背後、或いは周りから忙しそうな声が聞こえるのはやはり、渦中で職務を遂行しているからだろう。
『ですが助けられた部分もありますネ。おかげで移行作業がスムーズにできましたし、前例があるという事は説得する事が簡単になるという事でもありまス。ともあれ、これ以上は必要ないとそれとなくボーイフレンドに伝えておけば彼も必要以上に苦労する事はないと思いますヨ。このままだと移譲してもゲリラを続けそうですしネ』
「ま、そこらへんは彼の気持ち次第よぉ。彼には彼でやりたい事とか入れ込みたい事があるしねぇ」
『若干ドライな関係なのですネ』
そうだろうか、と思う。
「どうかしら。彼にも隠したい事はあるし、私にも隠したい事はあるわよ。何でもかんでも分け合って曝け出すのもいいかもしれないけど、何時でも一緒にずっとそばに、ってばかりが愛の形じゃないでしょ? 時には突き放す様に見守ったり、頑張っている姿を応援するだけに止めるのもきっと、愛の形の一つだと思うのよねぇ。まぁ、これが私の恋愛力かしら」
『良い事を言っているようで結局は野放しにしているだけですよネ』
「まぁね? あまり細かい事を気にしているとモテないゾ」
『こう見えて妻子持ちデス』
「なんで若干半ギレなのかしら……」
何だかんだでこのカタコトの知的傭兵、警備アドバイザーを自称する男は有能だ。先を見通す先見性に状況に即座に反応できる対応力、それに冗談を理解したり、そういう会話に混ざれたりするユーモアを持ち合わせている。早いうちに雇っておいて正解だったと判断する。彼の予想によればあと数日中に絶対能力者計画は終わりを迎え、そして一番重要な点である”妹達”の管理が緩くなる。
管理、或いは監視が緩くなれば大分動きやすくなってくる。そうなれば本格的に敵の目を掻い潜る事が―――木原幻生を相手に動き出す事が出来る。と言っても、相手は”陰謀力”が凄まじく、行動に移せば移した瞬間から看破される。それほどに警戒して当たらなくてはならない。
「ま、とりあえず適当に頼むわぁ。出来たら彼がタンクローリーとかを持ち出して特攻を始める前に」
『それ死ぬ―――あぁ、そう言えば即死だったら簡単に蘇れる人物でしたネ、貴方のボーイフレンド。クライアントの期待を裏切る様な事はしないのでご安心くださイ。では、そろそろ部下が煩いのデ』
通話が切れる。スマートフォンを下ろし、僅かに明るい夜空を眺め、そして呟く。
「―――知れば知るほど魔境というか、魔窟ねぇ、ここは……」
知れば知るほど、学園都市の闇は深く、そしてその奥は見えてこない。
何時になったらこの地獄から抜け出して、”皆”で笑って歩ける日が来るのだろうか―――。
むぎのんが異様に強い気がするけど、戦闘経験を動きに反映しているだけだから!! だから体術ったり、能力応用したり、なんか主人公以上に敵が修羅ばっかりになってる気がする……。
眼帯金髪巨乳の人も可愛いんだよなぁ……