―――結論から言ってしまえば、全てが無駄に終わった。
最後の襲撃先は明朝に向かうのと同時に無人になっており、研究が終了されていた。これによって完全に絶対能力者計画は終了―――と思ったが、そんな事はない。終わったと思って安堵した美琴と別れ、操祈を通して調べた結果、ただ研究が別の研究所へと移されただけで、何も変わっていない。つまり、完全な無駄足だった。増えた研究所は百八十を超える。襲撃するだけでは決して間に合う事もない。それに、もう既に絶対能力者計画を終わらせる方法、
それが実行に移され、数日中には終了するという事を聞かされた。
一体努力とは何だったのだろうか。そう思わされることも仕方ないが、暴れて目を引き付ける事にもまた意味があるらしく、暴れれば暴れるだけ、それで良かったらしい。しかし、それでも絶対能力者計画を止めるという意味では自分も、そして美琴の努力も完全に無意味だったことは認めなくてはならないのだが。
結局、最初から最後まで完全に掌の上で踊っていた、それだけの話だった。
◆
「―――どうしようもねぇな」
美琴と別れて、前待ち合わせに使ったオープンカフェで一人、朝を過ごす。このまま操祈の所へと顔を出しに行く、という気分にもなれなかった。だからまだ人通りの少ない通りへと視線を向け、頼んだアイスコーヒーをストローを通して飲みながら、若干拗ねる様に不貞腐れていた。パラソルの下にいるから日差しを避け、熱からは逃れられているが、それでも連日戦い続けた事からの疲労が体にはある。というよりも沈利との戦闘が予想外で、それで結構疲れているという事実がある。何だかんだで自分も未熟だなぁ、なんてことを思うが、
口でストローを咥え、それを転がしながら考える。
―――なんか、最近徒労で終わる事が多いなぁ。
なんというか、”今一歩”という部分で届かない事が多い気がする。
いや、解っているのだ。上条当麻というヒーローには勝てない。あの男には悲劇をご都合主義のハッピーエンドに変える様な力を持っている。肉体はただの少年で、持っている能力だって異能の無効化だけだ。だけど、何故か彼が物語に関わった途端、全てが良い方向へと流れ始める。まるでご都合主義の化身の様だ。疑いはしても、それが彼の特異性である事は事実で、否定のしようがなかった。
ただ、流石に苦労してやろうとしたことが後からやって来て解決されると少しへこむ。
……つか、今回も確実に関わってくるというか、最終兵器だよな?
考えてみれば”幻想殺し”でなら”一方通行”を打ち破る事も可能だ。当麻には異能が通じないのだから、一方通行が慢心している間に接近すれば、あとは異能無効の拳で顔面を気絶するまで殴り続けるだけで勝てるのだから。確実にダメージの類は来るだろうが、それでもヒーローの勝利は揺るがないだろう。
ただ、だとしたら何故最初から上条当麻を投入しないのだろうか。
そうやって、物事を深く考え始めると、色々と怪しむべき点が見えてくる。そもそも全てが出来すぎだとも思えてくる。人と人の事情がかみ合いすぎているというか、歯車が良く回りすぎる。インデックスの時は、当麻の部屋のベランダにインデックスが”降ってきた”らしい。しかしこんな広い学園都市で当麻の所へ、おそらくこの世界で唯一事情を無視して救いを発生させられるような存在にピンポイントで巡り合えるのだろうか? 確率として考えるとまずありえない。その後の展開を考えたとしてもありえない。
それだけじゃない―――インデックスの件の前にだって自分と操祈の出会いや、それ以外にもいくつか、”幻想殺し”があったからこそ解決出来た事等がある。そう考えると騒動の中心を突っ切ってきた様にしか思えないが、”不幸だから”という理由だけでそうなっているとは、考えれば考えるほど思えなくなってくる。
いや、それを考えるともっと疑う事が増えてくる。なんで洗脳や精神干渉の通じない自分が操祈に出会える? これもまた運命や偶然と表現すべき事なのか?
「……気持ちが悪い」
急激に吐き気を感じ始める。考えてはいけない事に考えが届いてしまった。そんな感覚があった。それに何故、今まで考えなかった、という気持ちさえもある。冷静になって、頭を空っぽにせず、今持っている情報を冷静に並べて、そして考える。出会い、接触、戦い、成長。当麻や操祈との出会い。能力成長の仕方の研究や、偶然からの成長。増えて行く知り合い。それを並べてみてみると、良く解らない寒気や、既知感にも似た感覚を覚える。こんな事をどこかで、昔考えた事がないだろうか? しかし、同時に思う。
まるでゲームのシナリオに組み込まれているかのような気持ち悪さを感じる。眼に見えない巨大な歯車の一部として動かされている感覚。ひたすら同じ速度で同じ時間を繰り返している。そんな舞台装置の一部として動かされている、そんな感覚が存在する。考えてはならない。気付いてはならない。そんな声が聞こえてくる。しかし、一度それに気づいて耳を傾けてしまうと、思考を止められずにはいられない。
俺と操祈が出会えば、お互いを必要としてくっつくのは必然じゃないか? 当麻は関わった人間を救う、だがその茨の道を助ける仲間は必要だから、力のある者との出会いは必要じゃないか? 大きな実験にはレベル5が関わってくる為、予め面識があった方が物事はスムーズに進むのではないか? そもそも、何時から既知感を感じる様になった。なんで懐かしさを覚える?
「―――考えるのが怖くなってきたし止めるか―――」
口ではそんな事を言っていても、頭は考える事を止めない。まるで魔法が”解けて行く”様な感覚だった。事実を隠していた霧が少しずつ晴れて、そして直視したくない現実が目の当たりにされて行く、そんな感覚だった。ただ一度直視してしまえば逃れられない。何時の間にか強く噛んでいたストローが口から落ちる。知らずの内に手が軽く震えてしまっている。
そして思考する。
―――こうやって自分を疑うのは一体”何回目”だ―――?
◆
「―――僅かな愚かさを思慮に混ぜよ、時に理性を失う事も好ましい」
◆
「得るのも失うのも、それもまた本人の勝手だと思うけどな」
声が聞こえた。
「……ぁっ……」
「やあ、大丈夫か?」
ぼうっとしていたらしい。声をかけられて漸く意識が飛んでいたことに気付く。軽く頭を横に振りながら片手で顔を抑えようとして、その拍子に目の前にあったグラスを倒してしまう。うぉ、と言葉を吐くのと同時に後ろへと飛びのく様に倒れる。そのまま流れる様に頭を床に叩きつけ、目の前の惨事を確認する前に痛みを堪える様に後ろ頭を押さえ、両目を強く閉じる。閉じた目の向こう側から心配する様な気配を感じる。
「だ、大丈夫かい……?」
「な、なんとか」
聞こえてきた青年の声に対して声を震わせながら返答し、数秒間日差しによって熱くなったタイルの上で転がってから両足で勢いよく両手で拳を握る様に立ち上がる。大丈夫、俺は強い子、痛みになんか負けないと心の中で呟きつつ立ち上がり、テーブルいっぱいに広がったアイスコーヒーの惨事に手で顔を覆う。幸い、直ぐ近くに店員がいたため、説明をする必要なくそのままテーブルを綺麗にして貰い、新たなアイスコーヒーを頼んだ。それが終わったところで後ろに倒してしまった椅子を持ち上げ、溜息を吐きながら椅子に座り直し、
そこで漸く、反対側に座る相手を確認する事が出来た。
金髪の青年だった。黄色のスラックスに黄色のベスト、上は長袖の白シャツ、と夏にも関わらず結構暑苦しい恰好をしている男だった。若干目にかかる金髪のせいで視界確保面倒じゃないかな、前髪切ろよ、という程度の感想しかでない容貌。肌の色の薄さからしておそらくは欧米人あたりだろうか、と辺りを付ける。ともあれ、ぼうっとしていたところを起こしたのはこの男だ。文句を言うべきか、それとも感謝するべきか、そう悩んでいると、男が口を開く。
「やあ、久しぶり。元気にしてたかクロノス。いや、見ていれば元気だってのは解るんだけどさ。それでも形式的にこうやって顔を合わせたら挨拶するのが筋だと思ってね?」
―――あ、ヤバイ。誰か全く思い出せない。
クロノス―――つまり
良し、イケルイケル。
「ん? あぁ! よぅ、久しぶり。いやぁ、ほんと久しぶりに見るから一瞬誰かと思ったよ。つかお前の事を全く見ないからどうしてるんだ、って良く思っててさ。んで、お前最近調子どうよ?」
「こっちは……まぁ、なんだかんだで何時も通りだよ。ただ最近妻がお小遣いに関して厳しくてね? 何かを買うなら絶対レシートを残せ、納得の出来ないものならお小遣い減らして余計なものを買う余裕を奪い去るって姿勢を見せていてね……。こう、自由にやらせてくれ! って訳じゃないけどもう少し余裕はあってもいいと思うんだ。問題の度にソフト拷問を受けさせられたらそのまま新たな扉を開きそうで怖いよ。というか若干開きかけている」
「へぇ、凄いなぁ。それはそれとしてちょっとだけ距離開けてくれない? うん、あと一メートルぐらいでいいからさ」
「ドン引きじゃないか」
寧ろ今の内容を聞いてドン引きしない方が珍しいと思う。いや、倹約とかに関する姿勢は別にいいのだが、そこから新たな性癖の開発が始まるとか一体だれが予想するんだ。しかもソフト拷問とか解りたくもない。もっと、こう、恋愛とは健全なものではないのだろうか。爛れた生活も憧れがない訳ではないが、それでもそれは最終的に性根を腐らせるものだ。だったらもっと健全に生きていた方が遥か良いに決まっている。
ふぅ、と息を吐いて落ち着く。目の前の相手の事に関しては全く思い出せないが、それでも会話が続いた事実を見ると、これで問題がないように思える。故に一息をつく意味で息を吐く。そこで代わりのアイスコーヒーがやってくる。グラスを受け取り、ストローを通してそれを飲み、その味よりも冷たさを味わってから口を離す。その動作が面白かったのか、小さく漏らす様に金髪の男が笑い始める。見た目は自分とほとんど変わりのない年齢だろうに、これで結婚しているのだから驚きだ。
「んだよ」
「いやぁ、それっぽく話しかけたけど、”会う”のは今日が初めてだからね。まさかここまでノリノリに対応してくれるとは思わなくて」
「クッソ! なんて奴だ! 無意味に恥をかかされた!」
「ははは」
爽やかに笑っているのが多少イラっと来るが、不思議と体から無駄な緊張や気負いが抜ける。少し前まで無駄に不安がっていたのが嘘みたいだ。そこまで思考した所で、少し前まで、自分が一体何について考えていたのかを思い出し、顔を軽く歪めてしまう。あんまり、考えたくはない事だが、どうしても考えてしまう。
そうやって再び思考に没頭しそうな所で、声がそれを引き留める。
「一人で深く考えていても答えは出ないよ」
「は? 何を―――」
「脚本家は確かに存在するけど、それを一人で考えたところで答えは出ない、と言っているんだ。そもそも情報が足りな過ぎて君一人じゃ永遠に同じところをグルグル回っているだけだよ。それに思いついてもリセットされるだけだしな」
「……」
目の前で笑顔を浮かべ、此方へと視線を向ける存在に対して瞬時に警戒を始める。何故、どうして、等と言葉を口に出す前にそれを自分で考え始めようとする。だが結論が出る前に、敵意の一切存在しない―――寧ろ友情、あるいは憐れみ、優しさを感じる様な笑みを、視線を相手は向けてくる。敵対する意思はない。それは理解した。だけども警戒は解かずに問答する。
「誰だ」
「―――オッレルス、魔神になれなかった出来損ないだよ」
その言葉はどこか遠い既知感を刺激し、
「この言葉を伝える時が本当に来るとはね。何度目かは覚えていないけど」
そしてどこかで、歯車が致命的に狂ったのを感じた。
ゆっくり進めようか、それとも軽く圧縮するか? と悩んだ結果、
そう言えば来週からインド生活始まるからゆっくりできねぇじゃねーか!
という致命的な事を思い出す。マキハイリマース
今のこの話のシナリオの状態をTRPGで説明するなら、レベル10ぐらいのキャラのシナリオに別の卓で操作しているレベル80ぐらいのキャラが乱入してきてGMを抹殺し始めた所。GMニートだからいっか。