とある修羅の時間歪曲   作:てんぞー

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八月二十日-Ⅱ

 魔神―――魔神のなりそこない。

 

「と言われても魔神って何か知らないし、凄さが伝わってこない」

 

「あぁ……そう言えば科学サイドだっけ……」

 

 呆れた様な声と表情のオッレルスに、仕方がないだろ、とテーブルを軽く叩く。勿論そこでグラスを倒さない様に気を付けておく。贅沢は敵ではあるが、偶の贅沢は安らぎでもある。それを凡ミスでフイにしてなるものか。既に一回零しているのだから二回目はない。そんな事を考えていると、オッレルスが口を開く。

 

「まぁ、簡単に言ってしまえば魔術で神の領域に入った連中の事だよ」

 

「あぁ、そもそも魔術サイドの話なのね。スタイリッシュ痴女に半殺しにされてからイカデックスちゃん以外と魔術サイドは関わってねーからほとんど忘れてたわ」

 

 スタイリッシュ痴女の部分で軽く吹き出しそうなオッレルスの姿を確認しつつ、店員を呼んで追加でアイスコーヒーを頼む。目の前の人物が何であれ、敵意は一切感じないし、話しに来たのだけは理解できる。なら無駄に刺々しくやる必要はない。安らいで接せるならそれに越したことはないのだから。オッレルスがそれに感謝しつつさて、と言葉を置く。

 

「こうやって会いに来たのには色々と理由があるし、伝えたい事も色々とある。だけどそれが遅すぎるし、普通に話して伝えられるものでもない。一体何から話し始めればいいのか、と悩めるぐらいには存在している。まぁ、手始めに改めて俺はオッレルス、魔神のなりそこない―――で、魔神というのは魔術を極め、神の領域へと至った存在だと思えばいいさ。つまり科学サイドで言う絶対能力者(レベル6)のようなものさ、解り易く説明するとね」

 

 絶対能力者―――つまりレベル6は科学でいう、理論は存在するが到達できない領域。あるいは奇跡を起こして到達できる領域が。それもまた、魔術にも存在する。それが魔神という存在なのだろう、此方でも解る様な言葉を使ってくれると非常に理解しやすい。しかし、本題はそこではない。目の前の男、オッレルスは剣呑すぎる言葉を放ってきた。脚本家、リセット、思考の袋小路。まるで此方の考えた事を読み取ったかのような言葉だ。

 

 ―――いや、待て。なんで話を聞く事前提になってんだこれ。

 

 目の前の男は突如現れ、そして魔術という未知の領域の人間の中でも極めて強力な存在の様に思われる。少なくとも魔神という存在が絶対能力者相当なら、超能力者クラスの実力者ではないのだろうか? だとしたらなんで、和やかに談笑するとかいう選択肢が最初にやってくるのだろう。

 

 いや、それ以前に、目の前の男に対して親近感にも似た感覚を覚える。それが話そう、話を聞こうという気持ちを生み出している。それはなんだか自分の知らない自分がいるようで、

 

 少し、気持ち悪い。

 

「大丈夫か?」

 

「あ……あぁ、平気、へーき」

 

「そうか……なら遠慮なく―――と言いたい所だけど、此方から一方的に話すのも情報の整理が面倒だろう? そっちから質問する形で答えるよ。その方が落ち着けるだろうし、考えも整理しやすいだろう。とりあえず時間は余るほど存在する。急ぐことなく考えるといいさ」

 

 そう言われ、色々と悩む。一番の困るのは頭の中が軽い混乱でごちゃごちゃしている事だが、それを顔や動きに出す程未熟ではない。そういうのは頭の中にだけ留め、頭の別の部分で冷静に思考する。解らない様に軽く深呼吸をし、そしてなんとか言葉を集める。冷静になれ、こういう時こそ冷静になるべきなのだ。そう思考した所で、

 

「あ、ノリは軽い方がいい? 真面目なのがいい?」

 

「軽い方で」

 

「じゃあケーキ頼むか―――すいませーん」

 

 ……あー……気を使わせたかもなぁー……。

 

 表情や姿には見せてはいないが、割と混乱しているのが見抜かれているかもしれないなぁ、と胸中で軽く溜息を吐いてから質問すべき事を決める。とりあえず無駄に深刻ぶっても意味がない。そう思い、質問を始める。

 

「んじゃ、とりあえず混乱の真っただ中だし、簡単な質問から始めるけど、なんで俺に会いに来たわけ?」

 

 それに対してオッレルスは簡単に答えた。

 

「簡単に言ってしまえば―――欲望五割、義理が四割、そして義務が一割って比率だろう。一番の手段が君を脚本の外側へと引きずり出す事だ。もしかしてそれも既に計算の一部かもしれないが、流石にそこまで万能な相手でもない。となるとやっぱり真実を知らせた上で仲間に引き入れるのが一番の方法だろうからな。浅い縁というわけでもないし―――」

 

 そこでオッレルスは一旦言葉を区切る。そして、

 

「―――まぁ、要約すると俺は君を良く知っている。味方になってくれるし、考え方に同意してくれると思っている。だから会いに来た」

 

「やっべぇ、今のを聞いて逆に質問が増えたわ」

 

 ははは、と爽やかに笑うオッレルスとは違い、此方は軽く頭を抱えるハメになっていた。何故オッレルスはこっちを知っている。脚本というのはなんだ。というかお前学園都市に正規の手段で入ってないだろ、とか言いたい事はあるが、質問は一つ一つ並べて答えさせるのがいい。きっとそうであるに違いない。お願いだからこれ以上問題を増やさないでくれ。

 

 変わらない時を有意義に過ごしたいだけなんだから。

 

「んじゃあ、なんで俺を知っている。というかどうやって」

 

 学園都市の関係者には見えないし、それに火織やステイル、インデックスを通して知ったようにも思えない。それよりも更に前、ずっと前から此方を知っているかのような、そんな感じが言葉の端からは感じられる。それにそれだけじゃなく、胸中に感じる感覚は、旧友を懐かしむ様な感じだ。その感覚に関する答えが欲しい。―――それはもしかして既知感に対する答えにもなるかもしれない。期待を込めてオッレルスへと視線を向けると、オッレルスはそうだな、とまずは言葉を置き、

 

 言った。

 

「―――世界がループしていると言えば君は信じるか?」

 

 呆れた様な、可愛そうな者を見る様な視線をオッレルスへと向けると、オッレルスが笑顔を浮かべたまま額に青筋を浮かべる。が、米神をオッレルスは指で押さえると、軽く溜息を吐く。

 

「荒唐無稽な話かもしれないけど、君自身は色々と理解する事があるんじゃないか? ”時空歪曲”、と此方側で言っていたか。耳障りの良い名前だね。飼い慣らされているとも言えるけど。日常的に使って、そして感じ取っているんじゃないか、時が巻き戻る力の一端を」

 

「いや、待てよ。俺にそんな力はねぇよ。戻せるにしたって数十秒が限界だし。それに連続稼働する事は出来ない。レベルが上がったってここら辺の制限はそう簡単に消えない筈だぜ。なれるかすらどうか怪しいけど、レベル5になればそりゃあ数時間とかは出来るかもしれないが―――」

 

「―――九月二十日限界突破し、暴走した御坂美琴が異界の力を引き出すのを確認しレベル3へ。ここからレベル上昇による能力のインフレが始まる。十月九日、垣根提督との交戦を通して異界の法則に汚染され、レベル4へと至る。同時に既知感を前よりも強く感じ、やることなす事全てがデジャヴするかのように感じ始める。十月三十日、天使との交戦や”黒翼”の目撃を通して欠けていたピースを取得し終わりレベル5へと至る。本来の予想された出力を遥かに超え、科学を通して魔術を解明する事に成功する。莫大なエネルギー消費と共に無限に近い出力を得る」

 

 また、

 

「―――完全な完成と共に完全に”ヤツ”との同期を完了させる。以降、”ヤツ”に逆らえなくなり、意思とは関係なく能力発動させる舞台装置としても完成する」

 

 そこまで話し終わったところで、オッレルスは一息つき、視線を向ける。

 

「さて、どうかな? これがこれから君が経験する事になる成長(スケジュール)だけど」

 

「いや、どうってお前―――」

 

 そんな荒唐無稽な事を信じられるか、と言おうと口を開き―――止める。違う、それが言いたい言葉ではない。正しくは”そんな事を信じたくない”という言葉になる。オッレルスの口から出てきた言葉は信じる事が出来ない。そこに証拠が存在しないからだ。ただ、オッレルスの声には、一切の戸惑いや緊張、嘘といったものを感じなかった。心の底から、本気で吐いている言葉が本当であると、それを確信して口にしている。いや、彼が演技上手である可能性も存在しない訳がないが、

 

 何故か心は告げられた言葉を信じていた。

 

 何故、何故なのだろうか。

 

「やけに知り合いが多いだろう? 恵まれているだろう? 経験する事が、合わせる顔が多いだろう? ―――計画というのは小さなフラグを積み重ねる事で動きだすものだよ。御坂美琴と友好関係を作っておくことで九月の暴走を見過ごせないようにして、一方通行と面識を作っておけば十月に巻き込める。第三次世界大戦が始まれば友人を追いかける様に、そして与えられた女を守るために君も前に出るだろう。ほら、無駄がない」

 

 ―――思想や出会い、やりたい事さえも全て計画通り誘導されている。

 

 俺は、そんな人生を送ってきたのだと、

 

 オッレルスは言っている。

 

「んな事認められるかよっ!」

 

 怒鳴りながら立ち上がり、テーブルを叩く。配慮するだけの余裕が、流石になかった。テーブルの上に会ったグラスは倒れそうになり、それをオッレルスが素早く回収し、抑えていた。頭のどこか冷静な部分でそれを客観的に捉えつつも、感情が胸からこみあげ、それを吐きだす様に口から言葉が溢れ出す。

 

「俺の人生は全て計算通りだったと!」

 

「そうだ」

 

「ダチも知り合いも計算通りの接触だって!」

 

「そうだ」

 

「能力が成長せずに、急に伸び始めたのも計画通り!」

 

「そうだ」

 

「俺が一回腐りかけて、そこから立ち上がったのだって―――」

 

「―――あぁ、全てが計画通り。予想された通り。ここまでの生活、働き、出会い、その全てが計画された通り。誘導された通り。期待された通り。定められたレールから一寸たりとも離れずに走り続けている。自分が本当は誰なのか、何度も巻き戻された時の中でそれさえも見失っている。自分が本当はどこで立っているのかさえも忘れてしまっている。生きているようで、未だ生まれてさえいないのが君の存在だ」

 

「……なんだよ、それ」

 

 よろよろ、とふらつきながら後ろへと蹴り下げた椅子に倒れ込む様に座る。信じたくはない。だけど、何よりも自分の心がそれを真実だと肯定するかのように受け入れていた。本音でいえば、言われたこと全てを理解している訳ではない。ただ、自分でも理解できる事はある。

 

 ―――人生を見えない化け物に弄ばれ続けていた、という事だ。

 

 自由意志のない人生に一体どれだけの意味があるのだろうか。自分の選んだ選択が実は選ばされただけだと気付いた時はどうすればいいのだろうか。心が完全に事実を認め、屈服している。こんな事は久しく、そして懐かしい。だけどそれを楽しむ事なんてできない。完全に最初に会った余裕は消し飛び、わけのわからない焦燥感と、哀しみと、そして無気力感が胸中には漂っていた。ならば、

 

 そもそも自分とは一体なんだ。

 

 周りから向けられる視線を無視しながら深く息を吐いて、両手で顔を覆いながらしばらく無言で俯く。幸い、泣きそうな気持になっても涙が出る事は一切なかった。ここしばらくずっと能天気にやっている事もあって、こんな気持ちにはならない事もあり、余計重く感じる。

 

「―――割と詰め込む様に言ったけど、大丈夫か?」

 

「解らない。超解らない。話を聞くだけなら荒唐無稽もいいところなのに。三流の陰謀説お疲れ、って済ませられる内容に聞こえるのに―――何故か解らないけど、心がそれを事実だって認めちゃってる。否定したくても、否定する様な気持ちになれねぇ」

 

 その答えに何か含むところがあるのか、そっか、とオッレルスは少し優しげな声で返答する。そのまま数秒間、何かをするわけでもなく、ゆっくりと感情を飲み込むかのように、黙り、そして頭を整理する。その間にオッレルスが口を開く。

 

「俺は、あの男の思惑通りに進むのを止めたい。この牢獄(ゲットー)から解放されたい。ついでにあのヤンギレ眼帯金髪女も一発殴り飛ばしてへこませたい。いい加減に勝ちたいんだ、未知が欲しいんだ、同じ景色には見飽きているんだ。今なら間に合う。まだレベルが低い間なら、ヤツとの―――アレイスターとの同期が完成されていない。君を学園都市から連れ出し、監視下から逃す事も繋がりを断つ事もできる。これは”今週目”で漸く訪れたチャンスだ。それを見逃したくはない」

 

 その言葉が浸み込むのを待つようにオッレルスは数秒間無言を貫いてから、それに続く言葉を放つ。

 

「―――俺と一緒に、そのシナリオの全てを粉砕して、裏で笑う黒幕に中指を突き立てないか?」

 

 何時もならここで笑いながらネタの一つでも返すだろう、

 

 ただ今はそんな余裕はなく、掠れる声で呟く事しか出来ない。

 

「一日だけ……待っててくれ……」




 ……??(プロットを見る

 おかしいなぁ……俺のプロットも砕かれたような気配がするぞ。まぁ、読者の皆さんには足りない情報が多いかもしれないけど、そういうのは追々公開されて行くものだからね。

 このSSの目標:ニートとヤンギレ眼帯金髪女の顔面に拳叩き込んでへこませる。

 人生否定されるのってどういう気持ちなんだろうなぁ、と

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