とある修羅の時間歪曲   作:てんぞー

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八月二十八日

 今日もヤク中が発狂しながらシャブを製造する平和なイギリスの朝。

 

 ベッドから起き上がりながら大きく体を伸ばし、サンダルに足を通しながら体を伸ばす。窓から差し込む光が今日もいい天気である事を教えてくれる。まだ少し早い時間だが、時間は無限に有限である。なら限られた時間は賢明に、そして懸命に使用しなければならない。と言ってもできる事は脳に魔術の知識を詰め込む事だけだ。しかしやっぱり、それはそれでつかれる。定期的に休みが欲しい。

 

 金、酒、そして女。男をいやす者と言ったらこれに決まっている。

 

「良し、今日は風俗行くか!」

 

 ステイルでも誘って社会勉強させよう、何てことを思いながらパンツ一枚、サンダルを履いた状態で廊下に出る。歯ブラシとコップを片手に、共同の洗面所でさっさと顔を洗って朝ごはんの準備を進めてしまおう。そんな事を思いながら一階の風呂場前の洗面所へと到着すると、そこには先客の姿があった。必要悪の教会(ネセサリウス)に所属する茶髪の魔術師で、確か名前はアークとかいう青年だ。片手を上げて朝の挨拶をするが、相手は日本語が喋られず、こっちは英語が喋られない。魔術の勉強の合間に英語を何とか覚えているが、それでもまだ単語でしか意味が理解できない程度だ。

 

 なので特に会話をする事はなく、洗面所で横に並びながら歯を磨く。そこに歯ブラシとコップを持った、眠そうなステイルの姿が合流する。アークと共にステイルにおはようの挨拶を進めると無言のまま横一列に並び、歯を磨き始める。眠気や言語の壁があるせいか、無言のまま順番に歯を磨き終わると、そのままのそのそとした様子でアークが風呂場へと向かって行く。どうやらシャワーを浴びるらしい。

 

「ふぁー……あ。今日の朝食は俺の順番か。さっそく何か作るか。ステイルくん、なんかリクエストとかある?」

 

「食えるものならなんでもいい……というか人に”君”をつけるのはやめろ」

 

「オメーが十四歳だから仕方がねぇな。俺、弄れるネタを見つけたら一生それで遊ぶ覚悟があるからな」

 

「なんて嫌な覚悟をしているんだこいつ……」

 

 そう言うが、ステイルには眠気が残っているのか言葉に力がない。まぁ、仕方がないよな、と全裸になって風呂へと特攻するアークとトランクスとアンダーシャツのステイルの姿を確認してから、

 

 ―――クッソひっでぇ光景。

 

 と、率直な感想を抱いてからキッチンの方へと向かう。予め冷蔵庫の中には必要な材料とかは揃えてある。冷蔵庫の中にあるものをチェックしつつ、今朝は何を作るべきかを確認し、イギリスなら無難にオムレツとトーストでいいな、とどこかでイギリスの食文化を見下しながらフライパンや食器の準備を始める。この男子寮には八人程の入寮者が存在する。そのうち半数は仕事で出ていたり、部屋の中に籠ってラリっている。言葉にすると酷過ぎるが、事実なのでしょうがない。

 

 冷蔵庫からコーヒー牛乳のパックを取り出し、それをイッキ飲みする事で頭に喝を入れ、軽く活性化させつつ朝食の準備を進める。

 

「あー……服を着ようかなぁ。でもめんどくせぇな。でも、前全裸でベーコン焼いてた時に油が跳ねてマイサンが酷い目にあったしなぁ。パンツ履いているけどマイ乳首に油が跳ねたらどうしよう……」

 

 酷い事を口走っている自覚はあるが、男子寮だから特に言葉に気を使う必要はない。あー、眠い。そんな事を呟きながら日常生活を始めようとしたところで、

 

 ―――本能が覚醒する。

 

 数秒後の惨事を察知するかのように意識は眠気を振り払い、完全に覚醒する。視線を窓の外へと向け、本能が発動前に発動した脅威に対して警戒を向ける。意識するよりも早く干渉への否定が組み上げられる。学園都市にいる間、超能力者相手に発揮していた精神への絶対不干渉、精神の絶対”不変”が組み上げられ、

 

 それが外側へと向けられ発動した。

 

 ほぼ反射の行動。理解の外側。無意識の中の無意識。ただ、大規模な”ナニカ”を”ナニカ”で抵抗した、という事実だけが理解できた。フライパンを握っていない左手を抵抗するかのようにつきだしたまま、そこで漸く本能の反射行動から復帰し、手を引っ込める。ゆっくりと手を下げながら、視界の端に映る歯車へと視線を向けようとし、それが視界の端へと消えるの見る。溜息を吐きながら、左手で頭の後ろを掻く。

 

「……なんだったんだ今の」

 

 理解できたのはたぶん魔術的な干渉を受けそうになった、という所だ。

 

 そしてそれに対して無意識に反応し、そして無意識に抵抗したという事だ。

 

 ほとんど自動だった。”干渉される前に干渉されたと認識”して、そしてそれに対して”意識をせずに自動で抵抗”していた。その際に見えた歯車には、頭に叩き込んだ魔術の術式が、その断片が見えていた。軽く今の感覚を意識しようとするが―――感覚が蘇らない。抵抗に発動させようとした魔術らしきナニカを蘇らせる事は出来なかった。

 

「まだ俺でも把握し切れていない自分がある、って事か……オッレルスは全部を話してくれている訳じゃないし」

 

 あのイケメンの顔面を今度殴っておこう。そう思いながら、漸く違和感に気付く。

 

「……ん?」

 

 声が高い。

 

 それに視界が狭い。

 

 後ろ頭を掻いている手で触れる頭が妙にモジャモジャに感じるというか、妙に髪の量が多く感じるのだ。というか、頭が少し重い。左手で髪に触れ、それを前へと持ってくると、それは長い金髪に代わっていた。なんじゃこりゃ、と声を零しつつ左側だけじゃなく右側もウェーブのかかった金髪がちゃんとあるのが見える。声は完全に自分のものではなく、女の声だ。右眼に触れると、その眼が閉じており、その下には何もないのを感じさせる―――つまり、片目しか存在していない。それを確認しつつ、キッチンに鏡がないかどうかを確かめるが、キッチンにそんなものがあるわけがない。下を見るのが怖いなぁ、なんて感想を抱きながら、

 

「良し、まずは朝食作ってから考えよう」

 

 現実逃避めいた言葉を吐きながらフライパンを握り直すのと同時に、走ってくる様な音が聞こえ、視線を入口の方へと向ける。

 

「クロノス、そこにぶっふぅ―――!?」

 

 走りながらキッチンへとやってきたトランクスにアンダーシャツ姿の火織がキッチンに入って此方の姿を確認するなり、勢いよく吹き出しながら滑り、転び、後頭部を床に打ち付けながら鼻血を軽く垂らしていた。その姿に苦笑しながら眺め、自分以上に困惑し、焦っている人物を見て落ち着く。そして同時に、自分の体に対して発動した現象をある程度理解する。

 

「あぁ、これ、姿が変わるとかそんな感じのイベントか……」

 

 そう言えば上半身裸だったなぁ、と思い出す。下へと下を向ければ、上半身裸の痴女がそこにいる。流石に十四歳にこれは刺激が強いわ、とどこか納得しながら再び苦笑を漏らし、とりあえずは上に着る物を探そうと、フライパンを置いて部屋へと戻る。

 

 

                           ◆

 

 

「ハイ、というわけで聖ジョージ男子寮緊急会議を始めまーす。本日は緊急という事もあって翻訳魔術を発動して、正気のある人間だけ集まって貰いました。それでは皆さん、混乱しまくっていると思うので自己紹介をお願いします」

 

 落ち着くのに十数分の時間を要したが、それだけの時間があれば男子寮に存在する人間が落ち着いて集まるだけの余裕はあった。と言っても、現在ここにいるのは自分を含めて四人しかいない。全員、本来とは違う姿でダイニングに揃っている。まずは、と視線を黒髪の中国人男性へと向ける。

 

「どうも、アークです。姿は知らない人です。シャワー浴びてたらいきなり体が縮んだから何事かと思ったよ……。マイサンまで縮んでるから地味に精神的ダメージがデカイ。とりあえず元の体に戻ったらマイサンの大きさを証明したい」

 

「しなくていいから。というかするな」

 

 その言葉の通り、アークの姿は少年、それも八歳前後のそれだった。黒いシャツにデニム生地のハーフパンツ姿は快活な子供らしい姿だが、アークの本来のそれとは全く違う恰好だ。かなり不満を持っている様に見える―――というか不満しかないだろう。視線をそのすぐ隣に座っている者へと向ける。此方は見た目は知り合いの姿だ。ローラ=スチュアート、ベージュ色の修道服を着ていた彼女の姿だ。

 

 ただ今はジーンズにシャツ、と男らしい姿の上に煙草を口に咥えて明らかに半分トリップしているような様子だった。正直こいつはもう駄目だ、という感想しか浮かび上がってこない。明らかにここに来るまでに一発キメている様にしか思えないのだ。全員の視線が集まったところで、夢見心地の様なローラ姿のヤク中がふぅ、と息を吐き、

 

「女の体でキメるとこんな感じなんだな……新しいナニカに目覚めたかもしれねぇ」

 

 視線を合わせ、頷く。

 

「こいつは縛っておく方針で」

 

 一切の意義がなかったので、火織の姿をしている人物と、アーク少年と三人でロープを取り出し、姿だけローラのヤク中を簀巻にした部屋の隅へ転がしておく。酷い事件だった、とみんなで呟きながら視線を神裂へと向けると、

 

「ステイルだ。なんでこう、ピンポイントで知り合いの姿なんだ。正直に言うとやりづらくて仕方がない。どうしろというんだ。主にトイレとか風呂とか着替えとか」

 

 そう言う火織の姿のステイルの服装は、ステイルの時と変わらずに僧衣のままだ。あの後急いで着替えてきたのが良く解る。そしてステイルの自己紹介が終わったところで、此方へと視線が向けられる。

 

「謎の金髪普通乳? ちょい巨乳? 絶妙に微妙なラインの美乳たいぷの金髪美女だ。の、クロノスさんですよ。ハイ、というわけで自己紹介終了。このクッソカオスな状況に対して説明のできる人、本当に説明をお願いします。いや、マジで」

 

「あぁ、たぶん何があったかは解る」

 

 そう言ったのはアークだった。何事、と聞くとアークがポケットから一枚の札を取り出す。それをステイルが確認する。

 

「通信用の札か」

 

「そ、これで軽く必要悪の教会(ネセサリウス)の方に軽く確認取ってきたけど、術式の正体は御使堕し(エンゼルフォール)だってさ。難を逃れた少数から話を聞きだしておいたよ」

 

「この数分で情報を整理したリトルアークくんぐう有能」

 

「リトルって言われるとリトルマイサンを思い出して地味にダメージが響くから止めないか」

 

 ぐふっ、とコミカルな声を漏らしながらアークが横に倒れる。意外と面白いキャラしてるから、もうちょっと英語を頑張ろうか、と思いつつ、術式の内容は全く分からない。故にとりあえず説明を要求し、視線をステイルへと向ける。それを受け取ったステイルがため息交じりに説明を始める。姿が美女の神裂火織のものである為、そういう動作がなんというか、一々色めかしいものがある。

 

 なんかズルイ。

 

 しかし中身は十四歳、そこが微笑ましい。

 

「大魔術だよ。専門じゃないから詳しい事は知らないが、術の効果からするとランダムに対象の姿を入れ替える魔術なんじゃないか?」

 

 そこでガバリ、とアークが起き上がる。

 

「あ、ついでに姿の、というか肉体の入れ替わった対象の記憶を操作して”その肉体として過ごしてきた”という風に記憶を改竄するらしいよ。おかげで難を逃れた連中と、そうじゃない連中で物凄い混乱しているよ。まぁ、姿どころか性別さえも入れ替わっちゃえばそうだよね。なお、解除に関しては解除チームを編成中らしいよ」

 

「リトルアーク、有能」

 

「リトルは、やめろ……!」

 

 吐血する様な動作をしながらアーク少年が横へ倒れて行く。合掌しながらその姿を眺めると、ステイルが首を傾げる。

 

「待て、記憶を改竄するならなんで覚えているんだ」

 

「あ、俺が精神的な部分だけは抵抗したから。肉体とかは無理だったけど」

 

「……魔術が使えたのか?」

 

 火織姿のステイルの視線に肩を揺らしながらさてな、と言葉を置く。

 

「使えたと言えば使えたし、反射的というか、本能的というか、完全に無意識に発動してしまったからどーにも実感がなくて……」

 

「……まぁ、こっちにとってはそこまで重要な事じゃないからどうでもいいけど―――それよりもその姿、どうにかならないのか」

 

 自分の姿を確認する。

 

 濃紺色のシャツを上に来て、下はトランクスのまま、足を組んでテーブルに乗せている状態で椅子に座っている。その姿からチラチラとステイルが視線を外そうとしているのを、アークと共に微笑ましく眺める。

 

「ああいう初々しさ、俺達にも昔はあったもんだ……」

 

「あぁ、なんつーか女に慣れたり、こう、あからさまにエロそうな奴と付き合いが長いと慣れちまうから一々反応するのが面倒になったりな……」

 

「君達のそう言う話はどうでもいいから、一般的な常識で考えろよ」

 

 そうだなぁ、と呟くが、ぶっちゃけた話、

 

「俺も必要悪の教会(ネセサリウス)所属扱いだっけ? 組織に属しているって事は組織の命令は遵守だし。ぶっちゃけ命令が来るまで動けないんだろ。こんな状況だと」

 

「まあね。つまりは別命あるまで待機だよ」

 

 となると、何時も通り魔術の勉強をしているだけでいいのだ。突発的とはいえ、”ナニカ”を発動させる事が出来た。ステイル辺りにその時の話をして、参考になりそうなアドバイスを貰いながら勉強して、そして待つしかない。

 

 どうせこういう大きな出来事に当麻が動かない訳がないので。放っておけばそのうち解決してる。

 

「ま、貴重な経験をしてるんだ! 有効活用させて貰おうぜ! あとで街中を歩いてどれだけ視線を集めるか美女度チェックしようぜステイル!」

 

「馬鹿がいるぞここに」

 

 ステイルがそう言うと、アークが腕を組み、短く思考し、そして顔を持ち上げる。

 

「この体の年齢なら女湯に入っても合法―――!?」

 

「天才かこいつ」

 

「突き抜けた馬鹿の間違いだろ」

 

 ステイルのツッコミの切れ味が中々だと思っていると、アークが人差し指を咥えながら、上目づかいに視線を向けてくる。

 

「おねーちゃん、いっしょにおふろはいろ―――ほら、完璧」

 

「お前の発想力がやべぇ」

 

「ヤバイのは君らの脳味噌だ」

 

 ステイルのツッコミを耳にしながらも、

 

 奇妙な状況での日常が始まる。結局、できる事は少ないのだから。




 明日から日本にはいないので、怒涛の連続更新

 つまり本日2更新目です

 久しぶりに完全な馬鹿ギャグとか、TSとか書いた気がする。伏線やフラグがあったりするが、基本は馬鹿メインなのです。イギリスは。同居人に関してはオリジナルです。

 それにしてもえんぜるふぉーるサンは説明だけを見ると物凄い複雑
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