とある修羅の時間歪曲   作:てんぞー

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七月二十一日-Ⅱ

「なるほど。つまり話をまとめると? 朝起きたらベランダに銀髪ロリシスターがいるからとりあえず幼女テロじゃないか、と”幻想殺し”でロリタッチしたら服がパァン! 服は実は魔術的サムシングでしたぁ! 驚愕の真実! ベランダで干された状態で全裸! ロリが全裸! 犯人は上条さん! え? 上条当麻さん? ちょっと知らない人です……」

 

 当麻が拳を握って殴りかかる寸前だったのでストップをかけ、話を戻す。

 

「んじゃ俺の顔面が幻想殺しされちゃう前に話を戻すけど、とりあえずその銀髪ロリシスターは魔術結社に追われていて、んでその追ってきたのはイギリス清教の神父っぽい男で、炎を操る奴だった、と。またこのシスターちゃんは別の奴から逃げきれなかったために怪我をしてしまって、神父を退けたところで逃げて治療して今に至る、と」

 

 腕を組み、うーんと唸り、軽く背を逸らしてから跳ねる様に戻し、口を開く。

 

「俺以外に話せばまず正気を疑うわな」

 

 そう言うと銀髪の少女が頬を膨らませるが、まぁまて、と片手をひらひらと振って口から出そうとしていた言葉を止める。

 

「まぁ、普通ならな。ただ当麻が関わっているってんなら話は別だ。このドのつくおせっかい野郎がここまでやっているんだから、疑う事なんてしないよ。騙されているなら話は別だけど、間違いなくなんかの騒動にいるってのは確実だし」

 

 一応戦闘があった、というのは確認してあるから、言動と合わせて辻褄はあう。ただ魔術等に関する知識が圧倒的に足りない。ここら辺は調べたり、離しお聞く必要が増えてくるだろう。ただ今は、とりあえずサムズアップをギターケースを叩きながら銀髪の少女と当麻へと向ける。

 

「侍と忍者と超ちんぴらから教わった戦闘技術にレベル5のヒモとしての財力! 自前の気合と根性に狂気をトッピングした信綱くんアット・ユア・サービス!」

 

「チェンジで」

 

 迷う事無くそう言い切った少女の頬を両手で掴んで引っ張り、こねたりして遊ぶ。腕の長さは此方の方が圧倒的に長い上に、筋力も勿論此方の方が上。なので必死に抵抗しながら腕や此方の腕へと手を伸ばす少女の努力は全て無駄に終わっている。必死に振りほどこうとする姿を笑いながら眺めていると、当麻が横で溜息をするのを聞こえる。少女の頬を引っ張ったまま視線を当麻へと向けると、片手で阿多あの後ろを申し訳なさそうに掻く姿が見える。

 

「悪い……って言うのは間違ってるよな。頼りにしてるぜ」

 

「おう、俺は年上のお兄さんだからな。お金のこと以外だったらドンと頼って欲しいもんよ」

 

 ぺちん、という音を響かせながら少女の頬を解放すると、犬歯をむき出しにして少女が噛みついてくる。それを指先一つで笑いながら額を抑えて止めると、それに軽く力を込めてひっくり返す様に後ろへと倒す。ぐわぁ、と楽しそうに倒れる少女の姿に軽く笑い声を零してから、軽く横へと移動し、当麻と正面から向かい合う形で腕を組んで離し始める。

 

「しっかしめんどくせぇな。魔術ってもんが科学とはまた別方向で発達した技術ってなら対策難しいし、状況的にもう居場所は割れてるんじゃね?」

 

「いや、それはそうなんだけどさ……ぶっちゃけインデックスがあんな風だし、部屋に戻るわけにもいかないし、上条さんとしても割とこの状況で詰んでいると言いますか―――」

 

「じゃあなんで援軍を呼ばないんだよ……!」

 

 頭をぐりぐりと両手の拳で挟んで締め付けると、当麻の口から悲鳴が漏れる。ただ話を聞く分、割と今の状況は詰んでいても余裕があるのは解る。

 

「反省会は後で大いにするとして、とりあえず個人的な見解としてはシスターちゃん―――インデックスちゃんを即座に連れて行かないのは彼女の回復を待っているからだろう。ぶっちゃけ話に聞いた怪しさ満載の連中が学園都市に入り込めるような実力を持っているのに、この場所を割り出せないとは思えないし。だからたぶんだがインデックスちゃんを気遣ってる」

 

 それに当麻は頷く。

 

「それは思った。俺と戦った赤髪の奴も結局は強引な事をインデックスにする事はなかった。俺と戦っている間も絶対に傷つけないように意識を向けていたような気がする。だから……なんつーか、無理やり、というか襲撃する様な事はしない様な感じがする。悪意を感じなかったんだよな」

 

 また珍しい話だ。悪意のない襲撃者。となると相手側にも事情があるのだろうが―――それを調べるのはちょっと無理だろうと思う。それが学園都市内で始まった事であれば、操祈のIDをちょろまかせて、データベースを漁ったりする事だって出来る。だが外部からの侵入者となると、アンチスキルの領分だ。

 

 操祈に”心理掌握”で洗脳してしまえば一発かもしれないが、操祈を巻き込みたくないという気持ちはある―――魔術を使う存在に対して一帯どこまで超能力が有効か、という問題が実際に存在するのだ。だからそのまま、頼る事は出来ない。やっていることがまんま当麻と一緒だが、こっちはこっちでちゃんと後で操祈には報告するつもりはある。だからセーフと言い訳しておく。

 

「まぁ、多分相手方にもタイムリミットはあるんだろうが、インデックスちゃんが快癒するまでは手を出してこないだろう。確か三日ぐらいだっけ? っつーことはあと二日ぐらいは何もないだろ。それまでは準備と療養に時間を潰せるな」

 

「正直上条さん的に打って出る、とかそういうのは無理臭そうなんですけど……」

 

「まあの」

 

 そもそも未知の相手に立ち向かう、というのが自分にとっては恐ろしい。こう見えても、かなり勤勉な人間なのだ、自分は。まだ学生だった頃は真面目に片っ端から色々と覚えたし、カリキュラムも消化した。順調に演算能力は上がって行ったはずなのにそれは一切能力に反映されることはなかった。なんでも原因は演算がおかしい、とか法則が違う、だとか要領の得ない事だったが、それが原因でスキルアウトになったわけだが、

 

 基本はそのころと一切変わらない。己を知り、そして相手を知る。これが何よりも重要な事である。忍者もそう言っていた。相手を知った方が心置きなく斬れると侍も言っていた。ちんぴらだけはひゃっはーの精神を忘れずに、とか叫びながらクラブへ突貫していたのを思い出す。

 

 何時までも頭からしがみついて離れない自己主張の激しい先輩たちを頭の中限定で蹴り退けておく。

 

 ―――これが絶対悪っぽい連中だったら手段も容赦もなく殺しにいけるんだけどな。

 

 そういう相手じゃないなら、手段を選ぶ必要が出てくる。それが存外面倒にも繋がるのだが―――当麻の友人として存在し続けたいなら、それは守らなくてはならないルールであり、ラインなのだろう。ともあれ、余裕は数日だけ存在しているのだ。となるとやる事は決まっている。

 

「勉強だ」

 

「えっ」

 

「勉強をするのです当麻……!」

 

 笑顔でインデックスを指差しながらそう言うと、絶望の表情を浮かべながら当麻が呟く。

 

「補習が終わったと思ったらなんか勉強会が始まりそうな件」

 

 

                           ◆

 

 

 ―――状況は面倒ではあるが、やるべき事は見えている。即ちインデックスを守りきれればそれでいいだけの話だ。現状は篭城している状態だが、今存在する二人の敵を何とか凌ぎ終われば、この後に活路が開ける。具体的に言うと常盤台へインデックスを移す、という方法だ。レベル5が二人も存在しているあの場所であれば誰かを囲うには最高の場所のひとつになる。気づいていなくても、存在しているだけで防壁に利用できるのだ。

 

 ただ、その前にクリアすべき難題がいくつか存在する。そのひとつが相手の対処。倒せるのか、説得できるのか。この状況をどうにかするならば、まずはそこから話を始めないと意味がない。ゆえに必要なのは情報、相手が何であれ、何を目的とし、そしてなぜ実行するのか。それを知ることからはじめない限り、何もできないのは明白だった。ゆえに単純に勉強、

 

 インデックスとおいう魔術の知識のプロフェッショナルを講師に、魔術の勉強会が行われた。

 

 それは初めての知識のオンパレードだった。

 

 インデックスは完全記憶能力者であり、魔術を行使するための強力な道具である魔道書がその脳内に十万冊以上存在しているとか、そのインデックスの保護が相手の目的とか、魔術と超能力はまったく違うベクトルの現象であり超能力者が魔術を使用すると死ぬということがわかったり、新しく知ることはショッキングながら面白いことばかりだった。途中、当麻が眠そうな表情やいやそうな表情を浮かべるが、それでも最後までインデックスから逃げることなく話を聞き続けたのは間違いなく責任感からのことだろう。

 

 こうやって、簡易的ながら魔術、そして魔術結社に関する知識を覚えることができた。

 

 世界は思っていたよりも広かった。もしかして、絶望して腐るのも早すぎたのかもしれない。

 

 インデックスと出会い、魔術結社を知り、まだ世界が広いことを知った。やはり、あの時、成績が、能力の開発がまったくできなかったと腐ったのは早すぎた。できるならば、あのころに戻りたい。戻って自分に言いたい、世界はまだ広いのだと。まだまだ知らない世界が広がっているのだ、と。きっと、もっと探ればいろいろとあるに違いない。世界を両分するほどの組織が存在したのだ。きっと、それでなら自分が得意になれるものはあるかもしれない。能力者に魔術は使えなくても、

 

 調べて、知れば、それだけ選択肢は増えるのだから。

 

 魔術だって現時点では不可能といわれているが、それは”魔力”という物質を体内で生成するときに開発された脳の人間だとそれが拒絶反応を起こすかららしいではないか。つまり魔力を頼らない方法で魔術の制御に成功すれば、超能力とはまた別に魔術を使うこともできるのではないか、なんて希望も生まれてくる。インデックスはその言葉にあきれた表情を浮かべ、当麻はそれをうらやましそうに聞いていた。

 

 知っている、所詮理想で机上の空論だって。

 

 ―――自分程度が簡単に思いつけるようなことを学園都市がやっていないはずがない。

 

 きっとすでにそういうプランが存在しているに違いない。そして魔術のうわさも話も一切聞こえてこないということはつまり”そういう”事なのだろう。だけど、それでも、

 

 レベルを上げたい。その欲望は、希望はどんなに時が経っても消えたりはしない。

 

 今だってたまに昔のカリキュラムを思い出して、開発の真似事をしている。一度操祈に脳ハッキングさせて代理演算をさせることで一時的に能力のレベルをブーストできないか試した事だってある。結局はまったく意味のない実験結果だったが。

 

 時間の概念を操る能力に必要とされるのは普通の演算能力ではなく、通常とは異なった演算法則。

 

 それを理解し、身につけない限りはレベルは絶対に上昇しない。

 

 そのヒントが魔術に―――と、希望を抱いてしまうのは間違ったことなのだろうか?

 

 希望は恐ろしい。それが絶望への誘いになってしまうから。

 

 だけど希望無くしては生きられないのが人間なのは確かだ。

 

 絶望するかもしれない、というリスクを抱かないことに生きることは不可能なのが、また業なのかもしれない。

 

 だけど、だけどきっと、

 

 ”時間歪曲”のレベルが上昇し、物質に対する年単位レベルの時間逆行を行えるようになれば、

 

 当麻の脳がダメージを受ける前の状態へと戻して―――。

 

 

                           ◆

 

 

「それではお世話になりました小萌さん。明日も来ますので……」

 

「いえいえ、補修のお手伝いや料理をしてもらったりと非常に助かりました。事情は解りませんが、上条ちゃんの力になってくれる友人の存在はいいものだと思います。こちらからも上条ちゃんのことをどうかお願いします」

 

「先生! 恥ずかしいからマジでやめてください!」

 

 笑い声と響かせながら手を振り深夜、小萌のアパートから離れる。当麻とインデックスはそのまま、快癒するまでは小萌のアパートでお世話になる予定だが、自分はそうもいかない。あまり会う時間を空けすぎると操祈が心配して突貫してくるかもしれない。だからいったんクラブハウスのほうに進入して泊まろうと、と今夜のことは考えていた。それにこれから無茶をするかもしれないのだから、予めストックするような感じで安心感を与えておきたい。

 

 ショルダーバッグとギターケースを背負い、月明かりの下、わずかな光に道を照らされながら歩く。昼間はあんなにも暑苦しかった太陽はもうすでに姿を消し、夜の闇が日中は焦がしていた道路を冷やしていた。人通りのなくなった道路では夜風が吹き抜け、漸く体に涼しさを運び込んでいた。

 

 明日もまた適当に材料を持ち込んで作ってやるべきか、と考えながら常盤台への帰り道を歩く。

 

 この時間ではバスもタクシーも拾い難い、徒歩かなぁ、と思いつつ帰路を歩き続ける中、

 

 少しずつ人の気配が減り、

 

 そしてそれが完全に消え去るのを察知する。同時に脳が”未知”の干渉を察知するが、それを完全に弾き飛ばす。解析しようとして脳内に走る微量のノイズ、それを煩わしげに振り払いながら歩みを加速させる。

 

 歩きから小走りへと。

 

 何か良くない事が起きている。そう確信し、すばやく離脱すべきだと判断する。急激な人の減り方、未知の干渉、ここまで来るといったい何が起きているのかは大体予想がつく。これは危ない状況だと理解した直後、

 

 しかしその直後―――人の気配を感じる。

 

 歩みを止め、気配の方向へ振り返る。

 

 車も人も一切存在しない十字路の中央に、人の姿がある。ジーンズに無地のシャツと、服装はこちらと似ている女の姿だった。ただジーンズは片足がなく、シャツも左右非対称になるようにまくれていた。黒髪の長いポニーテールに長刀を握った女は閉じていた目を開き、そして口を開く。

 

「こんばんわ、神裂火織と申します」

 

 そう言った彼女に対してショルダーバッグとギターケースをおろしながら軽く会釈を返す。

 

「どーも神裂さん、信綱です」

 

「かの大剣豪と同じ真名ですか、良い名ですね」

 

 ―――それ一応偽名なんですけどね……!

 

 どうしよう、偽名を褒められてしまった。ここは素直に褒められたと思うべきか、それとも付けてくれた先輩のセンスを褒めるべきか、それとも目の前の女に現実を突きつけるべきか、割と悩む。しかし自己紹介のネタが通じなかったのは若干悲しい。やっぱり真面目系の人間かなぁ、と判断し、

 

 口を開く。

 

「で、神裂さん。ご用件は?」

 

「足枷は二人も要らない―――そういう事です」

 

 火織がそう発言した直後、道路が粉砕しながら衝撃が襲い掛かった。




 エロねーちゃんvsヒモ。不良神父の横槍がないとか一言も言わない。

 このころのねーちんと神父って賢いようで馬鹿で賢い連中だよなぁ。進めば進むほど頼りがいのある連中になっていくんだけどさ。

 新約11巻知らない人はカミジョーさんの頭がしいたけ見えないフィルターにでもかかってると思えばいいよ。なおカエル顔唯一の敗北宣言。

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