GOD EATER 防衛班 キャラクターエピソード+ 作:アマゾナイト
今回はかなり長めです。(いつもの二倍くらい……)
時系列としては他の話と同様、2のレイジバースト編に入る前です。
それでは、どうぞ
巨大な庭園を中心に、植物園や図書館跡地が立ち並ぶこのフィールドの名は、『黎明の亡都』。
傾斜した建物や地面がアラガミの被害の甚大さを物語り、吹きすさぶ風は過去の繁栄を忘れさせ、よりどころのない空虚さが立ち込める。
恐ろしいような静けさ。
その中で、時おり聞こえるアラガミの鳴き声に注意を払いながら、神機使い三人が歩みを進めていた。
「んー、座標はここらへんで合ってるよな?」
先頭を行く人物――大森タツミが呟く。
「ああ、そうだな」
「はい。間違いないです」
後方の警戒を怠ることなく、ブレンダンとカノンが答える。
彼らは元防衛班第二部隊である。
現在、カノンは遊撃部隊である第四部隊に所属し、タツミとブレンダンはサテライト拠点の建設地および建設予定地の警護を主要な任務としている。
しかし、今回の出撃は防衛任務ではなく、あるアラガミを探すことが目的だった。
対象は不可解な行動をとる神機兵三機。
不可解というのは、その三機が「定住」しているということだ。通常のアラガミは同じ場所に居続けることはない。彼らは自らの捕食本能に任せて獲物を求める放浪生活を送る。それは神機兵とて例外ではない。制御を離れた神機兵は、純粋なオラクル細胞の塊であり、野生のアラガミと何ら変わらないのだから。
しかし、今回の神機兵は不思議なことに、この廃墟を縄張りとする行動パターンを示していた。常に三機一体となり、「住処」に近づくアラガミを排除し、その場に留まる。さらには、自分と同じ種であるはずの暴走型神機兵が近づいた場合にも攻撃行動を取ったという。アラガミが同種の個体を襲うことはないため、この点でも不可解であった。
そして最近になって、これら神機兵の偏食場パルスが弱まってきたという。安全とは言い難い状況だが、この好機に現場を偵察する任務が発令された。
こうして、カノン、タツミ、ブレンダン、が『黎明の亡都』を訪れることになった。
黙々と索敵を続ける三人。
到着から数分。さしたる異常事態も発生せず、現場到着時の緊張も解けてきたころ、ブレンダンが言った。
「タツミ、このフィールドは広い。まだまだ探してない場所も多いし、散開して探す方が効率的じゃないか? 慎重に行くのが一番かもしれないが……」
一旦足を止め、タツミが振り返る。
「まあ、そうだよな。長い時間探すのも疲れるし」
「はい。私は早く帰りたいです」
「カノンは正直過ぎる」
タツミは苦笑交じりに言う。そして改めて気を引き締める。
「よし。じゃあ、散開するぞ。今回は偵察任務だ。撃破が目標ではない。単独での交戦はできるだけ避けるように。二人とも十分に気をつけること。じゃ、索敵開始」
「了解」
「わかりました」
散開する場合に備えて、それぞれどこに向かうかは、事前に決めている。
別々の方向に歩き始めてすぐ、タツミは考え始めた。
(しっかし、神機兵も謎だけど、サカキ博士も謎だよなあ。なんで空いてる偵察班に任せず、わざわざ俺たちに依頼したんだ……?)
(まあ、あの人のことだから何か考えがあってのことなんだろうけど……)
と、そこで、あまり離れてない岩場の影から、カノンの悲鳴が聞こえた。
「わあーー! 何ですかこれーー!」
タツミは全力で疾走する。
ブレンダンもすぐに合流し、銃を構えたまま尻餅をついているカノンに手を添える。
そして、全員で「それ」を見た。
「何だ……、これは……」
その光景にはただただ唖然とするしかなかった。
サテライト拠点の一つである『クレイドル・リネアリス』は、遊撃部隊・クレイドルが初めて開拓した拠点である。
アラガミに見つかりにくく、かつ土地も広い。正に理想の拠点として期待されたこの場所は、これまで多くの難民を受け入れてきた。
しかし、防壁が完成しただけでは、人々が安全に、恒久に暮らすには不十分である。
極東支部と同様、この拠点も自身で生産・消費活動が完結している「アーコロジー」に至る必要があり、生活必需品やオラクルリソースの自己生産技術の確立が急がれた。
アリサを始めとするクレイドルのメンバーや、極東支部技術班の協力もあり、計画は順調に進んだ。そして先日、この拠点で得られたタネから、新しい作物の収穫に成功し、遂に食料の自給が完成したのである。
食料以外の技術はまだまだ試行錯誤が続いているが、この土地で育った作物を収穫した喜びは、人々の胸に刻まれた。
そして誰かが言った「何か祝い事をしないか」と。
現在『クレイドル・リネアリス』で開催されている「収穫祭」はそういった経緯で成り立ったものである。
決して贅沢はできないけれども、限られた資源の中、工夫の凝らしたイベントが行われていた。
余った資材で組み立てられたステージでは、バンドやダンスなど様々なイベントが催され、通りにはクレイドル所有のテントを使った屋台が並び、広場では作業用に使われる荷車を改造した乗り物に子どもたちがはしゃいでいた。
「いや~、活気があっていいねえ~」
「ああ、ここを訪れたのは久々だが、なんだか前より明るくなった気がする」
「色んなお店があって、どれも楽しそうです!」
ミッションを終えた、タツミ、ブレンダン、カノンの三人が、屋台の続く大通りを歩いていた。
いつもは灰色のバラック小屋が並んでいるだけの街並みだが、家の軒先に色とりどりの提灯が飾られただけで、まるで別の街に来たように錯覚してしまう。
ここまで大規模なお祭りはこれまで経験がなく、さらに先ほどの任務の衝撃も抜けきっておらず、どうしても浮足立ってくる。
しばらくあてどなく歩いていると、見知った顔に出くわした。
「おう。なんだ、お前たちも来ていたのか」
声をかけてきたのは、青いシャツの上に角の生えたフード付きのパーカーを羽織り、赤髪を後ろで縛った男――小川シュンである。彼は防衛班の一員で、サテライト候補地の警護や探索を主な任務としている。
重そうな箱を両肩に載せた彼を見て、タツミは言う。
「おっす。……って、お前は何をやってるんだ?」
「見ての通り手伝いだよ。へっへー、何せ、この祭りは俺の企画だからな」
「おおー、すげえじゃないか! 仕掛人はてっきりアリサあたりだと思ってたぜ」
事実、「祭りでもしよーぜ!」と言い出したのはシュンであった。彼はこの拠点の人々と個人的にも親交が深く、子どもたちにも慕われる「兄貴」的な存在である。
しかし、実質的に運営を指揮しているのは、シュンに不安を覚えて手伝いに来たアリサであり、初めは運営にも乗り気だったシュンは、現在はアリサに言いくるめられて、こうして力仕事を任されている。
ふと斜め上を見上げたシュンが言う。
「ん? そういえば今日はお前ら仕事じゃなかったか? もしかして~、サボったのか?」
お調子者のシュンらしい発言に、ブレンダンがあくまで真面目に答える。
「不当に休んでいるわけではない。想定より早く任務が終わったからな。たまたま現場に近かったこの拠点に寄っただけだ」
「へえ、楽なミッションだったみたいで羨ましいぜ」
タツミは少し難しい顔になる。
「そうでもないぞ。……忙しくなりそうなのはこれからだ。……まあ、任務の話は後でしよう」
「そうだな。せっかくの祭りだから、お前らも楽しんでいけよ。じゃあ、俺は俺の仕事があるから行ってくるぜ」
シュンは当初の目的地に歩き出そうとしたが、何かを思い出したようで、すぐ立ち止まる。
「ああ、そういえば、夜にすっげえもん見せてやるから、最後までちゃんといろよ!」
タツミとブレンダンは「すっげえもの」は何だろうと、……無鉄砲気味なシュンを思うと少なからず不安を覚えながら、その背中を見送った。
カノンは「頑張ってくださーい」と手を振り、二人に向き直る。
「皆さん、今日は予定ないですよね? 折角ですし、夜までここで遊びませんか?」
ブレンダンが腕を組んで少し笑う。
「うむ。トレーニングは明日倍やることにする。今日は暇だぞ」
続いてタツミが言う。
「よし。……んじゃあ、適当な屋台にでも入るか。どこか目ぼしい所は見つけたか?」
するとその言葉を待っていたかのように、カノンは両手をグーにして胸の前に構える。
「あっ、あのですね、先ほど面白そうなお店を発見しまして、……是非そこに行ってみたいなあと?」
「見てください。『輪投げ』です!」
カノンに連れられて来た所は、台に立てられた幾つかの棒に輪を投げ入れ、上手くいくと景品が貰えるという店であった。
灰色の作業服を着た、愛嬌の良さそうな初老の店主が客に気付く。
「いらっしゃい。おおっと、これは神機使いの皆さん。どうだい? やってくかい?」
「はい! 是非!」
カノンは投げ輪を受け取り、ルールを聞いている。
奥には幾つか景品が並んでいた。
そのうちの一つにハートや星などの、金属を加工した「型」があり、タツミは(ああ、菓子作りに使うのかな……)などと考えていた。
しかし、彼はもう少し部下を見守っているべきだった。
正確には「部下を」ではなく、「部下が巻き起こすものを」だが。
「それじゃ、行きますよ~、えいっ!」
カノンは腕を脇に構え、弧を描くように振るう。
遠心力を加えて投げ出された輪は、勢い良く飛んで行った。
そう。勢い良く、あらぬ方向に。
「グフッッ」
なんと、カノンが投げた輪は、店主のお腹に直撃した。
ここで『誤射姫』炸裂である。
「うわわ! ごめんなさーい!」
「お……、お嬢さん……、もっと力を抜いてやると……いいですよ」
店主はお腹を抱えて身体をくの字に曲げてしまう。
タツミとブレンダンは、いつも誤射を受けている自分達と重なって、憐れみと同情の表情をしていた……。
カノンに輪投げは危険だと判断し、残りはブレンダンが投げることとなった。
彼も力み過ぎて失敗したが、あれ以上被害者を増やすよりは、ましな結果である。
残念そうに俯いたカノンが言う。
「もっと、投げたかったです……」
ブレンダンは(暴走しなくて良かった……)と胸をなで下ろしながら、自分も外してしまったことを思い出す。
「だな。あれでなかなか難しかった」
そんな会話をしながら、またあてどなく歩いていると、タツミが腹を抑えながら言う。
「そろそろ腹減ってきたなあ。俺さっき、すっげえ美味そうな屋台見かけてさ。今からそこ行かないか?」
タツミに案内されて目的の場所に近づくと、脳天をつくような香ばしい香りが漂ってきた。
極東支部のラウンジでも、食欲が増すような香りが立ち込めることはよくあるが、ここまで分かりやすく「早く食べたい」と思わせたものはない。
既にその屋台には行列が出来ており、人気の程が伺える。
「さっき、ここを遠目に見て、気になってたんだよ~。俺は『焼きトウモロコシ』とか食いたいな。ジャイアントトウモロコシは配給で食べ飽きてるけど、どんな味がするかね」
メニューが書かれた看板を見ながらタツミが言う。
他にも焼きそばやお好み焼きなど売っており、列に並んだ三人はどれにしようか悩んでいた。
すると、店の奥でファイルをめくっていた人物が顔を上げる。
目が合い、そして言う。
「ん? なんだ、お前らか」
癖のある白髪を片目が隠れるほど伸ばし、ネクタイを背中で結んだ、特徴的な格好をした男は、防衛班の一員――カレルである。
タツミが手を上げる。
「おっす! カレルもいたのか。ひょっとしてお前もシュンと一緒に手伝っているのか?」
「ハ。そんな金にならないことするかよ。俺は今、ここら一帯のマネジメントをしているだけだ」
ブレンダンが半ば呆れつつ、質問する。
「また金目当てか。しかし、そんなに稼げるものなのか?」
「まあ確かに、『今は』稼ぎは少ない。クレイドル連中が絡むと何でも慈善事業になっちまう」
少し思案しながら、カレルは続ける
。
「あまりビジネスのネタを人に話したくはないんだが。……まあ、拠点に駐在することもあるお前らには、いずれ知られることか……。
拠点が長く続けば、いずれ経済が発展する。今は配給に頼った生活が殆どだが、ここがアーコロジーとして完成し、物が溢れれば、いずれ自由に売り買いができる社会が生まれる。そこが金の稼ぎ時だ。
ビジネスはな、需要が生まれてから動き始めるのじゃ遅い。事前にニーズを察知し、誰よりも早く信頼を勝ち取るのが重要だ。つまり、俺が今やってるのは地盤固めだ。こうやって顔を売って、いつかこの拠点で民間企業でも立ち上がったら、必ず俺を頼ってもらう」
「うまっ!!」
聞いてない三人。
カレルが話しているうちに列が回って、彼らは既に焼きとうもろこしを食べ始めていた。
甘味があり、ほどよい醤油が香ばしい。確かな満足感で溢れるのに、なぜか食べれば食べるほど空腹感が増す。
既にほとんど食べ尽くしたカノンが言う。
「このジャイアントトウモロコシ、配給と同じ物ですよね? どうしてこんなに美味しくなるのですか!?」
カレルは自分の話を半無視され、普段から悪い目つきをより一層鋭くさせる。
「…………ムツミに教わった通りに焼いただけだ。まあ、気になるなら彼女に訊くといい」
そして、椅子に座って再びファイルを捲り始める。
「用がないならとっとと帰りな。他の客の邪魔だ」
そう言うものの、またもや彼の言葉を聞かずに、三人は話し始める。
「美味しかったのでもう一度並んでもいいですか?」
「いいぜ。俺ももっと食いたくなってきた」
「次は特製焼きそばを頼もう」
カレルは眉間に皺を寄せながらも、小さく呟いた。
「…………まいど」
何度も並んでは、その度にカレルに苦い顔をされ、さらに他の店も渡り歩き、ゴッドイーターとしての大食漢ぶりを遺憾なく発揮した三人は、流れるままにイベント広場へと辿り着いた。
すっかり満腹になり、休める場所を探して人で混み合う広場を歩いていると、また見知った顔と出会った。
「あら」
眼帯を付けて妖艶に微笑んでいる人物は、ジーナであった。
「シュンに貴方達が来ていることは聞いていたわ。フフ……楽しんでいるようで何より」
紫を基調としたトップスは胸を隠す程度しかなく、へそが丸見えである。そんなジーナの奇抜な格好に、道行く人々はチラチラと視線を送っていた。
しかし、防衛班にとっては見慣れたものであり、ブレンダンがいつも通り返事をする。
「やっぱりジーナも来ていたのか。なんとなく防衛班全員いるのではないかと、さっき話してたところだった」
ジーナは肩を竦める。
「私は午前中からいたわよ。混む前に帰ろうと思ってたのだけど、シュンが心配でね……」
シュンと会った時のことを思い出しながら、タツミが腕を組む。
「あー、そういえば、夜に凄いの見せてやるって言われたなあ。一体何やるつもりなんだ?」
それを聞いて、ジーナはキョトンする。
「あら、知らないの? シュンったら、花火を打ち上げるみたいよ」
祭りで賑わう居住区とは離れた場所に、かつてアラガミを逃れた人々が隠れ住んでいた廃墟がある。
その中の一つに、元は教会と思しき建物がある。風化の度合いが強く、石作りの壁を覆うようにツタが無秩序に繁茂し、建物が植物と同化しつつあるように見える。
かつて礼拝堂として使われたであろう一室は、瓦礫や打ち捨てられた椅子で荒れ果て、天井の一部は崩れ落ち、夕焼けに染まる赤い空を覗かせていた。
その崩れた天井の真下で、シュンと二人の少年が準備をしていた。
「シュン兄さん、気をつけて!」
「大丈夫、大丈夫。神機使いの腕力なめるなよ」
「わあ、すごーい!」
シュンは直径30cmもある花火玉を、打ち上げ用の筒に入れていた。しかし、二玉は無事入ったが、一玉だけサイズが合わず、奥に入らない。
「ん? ま、いっか」
とりあえず押しめるだけ押し込み、次の工程に取り掛かる。
そんなシュンの危なっかしい作業を、タツミ、ブレンダン、カノン、ジーナの四人は柱の一つに身を潜ませながら見守っていた。
柱に張り付きながらタツミがため息をつく。
「うわあ、あんなので打ち上がるのかよ?」
ジーナは額に手を添えて考える仕草をする。
「花火と道具は別の廃墟で見つかったものらしいけど……。湿気っている可能性もあるし、そもそもあの入れ方じゃ、打ち上がらないわね」
タツミの下でしゃがみながら覗いているブレンダンは顔を青くしていた。
「なあ。俺は花火を見たことがないが、色付きの爆弾のようなものなのだろ……。それをあんなに乱暴に扱って、暴発しないのか? 今すぐ止めるべきではないのか?」
「う~ん。それだと、シュンさん、ちょっと可哀想ですね」
カノンの意外な発言に、タツミが振り返る。
「ん? それはどういうことだ?」
「シュンさん、ここのサテライトの人達と仲良くなってから、少し優しくなった気がしません? 前はもっと刺々しかったのですけど……、何というか、最近は任務もやりやすいというか……」
カノンは言葉に迷いつつも、続ける。
「……ええと、サテライトの防衛任務って、すっごくやりがいありますよね。拠点の人たちに感謝されると、私たちが守っているんだって強く思えて。そしたら、私の場合『もっと役に立ちたい。誤射を少なくしたい』と考えるようになりまして――」
あろうことか、守るべきサテライトの人に誤射したばかりだが、タツミとブレンダンは何も言わないでおく。
「――これは私の想像なのですけれども、シュンさんにとってのそういう思いは、……何というか、いつも力を貰ってるサテライトの皆さんに『かっこいいところ見せたい』なのかなって。……だから、サプライズで花火を打ち上げようとしているのに、私達が『それじゃ打ち上がらないよ』なんて言ったら、子どもたちに見せようとしているシュンさん像を崩してしまうのではないかと……」
カノンにしては鋭い指摘に、ジーナが腕を組みながら薄く微笑む。
「そうね。シュンは目立つことが好きなのに、極東で起こる事件に関しては、いつも蚊帳の外。あの子はいつだって自分を認めてくれる居場所が欲しかった。それがここだったということかしらね……。すると、この祭りも花火も、彼なりの感謝の現れとういことかしら」
失敗したなら、かっこいいも何もないけど。そう付け加えながら、子どもたちと楽しそうに作業を進めるシュンを見つめる。
タツミも見つめながら、顔を綻ばせる。
「じゃあ、あまり俺たちがでしゃばるのはよくないか。それにあいつ、俺たちに見つかったら、照れて止めてしまいそうだからな」
手を引こうとする雰囲気になってしまい、慌ててブレンダンが反対する。
「いやいや、それでもあのままじゃあ、まずいだろ。下手したら怪我人が出る」
ブレンダンを落ち着かせるように、ゆったりとした口調でジーナが言う。
「気づかれないように、後でこっそり直しておきましょう」
「できるのか?」
「フフ……、実はバレットで花火を作ろうとしたことがあるのよ。その時にインスピレーションを広げるため、昔の花火を結構調べててね。ある程度は分かるわ。まあ、本物に触れるのは初めてだから、極東にいる技術班と連絡を取りつつやってみるわ」
それを聞いたタツミは(初めからそのつもりだったのか……)と心の中で呟いた。
三時間後。
祭りの閉会式が行われたのは、イベント広場である。
「イッッッエーーイ! 今回の祭り、楽しんでくれたかーー?!!」
会場にいる大勢の人から歓声が上がる。
それを聞いて壇上に立つシュンは満足げに頷く。
「俺も楽しかったぜ! メシ、超うまかった! 極東支部でもあんなの喰ったことないぜ!」
式の司会はアリサが担当していたが、最後にシュンがどうしてもやりたいことがあると乱入し、今こうして壇上に立っている。
広場の隅には、無事花火の改修を終えた四人と、祭りが終わり、さっさと帰ろうとしたところを無理矢理連れてこられたカレルがいた。
スピーカーの大音量に不快そうに眉をひそめながら、カレルが訊く。
「で、どうなんだ。花火は打ちあがるのか?」
隣にいるジーナが答える。
「恐らく。花火玉の内側が問題なければだけど」
タツミが手を頭の後ろで組ませる。
「まあ着火は遠隔操作だったし、ここから距離も離れているから取り敢えず安全だな。流石のシュンでも、万が一は考えてたわけだ」
「ふーん。なるほどな」
自分で質問したことなのに、さして興味がなさそうにカレルは返事をする。
すると、ステージではシュンの演説が終わろうとしていた。
「おっし、それじゃあ、ここからは俺のサプライズだ! 祭りの最後の締めだから、みんなで声出していくぞー!」
シュンが手を上げ、指を三本立てる。
「スリー、ツー、ワン――」
シュンの掛け声に、大勢の声が合わせる。
「――ゼロッ!」
シュンが合図すると同時に振り返る。
その先には、いつのまにか飛び出た火の玉が、蛇のようにくねらせながら夜空を進んでいた。
しばらく順調に進んでいるように見えたその光は、速度が落ちるとともに、光も弱まり、やがて消えてしまう。
(失敗したか……)防衛班全員がそう思った次の瞬間、暗闇を裂く多数の星が花開いた。
夜空の全てを飲み込むこまんばかりの菊型の光に見惚れていると、凄まじい轟音が遅れてやってきた。
ドンッ
まるで心臓を直に揺らされたかのような衝撃に、身体がこわばる。
「おお……」
タツミとブレンダンがつい声を漏らす。
先ほどまで気怠そうにしていたカレルまでもが、目を大きくする。
「凄いな……」
残った光がパラパラと消えかけたころ、続いて2発目、3発目が打ち上がった。
単色だった一発目とは異なり、今度は花の芯にもう一つの色が混ざる「芯菊」であった。
紫の花の中に咲く橙の小さな花。
その美しさに、うっとりと目を潤ませながらジーナが呟く。
「……綺麗」
輝きは一瞬。すぐに2つの花火も消えてしまった。
しかし、その一瞬で与えられた感動は図り知れず、会場にいた者は何もできずにいた。
初めて見る花火に震える子どももいたが、しばらくすると、その場にいた殆どの人々が拍手と歓声を上げていた。
カノンも「凄かったです!」と言いながら飛び跳ねている。
カレルが目を閉じる。口元には笑みを浮かべていた。
「フ……、あいつにしては頑張った方じゃないか」
「ん? 何か言ったか?」
周囲の歓声に紛れて聞こえなかった言葉を、タツミは聞き返す。
「なんでもない」
タツミは素っ気なく返されてしまったが、カレルが何を呟いたのか、なんとなく分かる気がしていた。きっと、自分が今考えていることと、同じことを思ったはずだから。
(まあ、皆に助けてもらうようじゃ、まだまだだよなぁ……。それでも――)
「――楽しかったな」
タツミはそう呟いた。
それは会場に集まったすべての人々と同じ思いだった。
お疲れ様でした。
今回はシュンをメインにした話でしたが、久し振りなので防衛班全員を出そうとしたら、こんなに長くなってしまいました。制作期間的にも。すみません……
感想、評価お待ちしています。