彼女はラケルを愛しすぎている   作:ジョセフィーヌ

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神薙でも、加賀美でも、空木でも、とりあえずラケル先生がチラッと出てきたらなんでもいいです。サブリミナルな感じでも可。


2話

 フライアのロビーに備え付けられたソファーに座り、私は天井を仰ぎ見た。

 発行されたミッションの時間までの間、暇で暇でよくこうぼんやりとすることがある。もう少し有効的に時間を使ってはどうなのかと、そんなお小言と視線をオペレーターに向けられるが、そんなの知ったこっちゃない。この時間も私にとっては大切な時間なのだ。

 静かなロビーで、ラケル先生との逢瀬を思い出す。これをミッション前にするとやる気が上がるんだ。寝る前だったら、眠れなくなるんだけど。

 かけられた言葉や頭を撫でられた感触。思い出すだけで、全身に熱が行き渡る。

 私、このミッションが終わったらラケル先生になでなでしてもらうんだ……。終わることのない回想に身を委ね、私の心はさらなる幸福へと――

 

「あれ、アリシアじゃん?」

 

 終わる回想、冷める熱。思わず、ため息を吐きたくなった。頭も抱えたくなった。

 それら全てに耐えて、私は視線を聞こえてきた邪魔な声の方へと向ける。ラケル先生と同じようで質は全く違う金色の髪、顔に何も考えていなさそうな笑顔を浮かべ、その背は本当に同い年の男なのかと思うほどに低い。

 

「なんだ、ロミーか」

「うっ、俺の名前はロミオだって。ロ・ミ・オ!!」

「うるさい。ロミオ・レオーニ」

「ぐっ……」

 

 飛びっきりの冷たい視線に、ロミオは声を詰まらせた。だが、それでも諦めないめげない、それがロミオである。

 

「なんだよ。折角、話しかけてやったのにさ」

 

 ぶつぶつと文句を言いながらも、ロミオは私の隣へと腰を下ろした。グッバイ、静かなロビー。呆気なく消えた夢の空間に世の無常さを感じた。

 

「で、何の用? この後、ミッションあるんだけど」

「いつから?」

「1400」

「後、一時間以上あるじゃんか」

 

 なぜか、呆れた顔で見られてしまった。解せぬ。

 5分前集合が当たり前なら、5分以上前集合も別にいいと思う。まぁ、普段だったら任務の30分前になるまでラケル先生のとこにいるんだけどね。今日も今日とて、私たちの間には邪魔が入った。あの害虫、本当にどうしてくれようか。

 

「いやさ、この前シプレ見せた時に興味持ってたじゃん?」

「あぁ、その話」

「で、シプレの魅力を語りに来た」

「お帰り下さい」

「いやいや、少しぐらいは聞いてくれよ」

 

 親切の押し売りは扱いに困る。無下にしたら余計に面倒で、受け入れても面倒だ。こんな時は、ふんふんと適度に相槌を打つに限る。

 

 

「とりあえず、端末の方にシプレの情報送っておくから」

「ふんふん」

「いやぁ、身近にシプレファンがいるっていいね! ジュリウスもさぁ、もっとこういうのに興味持てばいいのにな」

「ふんふん」

「…………」

 

 非常に長い語りだった。正直よく耐えれたと思う。

 

「…………なぁ、アリシア」

「ふんふん」

「……ちゃんと話聞いてたか?」

「ふんふん」

「……聞いてないな」

「失礼な。ちゃんと相槌は打ってただろ?」

「それ、相槌だけだろ」

 

 ロミオにしては細かい指摘だった。相槌で誤魔化せると思ったのだが……はて? 何がいけなかったのやら。

 

「ちなみに、シプレのどこがいいと思った?」

「んー、顔かな。とりあえず顔さえあれば体はいらない」

「…………そんなシプレは絶対に嫌だ」

 

 どうも残念なことに、私たちのシプレに対する意見は真っ向から対立してしまったようだ。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 プロペラの音と振動が響くヘリの中、

 

「……やっぱり、顔だけじゃ物足りないかな」

 

 ロミオから送られたシプレの写真。その顔だけを切り取って、これじゃない何か違うと首を傾げる。顔のパーツは同じなのに、やはり実物でないと物足りない。それにしても、衣装や髪型や表情を変えるだけでここまで変わるとは。

 シプレとラケル先生の顔が同じなのは元々レア博士から聞いてはいた。けれど、そのシプレを実際に見るのはロミオから先日見せられたのがはじめてだった。照明の中、両脇には神機兵を侍らした歌って踊るアイドル。歌声もラケル先生の声を再現してるらしい。なに、その無駄な技術。

 フライアの無駄な技術力の高さを改めて実感しつつ、端末を操作し違う写真に変える。画面がシプレからラケル先生へと変わる。食事風景、ディスプレイに向かう姿、フライアの庭園、様々な場所やシュチュエーションの写真が次々と現れる。

 一枚の写真で私の指が止まった。顔やその瞳を見てもわかるほどの愛情に満ちた表情、そしてそれに隠されている確かな執着。滅多に見れることがない表情だ。愛情だけならよく向けてくれる。だが、執着となると話は別だ。彼女が執着を向けるのは、たった一人しかいない。

 きっと、私にその執着が向けられることはないのだろう。きっと、ラケル先生の求めに応じることができるのは彼だけなのだろう。私ではラケル先生を満足させることはできない。

 

 

『アリシアさん。そろそろ目的地に到着します』

 

 無線が入る。耳につけたイヤホンからオペレーターのフランの声が聞こえる。端末に映るラケル先生の顔に視線を落としていた私は、窓の外へと視線を向けた。

 

『アリシアさん?』

 

 私では満足できない。自覚してしまうと、自分自身の無力さが嫌になる。なぜ私は不完全なのだろう。あぁ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 自分の無力さをひたすらに憎む。苛立ちにまかせて、声が聞こえ続けていたイヤホンを外した。そのまま神機を収めたケースを引っ掴み、ヘリのドアを無理矢理開けた。

 

「いってきまーす」

 

 操縦席からパイロットが何かこちらに向かって言っている。とりあえず「いってらっしゃい」じゃないのはわかった。

 私は空へと身を投げ出した。風に吹かれ髪が好き勝手に動く。空中でケースが外れて飛び出した神機の柄をしっかり握り締める。手からじんわりと熱が昇ってきた。神機と自分が繋がる。私の苛立ちも伝わってしまったのか、低い唸りが聞こえてきた。

 落下しながら、私は下を見つめる。アラガミの数が数体。両手で数えることができるほどの数だ。アラガミの掃討。それが今回のミッション内容だ。

 海越え山は……越えられないか、そんな感じで山などの障害物を避けながらフライアは進んでいる。当然その進行ルートにアラガミの群れもある。山は動くことはないが、アラガミは残念ながら動くものだ。それを一々避けていたら、キリもないしそんなことのために使う余分な燃料もない。と、いうわけで私たちゴッドイーターの出番だ。

 

 徐々に地面との距離が近くなる。ちょうどいいことに着地地点にコンゴウが一体いた。そのまま近づく背中に向かって神機を振り下ろす。落下のスピードが衝撃にかわり、その背中は呆気なく壊れる。

 空からの突然の襲撃に、周りのアラガミたちが一斉に騒ぎ出す。

 

「……煩いな」

 

 赤黒い体液を浴びて、鈍い輝きを見せる神機。それを肩に担ぎ、私は煩わしそうに顔を顰めた。壊れて潰れてしまった背中から地面へと降りる。これだけアラガミが集まっているなら、十分な素材も取れそうだ。

 ラケル先生の研究材料になれるのなら、アラガミも幸せだろう。実に羨ましい。

 

「いいなぁ、本当に」

 

 無尽蔵に湧くアラガミたちに、若干の羨ましさを感じながら、私はその群れに飛び込んでいった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 ミッションを無事に終えた私の帰りを迎えてくれたのは、傍目なら見てもご機嫌ななめなフランだった。

 フラン……フランチェ……うんちゃらかんちゃら。妙に長い名前を持つ彼女は、ふらふらと歩いてきた私を凄い目付きで見る。

 

「そんなに見つめられると照れるんだけど」

 

 軽く冗談を言ってみた。

 結果、凄く冷たい視線が返ってきた。

 おそらく私が根暗コミュ症クソ眼鏡男(クジョウ博士)を見るときと同じ目つきだ。つまり、虫ケラを見るような目ってこと。

 

「まず、理由を述べてください」

「イヤホンを付けてなかった理由? それとも、途中でヘリから飛び降りた理由?」

「前者の方です」

「ただのうっかり。誰にでもミスはある」

「その言い訳は聞き飽きました」

 

 静かな怒りがひしひしと伝わってくる。ラケル先生も怒ったら、こんな感じだ。特に声も荒げず、静かな怒りを向けてくる。

 ただ少し違うのは、フランは突けばそれで静けさは消え失せる。何を頑張っているのやら、彼女はいつも冷静さを仮面として被っていた。

 

「反省はしているよ」

「その言葉も聞き飽きました。どうせ『次からはもうしない』と続ける気でしょう?」

 

 図星だ。私は開けたばかりの口を閉じる。苛々してつい、だとか正直に言ってしまおうかと一瞬考えた。

 

「……邪魔ですか」

「邪魔? 何が?」

 

 何のことだと首を傾げる。確かに、根暗コミュ症クソ眼鏡男(クジョウ博士)は邪魔だけれど。それを突然フランから言われる理由がわからない。もしかして、オペレーターから見てもあの害虫眼鏡(クジョウ博士)は邪魔な存在なのだろうか。

 ほんと、どうしようもないな。あいつ。

 

「………………別に、何でもありません。忘れてください」

 

 気を取り直すかのようにフランは、一つ咳をする。そして、何事もなく事務作業に戻る。

 

「以後このようなことがないように気をつけてください。それと、オペレーターが何のためにあるのかもよく考えてくださいね」

「あぁ、いつも助かってるよ」

 

 キーボードを叩くフランの指が止まった。顔が上がり、私たちは向かい合う。言葉で表せない妙な表情をフランは浮かべている。言いたいことは遠慮なく言う彼女にしては珍しく、なぜか言うのを躊躇っているようだ。

 しばらくして、フランはため息を吐く。もういいです、と表情が語っていた。ちなみに何がいいのかも皆目見当つかない。

 

「そういえば、伝言を預かっています」

 

 視線はモニターに向いたまま、手はキーボードを叩いたままで、フランは澄まし顔のままで言葉を続けた。

 

「ミッション終了後、研究室まで。ラケル博士からです」

「なぜ、それを先に言ってくれないんだ!?」

 

 最も優先すべき情報が今知らされたことに、思わず声が大きくなる。バンッと勢いよく両手をつき、お澄ましフランを非難がましく睨んだ。

 こんな仕返しを時折してくるのが、フランの特徴だ。主にラケル先生関連なのが流石オペレーター、ゴッドイーターのことわかってる……なんて賞賛の言葉をかけるべきなのか。否、断じて否だ。否である。否でしかない。

 

「くっ、ミッション終了から何分たった……!? 一時間、いや、まだ……」

「残念ながら、そろそろ一時間半になります」

「い、一時間半!? 一時間半もラケル先生を待たせてしまってるのか!?」

 

 残酷な現実が突きつけられる。一時間半も、90分もの間、ラケル先生が私を私だけを研究室で一人待っているのだ。

 

「すぐに行かないと!!」

 

 階段を使うのすらも面倒で、私は手すりを飛び越えてそのまま下へと降りる。背後からフランの声が聞こえていたが、そんなの聞いている暇はない。

 待っていて下さい、ラケル先生。あなたのモルモットがすぐ馳せ参じます!!

 

 

 実は伝言には二つ目があり、それが『クジョウ博士との話が長引いたので、ミッション終了から二時間後ぐらいに来てください』との内容だったのだが、そんな話は聞いていないというか聞こえなかった私。そのまま意気揚々と研究室に向い、害虫眼鏡(クジョウ博士)と鉢合わせして思わず勢いに任せて噛み殺しそうになったのは、また別のお話。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 ○月△日

 ラケル先生に会えると思って研究室に行ったのに、害虫眼鏡がいて思わず噛み殺しそうになった。害虫眼鏡死すべし。

 

 でも、そのあとラケル先生になでなでしてもらった。

 今日のノルマ達成。今日も幸せ。

 

 明日はブラッドのメンバーが新しく増えるらしい。興味はないけど、適合試験をラケル先生とジュリウスと一緒に見ることになった。ラケル先生の邪魔にならないのなら、別になんでもいいや。

 

 

 




ラケル→存在意義
ジュリウス→越えられない壁
クジョウ→害虫

たぶん、これだけ知ってれば問題なく読める、はず。
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