シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
リックとレイジが偵察に出かけて約三十分
アラタにからかわれたアルティナはプンプンしながら街を歩いていた
「全くアラタったら…。すぐ私の事からかうんだから…」
思えば彼が銀の森に来た頃からちょくちょくからかわれている気がする
そして少なからず、内心どこかに嫌いじゃない自分もいる事にアルティナは気づいていなかった
そんな風に宛もなく歩いていると
「あら、アルティナ?」
買い物袋を携えた現在お留守番中のアミルと遭遇した
「アミル…」
「どうしたの? お散歩?」
「ま、まぁそんなとこかな…、あはは…」
苦笑いで多少誤魔化す
そんなアルティナにアミルは?マークを浮かべていた
「アミルは? パッと見ると買い物みたいだけど…」
「あ。私はちょっとお夕飯の買い出しと、パンの材料を頼まれて」
そう言ってアミルは袋の中から食材と小麦粉を取り出して見せた
「アミルって、パン作ってるの?」
「今はやってないけど、アルゴ砦に来る前ね」
アミルは苦笑いしながらそう呟いた
その表情が一瞬曇ったのをアルティナは見逃さなかった
おそらくここに来る前には、よほど辛いことがあったのだろう
そんな事を察したアルティナはこれ以上の追求を止めて、話題を変えようと話を振る
「ねぇ、私もついていっていいかな。お買い物」
「え? えぇ、大丈夫だけど…」
「その…私、まだ街に慣れてなくて。普段アラタと一緒にいるから、迷わないんだけど…」
「…ふふ、今日はアラタがいないから迷っちゃったってワケね」
「や、ちっ、違うわよ! いないっていうか…」
顔を赤くしながら両手を慌ててブンブン振るアルティナだが、もう手遅れである
「ふふ、はいはい。そういう事にしてあげる」
真っ赤なアルティナに笑むアミル
そんな二人は、砦の街を練り歩いていく
エルフのアルティナと人間のアラタ
(この二人…、結構お似合いかも…)
笑顔を浮かべながらそんな事を思っていた
◇◇◇
「よいしょっ…」
アラタは現在アルゴ砦でのパン屋さんにてお手伝い中だ
「あら…、アラタくん上手ね!」
アラタはパンの生地をまな板に叩いたりしながら錬ったり伸ばしたりを繰り返していた
「いえいえ。ジュリアさんほどじゃありませんよー」
言いながらビッタンビッタンまな板に生地を叩きつける
…意外と楽しいなパン生地作り
「私、こっちの台所で中に入れるジャムとかいろいろ作るから、生地は任せていいかしら」
「あ、はい。おまかせくださーい」
ジュリアさんが別室に行き、取り残されたアラタ
特に話題もないのでただひたすらビッタンビッタン叩きつける
ちなみに叩きつけてる場所は普段パンを売り買いしている場なので、案外人の目についている
というか晒し者同然だ
「…、」
ビッタンビッタン
ただ黙々と叩きつける作業を続ける
「…なんか…、むなしい」
ただビッタンビッタン続ける作業が少し苦痛になってきた
「あ、あの…」
「アラタじゃない。バイトでもしているの?」
一人寂しくこねていると声をかけられた
声の方を向くとエルミナがいた
その腕にはリンリンが抱えられている
「珍しい組み合わせだな。エルミナとリンリンか」
「彼女は男性が苦手らしくって。仕方なく、私も同行してるというワケ」
「男性が苦手って…。ワタクシ男性ですヨ?」
ガチで怯えられたらどうしよう
流石にそれは少し凹む
「あ、アラタさんや、レイジさんは、なんとか大丈夫なんです…。その、優しい方たちなので…」
そう思われているとちょっとだけ嬉しい
優越感というヤツかはわからないが…
コホン、とアラタは息を整えてエルミナに向き直る
「で。パンをご所望かな? 今ジュリアさんはパンの中の具やらいろいろ作ってて手が離せない。用件なら俺が聞くよ」
「パン屋さんなのよ。パンを買う以外ないじゃない」
リンリンが代弁し、エルミナが頷く
「そりゃそうや。どんなパンがお望みだ?」
「あ、甘いパンが食べたいです…」
「私は…、そうね。肉まんとかないかしら」
アラタは頷きながら指定されたパンをカゴに入れる
あんパンと肉まん
「あんパンのあんはこしあん? つぶあん?」
「こ、こしあん…?」
「あれ? えっと…、こしあんは…なんだろ。わかりやすく言うと、つぶつぶしたのがないのがこしあんで、つぶつぶしたのがつぶあん…」
言っておきながら少し考える
…こんな説明で大丈夫か
「は、はい! こしあんをお願いします!」
伝わったみたいで何よりだ
「はい。あんパンと肉まん。二つで200Gいただきまーす」
「はい。お代は確かに」
エルミナから200G受け取ってカゴを渡す
「ありがとうございます」
カゴを受け取り笑顔を見せるエルミナ
リンリンは肉まんをエルミナにせいせいっとせがんでネコパンチを披露している
…ちょっと可愛い
「痛いですよリンリンさんっ。今差し上げますから」
カゴから肉まんを取り出してリンリンに渡す
リンリンはその体を生かして前足二本で肉まんを支えてカプッ、と食べた
「あら。なかなかおいしいわね」
もふもふ、と口を動かすリンリン
「ジュリアさんの作るパンは本当に美味いんだ。これからもごひいきに」
笑み混じりでエルミナとリンリンに言う
エルミナは笑顔で返してくれたが、リンリンはネコだからか、表情がうかがえない
「…ちょっと窮屈だわ」
唐突にリンリンがそんな事を言い出したかと思えば、リンリンが獣人体へと姿を変え、肉まんにかじりついた
「わわっ!?」
あまりにも唐突に変身したからかエルミナがびっくりしてしまった
「また唐突に変身したなリンリン」
「食べる時はこっちの方がいいじゃないっ。あーむっ」
右手に掴んだ肉まんをパクリとかじって舌鼓
「んー、美味しい! やっぱりまんとうは、肉まんよねっ!」
頬を押さえながら笑顔を浮かべるリンリン(獣人体)
「エルミナエルミナ。次行きましょうっ」
「へっ? あ、ちょっと、リンリンさん?」
獣人リンリンは笑いながらエルミナの背中を押して別の所へと歩いていった
恐らく獣人に変身したのはそっちの方がエルミナが接しやすいと思ったからだろう
そんな微笑ましい光景を見送りながらアラタは再び、作業を開始した
◇◇◇
一つ目のパン生地が完成し、ジュリアさんに譲渡
二つ目の生地を受け取って再びこねる
「ふぅ…」
午後三時前後、といったところか
流石にちょっと疲労が見えてきた
単純な作業だが、こう連続して続けると流石にしんどい
だが、せっかくジュリアさんから請け負った仕事を半端にするわけにもいかないため、誠心誠意真心を込めて生地をこねる
「あら、関心ねアラタ」気持ち込めてこねている時、しゃべりかけられた
「…サクヤさん?」
黒いドレスを纏って、ポニーテールに目を引くスタイル抜群の[ヴァレリア解放戦線]の隊長
「どうしたんですサクヤさん。見回りですか?」
「ええ。それもあるけど、一度貴方とはゆっくりお話がしたかったのよ」
笑顔を浮かべて作業するアラタの隣へ行く
ちょうどそこに空いていた椅子があったので、サクヤはそこに座った
「俺と話? はは、話してもそんなに話題ないですよ」
一度作業を中断し、サクヤへと向き直る
「そんな事ないわ。レイチェルだって、貴方には期待を寄せているのだから」
その発言を聞いたアラタは一瞬キョトンとした表情になった
「…レイチェル? 誰ですかその人」
そう疑問系で聞かれサクヤはちょっと戸惑った
(…レイチェルの事を知らない? …まさか、覚えてないの?)
確証はないが、そう考えるのが妥当だろう
そう感じたサクヤは話題を変えた
「いえ、ごめんなさい。…ヴァレリア解放戦線の皆とは、仲良くなれたかしら?」
「え? え、えぇ。だいぶ仲良くなれたかな、と思ってますよ?」
「そう。それは良かったわ」
その言葉を聞いたサクヤは胸を撫で下ろす
隊長という立場からか、孤立してる仲間がいると心配なのだ
「…それと、リックの事なんだけど」
「リックの?」
話題はリックの事に移り変わる
「わかっているとは思うんだけど…、リックの事、悪く思わないで」
「…、」
そう言ったサクヤの顔は、どこか悲しそうだった
「死神とかいろいろ言われてるけど…、つらいのは、リック本人だと思うから…」
それ以前に、リックは幸せ者だ
アミルや、エアリィ、隊長であるサクヤにまでここまで心配してもらえるとは
「…わかってますよ、そんなの」
だからアラタはサクヤに返答する
「笑顔を見せなくなったのも、過去に起きた事件のせいだと聞いてます。…だけど、俺は彼が死神だなんてこれっぽっちも思ってないですよ」
笑顔を取り戻すのはいつになるかわからない
けど周りにいる人たちが支えて励ましていればきっとリックは笑ってくれるだろう
「…そうね。貴方みたいな人がいるなら、リックも笑ってくれるわ」
「ただいまー、ジュリアさん。…あれ、アラタ?」
他愛ない(事はない)会話をサクヤとしている横合いから声が聞こえた
声色からアミルと察したがもう一人は察す事ができなかった
「あれ、アルもいたのか」
「人をおまけみたいに言わないでくれる?」
むぅっとした表情でアルティナがアラタを見る
「ていうか何やってるのよ」
「見ての通りパン屋さんの手伝いだよ」
そう言って生地を見せる
その黄色っぽい生地を見たアミルが懐かしそうに顔をほころばせ
「パンかぁ…」
どこか切なげな表情を見せた
その表情を読み取ったアラタは
「やってみるか?」
「いいの!? あ、でもジュリアさんが…」
「良いに決まってるわよ」
アミルが不安そうに表情を曇らせた時、奥からジュリアが歩いてきた
ジャムなどの仕込みが終わったのだろう
「ジュリアさん」
「何があったかわかんないけど、好きなんでしょ?」
そうジュリアに言われてアミルはためらいがちに頷いた
それを見たジュリアは
「なら、やりなよ。好きな事に打ち込めば、やな事も忘れられるから」
ジュリアにそう言われるとアミルの表情には笑顔が戻る
ここに来るまで何があったかなどはわからないが、久しぶりに自分が好きなパンが作れるのだ
「…帰ってきたリックとエアリィに、飛びっきり美味しいのあげないと!」
そう言ったアミルの笑顔は本当に嬉しそうだった
アミルはアラタに自分が持っていたカゴを渡すとジュリアと一緒に奥の扉に入っていった
「…今までで一番いい笑顔だったんじゃないかな」
「そうね。…スッゴい綺麗な笑顔だった」
アラタの近くにいたアルティナも同意して頷く
「…あ、このカゴ、パンの材料いくつか入ってんな…。それだけ置いて…、後は酒場か」
布巾で手を拭いて、捲っていた服の袖を戻す
「さって…、生地を渡して、俺は酒場に行きますか。夕食作り手伝わないと」
「え? 貴方夕食も手伝ってたの?」
先のアラタの発言にアルティナが驚いたように言葉を発す
「うん。結構勉強になるんだよ」
そう言いながらアラタは先ほどまでこねていた生地をジュリアに渡しに行った
数分後に戻ってきたアラタは地面に置いたカゴを持ち、ふぅ、と一息
そしててくてくと酒場へと歩を進める
「あ、待ってよアラタ」
そそくさとアラタの背を行くアルティナ
歩きながら軽く談笑を交わしているアラタとアルティナをサクヤは見守りながら
「…レイチェルも、なかなかの男性(ヒト)を選ぶじゃない」
小さく笑みを浮かべてサクヤは持ち場へ戻るべく、歩き出した
◇◇◇
今日の分の仕事はほぼ終わり、サクヤは自分の部屋でくつろいでいた
「ふぅ…今日も充実していたわね」
レイチェルからはまあまあだと言われた紅茶をすすりながらサクヤは書類の整理をしていた
「さて…今日はこの書類見て終わりね」
カサカサという音を立てながらサクヤは書類に目を通す
半分くらいに目を通したその時部屋のドアがノックされた
時間に直すと十時くらいか
「開いてるわ。入ってきて」
誰だろうと思いながらサクヤは来客をその招きいれた
「…あら」
来客はアラタだった
彼はお盆を手に持っておりその上にはパンがあった
「…これは?」
「差し入れです。サクヤさんの部屋、明かりついていたからまだ作業しているのかなと思いまして」
「…ありがとう。ありがたくいただいておくわ」
サクヤは笑顔を浮かべてアラタからの差し入れを受け取った
「じゃあこれで。失礼しまーす」
短くそう言ってアラタは帰って行った
「ふふ…気配り上手ね。レイチェルがだったら余計なお世話とか言いそうだけど」
小さな厚意に感謝しながらサクヤ書類の整理へと戻っていった
とある世界のあるお城
その中庭に広がる薔薇園にて
テーブルに置かれた紅茶を啜りながら少女は呟く
「…人生には、やな出来事が数多く存在するわ」
あくまでも優雅にカップをテーブルに置き、再び言葉を紡ぐ
「けど人間には、その不幸を乗り越える力が備わっているわ。リックという少年にも、また然り」
ずず、と同じように紅茶を啜りカップを置いて、レイチェルの正面に座っていた蒼崎橙子が口を開く
「…また今日はずいぶんと哲学的だな」
「たまには名言みたいな事を言っておかないとね」
冷笑を浮かべて自分の付近を飛んでいたギィを掴む
「? 姫さま?」
そしてそのままみょーん、と引っ張って遊び始めた
その光景を見た橙子はまたか、と内心呟いて煙草を取り出して火を付け始めた
「…アラタ」
小さく呟く
その少年は今、激動の地に身を置いている
その少年に何の力を貸してやれない自分に多少苛立ちを覚える
「…ま、大丈夫か」
そう楽観的に結論を下し、橙子は火を付けた煙草をくわえる
まだ物語は、始まったばかりなのだから―――