シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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義勇兵たちのバラッド 5

夕食時といった頃、偵察へと出向いていたリックとレイジが帰ってきた

 

アラタが夕食をお盆に乗せてテーブルに置いていたとき、レイジとユキヒメの声が聞こえてきた

 

「…レイジ、どうした。何を黙っている」

 

「え、いや、ちょっとな。…エアリィの事が気になって。いったい何者なんだろう…。パッと見、ふつうの子かと思ったけど…、剣に変身できるなんてすごいじゃないか。あの子、お前みたいな精霊なのかな?」

 

思わずアラタは吹き出しそうになった

 

笑い、からではなく焦りから

 

「その事か…」

 

おそらく[見抜いて]いるユキヒメは顔を曇らせてそう呟いた

 

「他にも、何か特技とかあるのかな。ちょっと、本人に聞いてみようか」

 

「ストップだレイジ」

 

思わずとんでもない行動に動こうとしていたレイジを慌てて制止する

 

「アラタ…、いたのか」

 

「…すまん。私も気づかなかった」

 

「…マジっすか」

 

ちょっとへこんだ

 

自分はそんなに存在感がないのだろうか

 

とりあえず話を戻す

 

「こほん。…レイジ、もしかしたらユキヒメにも似たような事言われたかもだけど、彼女たちは詮索しちゃダメだ」

 

ユキヒメはアラタの言葉に首を頷きながら同意しつつ

 

「それに、恐らくはお前自身もな。それでも聞きたいのか」

 

意味深に言葉を吐くユキヒメとアラタに疑問を覚えたレイジは表情を伺いながら

 

「…どういう事だ? アラタ、ユキヒメ、二人ともなんか知ってるのか?」

 

「おおよその見当はついている。…いや、間違いなさそうだな」

 

どうやらユキヒメは根拠となる現象を目撃したようだ

 

「アラタは?」

 

「俺は、なんとなくだよ。勘」

 

言いながらアラタは自分のこめかみを叩いてみせた

 

「…勘!? すげぇなアラタ」

 

いったい目がどうしたのだろう、といった様子でレイジがアラタを見る

 

「まったくだ…アラタはなかなか慧眼だな」

 

「…エアリィの事だっけ?」

 

危うく脱線しかけた線路を戻す

 

「…いいの? 俺とユキヒメが知ってる事を話しても」

 

「構わない。…俺の事は気にしないでいい。受け止めるだけの覚悟はしてるつもりだ」

 

その言葉を聞いた時アラタは軽く溜め息を漏らし、ユキヒメに至っては「ふぅ…」と聞こえるように溜め息をついた

 

「仕方のないヤツだ。わかった、教えてやろう。あの娘は、…エアリィはソウルブレイドだ」

 

「それに、アミルもね」

 

「ソウルブレイド? それじゃエアリィもアミルも、やっぱり精霊なのか?」

 

「そう言われると返答に困るけど…、近い存在…、だよね、ユキヒメ」

 

慌ててユキヒメに同意を求める

 

ユキヒメは軽く呆れながら「あぁ」と言って頷いてくれた

 

「というかアラタ。知ってるのではなかったのか」

 

「そうなんだけど…、そういう名称とは知らなくて…」

 

そもそもソウルブレイドとはなんですか状態だ

 

「…やれやれ。良いか二人共。そもそもソウルブレイドという言葉は、精霊が変化した武器だけを指すモノではない。霊的な存在が結晶化し、武器となったモノの総称だ」

 

そこでユキヒメが一拍、間を開けて

 

「私のように、力を持った精霊が、自ら剣となる場合もあれば、人の意志や、感情そのものが武器となる場合もある」

 

そこまで言われてアラタは気づいた

 

「…じゃあ、もしかして、彼女たちは…、魂なのか?」

 

そのアラタの言葉にユキヒメはゆっくり頷いた

 

「…え? どういう事だよ、アラタ」

 

「さっきユキヒメが言ってたろ? 感情そのものが武器になるって。…彼女たち…、アミルとエアリィは、魂そのものなんだ」

 

「魂…、そのもの…? …じゃ、じゃあまさか…、あの子たちは…!?」

 

ユキヒメは頷いて

 

「お前の考えている通りだろうな。彼女たちが魂だけの存在である事は、私にはわかる」

 

ユキヒメは顔を伏せながら続きを紡ごうとした

 

「つまり、あのエアリィとアミルという娘たちは…、クラントールを襲った戦火の中で――――」

 

「ストップ。ユキヒメ、それ以上はダメだ」

 

アラタはユキヒメの言葉を途中で止めた

 

それ以上は言ってはいけない、なんとなくそう思ったからだ

 

「そ、それって、あの子たちがああなったのは、オレのせいって、事じゃないか…」

 

だがレイジは自分の過去に起こった事件のせいと自責の念にとらわれてしまった

 

「お、おいレイジ、何を言っている? クラントールで起きた事全てがお前の責任というわけではなかろう!?」

 

「わかってる。…わかってるよ、…けど、オレが救えなかった事に変わりはないんだ。あの二人も、それから、他の人たちも…」

 

レイジはテーブルに手を置いて、顔を俯かせ

 

「…オレは、何もできなかったんだ…!」

 

◇◇◇

 

それは過去の出来事

 

クラントールが襲撃された時の事だ

 

レイジはユキヒメを振るい、ドラゴニアの軍勢からクラントールを守ろうと奮闘した

 

しかしいかに伝説の霊刀といえど数の暴力には、勝てなかった

 

「レイジ殿! ここはもうもちません! 巫女さまを連れて撤退を!!」

 

「そんな事、できるわけないだろう!! オレがやらなきゃいけないんだ!! オレが奴らを食い止めなきゃ…!!」

 

そうしなければ、今以上に被害が出て、大勢の犠牲者が出てしまう

 

それだけはなにがあっても嫌だった

 

「こちらの事より巫女さまを!! 貴殿と巫女さまさえ無事なら、クラントールにはまだ希望が…!!」

 

「だけど!!」

 

そんなレイジに巫女と呼ばれた女性―――ローゼリンデが彼の腕を掴んだ

 

「レイジ…! 行きましょう! 皆さん…、どうかご無事で…!!」

 

その言葉を口にすることがどれだけのものか

 

レイジは耳を疑った

 

「お、おい!? 何を言うんだ、ローゼリンデ!」

 

「巫女さまたちも!!」

 

ローゼリンデが衛兵たちと短い会話を終えると強く、ローゼリンデがレイジの腕を引っ張った

 

「来てくださいレイジ!! 私たちにはまだ、やるべき事が…!!」

 

「…、」

 

レイジは衛兵、ローゼリンデと数回顔を見分ける

 

しかしやがて

 

「…くそ! み、みんな…!! すまない!!」

 

「我らの事はご心配なく!! それより巫女さまの事、よろしくお願いしますぞ!!」

 

「わかってる!! 必ずオレが…!!」

 

あの時、確かに誓ったはずなのに

 

誓った、はずなのに

 

◇◇◇

 

「くそ! …オレは、あの時オレは…!!」

 

テーブルに拳を叩きつけ、悔しさを露わにし、さらに拳を握り締める

 

握り締めたその手のひらから血が滲んでいるのかと錯覚してしまうほど

 

「…気持ちは分からんでもないが、自分を責めてもどうにもなるまい。あの状況では、誰であろうと、結果は同じだった」

 

「でもオレは、必ずあの子を…! クラントールの皆を守り抜く。…そのつもりだったんだ…。だって、そのためにオレはクラントールに呼ばれたんだ。少なくとも、あの子はそう言っていた。…けど、結局、オレは…」

 

その空気にアラタはいても立ってもいられなくなった

 

だから別の話題を振ろうとしゃべろうとした時

 

「…ん?」

 

ユキヒメが気配を感じ、刀へと姿を変えた

 

アラタはハッとしてユキヒメが気配を感じた方へ振り向いた

 

気配の正体はアミルだったのだ

 

「ねぇ、レイジ、アラタ…。 ちょっといいかな?」

 

「アミル? エアリィも」

 

直前まで気づかなかったがアミルの後ろにはエアリィもいた

 

「うん。あ、あの…お話が、あるんだけど…」

 

「話? あぁわかった。大丈夫だよ。レイジも、いいか?」

 

「あ、ああ…」

 

先ほどの事が原因で意気消沈気味だったレイジが、そんな風に言葉を漏らす

 

「ありがとう。…まず、私たちの事なんだけど…、その、アラタは、知ってたんだよね? レイジは、さっき、ソウルブレイドさんから…」

 

いきなり確信についての話題だった

 

「ごめん、さっきの話、横で全部聞いてたの。…私たちの正体については、その人の予想通り」

 

彼女たち自らが真実を明かしてくれた

 

その真実を知ったレイジは案の定表情を曇らせて

 

「じゃあ…やっぱりクラントールで…」

 

「うん。リックと同じ村で暮らしていて…、幼なじみだったの。…でも、帝国が襲ってきた時に、私たちは…」

 

あまりに重い現実にレイジはそうか、とただ小さく頷くだけだった

 

「本当だったら、死んだ人の魂は、そのまま霊界へ上がっていくはずなの」

 

先ほどまでのエアリィの発言を引き継いでアミルが語り始めた

 

「でも、どういうわけだか、私の魂は、飛んでいけなくって…」

 

「その時に、サクヤさんに助けられたんだ」

 

アラタの言葉にアミルは頷いて

 

「うん。サクヤさんにだけは、私が見えてたみたい」

 

と、なると、エアリィも…

 

「私も、どこへ行けばわからなくて泣いていたら、サクヤさんが見つけてくれて…」

 

その言葉を聞いてレイジは重い口を開いた

 

「…本当に、オレ、なんて言って謝ったらいいか…」

 

「う、ううん。あなたのせいじゃないよ! お願い、あなたまで落ち込まないで。あなたまでそうなっちゃうと…」

 

アミルは顔を伏せ

 

「リックの事、頼めなくなっちゃう…」

 

「…リックの事を?」

 

どういう事だろう、とレイジと顔を見合わせアラタが問うた

 

その問いにエアリィが答える

 

「リックは、レイジと同じように、私たちを守れなかった事を、すごく悔やんでるみたい。皆を守るために、村の自警団に入ったのに、結局守れなかった…って」

 

「それに、もう一人…、ネリスっていうんだけど、その子の行方も、わからなくなっちゃったから…」

 

この子たちは、どんなに過酷な運命を辿ってきたねだろう

 

そうアラタは感じざるを得なかった

 

アミルは少し間を開け

 

「それもこれもリックのせいじゃないのに、リックは全部一人で背負いこんじゃって…」

 

「あいつに、そんな事が…」

 

今までリックという人物がわからなかったが、彼にそんな事があったとは

 

自分と似たような境遇にある知ったレイジが静かにそう呟いた

 

「でも、私たちはリックにそんな気持ちでいてほしくない。明るいリックに、戻って欲しいの」

 

「お願い。リックが元気になれるように…、あなたたちも力を貸してあげて…!」

「…オレに? でも、オレにそんな…」

 

弱気なレイジにアラタは言う

 

「何言ってんだ。できるはずだ。いや、オレよりも、レイジの方が適任だ」

 

「な、なんでだよ」

 

疑問に思ったレイジはそうアラタに問いかけた

 

「お前とリックは、なんだか良く似てるんだ」

 

その言葉にアミルとエアリィは頷いた

 

「俺はよくわかんねーけど、レイジとリックはさ、似たような悩みと後悔を抱え込んでる」

 

アラタの言葉にまたエアリィが頷いて

 

「あなたがその悩みから立ち直る事で、リックも一緒に前を向けるようになる。そんな気がするの」

 

「オレが…立ち直る…」

 

「ああ。お前なら出来るはずだ。彼のためにも。そして、お前を信じてる誰かのために」

 

三人の言葉を受けたレイジはしばらく考えて、そして

 

「…そうか。そうかもしれない。いや、きっとアラタや、君らの言う通りなんだ。わかった、オレ、やってみるよ」

 

そしてイイ笑顔を浮かべ

 

「元気を出して、前を向いて、君らの友達を見つけだす! そして、オレを信じて待ってる…オレの友達もな!」

 

その言葉を聞いたアミルとエアリィは飛びっきりの笑顔を見せて

 

「ありがとう…! レイジ、それにアラタも! 私たちも、あなたやリックと一緒にがんばるよ!」

 

「そう! リックが戦ってる時にはいつだって…。私かエアリィが傍にいるんだからね」

 

「うん、イイ笑顔だ」

 

二人の笑顔を見てアラタも釣られて笑顔になる

 

「そっか。…そうだよな! よーし! アラタ、アミル、エアリィ! それからもちろんユキヒメも…。皆で力を合わせて、帝国をやっつけようぜ!」

 

完全に元気を取り戻したレイジはその場にいた人物に声をかける

 

ちゃっかりユキヒメにも声をかけたのは少々意外

 

「ふ。私にも忘れずに声をかけたか。お前には珍しいほどの気づかいだな。良かろう、私もこれまで通り力を貸そう」

 

刀となったユキヒメが声を漏らす

 

「だが、まだ道は長いぞ。今やるべき事は、神殿への道を開く事だ。そのためには、少しでも多くの敵を片付けねばならん。さぁ! ぐずぐずするな! 行くぞ!」

 

すっかり機嫌を良くしたユキヒメに苦笑いを浮かべながらレイジは酒場を後にした

 

その背中をアラタとアミル、エアリィは笑いながら見送った

 

◇◇◇

 

とは言っても時間が時間なので、神殿までの道中敵の排除は後日となった

 

夕食も食べ終えて食器のお片付けを手伝い、それも終えやる事がなくなったアラタは特に理由もなく夜の砦の街を歩いていた

 

「…あれ」

 

ある部屋のベランダに一人佇んでる人物が見えた

 

「…ユキヒメ?」

 

その人物とはユキヒメだ

 

「…む? アラタか。どうした」

 

アラタの視線に気づいたユキヒメがアラタの方へと視線を落とした後、ベランダから飛び降りた

 

「おわ!?」

 

飛び降りたユキヒメはアラタの付近に着地し、再びアラタへと向き直る

 

「そう驚くな。この程度の高さから飛び降りるなど、アラタでも出来よう」

 

「ま、まぁねー…」

 

苦笑いを浮かべるアラタだが、そんな芸当が出来るのは限定される

 

とりあえずアラタは佇んでいた理由を聞いてみる

 

「ユキヒメは何やってたんだ? 眠れないからボーっとしてたの?」

 

「そんなアホみたいな理由か! …夕餉の少し前、レイジを交えて、ソウルブレイドの話をしたであろう?」

 

「ああ。うん、したけど…、それがどうしたのさ」

 

「その話をしていたら、ふと思い出してしまってな…」

 

「思い出したって…、何を?」

 

アラタにそう聞かれユキヒメは彼の瞳を見て答えた

 

 

 

「ムラサメの事をな」

 

 

 

あまりに自然に言うものだから思わずスルーしそうになったが、慌てて思った疑問を口にした

 

「ムラサメって? 彼氏?」

 

彼氏という言葉を聞いてユキヒメは思わずむせかえる

 

「へ、変な事を言うな!! ムラサメは女だ!!」

 

顔を真っ赤にし、アラタが間違った箇所を訂正するユキヒメ

 

「そうなの?」

 

「そうだ。ムラサメと私は姉妹みたいなものなんだ」

 

そしてユキヒメは少し語り始めた

 

「ムラサメと私は、レイジの前…、つまりは先代の頃に一緒にいてな。その頃は、ムラサメはまだ霊刀にはなれなかったのだ」

 

「なれないとかがあるんだ、霊刀にも」

 

ユキヒメも霊刀になるまでは苦労したのだろう

 

努力してるユキヒメの姿がありありと想像できた

 

「うむ。あの鍛錬の日々はなかなかに厳しかったが、充実した日々だった」

 

かつての日々に想いを馳せるように目を細めて夜空を見上げた

 

「そんなあくる日、ついにムラサメも霊刀へと変身を遂げる事ができたのだ。…しかし…」

 

言葉を濁らせて表情を曇らせた

 

「…、何か、あったの?」

 

「ああ。…暴走、してしまったのだ」

 

「…暴走…?」

 

ユキヒメは頷いて

 

「先代でも制御できなかったのだ。…ムラサメは、誰かに悪用されるのを恐れて、自ら封印を…」

 

「…そんな、事が」

 

その決断は本当につらかっただろう

 

いくらムラサメ自身が望んだとしても、今まで共に成長してきた姉妹を封じねばならないなんて

 

「…封印されてる場所って、覚えてるのか?」

 

「覚えてるが…、知ってどうするのだ?」

 

「え、い、いや…気になっただけで…」

 

気になったのは事実だが、興味が湧いたのもまた事実だ

 

「ふふ…、止めておけ。封印は先代にしか破れない…。ムラサメに逢えないのは、辛いが、もう慣れた。…慣れてしまった」

 

切なげに呟くその姿に、少しだけ胸が痛んだ

 

「すまない。しんみりした話になってしまった。また明日も戦いだからな。ではな! アラタ」

 

ユキヒメはそう元気にアラタに言うと、扉を開けて部屋の中へと戻っていった

 

「…ムラサメ、か」

 

今はまだ何もできない

 

だが出来る事なら、救ってやりたい

 

自分に何が出来るか、わからないが

 

「…さて、俺も寝ようかな」

夜も深くなり眠気に勝てなくなったアラタは就寝するべく部屋へと戻っていった

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