シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
自分でもびっくりな長さです
白竜教団総本山別院、星龍殿―――
今現在ドラゴニアの勢力に必死で抵抗する者がいた
それは白竜教団の巫女である少女、龍那とその護衛、剛龍鬼である
「きゃっ!?」
危うく斬られそうになるも、間一髪で手に持った杖で受け止めた
しかし反動で思わず後ろに躓いてしまった
「龍那、大丈夫か!」
「えぇ、危ないところでしたけど」
剛龍鬼は巨大な両刃の斧を振るい龍那に刃を向けた骸骨兵を叩き斬る
剛龍鬼は人間ではない
しかしその心には、ある一つの使命が湧き上がっている
それは龍那を守ること
白銀の鎧を纏い、
巨大な盾と両刃の斧を構える姿はまるで不動の山―――
「俺の後ろに隠れていろ! 龍那は…俺が守る!」
剛龍鬼は龍那を後ろにやり、その巨大な盾を構えた
「龍那には、指一本触れさせない!」
◇◇◇
時を同じくしてサクヤたちも星龍殿へと到着した
「サクヤさん! 見てください! 女の子とでっかい…、トカゲ男? が、モンスターと戦っていますよ!」
レイジがまるっきり見たままの事をサクヤに伝える
いや、多分アラタでも似たような事を言っただろう
「二人とも、まだ無事のようです。間に合って良かった…」
二人の無事を目視したエルミナはホッと胸をなで下ろした
「となると、女の子が龍那さん、大きい方が剛龍鬼さん…、で間違いないみたいだな」
二人の特徴は砦にいた時にある程度調べておいた
特徴とも一致するし、間違いはないだろう
「ええ。…龍那! 剛龍鬼! もう少し頑張って! 今助けに行くから!」
今なお奮闘する二人に向かってサクヤが檄を飛ばす
剛龍鬼の後ろで多少龍那が動いたような気がした
どうやらこちらに気づいたみたいだ
「皆、突撃よ! 龍那たちと戦闘中のモンスターを排除して!」
「了解! 任せてくださいって!」
「わかりやすくていいね! そういう号令!」
隊長サクヤの号令の下、レイジとアラタを先頭にモンスターへと突撃していく
今、白竜教団を救い出す戦いが始まった―――
◇◇◇
「アル!」
「言われなくても!」
アラタは相変わらずと言った様子でアルティナに援護を要求する
それに対して、もはや慣れていると言わないばかりにアラタの後ろを援護する
「隣はオレに任せな! アラタ!」
「おお、世話になるぜ、レイジ!」
背後の守りはアルティナに
レイジと共に突き進む
「にしても、やけに多いな、ドラゴニアの軍勢が!」
道を阻む骸骨兵を切り倒しながらレイジがそんな事を呟いた
「それだけ、白竜教団の巫女が目当てなんだろ!!」
同じように切り裂きながらアラタがそう返す
「アラタ! 右!」
「っ!!」
アルに言われた場所へと刀を振り向く
「ギッ…!?」
もれなく剣を振りかぶっていた骸骨兵に直撃し、両断する
「サンキュー、アル」
「気にしないで。ほら、次が来る!」
軽くアルティナと会話をしつつ、時たまお互いをフォローしながら、アラタは切り進んでいく
◇◇◇
「貴女が龍那さんだな! 今、援護する!」
ある程度切り倒し、アラタは白竜教団の巫女である龍那と、その護衛である剛龍鬼の下へとたどり着いた
「え? あ、あなたたちは…?」
初対面だからか、龍那は若干警戒の色を見せている
「心配はいらないわ、龍那。彼は私たちの仲間よ」
サクヤの姿を確認すると龍那は笑顔を見せて
「サクヤさん…? では、救援に来てくれたのですね? ありがとうございます」
そして剛龍鬼を見て
「剛龍鬼、皆様と協力を!」
「わかった! よろしく頼む!」
再びその大きな盾をどっしりと構え剛龍鬼が言う
「こちらこそ…!」
アラタは剛龍鬼にそう返し、再び骸骨兵―――ボーンファイターの軍勢へと向き直る
「レイジ!」
「おうよ!」
軽く頷き合うとアラタとレイジはお互い背中合わせに預け
「零式、」
「刀技!」
『円ッ!!』
お互いの背中を中心に二人は回転斬りを繰り出す
本来〈零式刀技 円〉はレイジの技だ
だがアラタは自分が知る友の技を真似る事が出来る(可能な範囲で)
「やるなアラタ」
「お前もな」
軽く笑みを浮かべながらコツンと二人は拳をぶつけた
「流石ね、二人とも」
剛龍鬼と一緒に龍那を守っていたサクヤが賞賛の言葉を述べる
お世辞とわかってても、誉められるとちょっと嬉しい
「流石サクヤさんの仲間の方々…、とってもお強いのですね」
剛龍鬼の後ろで先ほどの戦いを見ていた龍那が純粋な感想を漏らした
「あの二人、かなり強い…、頼もしいな」
龍那を守りながら両刃の斧を振るう剛龍鬼が呟いた
◇◇◇
サクヤたちが来た事により、形勢は確かに逆転した
だが、この砦を囲むボーンファイターの量は異様に多い
「ち…、このままじゃいずれ数でやられちまう…」
「そうね、なんとか打開策を打たないと…」
アラタの呟きを聞いたサクヤが静かに言う
「けど、どうすんです?」
「そうね…」
と、サクヤが思考に埋没しようとした時だ
先ほどレイジらが、いた出入り口
そこからナイフか何かで切り裂くような音が聞こえてきた
見えたのは赤い皮ジャンをきた、着物姿の…、女、だろうか
遠目からでは判断できない
だがその人物は猛烈な強さでボーンファイターを蹴散らしていっているのだ
たったナイフ一本で
「…サクヤさん、あの人は知り合いですか?」
レイジの問に「いえ…」とサクヤは首を横に振って否定する
とはいえ、これはチャンスだ
この戦況をひっくり返すならば…、と思ったアラタは隙を見て、敵の群れへと突っ込んでいった
「待ってアラタ! いくらなんでも一人じゃ――」
「あっちの赤い人と協力します! サクヤさんは、龍那さんたちを!」
サクヤらにそう告げてアラタは戦っているナイフの人へと駆け寄った
◇◇◇
両儀式はため息をついていた
なんてついていないのだ
(トウコめ…。帰ったら覚えてろ…)
内心毒づくが、この状況は美味しいかもしれない
ふらふらと歩いていたらいかにもな砦にいかにもな、なんか骨の人みたいなのがいたのだ
ストレスの解消には持ってこいだ
戦いに乱入し、適当にかき混ぜていたら視界に見覚えのある顔が見えてきた
「…アラタ?」
知人だ
現在式は学園都市という場所に身を置いている
アラタとは知り合いだ
(…やっと友人に巡り会えた…、と、そうだ)
そう思って橙子から言われたことを思い出す
ここのアラタは、お前が知ってるのとは少し違う
何が違うというのだろう
…いや、違くても違わなくても、どこであろうとアラタへの態度は変わらない
自分と幹也の交際を、素直に祝福してくれた人だから
◇◇◇
いつのまにか、囲まれてしまっていたようだ
あのナイフの人と合流しようと意識していたらこんな失態だ
まだ自分も甘い
「…」
判断は一瞬
目の前まで振り上げられていたその剣の間を縫うように、アラタは前転しその攻撃を回避する
「…よし!」
アラタは改めて刀を構え直し、先を向ける
その刃に手を乗せてボーンファイターを見据える
「…しゃぁっ!!」
そこからのアラタの動きは流れるように鮮やかだった
迫り来る剣撃の数々を日本刀で受け流しカウンターで斬りつける
時折体術も織り交ぜながら、蹴散らし、数を減らしていく
数十体を斬り凪いで、最後に、前方、後方から同時にボーンファイターが襲いかかった
「ふっ!」
一息吐くと同時、自分の背、そして前と日本刀で斬りつける
日本刀は的確にボーンファイターを捉え、倒されたボーンファイターはドサッと倒れ込む
「…ふぅ」
そう一息吐いた時に気づいたが、辺りはボーンファイター(亡骸)だらけだ
没頭って怖い
とりあえず龍那さんたちと合流しようと背中を向けた時
「待ってアラタ!」
アルティナの声がアラタの耳に届いた
「…アル?」
「多分、最後の一体よ」
アルティナが指差した方向を振り向くと一人の剣士が立っていた
ボーンファイターたちのリーダー…、ボーンキャプテン、と言ったところか
「…いいぜ、正々堂々一騎打ちだ」
アラタは再び日本刀を構え、ボーンキャプテンに対して、身構えた
ボーンキャプテンをそれを理解したのか、腰に差してある剣を抜き放った
お互いに睨み合いが続き、痺れを切らして先に動いたのは―――
「ハァッ!!」
アラタだ
力を込めた日本刀を振るい、斬撃を飛ばす
直線的に飛ぶ斬撃を剣で受け止めて、ボーンキャプテンは接近し剣を突き出した
「あぶな!」
その剣を体を横に動かす事で回避し、直後に蹴りを繰り出し吹き飛ばす
頃合いを見計らって接近し、日本刀で攻め立てる
しかし流石はボーンファイターを束ねる大将、そう簡単には倒されない
「ちぃっ…!!」
埒が開かない、とそう感じたアラタは一度後ろへ飛び距離を取ったその時だ
「よっ」
キャプテンの背後から赤い人が現れて、後頭部を蹴り飛ばしたのだ
「え、あの…」
「よう、アラタ。元気か?」
「えっ? お、おう元気…、てか、すまん。…俺、貴女を知らないんだが…」
「っ。…いいよ、オレが一方的に知ってるだけだ。そんな事より、サッサと決着(ケリ)つけようぜ」
そう言ってナイフの赤い人は親指で後ろのキャプテンを指差す
「ああ、それには同意だ」
頷いてアラタはまた日本刀を構える
それと合わせて、赤い人もアラタの隣に立って順手でナイフを持ち、ボーンキャプテンに突きつける
一瞬ボーンキャプテンは怯んだ様子を見せるが、すぐに剣を構え直しこちらを睨んでくる
…だが、不思議と負ける気はしなかった
それどころかこの赤い人の隣にいる事が、当たり前みたいな錯覚させしてくる
そんな錯覚を振り払い、アラタは一気に駆け出した
赤い人もアラタの後ろへぴったりとくっついて後を追う
「!!」
敵の目からは消えたと思っていたのだろう
慌てて剣を振り上げてくる一撃を刀で受け止めて、腹部に蹴りを入れて怯ませる
腹部を押さえる動きに合わせてアラタが飛び越え背後を取る
ボーンキャプテンが身体を起こした時にはもう遅く
斬、と前と後ろから同時に斬られ、そのままばったりと倒れた
「…なんでかな。貴女とは初めて会った気がしない」
「そうか。…オレもだ」
赤い人が苦笑いを隠さずにアラタを見ながら呟いた
よく見るとこの人、女性だ
◇◇◇
「皆様、危ないところをありがとうございました。おかげで、私も剛龍鬼も助かりました」
殲滅し、ようやく一息ついた龍那がそんな感謝の言葉を聞いた
「いえ、気になさらないで。この程度」
それにアラタは柔和で小さな笑みを浮かべて返す
「アラタのいう通り。当然の事しただけだよ」
そんなアラタの発言に乗っかって、レイジが言葉を紡ぐ
そんな様子に龍那はくすくすと笑いながら
「申し遅れました。私、白竜教団で巫女を務めております、龍那と申します」
その場で一礼し、
「今の戦闘でお疲れでしょう。よろしければ、神殿で休んでいかれてはいかがでしょうか?」
サクヤたちを気遣ってかそんな言葉を言ってくれた
「でも、ご迷惑なのでは…」
おずおずと言った様子でエルミナが尋ねる
「いえいえ、迷惑だなんてとんでもない。今後のこともご相談したいと思いますので、ぜひ神殿へ…」
それを聞くとサクヤは頷いて
「わかったわ、そういう事なら、遠慮なくお邪魔させてもらうわね」
「はい。こちらへどうぞ」
◇◇◇
龍那に案内されて、サクヤたちヴァレリア解放戦線は、星龍殿へと足を踏み入れた
「皆さんにここまで来ていただけて、本当に助かりました。白竜教団の本殿が破壊され、封印していたダークドラゴンの一部も奪われて…。こちらの別殿に避難していたのですが、また帝国軍に襲われ、私と剛龍鬼だけでは、防ぎきれなくなりかけていたのです」
…ダークドラゴン?
聞き慣れない単語を聞き、アラタは首をひねった
「危ないところでしたね…」
「間に合って良かったわ。本当に…」
エルミナ、サクヤが口々につぶやく
龍那は感謝の言葉を言いながら
「ところで、サクヤさん? 私たちを助けに来てくれたということは…。今回は、私たちの側についてくれる…、ということでよろしいのでしょうか?」
意味有り気なその語り口に、サクヤは一瞬考えて
「…そうね。そう考えてもらっていいわよ。というより、今回はそうせざるを得ないわ」
サクヤのその言葉を聞いた龍那は笑みを浮かべて頷き
「わかりました。では、私たちも皆様にご協力させていただきます。いいでしょう? 剛龍鬼」
「もちろんだ。龍那がそうするというのですなら、俺もそうする」
「…、ありがとう、龍那、剛龍鬼。あなたたち二人が手を貸してくれるなら、私たちも心強いわ」
そんなサクヤの言葉に龍那は若干顔をしかめて
「…その、実はもう一人いなくもないのですが、いえ、そもそも一人と数えていいのかどうか…」
突然言葉を濁した龍那に疑問を浮かべたサクヤは
「なに? なんのこと?」
「はい。実は…。剛龍鬼、例のものを」
「あぁ、わかった」
そう返事した後剛龍鬼は一度奥に消え、数分後になにやら人一人分くらいある箱を持ってきた
そしてその箱の蓋を開ける
その箱の中には、黒を基調とした服のようなスーツのようなものに身を包んだ一人の女の子が眠るように横たわっていた
「これは…、もしかしてかつて失われた戦闘用オルガロイドの一体? どうしてここに…」
なにやら専門用語が飛び交ってるが、全くもってアラタは理解していない
否、わからないから理解できないのだが
「よくはわからないのですが、この別殿の奥に眠っていたのを、先日剛龍鬼が見つけまして…。いろいろやってみたのですが、目覚めさせる方法がわからなくて。失われた技術に詳しい貴女なら…」
サクヤは顎に手を当てて頷きながら
「そうね。戦力として期待できるかもしれないし…、とにかくこれが敵の手に渡らなくて良かったわ」
そしてそのオルガロイドに触れ、肩を軽くポンポンと叩いてみた時だった
不意にそのオルガロイドの目が開いた
『!?』
「覚醒キー、入力を確認。DNAパターン照合、完了。X型ガーディアン[ケルベロス]、これより、軌道シークエンスに入ります」
「…え?」
サクヤ本人も呆然としている
それもそうだろう
まさかチョンと触っただけで起動するとは思わなんだ
「さ、サクヤさん…? 今、何を…?」
「わ、わからないわ。ただ、肩を軽く叩いただけだったのに…」
「アクセス可能範囲内に、適格者一名を確認。以後、マスターとして登録。…、登録完了。こんにちはマスター。私は、ケルベロスです」
唐突に自己紹介をしてくれたので、サクヤも慌てて返答する
「こ、こんにちは。私は…、サクヤよ。よろしく…」
順応していくケルベロスとサクヤを見ながら龍那は
「さすが、というべきでしょうか…。もしかしたら、その子は貴女が来るのを待っていたのかもしれませんね」
確かに
ケルベロスの反応を見るとどうもサクヤを待っているように見える
「…サクヤさんの謎がまた増えた…」
アラタの横でレイジが呟いた
「いやいや。女性は秘密を着飾って美しくなるって、某探偵漫画でも言ってたし…」
「なんだそりゃ…」
二人のやり取りに龍那が入る
「普段から謎多き方ですからね。…ところで、あなたたちはもしかして、クラントールから来られたという…?」
「ああ、クラントールから来たのはこっちのレイジです」
「え、ああ、まぁ…どうも」
軽く礼をし龍那を見る
「やはり。…ではその刀が、かつてダークドラゴンを封印したという、[シャイニング・ブレイド]なのですね…!」
「…え?」
ものすごい単語の羅列に少し固まる
「…かつてダークドラゴンを封印した、[シャイニング・ブレイド]…?」
先ほどまでポカンとしていたレイジだったがアラタの復唱についに
「ええ!? ゆ、ユキヒメ! お前そんなにすごい刀だったのか?」
<な、なに!? 知らん! 知らんぞ! そのような事は!>
自らがそんな伝説レベルの刀だったという事を知らぬユキヒメは突然の事に戸惑いを隠せないでいた
「落ち着いてください。貴女は知らないのではありません。自ら、記憶を封印しているのです」
衝撃事実その二
「貴女はかつて、後にクラントール建国王となる勇者の手の内にあって、彼や、その仲間たちと共に、ダークドラゴンに立ち向かいました。貴女のその一撃は、巨大な山をも崩し、大地を割り、その力の前にはダークドラゴンも対抗できず、その魂は異界へと追放された…」
説明だけでもとてつもない力を宿した刀という事がよくわかる
まさかそこまでの力を秘めていたなんて…
「そして、ユキヒメさん自身も、その力が悪用されることを恐れ、自らその霊力と記憶を、封印した…。私は、そのように伝え聞いております」
<わ、私に、そこまでの力が…!?>
「す、すごいですユキヒメさん…!!」
「ああ、全くだ。…けど、その力ってどうやったら取り戻せるんだ? 今その力が使えれば…」
「…確かに。その封印とやらが解ければ、我々にとっても大きな戦力となるが…」
フェンリルの発言も最もだ
[シャイニング・ブレイド]の力が解放されれば、圧倒的に有利になる
「…よければ今の話、砦に来てもう一度詳しく聞かせてもらえないだろうか」
「承知しました。では、剛龍鬼と一緒に、砦にお邪魔させていただきます」
話がまとまり、龍那と剛龍鬼がヴァレリア解放戦線へと加わった
ユキヒメの真実[シャイニング・ブレイド]
詳しい話を砦で聞くべく、サクヤたちは一度、砦へと戻った
道中何故だかケルベロスの視線がたまに気になったが、気にしない事にした
◇◇◇
「…以上が、[シャイニング・ブレイド]の伝説…。すなわち、ダークドラゴンと光の側との戦い。そして、四つの国の成り立ちの物語です」
「以前から不思議な刀とは思ってたけど、そんな秘密があったなんて…」
龍那からその伝説の話を聞き終えたアラタは素直にそんな感想を漏らした
「ええ。雪姫はとても不思議で…、そして、強力な霊刀なのです。…しかし、ユキヒメさんたちが魂を追放した後、各国でバラバラに封印されていたダークドラゴンの体は…」
「全部、奪われた…」
「…はい」
問答を繰り返すのはアラタ
レイジらはある程度の事情を理解はしているが、アラタは正直いってあまりわかっていない
ならこの話を詳しく聞いておこうと思ったのだ
「…それって、メチャクチャまずくないか?」
レイジの発言に龍那が頷いて
「集められた体は帝国の本拠に安置され、今は復活の時をじっと待っているはずです。それだけは阻止しなければなりません」
「だけど、万が一を考えて、間に合わない時も備えないといけないな、それじゃあ」
アラタがちょっと先を見据えた発言をし、それに龍那も同意する
「そのためには、是非とも雪姫の封印を解き、[シャイニング・ブレイド]として、覚醒していただかなければなりません」
「それで、その封印を解くためには、どのようにすれば…」
エルミナが聞く
「それには、ヴァレリアの自然を司る精霊王たちの内、氷、木、炎、月の四人と、アストラル界に棲むもう一人、あわせて、五人の精霊王による承認が必要です」
龍那はそこで間を置いて
「そして、精霊王の承認を得るには、どこかに隠された[鍵]が必要なのですが、それがどこに隠されているかは…」
「わからない、という事か…」
フェンリルが腕を組みながら呟いた
「だったら、鍵の方は後回しでもいいんじゃないか?」
「だな。とりあえずはその精霊王たちのところへいってみるとか。ちなみに、精霊王って、一体どこにおられるんだ?」
アラタからの問いを聞いた龍那は、サクヤから地図を借りるとそれをテーブルに広げ、一点を指差し
「まずは、ルーンベールの北、フィラルド山脈にある[霊峰グレイシア]を目指しましょう。そこには、氷の精霊王がいるはずです」
「…霊峰グレイシア…? グレイシア、ですか?」
何故だかエルミナがハテナモードだ
数秒後にエルミナは
「あ…。ああああああぁっ!!」
唐突に驚いた声をあげた
「ど、どうした、エルミナ?」
代表してアラタが聞く
「どうしましょう…。私、今大事な事を思い出してしまいました…」
「何よ、大事な事って」
アラタの隣にいたアルティナがまた問う
エルミナは慌てながらもなんとか気持ちを落ち着かせ
「私、間違えていました! 私の目的地は、シルディアではありませんでした!」
「まじで?」
「グレイシアと言われ思い出したのですが、私がアイラ様から受けた命令は…、シルディアの様子を見て、できることがあればお手伝いしながら情報を集め…霊刀を持った勇者さまを探し出して、グレイシアにいるアイラ様のもとへ、お連れすることだったのです」
…
数秒の沈黙
やがてレイジが
「…て、なんだそりゃあ!?」
「当初の目的からだいぶ離れたね…」
「す、すみません…。シルディアに行こうとして、何故かフォンティーナに着いてしまったり…、何故かそこで敵と間違われたりしたもので、すっかり混乱して…」
確かにそんな出来事が立て続けに起これば目的の一部は忘れてしまうだろう
それでも足を止めなかったエルミナはえらいと言える
「あ、あのなぁ…お前なぁ…」
レイジは呆れたような、なんか言いたげに顔を歪ませ、戻したり、歪んだり
軽く顔芸状態だ
たいしてエルミナは悲しげに俯きながら嘆くように
「今にして思えば、フォンティーナからまっすぐルーンベールにお連れすれば、それで任務は完了だったのです…」
なんだろう、軽いデジャヴがアラタの脳裏をよぎった
「あああ…、アイラ様…。本当に申し訳ありません…」
よよよ、と言った様子で今にも泣き出してそうだ
これはまずい、と思ったアラタは何か声をかけようとした時に
「ああもう…。これだから人間は…! それで、そのアイラとやらはどこにいるの!?」
アルティナに先を越された
「アル、そんな怒んないで、誰しもミスはつき物なんだから」
「わ、わかってるわよ…!」
アラタを見ると若干頬を赤らめてぷい、とそっぽを向いてしまった
なんで? とアラタは思ったが再びエルミナに
「…で、改めて聞くけど、アイラさんは今どちらに?」
「はい。アイラ様は、私の出発した直後から、山中に入っておられるはずです。何でも、ルーンベール一帯で、精霊力が極端に低下してしまったためか、国中が激しい寒波に襲われて…。アイラ様は、少しでもその被害を抑えようと、ある程度精霊力が残ってるグレイシアで、頑張っておられるのです…」
「やれやれだなもう…。そういう事は、もっと早く思い出せ、ていうか、そもそも忘れるなよな…」
レイジの言い分も最もである
だが、状況が状況ゆえ、強く当たるわけにもいかない
「…けど、これでどうやら話が繋がってきたようね」
今までの話を聞いていたサクヤがついに口を開いた
「精霊王の件だけじゃなく、そちら方面での敵の動きも気になるし…。…行ってみましょう、ルーンベールへ! エルミナ、案内をお願い!」
「は、はい! わかりました! 必ず皆さんを無事に、アイラ様のもとへお連れいたします!」
次なる目的地がサクヤによって決定された
レイジの持つユキヒメ…そして[シャイニング・ブレイド]の、解放する手段を聞くために
◇◇◇
「…それで、貴女はいったい何者なんだ?」
壁に寄りかかっている赤い人に向かってアラタは問いかけた
「別に。何もないよ、オレは、両儀式ってだけ、言っておく」
そう言って式はどことなく歩いていく
と、ふと足が止まる
「あ、アラタ」
「ん? なんだ?」
「オレも加わるから、あとでリーダーか誰かに言っておいてくれ」
そうぶっきらぼうに言いやると、両儀式と名乗った女はまた歩いていった
この世界、クラントール王国
そのグランデル大聖堂内部にて
…バルドルよ。まだか…。まだ復活の準備は整わぬのか…
「は、はは! ダークドラゴン様! もうしばらくお待ちを! もう間もなく! 間もなくでございますゆえ!」
黒い鎧に身を包み、緑色のローブ、極めて目立つのは頭部にかぶってあるもの
それはドラゴンを模してあるのだ
「ええいお前たち! いつまでダークドラゴン様をお待たせすれば気が済むのだ!」
男――バルドルは自身の後ろへ控えている四人の人影へ一喝する
「崩れかけた国の二つや三つ、落とすのにどれだけ時をかけるつもりなのだ!」
「うるせぇ! ルーンベールは陥落寸前だ。これ以上急げっつうなら、てめぇで兵を率いて落としてみろ!」
それに真っ向から反論したのは獣人であるスルトである
黒みがかった金の鎧に、狼のようなシルエット
姿だけの特徴なら、フェンリルに類似する
そんなスルトの発言に意を唱えたのが一人のケンタウロス
「陥落寸前…? それにしては、ずいぶんと悠長に構えておられるようだがな」
かつてレイジやアラタと交戦したスレイプニルである
「貴公一人で手に余るようなら、フォンティーナの後始末を終えてから、手を貸してもよいが?」
明らかに人を小馬鹿にしたその口調にスルトはまた真っ向から突っかかる
「うるせぇってんだよ! 俺には俺のやり方がある! お前なんぞが口を挟む事じゃあねぇっ!!」
拳を握り締めながらスルトは滴る唾液を飲み込みつつ
「…俺は待ってんだよ。どうしても殺らなきゃならねぇヤツが、罠に飛び込んでくるのをよ…!」
「…ならば好きにするがいい」
正直私怨などどうでもいいスレイプニルは、軽く流すように言葉を発した
「何をしておる! ダークドラゴン様の御前で、そのような無様な争いをするとは何事か!」
「…大聖堂に陣取り、ただ報告を待っているだけの貴公に言われたくはないな」
「な、なんだと…!?」
バルドルにとってその言葉は何よりも代え難い侮辱だった
「良いかおぬしたち! 私はここで、遊んでいるわけではない! 私には、ダークドラゴン様のお声を伝え、復活の為の儀式を準備するという大事な役目がある! それを忘れるな!」
「…ダークドラゴン様と話せるのが自分だけだからと図に乗りおって」
「へっ…。てめぇじゃ何もできねぇクセによ」
「…ダークドラゴン様の威を借る雑魚め」
三番目に呟いたのは、黒い仮面を付けた銀髪の男、アルベリッヒである
今まで黙っていたアルベリッヒまでもが口を開くとは…
「お、おぬしら…! なんという…!?」
…何を下らぬ事で言い争っておるのだ…
「ひっ!! だ、ダークドラゴン様!」
あまりにも唐突に語りかけてきたからか、思わずそんな情けない声をあげてしまった
…よもやお主、このヴァレリアにおける我らドラゴニア帝国の使命を、忘れたわけではあるまいな…
「い、いえ! 決してそのような事は! 再びこの世界、エンディアスに、ダークドラゴン様をお迎えし…、この世を闇の支配する、理想の世界へと作り変える。それこそが我ら、ドラゴニア帝国の使命! このバルドル、黒竜教団の司祭を務める者として、一時たりともその使命を忘れた事はございません!」
「ちっ、始まったぜ。[ダークドラゴン様のお声]とやらがよ」
「ダークドラゴン様は何故このようなどうしようもない者にだけお声をお伝えになるのか…。理解できんな」
ダークドラゴンの声はバルドルにしか聞こえていない
それゆえに、端から見ればただの独り言にしか見えないのだ
「お、おぬしら…!!」
そんな発言をきっちり聞き取っていたバルドルはまたこめかみをひくつかせ―――
…放っておけ。お主は下らぬ事に目を向けず、心してその務めに励むがよい。…まずは復活に備え、我が体を再構成するに充分な量の糧を捧ぐのだ。今のままでは到底、地上への再臨など叶わぬ…
「は、ははぁっ!! 早急に、そのように取り計らいまする!!」
…よいか、急ぐのだぞ…
「…むぅ、これはいかん。計画を急がねば! アルベリッヒはいるか! それと伯爵も! 例の計画はどうなっておる!」
「…今のは、本当にダークドラゴン様と話をしていたのか? ただのくさい一人芝居ではないのか…?」
どこまでも苛立つ事を言うアルベリッヒにバルドルは
「あ、アルベリッヒ…! いい加減に…!」
「まぁまぁ。お二人共冷静に。では、ご報告は私の方から…」
そんな二人に割って入ったのが白い髪に、右目に眼帯をした貴族のような服を着た男、伯爵だ
「私とアルベリッヒ将軍は、ベスティアで例の[装置]の稼動実験に成功いたしました。ダークドラゴン様に、充分な量のソウルを安定してお送りできるようになるのも、もう間もなくかと」
「そうかそうか…! ならば実用機の方もいけるのだろうな?」
「ええ、設計はすでに完了しています。改良により、実験機よりも、吸収効率を二割ほど上げられる見込みです。ベスティアで収集装置が本格的に稼動し、もう一つの計画も起動に乗れば…。二ヶ月ほどで、ダークドラゴン様の復活に必要なソウルエネルギーを確保できる計算になります」
伯爵はニィ…と気味悪く笑んで
「恐怖や憎しみ、悲しみ…そういった負の感情をたっぷり含有した、良質のソウルがね」
伯爵の報告に気を良くしたバルドルは口に大きい笑いを作り
「うむ! よくやった! ということは、だ…。ファフナー! ファフナーはおるか!」
バルドルの声に応じるように暗闇から現れる漆黒の騎士
「ファフナー、お前にあの娘を預けて、すでに数週間になる。例の計画の準備は進んでいるのか?」
「ご心配なく。バルドル様。歌姫(ローレライ)の魂は、すでに我らドラゴニア帝国のモノ。歌う歌は、すべてダークドラゴン様を讃える歌…」
再び、闇から現れる一人の人影
深紅の鎧を纏った一人の歌姫(ローレライ)
それは、瞳の光を無くした、ただ無機質な人形のようなローゼリンデ―――
「闇の乙女の戦支度、全て整っております…」
「うむ。さすれば最後は…。…ラグナ! ラグナ=ザ=ブラッドエッジはどこか!」
「…はいはい、なんすかー…。今天玉うどん食べようと思ってたんスけど」
ファフナーが出てきた所からまた一人の男が現れた
銀髪に、右目が紅、左目が蒼という出で立ちに、朱いコートを着込んだ男がうどん片手に入ってきた
他の人物とは打って変わってやる気なさげなこの男
「えぇい! 相変わらず緊張感がないな貴様は! うどんなど後にせぇい!」
「あぁ!? ンだとこらぁっ!! ようやく飯にありつけると思ってたのに奪う気か俺の天玉うどん!」
譲る気ゼロなラグナとこれ以上言い争っても無駄である
そう判断したバルドルは
「なら食した後で構わんから、貴様はファフナーについていけ! 二人を援護するのだ!」
◇◇◇
バルドルからそんな事を命じられた
正直かったるいことこの上ないが、これも仕事だ
行く他ない
(ちっ…ウサギのヤロー…)
軽い気持ちで受けた仕事がこんなだとは
ラグナはさっさと終わらすべく、天玉うどんをすすりながらファフナーの後を追う
「…行儀悪いぞ、ラグナ」
「うるせぇよファフナー。いちいち細かいこと気にすんな」
とある世界のとある城
「…む」
不穏な気配を感じたレイチェルはテーブルの上にティーカップを置いた
「君も感じたのか」
「君[も]、ということは、貴女も?」
レイチェルと対面して座っているのは蒼崎橙子
「えぇ。…正直面倒だけど、私たちも動かないといけないかしら」
「私は君の意見に従うよ。私は客人だからね」
橙子は相変わらずタバコを吸いながらふぅ、と息を吐く
「そうね。…ラグナも動き出したし、そろそろ私たちも行こうかしら」
「…その彼に動くよう依頼したのは君だろうに…」