シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
蒼天に響くアリア 1
アラタは今までお世話になった人らに挨拶を済ませる
まずは武器屋のグレゴリだ
「また手入れが必要になったら来な」
「おう。そんときゃよろしく頼むよ、おっちゃん」
固く握手を交わしてアラタはその場を後にする
そして次はパン屋のジュリアである
「いつでも帰ってきて大丈夫だから。ね」
「はい…、お世話になりました…」
ここの挨拶はアルティナと一緒に行った
ジュリアはアルティナを撫でながら優しく微笑んでそんなことを言ってくれた
「じゃあちょっと行ってきますね」
「ええ、無茶はしないでね」
名残惜しくアルティナから手を離し、ジュリアは二人を送り出してくれた
「さて、行こうか、アル」
「えぇ、わかってるわ」
挨拶を済ませサクヤらに合流し、氷の精霊王に承認をもらうべく、砦を出発した―――
◇◇◇
砦を発ったサクヤら解放戦線は、エルミナに導かれ、ヴァレリア地方の東方を治める彼女の呼吸、聖王国ルーンベールを目指していた
精霊力の低下により、不安定となった自然の驚異と、ドラゴニア帝国の襲撃
二つの危機に見舞われたこの地を、救う事ができるのか
[シャイニング・ブレイド]を受け継ぐ勇者を呼び寄せた、アイラの思惑とは―――
◇◇◇
ヴァレリア地方東部に位置するルーンベールは、温暖な気候で知られる平和な農業国だ
だが今は、領内全域が猛烈な寒波に襲われて、国土の七割が雪と氷に閉ざされていた
この現象は、精霊力の極端な低下と、何か関連があるのか…
その謎を探るため、そして精霊王に会い、[シャイニング・ブレイド]の解放の承認を得るために
吹き荒れる吹雪をかきわけて、ルーンベール領内に足を踏み入れる―――
◇◇◇
ルーンベールの領内にある街、クレリアに踏み入れたときアラタは純粋にこう思った
(…寒い)
現在寒波が吹き荒れるこの街では、厚着で来ないともれなく震えることになる
「み、み、皆様…。ルーンベールへようこそ…、る、ルーンベールにいるあいだ、この街を拠点として…、拠点……、はは、は、はくちゅんっ」
寒さにやられ、エルミナが可愛いくしゃみをした
「あ、大丈夫かエルミナ。ほら、寒いようならマント羽織って」
「…む」
アラタは言ってマントを渡しエルミナのマント二枚重ねにする
…何やらアルティナの視線が気になったが
このマントはアルゴ砦の武器屋グレゴリがくれたものだ
さすがにこの寒さの中薄着でいるのは自殺行為だ
「あ、ありがとうございます…。すみません。いつもなら、このあたりがこのように寒くなることはないのですが…」
エルミナの呟きを聞きながら地面の雪を手に取った龍那が
「確かに、この気温の低下は尋常ではありません。この地に住むという氷の精霊王の力が、おかしくなっているのでしょうか?」
「アイラ様も、そのような事をおっしゃっていました。…でも、どうしてそのような事が…」
エルミナの問いに龍那が考えながら
「そう、ですね…。例えば、精霊力の源である精霊王が、その役目を果たせない状態にあるとか。…あるいは、すでに存在していないとか」
「存在していないって…、それってマズいじゃないか! ユキヒメっていうか、[シャイニング・ブレイド]を解放するには、精霊王の承認を得ないといけないんだろ? もしいなくなったら、承認どころじゃないぜ?」
確かに、もしそんな事だったら、今までの苦労が全て無駄になってしまう
できるなら、そのような事態にはなって欲しくはないが…
「精霊王の安否を確かめる方法はないのか?」
代表しフェンリルが問いかけた
その問いに龍那は再び考えて
「そうですね…。確かこの国には、古代種のドラゴンが住んでいるはずですね?」
エルミナを見ながら龍那が聞いた
「はい。霊峰グレイシアに、氷竜エールブランが…」
「古竜たちと精霊王には、深い関わりがあります。ルーンベールを守護する氷の精霊王については、エールブランに尋ねてみるのがいいでしょう」
龍那は霊峰グレイシアを仰ぎ見ながら
「もしかしたらアイラ姫も、同じように考えて行動しているのかもしれませんね。やはり、北の山に何かが…」
同じようにフェンリルもその方角を見つめエルミナに問う
「…霊峰グレイシア、か。アイラ姫は、そこで待っているんだったな」
「はい。山の方はここより気候が厳しく、しかも敵の勢力圏内にあります。その中に、アイラ様はたった一人で…」
ということはいずれにせよ、山に行かないといけない
まずやるべきことは、山に近づくルートの安全確保、そして、山に登って…、ドラゴンとアイラに会う
これが大筋なプロットになりそうだ
「こんなんで大丈夫かな、エルミナ」
先ほどサクヤと話し合って決めたプロットをアラタはエルミナに話してみた
「はい、よろしくお願いいたします…」
エルミナはたどたどしい様子で承認してくれた
「よしわかった! ならやるべき事は一つだな、まずはこのあたりから、敵を片付けて行こうぜ!」
わかりやすく纏めたレイジの言葉を聞きながら、次なる目的を決定する
まずは、エールブランとアイラに会う―――
◇◇◇
目的が決まったといえど、任務の作成するのはサクヤだ
到着した当日は恐らく任務はないだろう
だからアラタはこの街、クレリアを練り歩く事にした
今、寒波に襲われて猛烈な雪が降っている
しかし案外グレゴリからもらったマントが暖かいので、寒さは感じない
グレゴリさん、いい仕事してるね
「…あれ?」
練り歩いてる時、アルティナと遭遇した
「アル。散歩か?」
「似たようなものよ。アラタは?」
「言わずもがな、散歩だよ。街の散策って好きなんだ」
それを聞いたアルティナは若干呆れながら
「貴方も暇ねー…」
「お互いさまだよ」
「な! 勝手に一緒にしないでよ! 私は、サクヤさんに頼まれて、夕飯の材料買ってたの!」
そう言ってアルティナは手に持っていた袋をアラタに見せつけた
一応用事だったようだ
「はは、みたいだな。悪い、勝手に変なこと言って」
「全くよ」
もお、とアルティナは呟いたあと聞き取りづらい小さな声で
「…私にはマント貸さないくせに…」
「え? なんて?」
「な! 何でもないわよ!」
アルティナに怒られた
…なんでだ
ふとアルティナの肩を見ると若干ながら震えている
(…やっぱりアルも寒かったのか…。さすがにマント一枚じゃ寒いよね…)
今更後悔など意味はない
考えて考えてアラタは
ばさーっ、と自分のマントをアルティナに被せた
「…へ?」
状況が理解できないアルティナはただ戸惑いながらアラタの顔を見つめるばかり
「寒かったんだろ? 気配りできなくてごめんな」
「べ、別に、私は…」
「じゃ、俺はもう少し街を見て回るから。そいじゃっ」
そう言ってアラタは踵を返すとまた歩いていった
「あ、ちょっと、アラタっ…」
呼び止める暇もなくアラタは歩き去ってしまった
少しの間呆然としてしまったがやがてマントの端を握り締め無意識に小さく笑みを浮かべてまた歩き出した
◇◇◇
「お帰りなさい、アルティナ。…あら、そのマント」
「あ、気にしないでください。勝手にくれたから、もらっただけですから」
そう言い返すアルティナの顔はとてつもなく嬉しそうだ
とてつもなくとは言い過ぎだがとにかく嬉しそうである
「…~♪」
(鼻歌まで歌っちゃって…。とても嬉しかったのね)
夕飯の支度をしながらサクヤはそう思うのだった
◇◇◇
その日の夜
「…眠れません」
皆が寝静まった夜、エルミナは寝付けずに起きてしまった
「…少し外を歩いてみましょうか…」
エルミナは立ち上がって着替える
そして壁に掛けてあったマントに手をかけて羽織る
そしてエルミナは夜のクレリアへと足を踏み入れた
◇◇◇
「うー…やっぱりマント羽織ってても寒いですー…」
マントの中で自分を両手で抱きながらゆっくりと歩く
「だ、誰かいないでしょうか…」
と、そんな願望を口にするが当然誰もいるはずなく
「…うぅ…。早く眠くなってくださいー…」
外で眠ってしまったらそれは死を意味するが
「…あれ?」
そんなエルミナの視線の先に見覚えのある顔が見えた
アラタだ
「…アラタさん?」
どうやら片手に何か持っているようで、どこかに向かっているみたいだ
「…、」
ちょっと好奇心が芽生えたエルミナはこっそりついていく事にした
◇◇◇
「…お、いたいた。捜したぞ」
目的のヤツを見つけて、アラタはそんなことを呟いた
一方でヤツもアラタを視認すると、アラタの足にゆっくり歩いていって頬擦りをしてきた
すり寄ってきたのは白ネコだ
砦からここに来るまでの道のりで見つけてはいた
気になって、探しにいき、もしいたらなんかあげようかな…、と思ったら見つかったのだ
足元のネコをアラタは優しく撫でていく
そして手元に持ったミルクをカップに注ぎ、ネコにあげる
ネコはミルクを見ると駆け寄ってペロペロと飲み始めた
こう見ると可愛い
「ネコはいつの時代も可愛いなー…」
ペロペロと飲んでいくネコを撫でながら無意識にアラタは声を出す
そしてもう一人いる観客にも声をかけた
「エルミナ、出てきても大丈夫だよ」
「わひゃ!?」
びっくりした声が聞こえてやがて数分の沈黙
そしてゆっくりとした足取りでエルミナが顔を見せた
「き、気づいてらしたんですか…?」
顔を赤くしながら恥ずかしそうに聞いてきた
「うん。足音が俺のとは別に聞こえたからさ」
「…アラタさんは忍者さんみたいですね…」
苦笑いを浮かべるエルミナを見ながらアラタは再度ネコを撫でる
「あ、アラタさんはなにをやっていたのですか?」
「いや、クレリアに来る途中に、見かけたからさ。夜中に捜してみたら案の定、ね」
アラタに撫でられているネコは気持ちよさそうに目を細めて身を委ねている
「エルミナこそどうしたんだ? こんな時間に」
「わ、私は…ちょっと、寝つけなくて…」
「ああ…、なるほど。なんとなくわかった。そんな日ってたまにあるよな」
アラタは今度首の下あたりをわしゃわしゃし始めた
やっぱり白ネコは気持ちよさそう
一通りなで終わるとアラタは白ネコを解放し、野に放った
「んじゃまたな、ホワイトネコよ」
アラタが呟くと白ネコは「にゃー」と鳴きながらまた雪の中へと消えていった
「とても懐かれてるんですね…」
「そうかな。単に餌付けに成功しただけかも―――」
「そんなことありません。あの白ネコさんは、きっとアラタさんの事が大好きです」
こう真っ向から大好きなどと少々こっぱずかしいものがある
アラタは軽く頬を赤らめ少しそっぽを向いて
「あ、ありがとう…」
静かに返した
◇◇◇
「じゃあお休み、エルミナ」
白ネコとの交流が終わり、クレリアでの彼女の部屋の前まで送り届けると、エルミナにそう言った
「はい。アラタさんもお休みなさい」
エルミナは礼儀正しく一礼すると、アラタに笑顔を浮かべた
「うん。じゃあ改めて、お休みな、エルミナ」
そう言ってアラタは自室へと戻ろうとした時に
「あ、あのっ…」
エルミナが声をかけてきた
「…?」
「ま、また…、ご一緒して、よろしいでしょうか…?」
「? あ、あぁ。問題ないよ」
そう返すとエルミナはまた嬉しそうに笑顔を浮かべて
「はいっ、ではまた明日」
と彼女は部屋に戻っていった
「…どうしたんだろ、エルミナ…」
彼女は男性が苦手、と聞いてはいたが…
(…そうか。まずは俺で男性に慣れようという事か)
そういうことならば納得だ
いつになるかはわからないが、また白ネコと戯れる時は誘ってあげよう
…いかん、眠気が襲ってきた
確かにもういい時間だ
「…さて…俺も寝るか」
睡魔に後押しされてアラタも自分の部屋へと足を運んだ