シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
翌日
「…朝はより冷えるな」
本来ならもう少し寝ているところだが、寒気に負けて起き上がった
「時間的には、朝ご飯の時間かな…、よし、手伝いに行こう」
ぐっ、と握り拳を作ると意気揚々とアラタは自室を後にした
◇◇◇
「おはようございます、サクヤさん」
「あら、おはよう、アラタ。早いのね?」
アラタは朝ご飯の調理を手伝うべく、調理場へとやってきた
「ホントはもう少し寝てたかったんですけど、起きちゃいました」
「ふふ。貴方でも寒さには勝てなかったみたいね」
朝ご飯に使うであろう食材を切りながらサクヤが笑いながら言ってくる
それに対してアラタは苦笑いを浮かべながらはにかんで
「なんか手伝えるのってありますか?」
「あ、じゃあパンを用意してくれないかしら?」
「お安いご用です」
サクヤにパンの場所を聞き、人数分を用意し皿に盛る
結構な数だ
「どう? 皆とはうまくやってる?」
サクヤを手伝い、食材を切り初めて数分
唐突にサクヤがそんな事を聞いてきた
「うまくやってる…と聞かれましても。まぁうまくやってる…と思いたいですね」
「ふふ、それは良かったわ」
笑顔を浮かべながらサクヤは言葉を続ける
「何かわからない事があったら、遠慮なく聞いてちょうだい。力になるから」
流石は人を率いるヴァレリア解放戦線の隊長
気配り上手である
「…あ、じゃあ一つ聞きたいことが」
「あら、何かしら? 私がわかる範囲なら答えてあげるわよ」
そういうことならばアラタは遠慮なく聞ける
「サクヤさんは…、ムラサメって、ご存知ですか?」
◇◇◇
霊峰グレイシア
その山頂にて
「…まだかかりそうだな、エルミナは」
静かに呟いたのは金髪に碧眼、青い軍服に身を包んだ青年
「そんな事を言うな。エルミナとて奮闘しているんだ。私たちはそれを信じて待ってやらねば」
「そんな事はわかっている。というか、相変わらずエルミナには甘いな、アイラ」
「愚問な事を言うなジン。目に入れても痛くないくらい可愛いのだ。…あぁ、大丈夫だろうか」
そうぶつぶつと呟くアイラを見ながらジンはやれやれ、といった感じで首を振った
「この過保護なところ、どうにかならないものか…」
そんな他愛もなく、かつどうでもいい事を考えながら、ジンは時間をやり過ごす―――
◇◇◇
「ムラサメ…。たしか、ユキヒメの姉妹弟子…、だったかしら」
「知ってるんですか?」
「軽くかじった程度だけど。…所有者の魔力を、自身の刀身へと宿す事で、切れ味を増し、決して折れる事はない不屈の刀…、って書物には書いてあったわ」
「所有者の魔力?」
サクヤは朝食の用意をしつつ、視線を手元に落としたまま
「ええ。もちろん、それはムラサメの意志でONとOFFが切り替えられるんだけど…」
だがムラサメが霊刀となった時、力が暴走し、魔力を喰らう妖刀へと変わってしまい…
「それで、ムラサメの希望で、どこかの洞窟へと封印されたって…、私は聞いたけど」
そこで一度手を止めてアラタの方へと振り向いた
「なるほど…」
アラタはそれに軽く頷きながら再び野菜をスライスし始めた
トントン、と小気味よい音が―――
ザク
今、とても形容し難い音が耳に届いた
「…アラタ?」
流石のサクヤも若干顔色を青くしながら恐る恐る聞いてみた
「…、」
左手の人差し指
ざっくりやられておりました
「…やっちゃいました」
「やっちゃいましたじゃないでしょう。…もう」
少し呆れたような顔色でサクヤは調理場を見回した、がどこにもあるのも使用済みの台拭きばかりだ
「…仕方ないわね」
そうつぶやくとサクヤは躊躇なくアラタに指をその口に含む
「!? さ、サクヤさん!?」
少し指から流れる血液を吸った後に、軽く指で拭ったあとどこからか取り出した絆創膏で指をまいていく
「はい。おしまい」
「あ、ありがとう…ございます…」
顔を真っ赤にしながらアラタは小さく感謝の言葉を口にした
「どういたしまして。けど、怪我治るまで料理のお手伝い禁止ね」
「えぇ!? マジですか!?」
◇◇◇
朝食の手伝いを終了し、できるまで、そして先ほどの出来事で火照った頬を落ち着けるまでふらつく事にした
「うー…、ヘタこいたなー」
左手の人差し指を見つめながら呟く
同時に先ほどの出来事を思い出してまた顔を赤くする
それにしてもいまどき考え事してたらざっくりやってしまうなんて
「おはよーアラター」
前方からの見知った顔
アルティナだ
「あ、おはよう。アル」
「早いわね相変わらず。疲れない? …あれ、なにしたのその指」
アルティナの視線がついさっき怪我した人差し指に注がれる
「あ、いや、これは…」
特に隠す必要はないのでゆっくりと順を追って説明をする事に
説明中
「…馬鹿ねぇ、全く」
「おっしゃる通りでございます…」
自分で言ってて恥ずかしい
「んー、けどそっかー」
と、アルティナが呟く
その声のトーンはどことなく残念そうな声色で
「怪我が治るまではアラタのご飯が食べられないのかー…」
罪悪感
うう、なんだかんだと言いながらそういえばアルティナは純粋に自分の料理を美味しいと言ってくれた人だ
とりあえず怪我が治ったらアルティナの好きな物を作ってあげよう
そう心に誓いながらアラタとアルティナは歩いていく
特に会話はなかったが、その沈黙は決して悪くはなく、むしろ心地良いもので―――
「そう言えば、昨日の晩どこ行ってたの?」
「昨日の晩?」
「とぼけないでよ。昨日の晩、ミルクとお皿持って外に出かけてたじゃない」
とても詳しく見られていた
流石はエルフ…、いや、関係ないが
「ちょっと野暮用にね。散歩だよ散歩」
その発言をした直後、アルティナのジトーッとした視線がアラタに突き刺さる
「ふーん。そーなんだ」
棒読みなのが怖い
なんだろう、確かに白ネコと自分は戯れていたのだが(途中からエルミナも参加)
「もし良かったら、その内アルもいくか?」
「あら、いいの? じゃあ行くときに声かけてよね」
一転、微笑んだアルティナは嬉しそうにはにかんだ
「お。相変わらず仲がいいなー二人は」
「うむ。仲良きことは素晴らしきことだな」
そんなときまた見知った顔と出会った
レイジとユキヒメである
トレーニングが終わったあとなのか、レイジは軽く汗をかいており、首には白いタオルが巻かれている
「トレーニング終わりか?」
「ああ。軽く動いた方が朝飯ももっと美味しく食べられるし、自分も鍛えられる。一石二鳥じゃないか」
わかりやすかった
いや、気持ちはわからなくもない
「そろそろ朝ご飯も出来上がる頃だし、酒場にでも行きましょうか」
アルティナの提案に三人とも頷いて酒場へと足を踏み入れる
メニューはコッペパンに野菜のサラダ、コーンスープとフレッシュな洋風ブレイクファーストだった
◇◇◇
朝食を終え、特に用はなかったのだが、ふらふらとアラタは再び酒場へと訪れた
「あれ」
しかし酒場にはすでに戦線のメンバーが集まっており、その先にはエルミナが何かを話をしている
アラタを見つけたフェンリルが
「アラタか。ちょうどいい、お前もエルミナの話を聞いておけ。ルーンベールの騎士団から得た情報だ」
「騎士団?」
その疑問を口にすると率先してエルミナが答える
「はい。この国の聖騎士団の皆さんから、色々な情報を伺ってきました。…えっと、何からお話しましょうか」
尋ねるようにエルミナは周囲を見渡しながら聞いてくる
アラタは急ぎレイジの隣へと座り、耳を傾けた
「まずはこのあたりの帝国軍の様子を教えてくれ。特に、敵の指揮官が誰なのか知りたい。アルベリッヒという名前は出てこなかったか?」
今まで黙って話を聞いていたリックがエルミナにそんな事を問うた
アルベリッヒ、とはいったい誰だろう
自分は一戦交えたスレイプニルしか存在は知らない
まだスレイプニルみたいな幹部がいるのだろうか
「アルベリッヒ、ですか? いえ、その名前は出てきませんでした。私が聞いたお話では、相手側の指揮官は、スルトという狼の獣人だとか」
「スルト、…だと?」
スルト、という名前が出た途端にフェンリルの声色が酷く冷淡なものへと変わる
否、フェンリル自身の雰囲気が変わったのだ
「どうしたんだ? なにか、心当たりでもあるのか?」
なんとなく、本当になんとなくと思ったレイジがさりげなくフェンリルに聞いた
それに対してフェンリルはやはり冷静に
「…あぁ、ちょっとした心当たりがな」
ただ静かにそう返したのみだった
誰しもが疑問を過(よ)ぎらせたまま、再びエルミナから話を聞こうとしたその時
「副隊長っ!!」
血相を変えた兵士が酒場へと飛び込んできた
「どうした!?」
「こ、こちらの補給部隊が、狼の獣人軍団に、襲撃を受けて…!!」
狼の獣人―――
「…スルトか!! まさか、こんなに早く出てくるとは!!」
フェンリルの顔に怒りのようなものが混じった表情になる
言葉一つでは言い表す事ができないような、そんな表情
「ヤツが出てきたとなると、補給部隊の連中が危ない! 皆、行くぞ!!」
フェンリルの号令を聞いて皆が一斉に立ち上がる
しかし終始、フェンリルは殺気を放ったままだった
◇◇◇
「蛇翼(ジャヨク)―――」
身を軽く屈め、左足に力を込める
対象は、ヴァレリア解放戦線補給部隊の一兵士
「崩天刃(ホウテンジン)ッ!!」
ドガァッ!! と強力なハイキックが顎にヒットし、意識を奪う
その男の外見は黒一色の出で立ち
黒い帽子を被り、瞼は閉じたまま
その表情は、伺いしれない
名を、ハザマ―――
「一応、威力はセーブしておきましたが」
正直こんな仕事は割に合わない
あのクソ吸血鬼…、面倒な事を頼みやがって
「おいハザマ」
背後から自分を呼ぶ声
それは狼の獣人、スルトである
そして、今の自分の指揮官(一応)でもある
しかし指揮官と言ってもやっている事は力による圧倒的な蹂躙
品のない事この上ない
「…ん?」
スルトがハザマの下に倒れ付している兵士に視線をやる
じ…と睨みつけた後息があるのに気付くと
「…てめぇ、また殺り損ねやがったか!!」
スルトは声を唸らせると所持していた三日月のような紅い斧を振り上げて、そして、下ろした
バガン!! と頭蓋が砕け鮮血が広がっていく
「いつも言ってんだろ! 敵は確実にぶっ殺せってよぉ!!」
「あー。すいませんね。私指揮官どのみたいに力がないものでして」
のらりくらりと当たり障りのない事を言う
「んな事言って…、まさか手加減してるわけじゃねぇよな?」
スルトの眼孔が鋭くなる
対してハザマは
「まっさか。ほら見てください、こんな細い体であそこまで奮闘してるんですよ?」
両手をプラプラと振って見せる
いかにも自分は頑張っていますよ、と言わんばかりに
「…ふん。なら、いいけどよ。…ハザマ、俺はお前に、期待してんだぜ? 裏切ってくれんじゃねぇぞ?」
睨みを効かせながらスルトは再び別の場所へと歩いていく
ここいらの魂は操られた歌姫サマが回収していくだろう
ハザマにその魂を救済する手段はない
だから―――
ザン! とハザマは目の前に漂う魂の一つを彼独特のナイフで切り裂いて消滅させた
「悪ぃな。こんな事になってよ」
せめてもの、情け
「…ラグナちゃんなら、もっとマシに出来んだろうが」
ハザマは軽く黒い帽子を被り直すとまた歩き出す
「なんだっけ、敵さんの知り合いを引っ張り出す罠だとか言ってたけど…、ま、いいか」
どうでも良さげに呟いて歩を進める
「…あの戦線にはいんのかな。アラタくん」
帽子を抑え、開いた目から覗かせる黄色い瞳が空を見る―――