シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
「遅かったか…!!」
先ほどの兵士から連絡を受けて、補給部隊の元へと駆け足で来たが、残念な事に間に合わす事ができなかった
「…酷い…、いくらなんでもここまでやらなくても…」
視線に入ってくるのは言葉にするのも億劫な、悲惨な光景
荷台は完全に破壊し尽くされ、そこら中に兵士の遺体と思われる[ナニカ]が転がっている
「ああ…、やりすぎだぜこりゃあ…」
アラタの呟きに屈みながらレイジが同意する
「<…む…?>」
そんな時、ユキヒメが何かに気づいたように呟いた
「どうした。ユキヒメさん」
ユキヒメの呟きを聞いた式が問いかけた
<いや…、だが…、龍那、貴女は?>
ユキヒメは龍那へと話を振る
しかしこの会話の意味はアラタには全くわからず、ただ?を浮かべるだけだ
「い、いえ…、私にも全く。気配すら。いったいどういうことなのでしょう…」
龍那も困惑の色を隠さず、戸惑いながらも口にする
いい加減レイジはユキヒメに聞く
「なぁ、ユキヒメ。気づいたって、どうしたんだ」
問いかけられたユキヒメは一瞬ためらったが、やがて「<んっ>」と、呼吸を整えて軽く説明を始める
「<魂だ。…このように非業の死を遂げた魂は、その無念の念から、霊界に行く事もできず、その場に漂っている事が多い。…だが…>」
辺りは真っ白い雪原
破壊の爪痕
<ここには、そういったような念が感じられないんだ>
「…なるほど。誰かが導いた、と。そんなところか」
ユキヒメの後を継いで式が言葉を発した
「導いた…?」
アラタの呟きにサクヤが「いいえ」と否定する
「…導いたわけではないと思うわ。たぶん、奪われたのよ。帝国軍にね」
「<なっ! 奪われただと!?>」
なんて非道な事を…
その言葉を聞いたアラタは静かに拳を握り締める
アラタの他にその言葉に反応したのはもう一人いる
「魂を、奪う…!? サクヤさん、それは本当ですか!? 間違いないんですか!?」
リックだ
そういえばもう一人、行方がわからない友達がいると聞いていた
もし帝国軍に奪われたなんて考えたらゾッとする
「以前、似たような例を見た事があるわ。奴らは何かに利用する為に魂を持ち去るのよ。たぶん、ダークドラゴン復活に必要なんだと思うわ」
「まさか、そんな事が…! いくらなんでも、それは…!?」
普段冷静沈着なリックが明らかに狼狽している
やはり、もう一人の友達の安否が気になるのだ
そんな中、たった一人、憎しみと怒りを込めてある人物の名前を叫ぶ
「スルト…!! あの野郎…!! あのクソッタレがぁっ!!」
「副隊長!?」
フェンリルがあからさまに怒りを露わにしている
普段は厳格な様子のフェンリルがここまで怒りを露わにするのはいくらなんでもおかしい
その叫びに驚いた様子でレイジが彼を呼ぶ
「やるに事欠いて魂にまで手をかけるとは…!! ここまで堕ちたのか!! ここまで腐っちまったのか!!」
明らかな激昂ぶりにレイジは額に汗を掻く
「こんなに怒った副隊長、初めて見た…。魂を奪うって、いったいどういうことなんだ…」
「<レイジ。このエンディアスは、エルデよりも、魂というものに、ずっと重みがある世界だ>」
レイジのふと浮かんだ疑問にユキヒメが答えていく
「…レイジ、もしアミルとエアリィがあんなことになったらって考えるんだ。そうすれば、リックとフェンリルの反応の意味が分かるはずだ」
「そうか。そう いえばあの二人も一度は帝国軍に…。…て、待てよ、…それじゃあ、魂を奪うっていうのは…」
「…アミルや、エアリィをもう一度殺す事と一緒だ」
自分で言っておきながら、拳に自然と力が入る
「けどユキヒメ。一個だけ訂正だ」
む? とユキヒメがアラタの声に耳を傾ける
「世界ごとに軽い思いなんて決まってない。どの世界でも、どんな場所でも命は何にだって一つしかない。それをもう一度殺すような真似、許しちゃおけない」
<アラタ…>
「アラタの言うとおりだぜ! こんなことする帝国の奴ら、絶対許さねぇ!!」
アラタの言葉にレイジが同意し、同じように決意を述べる
「レイジ、アラタ! その怒りを戦いでぶつけてやれ! 帝国はこの先にいるハズだ!」
フェンリルは先を睨みつけ
「奴らを追い詰めて、二度とこんな事ができないようにしてやる!」
◇◇◇
雪原を進んでいくと帝国の軍勢が見えた
しかし、その狼の獣人とやらは見当たらない
「この部隊の指揮官は、スルトで間違いないんだな?」
情報を確認するべく、フェンリルは隣を行くリンリンに確認をとる
「間違いないよ! 黒い狼の獣人を見たって情報があった!」
「ならスルトは敵の先行部隊と一緒か、目の前の連中を片付けて、スルトを追うぞ!」
フェンリルに号令が響く
目の前の奴らを蹴散らして、そのスルトを倒す
ただ、それだけだ
◇◇◇
「はぁっ!」
アラタの刀から飛ぶ斬撃が繰り出される
その一撃は刃となって、惨劇の戦場を駆け巡る
「アラタに続けぇっ!!」
再びフェンリルの号令が戦場を包み込む
「ワオ! 相変わらずの精度だね、アラタっ!!」
「褒めたってなにも出ないよ!」
アラタは日本刀で斬りながら、時には体術をと切り替えながら倒し進む
「リンリン!」
「ほい来た!」
アラタの誘いにリンリンが合わせる
目の前のドラゴニア帝国軍兵士に対し狙いを定めて、日本刀を突きだした
帝国軍兵はその一撃を間一髪のところで回避するが―――
「残念、それ、囮なんだっ!」
リンリンの鋭い拳撃が帝国軍兵の顔面にクリーンヒット
帝国軍兵はその場にばったりと倒れ動かなくなった
「あたしも負けず劣らずねっ」
「その拳撃の冴え、惚れ惚れするね」
「やだ。誉めてもなんも出ないわよ?」
そんな軽口を叩きながら帝国軍のモンスターを蹴散らしていく
◇◇◇
まずは敵軍の第一陣を殲滅
目標の一つを完遂させた
「副隊長、スルトは?」
リックの問いにフェンリルは地面の一点を見つめながら答えた
「獣人の足跡を見つけた。この先にいるに違いない!」
ここシルディアは現在寒波に見舞われている
否が応でも足跡は残ってしまうのだ
「よし、行こうレイジ」
「わかった、逃がすもんか!」
先陣するレイジをアラタが追う
それを追ってフェンリルたちも進軍した
◇◇◇
「スルトぉ!」
開口一番フェンリルが名を呼んだ
目の前に現れたのはどっしりと身構えた獣の獣人、スルト
そしてその隣に黒い服を着こなした男が一人
しかしフェンリルの視線はスルトにしか注がれていない
「スルト…。あれはお前のやった事か? こちらの補給部隊を皆殺しにしたあげく、魂まで手にかけたのは…!」
スルトは特に何事もないように、さも普通に答えた
「補給部隊? ああ…、あの連中の事か。おうよその通り。殺ったのは俺だぜぇ? …だったらどうした。あぁ! フェンリルさんよぉっ!!」
その発言を聞いたフェンリルは一層怒りを表情に露わにする
「やはりか…!! この外道っ…!!」
そんな怒りを見せるフェンリルにスルトは舌を出して豪快に笑い始めた
「ぐははははっ!! そいつぁ嬉しい褒め言葉だぜぇっ!! お礼に…、お前らも連中とおんなじ目にあわせてやるよっ!!」
スルトがいきり叫んだ
それと同時にスルトの配下であるボーンファイターたちが一斉に行動を開始した
「貴様だけは…!! 俺が討つ!!」
先陣を走るフェンリルに続いて、レイジやアラタたちも後に続く
「…あんな汚い獣と戦りあいたくないんだけどな…」
唯一式だけは気乗りはしなかったが
◇◇◇
いましたねぇ
彼が、アラタくん…
スルトがギャアギャアわめく隣で、ハザマは静かにアラタのみを見据えていた
(…まだ[深蒼の魔導書]を使いこなせてないみたいですねぇ…、ですが、彼の力量を計ってもいいかもしれません)
ハザマは両手にナイフを忍ばせて、歩きだす
「やれぇっ!! 奴らをぶっ殺せぇっ!!」
前線へと自らが突っ込み、率先して戦うスルトを見ながら
(…うるっせぇなぁあの犬っころ。マジでブチ殺してぇ)
内心そんな事を毒づきながら、アラタへと接近していく
◇◇◇
「スルトぉ!」
群がる兵士やモンスターを一蹴し、フェンリルはスルトの元へ猛ダッシュしていく
スルトは近寄ってくるフェンリルをニタリと笑いながら待ち構え、そして自身の獲物を握る
「はぁっ!」
フェンリルは自身の両腕に装備されている鈎爪[黒死武双]を展開させてスルトへと突撃する
「甘ぇよフェンリルさんよぉ!」
スルトはその一撃を避けて三日月の形をした斧で首を狩ろうと一気に下から上へ凪いだ
「ちっ!」
フェンリルは一度鈎爪を閉じ、華麗なバク転でその斧の攻撃で避ける
「答えろスルト! なぜこんな…!!」
「野郎をぶっ殺すのに理由がいるのかよ!! あぁ!?」
フェンリルの問いに返答しながら、スルトはゲラゲラと笑い、攻撃を繰り出していく
「フェンリルさん!」
「アラタ!」
「あぁん!?」
スルトがドスを利かしたように睨む
「アンタが補給部隊を壊滅させた奴らの親玉か!」
「ハッ! だからなんだよ、いちいち聞いてんじゃねぇよ!!」
その言葉を聞いた時、アラタの心は確実に決まった
コイツだけは、絶対許さない――
「せいやぁ!」
唐竹に振り下ろした刀の一撃は、いとも簡単に腕につけた篭手で防がれた
この汚い金の鎧は伊達ではないようだ
「く…!!」
「なんだぁ…! んな弱ぇ力で、俺に触るんじゃねぇ!!」
「っと!!」
なんとか第六感で危機感を予測したアラタは咄嗟に身を後ろに飛び、振り下ろした一撃を回避し
「そこ!」
アラタがステップで後ろへ回避したタイミングを見計らってアルティナが矢を放った
「ちぃ!」
同じように篭手で矢を弾きながら、スルトも一度距離を取る
…ただの戦闘狂かと思ったが、なかなかやる
アラタは呼吸を整えて再び刀を構えて―――
「蛇刃牙(ジャバキ)!!」
背後に感じた悪寒に驚き咄嗟に前に転がって場所を移動する
背後には黒一色に身を包んだ男―――
「アララ、避けられちゃいましたね。結構頑張って気配を消して近づいたんですけど」
「…誰だ貴様」
「そうですね…、名乗るだけは名乗っておきましょうか。…私、ドラゴニアのハザマと申します」
ハザマと名乗った男は帽子に手を触れながら顔を覗かせる
目は閉じてるとも開いてるとも言えなく、表情は常に笑みを浮かべている
<気をつけろ、アラタ…、コイツ、かなりやる>
「ああ…。油断できない…!」
「見させてもらいますよ。貴方の力を」
ハザマは独特なナイフを両手に持ち、接近し切り込んできた
◇◇◇
「うおぉぉらぁっ!!」
ドガァン!! と大地が震えるほど大きい一撃が地面を抉る
「副隊長!」
「レイジか! アラタはどうしている!」
「なんか、よくわかんない男と交戦してる! サポートには、アルティナがついた!」
簡潔な説明を聞いたフェンリルは一度、アラタの方を向いた
素早い動きをする男とアラタが戦っている
こちらの援護を頼みたかったが、あの様子では難しそうだ
「よし…! レイジ、連携でいくぞ」
「はい!」
フェンリルとレイジはそれぞれの獲物を構え、スルトの動きに備える
「へっ! 雑魚が増えたところでどうって事ねぇぜ!」
「雑魚がどうかは、やってみないとわからないぜ…!」
「<見せつけてやれレイジ! 魂を軽んじる不届き者を成敗するぞ!>」
「ああ! 任せとけユキヒメ!」
◇◇◇
「ぐっ!」
一体何なんだこのハザマという男は
時折鎖のようなものを上に放ったと思ったらすでにその場所へ移動しているのだ
その変則的な動きにアラタはついていく事が出来ずにいた
「どうしました? 動きが止まっていますよ」
ヒュンヒュンと繰り出されるナイフを防ぎながら反撃のタイミングを伺うが、全く隙がないのだ
「…くっそ…!」
◇◇◇
(…悪くはない、…中々に期待はできますね)
ナイフによる連撃を繰り出しながらハザマはそんな事を考えていた
(…危険ですが、賭けてみますか)
ハザマは一度攻撃を止めて、一瞬待つ
「っ!」
それを好機と見たアラタは斬撃を繰り出そうとしたその時に
「足元がお留守です」
足払いをし、アラタの体制を崩して、胸ぐらを掴み
「絡めて、それっ!」
スルトの方へと蹴りつけた
◇◇◇
今まさに連携を叩きこもうとしたその時だ
「なっ!!」
「えっ!?」
「が、はぁっ!」
スルトの元へアラタが飛んできたのだ
「ハザマか!」
スルトは上手く片手でアラタをキャッチし、その大きな手で首を掴む
「が、あっ…!」
「テメェ! アラタを離しやがれ!」
「ヘッ! んな事言われてはいそうですかって、離すと思うのかぁ!?」
そう言ってスルトはギリギリと強く、アラタの首を絞めつける
「ぐっ、この…!」
アラタは決死の思いでスルトに刃を突き立てようとするが
「なかなかイイ獲物持ってんじゃねぇか。…ええ?」
スルトはニタニタと笑いながらアラタの刀をぶんどった
◇◇◇
「アラタ!?」
スルトという獣人に掴まれた光景を目の当たりにしたアルティナは言葉を失ってしまう
アラタが、負けた?
その事が何よりも信じられず、急いで弓を構えた
(助けないと…! 助けないと!)
焦りで視点が震える
このまま射てしまってはアラタを貫いてしまう
こんな肝心な時に、何もできないなんて
ゆえに見てしまったのだ
アラタが彼自身の刀で、スルトの手により貫かれる様を
「―――っ!?」
もう、何も出来なかった
◇◇◇
「アラタぁっ!!」
レイジの声が聞こえる
「いけない…!、アラタ!」
サクヤの声も響いてくる
朦朧とする意識の中、アラタは微睡んでいた
スルトによって刀が奪われ、腹を貫かれた時考えた事もない激痛が体中を駆け巡った
これが、死か
戦場にいる以上いつでも死ぬ覚悟はできていた
ただ死期が早まっただけ
…ああ、もう無理だ
徐々に視界が狭くなっていき、アラタは自分自身の死を受け入れようと―――
【ま…また、ご一緒していいですか…?】
ドクンと心臓の音が跳ねた
同時に意識も覚醒していく
エルミナの声が頭の中で鳴り響いた
【行くときに、声かけてねっ】
(…アル)
アルだけではない
サクヤ、レイジ、ユキヒメ
仲間の顔が次々に浮かび上がる
視界にエルミナが映った
ただ静かに涙するその姿を
視界にアルティナが映った
両手を目に当て、膝を床に落としただ悲しむその様を
視界にサクヤが映った
自分を助けようとして声を上げている姿を
(…まだ、死ねないな)
完全に意識が覚醒した
ああ、そうだ
まだ、生きないといけない
生きる、理由があるから―――
◇◇◇
「なんだ!?」
スルトの叫びで解放戦線の全員がアラタを見た
右腕が光り輝いている
「…あれは、もしかして…!?」
サクヤはある人物から聞いたその輝きの特徴を記憶に残していた
「記憶が合ってれば、あれは―――」
「
アラタが何かを呟いた
「
呟くたびに、莫大な力がアラタへと集まっていく
左手で自らに刺さっていた刀を抜く
抜いた箇所から血が吹き出す、がその血が止まった
「傷が…?」
アルティナの無意識に呟いた
彼の傷が塞がっていくのだ
先ほど刀で刺し突かれた場所だけでなく、至る所の怪我さえも
「[
ドォン! と彼を中心に魔力の爆発が巻き起こった
その風圧に耐えきれず、スルトは思わず距離を取る
煙が晴れたとき、全く雰囲気の変わったアラタが佇んでいた
右手が闇の魔力によって生成された獣の腕
両瞳は紅く、彼の背中には右側だけに同じく闇で作られた漆黒の片翼―――
「…、」
闇に彩られた、ただ一つの紅色がスルトを見据えた―――
ルビ振るのむずかしいですね…