シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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蒼天に響くアリア 5

 

二人の青年が木の枝を用い、模擬戦を行っていた

 

一人はユキヒメを振るうクラントールに召還された男、レイジ

 

一人はフォンティーナに流れついていた男、アラタ

 

調子を確かめるため、アラタはレイジに模擬戦を申し出た

 

レイジは快く承諾し、立会人にはユキヒメがやってくれると言ってくれた

 

…で

 

「はぁっ!」

 

「せいっ!」

 

二人の持つ枝が幾度となく交差したその時、ボキィッ! と枝が折れた

 

「あ?」

 

「れ?」

 

あまりにも唐突にそんな事が起こったためか、二人してそんなアホみたいな声を上げてしまった

 

「引き分け、だな」

 

立会人を務めていたユキヒメが二人に言った

 

「純粋に枝が耐え切れなかったのだろう。しかし、それは成長した証拠だ」

 

「そ、そうか…、け、決着は、お預けだな…」

 

「レイジ…、息、切れてるよ…、はぁ…はぁ…」

 

「アラタこそ…ぜぇ…ぜぇ…」

 

二人とも汗だくの状態で軽く会話を交わす

 

だいたい一時間前後ノット休憩で打ち合っていたから完全にスタミナ切れだ

 

「二人とも、まずは顔を洗うか汗を流してこい。もうすぐ朝食だからな」

 

ユキヒメに促されアラタとレイジは頷いて「またあとで」と挨拶を交わし一旦戻っていった

 

◇◇◇

 

「ごちそうさまでした」

 

ぱん、と両手を合わせて恵みに感謝

 

立ち上がり食器洗いを手伝おうかな、と歩を進めたとき妙な感覚がした

 

見られているような、そんな感覚

 

「…誰だ」

 

一気に振り向いて身構える

 

が、当然のごとく誰もいない

 

「…気のせいか」

 

そう結論付けて視線を戻す

 

 

 

かたり、とカップを皿に戻したような音がした

 

 

 

「!」

 

確実に誰かいる気配に驚きながら、今度こそと振りかえる

 

「…あら、なかなか反応が早いわね」

 

先ほどまでアラタが座っていた場所に、黒いゴスロリ風な衣装に身を包んだ、ツインテールの女性が座って、優雅に紅茶を飲んでいた

 

否、女性というよりは…、女の子と言った方が適任だろう

 

「なっ…!?」

 

「反応速度は百点。あとは[深蒼の魔導書(ブレイブルー)]が使いこなせれば、及第点ね」

 

ツインテールの髪飾りには黒いリボンがあしらわれており、それがどことなくウサギに見える

 

「て、ていうかどこから入ってきた! つかそれ以前にお前は誰だ!?」

 

「失礼ね。人に名前を尋ねる時はまず自分からって教わらなかったのかしら、この愚図」

 

「なっ…!!」

 

しかし言われてみればその通りなので怒りを抑えながら、アラタは自分の名前を告げようとする

 

「…俺の名前はア―――」

 

「私はレイチェル=アルカード。見ての通り見目麗しい可憐な女の子よ」

 

「喧嘩売ってんのかテメェはぁぁっ!!」

 

いや、違う、天性のサドだこの女…!

 

「悪いわね、案外あなたからかいがいがあるから面白くて。さすがね、アラタ」

 

「こ、このやろ…! あれ、なんで名前知ってんだ」

 

「それは私が神様だからよ」

 

「マジで!?」

 

「嘘に決まってるじゃない。バカなの貴方」

 

「こ、この…! …じゃあ名前、なんで知ってんだよ」

 

「ふふ…、私はなんでも知ってるの。なんでもね」

 

そしてクルリとその場で回って優美な手つきでスカートの両端をつかみ持ち上げる

 

そして悪戯な笑顔を浮かべ、軽くウィンク

 

その仕草に若干ときめいてしまった

 

(…か、かわいいじゃんかこのやろー)

 

サドだけではないという事か

 

「ふふ…。やっぱり面白い人。選んで良かったわ」

 

そう言ってレイチェル=アルカードはアラタの横を通り過ぎた

 

「あ、おい―――」

 

振り向いて言葉をかけたが

 

「…あれ?」

 

誰もいなかった

 

ただ呆然と立っているリックとアミルがいるだけで

 

…リックとアミル?

 

「…ず、ずいぶん楽しそうにしゃべってたね」

 

アミルが苦笑いを浮かべながらそんな事を言ってきた

 

「や、その、楽しそうでは…」

 

「…なかなか上手い一人芝居だ。役者志望だったのか?」

 

「…え?」

 

一人芝居?

 

「一人芝居って…、え、ここに、女の子がいなかったか?」

 

「…お前、本当に大丈夫か? 流石の俺も心配になってきたぞ」

 

リックが哀れむような目でアラタを見る

 

「…や、大丈夫。…ちょっと…、ね」

 

「…そうか。ならいい、戻るぞアミル」

 

そう言ってリックは入口へと振り向いた

 

「あ、サクヤさんに用があったんじゃあ…」

 

「鍛錬ならいつでもできる」

 

そうそっけなく言ってリックはさっさと歩いていく

 

「あ、待ってよリック。…ごめんね、アラタっ」

 

軽くアラタに謝辞を言うとアミルは「待ってー、リックー」と言いながらリックを追いかけていった

 

一人取り残されたアラタはただ呆然と立ち尽くす

 

「…俺以外に見えていないのか…?」

 

いやいやまさかまさか

 

「…、まあ、いいか」

 

内心いいとは言えないがこれ以上悩んでも仕方ない

 

そう結論付け、アラタは自分の部屋に戻る事にした

 

◇◇◇

 

「…レイチェル、いつ来ていたの」

 

食器を洗う傍ら、自分の後ろの椅子に座っている一人の女の子に声をかける

 

「知人と来ているわ。その知人は、今街中を回っているけど」

 

「知人…? 珍しいわね、貴女が友人を連れてくるなんて」

 

「正確にはアラタの知人よ。まぁ、一方的に知人が知ってるだけで、アラタ本人は知らないけど」

 

「…いろいろ取り込んでるみたいね」

 

「ええ。聞かないでくれると助かるわ」

 

ずず、と紅茶を飲む音が聞こえた

 

恐らく自分が持参してきた紅茶セットを用意して紅茶を淹れたのだろう

 

「…あら、なかなか美味しいわね、この紅茶」

 

「結構高級なのよ? 貴女の口に合うかはわからかったから不安だったけど、口に合って良かったわ」

 

からん、と最後の食器を洗い終えレイチェルに向き直る

 

「それで、今度は何の用なの?」

 

「そうね。私もそろそろ、傍観も止めようと思って」

 

レイチェルの言葉にピクリと眉を動かした

 

「…貴女も戦うというの?」

 

「今はまだ戦わないけれどね。まだ体が慣れていないの」

 

レイチェルは軽く笑みを浮かべながらサクヤに言う

 

レイチェルは続けて口を開く

 

「貴女も無茶しないでね。…友人を失うのは嫌だから」

 

「…わかっているわ。ありがとうね」

 

「…わかってるならいいわ。ごちそうさま、サクヤ」

 

レイチェルは自分が飲んだカップを台所の水桶に突っ込むと優雅に後ろを振り向いた

 

そして自身が巻いているマントを翻し―――

 

ヒュオォッ! という一迅の風と薔薇の花びらと共にレイチェルはその場から姿を消した

 

「…洗い物を増やしてくれちゃって」

 

苦笑いを浮かべながらひらひらと舞う薔薇の花弁を見続けた

 

◇◇◇

 

蒼崎橙子

 

職業、魔法使い兼人形師

 

レイチェルに連れられてやってきた彼女はこの世界である探し物をしていた

 

「すまない。なにか、煙草を売っている商店を探しているのだが」

 

蒼崎橙子は愛煙家だ

 

気に入った銘側があればなんだろうと購入する

 

最も、別世界ということで橙子はあまり期待してはいないのだが

 

「煙草…、ですかい? あぁ、あっちのヤツなら売ってると思うよ」

 

「礼を言う」

 

橙子は簡潔に礼を述べると目的の煙草を買うべく歩き出した

 

・・・

 

「…まずい」

 

煙草を購入し一口吸って出た感想だ

 

やはり異界

 

それともあまり煙草を吸う輩がいないのか、恐ろしくまずかった

 

「…ま、いいか」

 

橙子はその煙草の箱をコートの内ポケットに入れるとまた歩きだす

 

「要件は済んだかしら」

 

「あらかたな」

 

橙子の視線の先に立っていたレイチェルがそう問いかけるとぶしつけに橙子が答えた

 

「さて、じゃあ私たちはお散歩といきましょうか」

 

◇◇◇

 

「さっき偵察に出た部隊が戻ってきたわ。どうやら、あなた達の頑張りのおかげで、このあたりからは敵を追い払えたみたい」

 

酒場の入り口にメンバーを集め、簡易ミーティングを開始

 

どうやらなんとか山脈までの道は開けたようだ

 

「さっそく氷竜エールブランとアイラ姫に会いに、霊峰グレイシアを目指しましょう」

 

「目標達成までもう少しですね」

 

アラタの呟きにサクヤは頷いて

 

「ええ。ただし、雪山では油断禁物。決して自然を侮ってはいけないわ。伏兵にも注意すること」

 

サクヤの声にそれぞれが頷いて反応する

 

「では各員の準備が整い次第出発するわ、以上、解散!」

 

サクヤの号令を皮切りにメンバーが散り散りとなる

 

出発には恐らくそう時間はかからないだろう

 

そう考えたアラタは急いで準備をすべくまた自室へと走った

 

◇◇◇

 

「…ま、こんなものかな」

 

正直準備するものは日本刀くらいのものだ

 

本当は寒さ対策にマントも持っていきたかったが、動きが制限されるのでおいていくことにした

 

体は動かして温めよう

 

「さて…」

 

扉を開け、戦線のメンバーへと合流する

 

「準備は終わったか、アラタ」

 

「ああ。行こうレイジ、サクヤさん」

 

頷きながらアラタは言った

 

「じゃあ、出発よ!」

 

サクヤの号令で全員が歩きだす

 

準備は整った

 

目指すはグレイシアの山頂―――

 

 

 

◇◇◇

 

「にしても、山登りなんか久しぶりだ。アイラ姫ってのは、どの辺にいるんだ?」

 

険しい雪道を登りながらレイジが呟いた

 

「この先にある洞窟を抜けた、山頂にいらっしゃるはずです。そこにきっとエールブランも…」

 

つまり両方ともいるわけだ

 

「山頂に行けば、その両方に一度に会えるわけだな。おっしゃ、気合入れて登るか!」

 

「全く。現金だなレイジは」

 

ふと思ったことを呟きつつ、サクヤたちは山を登り進めていく

 

邪魔をするモンスターたちはあまり手ごわくはなく、サクサクと倒し進めていったのだが

 

「…ずいぶん広いとこに出たな」

 

ぱっと見なにもない雪景色しか視界に入ってこないが…

 

「アラタ! 上だ!」

 

「っ!?」

 

レイジの声が聞こえたその時、本能でアラタは後ろへ飛んだ

 

直後アラタがいた場所に抉られた

 

正確には敵モンスターのハンマーパンチを繰り出してきたのだ

 

「ぐっ…!」

 

その衝撃の余波で足を雪に取られてしまった

 

「やべ…!」

 

その隙をついて巨大なモンスターが岩みたいなものを投げつけてきた

 

アラタは慌てて刀を構え

 

(間に合うか…!?)

 

振り抜こうとしたその時

 

「はぁ!」

「せいっ!」

 

バガン! と切り抜けた二人の人影

 

「レイジ! リック!」

 

「ナイスタイミングだな、リック!」

 

「ふん。たまたま考えが合っただけだ」

 

こんな時でもつんけんなリックに苦笑いを浮かべながらアラタは二人の真ん中に割って入り

 

「じゃあまあ、行こうか」

 

「おう!」

 

「お前に命令されるのは癪だが、仕方ない」

 

こういう時にこの三人は無駄にコンビネーションが抜群になる

 

巨大なモンスター、ランプスマッシャーにリックは走り相手の攻撃を誘う

 

振り上げる拳を避けて、再びリックは距離を取る

 

「行くぞ! アミル!」

(任せて!)

 

魔晶剣マナフレアを構え手を翳す

 

その時ランプスマッシャーの足元から炎が巻き起こり、体力を奪っていく

 

「!!」

 

暑さを嫌がったランプスマッシャーはその場を離れようとして

 

「でぇいっ!」

 

その隙を逃さず、アラタが両拳を破壊し、腹を思い切って蹴っ飛ばした

 

「!!」

 

「レイジ!!」

 

のろのろと起き上がるランプスマッシャーが上を見たその時

 

「はぁぁぁっ!!」

 

レイジがトドメの一撃を放った

 

ザンッ! と雪姫の斬撃がランプスマッシャーを捉え、ランプスマッシャーはその巨体を雪の上へと沈めた

 

◇◇◇

 

「戦闘とかだと息ピッタリなのに…」

 

先ほどの戦闘を見ていたアルティナがそんなことを漏らした

 

「お三人ともすごいです…」

 

うっとりと見てるエルミナ

 

「エルミナ後ろ」

 

「へ!? わわわっ!?」

 

慌てて振り向いて杖をばたばたと振り回す

 

思わずアルティナは苦笑いを浮かべて

 

「ごめんごめんエルミナ。ウソウソ」

 

「ふぇ!? ひ、ヒドいですアルティナさん!」

 

ぱたぱたと手を振るエルミナに笑うアルティナ

 

「はいはい、そこまで。エルミナ、洞窟の入り口は?」

 

「あ、はいっ」

 

サクヤに言われエルミナは洞窟の入り口の場所へと走っていく

 

「確か、このあたりに…、あ! ありました! 皆さん! こちらに!」

 

エルミナを先頭に、皆が洞窟に足を踏み入れていく

 

「それにしても、アイラさんはこんなところを一人で行ったのかー…すごいな」

 

「そうなんです!」

 

何気ないアラタの呟きに誰よりも反応したのはエルミナだ

 

「アイラ様は聡明で勇敢で、とても素晴らしいお方なんです…!」

 

「け、けどいくらなんでも数人の護衛くらいは…」

 

「護衛ではないですけど…、アイラ様は自らが最も信頼する友をご同行させておられますよ」

 

「友?」

 

「なんでも、昔馴染みのお友達らしいです」

 

友達を隣に置いているのか

 

よほど信頼していると見える

 

「アイラ様…! 今、御側に参ります…!」

 

エルミナは自身の杖をギュッと握り締めると再び歩み始めた

 

「足元気をつけて」

 

「わかってます。仮にもここは、私の―――ひゃあ!?」

 

「危ない!」

 

さっそく足元の氷に足を滑らしたエルミナの背中を支えてあげる

 

「ゆっくり行こう。後ろいるから」

 

支えながらエルミナを立たせるとエルミナは赤い顔を隠しながら

 

「あ、ありがとうございます…」

 

小さく謝辞を述べるのだった

 

◇◇◇

 

グレイシア山頂

 

「…、」

 

ジン=キサラギの眉がピクリと動いた

 

「どうした? ジン」

 

アイラが聞く

 

「もうそろそろ来るな。…エルミナだ」

 

「それは本当か!?、ジン」

 

「間違いない。…久しぶりに会えるな、エルミナに」

 

「ああ…。耐え忍んできた甲斐があったというものだ」

 

嬉しそうに顔を綻ばすアイラを尻目に、ジンは傍らのエールブランに声をかける

 

「エールブラン。準備を」

 

<わかっている。…受け取れ、キサラギ>

 

エールブランが答えるとジンは右手を上に翳した

 

その直後、ジンの手の中に一振りの日本刀 [雪女(ゆきめ)]

 

鞘が青く柄が白いその日本刀は彼の愛刀でもある

 

「さて、奴らの力を確かめるとするか」

 

口元に笑みを浮かべる

 

それは、強い敵と戦える事を喜ぶ笑み―――

 

「…我は(じん)、世界の救済を担い、明日へ導く(やいば)也」

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