シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
そんな回です
「皆さん、もうすぐ山頂に来ます。アイラ様のいらっしゃるところです…」
長い洞窟を歩き続けて、出口のようなものが見えた時、そうエルミナが呟いた
それに続けてアルティナも
「それに、ドラゴンもね」
そう
洞窟を抜ければ、今までルーンベールを守ってきたアイラと、シャイニングブレイドの解放の秘密を担っている氷竜エールブランが
「もうすぐご対面ってワケか。なんだか、ちょっとドキドキしてきたぜ」
ワクワクした様子でレイジが呟いた
もうそろそろアイラとエールブランと会える
そう考えると確かにドキドキして胸にこみ上げてくるものがある
「うん。ドラゴンに会えるなんて初めてだからな。だろ、レイジ」
「う! …あ、あぁ! ドラゴンなんて初めて見るからさ! あは、あはははは…」
若干顔を赤らめて明後日の方向を見ながらそう乾いた笑いを発した
(…わかりやすい…)
なにやら刀のユキヒメも「<はぁ…>」と溜め息混じりな声が聞こえたので、ユキヒメも気づいたのだろう
そんな出来事はさておき、出口にさしかかる
いっそう吹雪が強くなる
その吹雪の中に、ひときわ巨大な影が佇んでいる―――
◇◇◇
「あれが、エールブラン…」
佇む巨体―――氷竜エールブランはこちらを視認するとその大きな口を開き、獰猛な雄叫びをあげる
「流石に、すごい迫力だな…」
レイジもエールブランの迫力に若干押されながら呟いた
「…エルミナ、大丈夫?」
アラタはエールブランを見て少し肩が震えているエルミナにそう問いかけた
「だ、大丈夫です。ドラゴン相手に飲まれてちゃ、アイラ様に合わせる顔がありませんから!」
「…なら、大丈夫だな」
そうアラタは呟いて再び眼前のエールブランに―――
「私は心配してくれないんだ」
「…う」
アルティナの視線に耐えながら三度(みたび)エールブランを睨む
エールブランはしばらく黙って
「<…私は、氷竜エールブラン。定命の者たちよ。なにゆえ我が領域に足を踏み入れたのだ>」
「…エールブラン殿、俺たちは、氷の精霊王について、貴方に教えてもらいにきた」
アラタが率先し、エールブランに問いかけた
アラタに続いてレイジが
「オレたちは、[シャイニング・ブレイド]の封印を解くために、精霊王に会わなきゃならないんだ。あんたなら、精霊王の居場所を知ってるんじゃないのか!」
二人の後を追いかけながら、エルミナが口を開く
「そ、そうです…! お願いします! 精霊王のこと、教えてください!」
三人の問いかけにゆっくりと頷いたエールブランは考えるように黙り込んで
「<…事情はわかった。私は確かに、精霊王について、いろいろと知っている>」
「ほ、本当ですか!? では…!」
「だけど、精霊王に会わせるまえに、君たちが信頼に足る者かどうか、確かめさせてもらわなきゃ」
エルミナの言葉を遮って一人の青年の透き通った声が耳に聞こえてきた
「…このお声…、もしかして…!?」
ハッとしたエルミナがその声の方を振り向く
エルミナの視線の先
エールブランの足元に一人の人影
「じ、ジンお兄様!?」
「知り合いなのか?」
レイジの何気ない疑問にエルミナが静かに答える
「…はい、昔、アイラ様と一緒に、可愛がっていただいて…。でもこんなところでまたお会いできるなんて…」
そんなエルミナの発言を聞いたジンは
「…アイラから聞いていないのか?」
「はい。私は、お友達といる、としか…」
「…アイラのやつ…」
やれやれ、と言った様子でジンが溜め息をした
「ところでジンお兄様…、確かめる…、って…」
その言葉を聞いたジンは
「なに、簡単な事さ。今、ここで、僕とエールブランと戦ってもらう。僕たちに勝って、君たちが光の加護の下にある事を証明すればいいだけだ」
ジンは手に持った日本刀に手をかける
そして左手の親指だけで若干鍔を浮かせた
それと同時にエールブランも低く唸り声をあげ、前脚に力を込める仕草が見られた
「…なるほど、そういうことなら話は早い!」
「おう! 単純過ぎて意外なくらいだったぜ!」
レイジとアラタは二人してそれぞれの獲物を構え、二人を見据える
それに反応して、リックやサクヤ、フェンリル、アルティナと言った面々も武器を構える
「こい、エルミナ。アイラに代わって、僕が君を試そう」
「ジンお兄様…」
エルミナはしばらく逡巡していたが、やがて決意したように顔をあげると持っていた杖を握り締め
「よろしくお願いします…! ジンお兄様…!」
眼差しを向けた
「…いい、それでこそだ」
ジンは軽く笑うと改めて刀を握る
「さぁ、来い!」
勢いよく刀を抜き、技を解き放つ
「凍牙氷刃(トウガヒョウジン)!」
◇◇◇
ジンから繰り出されたのは地を這う雪の刃
幸いにもその技の通る道は直線のため、回避は容易かった
だが相手はジンだけではない
「<むん!>」
エールブランの口から勢いよく放たれる氷塊
あんなのを貰ったら一溜まりもない
アラタは眼に神経を集中させ、その氷塊の線を視る
判断は一瞬
「はぁっ!」
その氷塊を真ん中から真っ二つに断ち切った
二つに分かれたその氷塊は、バラバラと砕け散って雪へ消える
「し!」
ここでアラタは初めてグレゴリから頂いたハンドガンを使ってみる事にした
今までは特に使用する機会がなかったが、今回はドラゴン
一瞬の気の迷いが死へと誘われる
「っ!」
エールブランの体を狙い数発撃つ
が、結果はわかっていた
直撃だがエールブランにとって鉛弾などただの石ころだ
「<それで終わりではあるまいな!>」
続けてエールブランが口から氷塊を放ってきた
「やべ!」
今度は視る余裕がなかった
慌てて身をかがめて氷塊を避ける
「…流石は氷竜。一筋縄じゃいかないか!」
「当たり前だ。舐めてもらっては困る」
アラタの目の前を抜き身の刀が通り過ぎた
間一髪、後ろに転がり込んで回避
「エールブランだけだと思うな」
ジンが刀をアラタに向ける
…隙がない
全く持って隙が見当たらない
(…ち…!)
「アラタさん!」
どうしようか、と必死に思考していると華奢な声が耳に入ってきた
エルミナだ
「やぁっ!」
杖から数発の魔法の球をジンに向かって放つ
「っ!」
ジンは素早く後ろに下がってその魔法の球を回避する
「大丈夫ですか?、アラタさん」
「ああ。助かった、エルミナ」
体制を整えて立ち上がる
「一度皆と合流しよう、せめてエールブラン殿だけでも倒さないと」
エルミナはアラタに頷くと、一旦サクヤたちと合流すべく歩を進めた
◇◇◇
「アラタ、やられてないみたいだな」
「レイジも」
互いの安否を確認し、アラタとレイジは拳をぶつけあう
「友情は後よ二人とも。まずはどうこの状況を切り抜けるかよ」
やんわりとサクヤに言われ、アラタとレイジは真剣な顔つきになる
「やっぱり、正面きって戦うより、不意をついた戦法が効くんじゃないですか?」
レイジが口を開く
「ええ、妥当な線はやはりそこ。問題はどう不意を付くか…」
少しサクヤは考え、やがて何かを思いついたように
「通用するかはわからないけど、一つ…」
サクヤが概要を説明する
「…よし! それでいきましょう!」
レイジがサクヤに同意する
「他に思いつかないですしね」
リックも同じように頷いた
「やってみる価値はありますね、サクヤさん」
エールブランとジンの様子を見ながらアラタも肯定した
…満場一致
「よし…、行くわよ皆!」
サクヤの号令と共に、それぞれが動き出した
◇◇◇
「<…む?>」
エールブランは訝しんだ
「ケルベロス!」
「了解」
サクヤの指示で、ケルベロスは手に持った二丁の拳銃を降り積もった雪の地面へ向かって乱射した
乱射された弾丸は雪の地面を抉り、雪煙を作っていく
「…雪を吹き飛ばして、視界を遮る気か」
「<ほう、面白い…!>」
次第にその刃は地面の雪を吹き飛ばし、煙のようなものが辺りを包み込む
「<小賢しい!>」
エールブランは鬱陶しげに大きく首を左右に振ると、瞬く間に雪の煙が収まっていく
雪の煙が収まった頃には、その場には誰もいなかった
「<なに!?>」
「姿を消した…!? …!! エールブラン!」
「<む!?>」
エールブランが視線を向けた時にはもう遅く
「遅れるなリンリン!」
「おっけぇ、フェンリル!」
二人の息の合った拳撃がエールブランの首を捉える
「<ぐ!?>」
「エールブラン!」
怯んだエールブランをフォローしようと動こうとしたその時
「おぉぉぉぉぉ!」
「なに!? が、あああああっ!!」
銀色の鎧を纏った竜人にタックルを喰らい吹き飛ばされた
竜人は剛龍鬼だ
「ぐ…、どこから…!?」
視界を動かすとはるか後方に、一人の女性…龍那だ
(気配をフォースで…!)
出鼻をくじかれた
このままでは防戦一方だ
だが相手は反撃の隙を与えず、攻勢を緩めない
体制を立て直そうとしたジンの前に
「影道閃!」
「な!?」
直線に捉えられた一撃
あまりにいきなりだったために、避ける事叶わずそのまま刀で受け止める
「ちぃ…!!」
ジンは苛立ちを抑えながら、同時に口元に薄い笑みを浮かべながら、舌を打った
◇◇◇
「いいのか、アラタ」
「おお、タイミングは俺が言うから、その時にエールブランの上辺りに投げてくれ、剛龍鬼」
そう剛龍鬼に言うとゆっくりと力強く頷いた
「アルも、よろしく頼む」
「わかってるわ。ただ期待しないでよ、刀を射るなんて初めてなんだから」
アルティナにはアラタの獲物である刀を矢の代わりとして射てもらう事にした
理由としては、アラタを投げやすくするための配慮
そしてもう一つはエールブランの角に当て、注意を上に向かせることだ
「もう一回言うけど、期待しないでね。角には当てれるかもしれないけど、弾かれた刀がアラタのとこ行くなんて限らないから」
念を押すアルティナは弓を構え刀を弦に携える
「…そろそろだ! 剛龍鬼!」
「おお! でぇええいっ!!」
アラタの言葉を聞いた剛龍鬼はそのままエールブラン上空へと放り投げる
◇◇◇
「にゃはは、そろそろ限界かな…」
前線でエールブランの相手を務めていたリンリンはフェンリルに苦い顔を向けてそんな言葉を言った
「そのようだ。…だが、時間と注意は稼げた筈だ、退くぞリンリン」
「あいあいさー!」
頷きあうとフェンリルがダガーを投げつけて、牽制しながら退いていく
「<ぐ…!>」
「まだ終わってないぜ!」
また別の声
今度は横合いからだ
「<なんだと!?>」
慌てて振り向く
氷の結晶のような鍔の刀が一番に眼に入った
レイジだ
「リック!」
「いちいち名を呼ぶな!」
互いに言いながらもやはり連携はいい
「<左右から!?>」
動きに反応できず、前脚の爪が叩き折られる
「<ぐっ!! …ぐお!?>」
直後頭に何かが当たった
弾かれたそれを視界に捉え
「<刀…、まさか!?>」
そのまま上を向き続ける
白い雲を背景に浮かぶ漆黒の人影
アラタだ
「っよっと!」
器用に弾かれた刀を手に取ると、アラタはそのまま刀を構え、一直線に突っ込んだ
「<なるほど、考えたな! だが格好の的だ!>」
エールブランは中空のアラタ目掛けて口から氷塊を放った
「っ!!」
流石に中空のままでは何もできない
それでもアラタは振り絞って刀を振るい氷塊を破壊しながら落下していく
「<ぬんっ!!>」
しかし落下のタイミングが遅れたのか、エールブランの頭に叩き落とされた
ドシャァッ! と雪に叩きつけられ、それでも後ろへ距離を取る
そして呟く
「…チェックメイトだ」
「<…なに?>」
「忘れてるのか? …なら、幸いだね!」
アラタが叫んだ直後だった
エールブランの真下に巨大な魔法陣が具現化したのだ
「<これは…!?>」
「…大地を司る守り神…! 私に力をお貸しください…!」
エルミナ―――
提案した作戦は実にシンプル
時間差で攻撃を叩きこみ、最後に強烈な一撃を打ち当てること
「<ふ…、油断していたな――!>」
「アース!」
エルミナが叫ぶと同時、魔法陣から繰り出された岩石がエールブランを捉えた
◇◇◇
「…ふふふ…、成長したな、エルミナは」
ぱしぱし、と自分についた雪を払いながらジンが呟いた
「貴女の剣も。素晴らしいものだ」
そして目の前のサクヤにそう言った
「誉めても何も出ないわよ。それに、加減された貴方に言われても実感が湧かないわ」
「…流石。気づいてらしたか」
苦笑いを浮かべジンは立ち上がる
「確証はなかったけれど…。まだ余裕だったから」
「ははは…、適わないなホントに。流石隊長」
笑いながらジンはエルミナの方へと歩を進める
◇
「エールブラン、立てるか」
「<ああ。すまないな>」
ゆっくりとエールブランが立ち上がる
「<…まさしく彼らは、光の加護を受けた者>」
「…だってさ」
ジンはそう言ってエルミナに向き直った
「あ、ありがとうございます!」
エルミナが感謝し、礼の言葉を述べた
ジンはその光景を見たあとに、ある一点を見た
「アイラ。どうだ、彼らは」
「…え!?」
全員の視線が頂の方へ向く
「ああ。まさか二人を下すとは。流石、サクヤのお眼鏡にかなった猛者たちだ」
そこには背中まで伸びた銀髪に、琥珀色の瞳した、右足が露出するチャイナ服みたいなドレスを着込んだ女性―――
「―――!!」
エルミナがはちきれないばかりに喜びを顔に浮かべ、そして名を呼んだ
「アイラ様!!」
[氷の魔女]の異名を持つ、ルーンベールの王女が、そこにいた―――