シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
「油断したか? ジン」
「まさか。純粋に彼女たちが強いだけさ」
「ふふ…違いない」
崖の上でそう語るアイラはどこか誇らしそうだ
エルミナが強くなっていたくれた事と、久しぶりにエルミナに会えて気持ちが顔に現れてしまったのだろう
「ジン!」
「…ん?」
崖の上から声が聞こえた
当然アイラの声だが改まった様子でジンの名を呼ぶものだから何事か、と崖の上を見たその時
もうアイラが目前に迫ってきていた
「!」
慌てて手を広げ体でアイラを受け止める
「いきなり飛び降りるな! 危ないだろう!」
「ジンが受け止めてくれると確信したまでだ」
悪戯っぽく笑みを浮かべるとジンはやれやれと言った表情をする
アイラはジンから離れて今度はエルミナを見た
「エルミナ…久しぶりね、元気そうで良かったわ」
エルミナを撫でながら言う傍ら、次にアラタの隣にいるレイジを見
「で、こちらが、クラントールの勇者殿…。[シャイニング・ブレイド]の持ち主かな」
アイラの問いに我と帰ったエルミナが肯定する
「はい、レイジさんです」
エルミナに言われ、レイジは刀と共に、自己紹介をする
「あ、ああ。俺はレイジ、この刀がユキヒメだ。よろしく…」
「ああ。こちらこそよろしく。そちらの君は?」
今度はレイジの隣にいるアラタに言葉をかけた
「え、あ、ああ…俺はアラタって言います。よろしく」
「ああ、こちらこそ。…ふふふ…」
なにやらアイラがアラタとエルミナの顔を数回見比べて笑みを浮かべる
「…?」
笑みを浮かべるアイラを怪訝に思ったアラタは流石に聞いてみる事にした
「…あの…、俺の顔になんかついてます?」
「あ、いやなんでもない。それより、精霊王の事が知りたいのだろう?」
「それなら、エールブランから話がある。まぁ、弁解のようなものだ」
アイラの後を継いでジンが言葉を吐き出した
「<…やれやれ、意地が悪いな、キサラギ。だが、彼の言う通りだ>」
エールブランは首をうなだれるように俯かせながら
「<…私は、[シャイニング・ブレイド]解放に関わる、氷の精霊王を、守りきることができなかった>」
ヒヤリとした
守りきることができなかった
その言葉が何を意味するのかは、言うまでもない
「え…! そ、そんな、どうして…!」
「<帝国の操る巨大な機械が、何の前触れもなく、この山に侵入してきたのだ。私が対応する間もなく、精霊王を倒し、その全てを吸収してしまった…>」
「…帝国の方が一足早かったのか…!」
「ああ…! くそっ! それじゃ、[シャイニング・ブレイド]はどうなるんだ?」
アラタとレイジが思わず口に発する
だがエールブランは
「<話は最後まで聞くことだ。確かに、氷の精霊王は消滅した。しかし、氷の精霊王はここにいる>」
言ってる事がわからなかった
「いないのに、いる…?」
何がなにやらわからない
「…もしかして、次世代の精霊王、ということですか?」
沈黙を破り、ハッとした様子で龍那がエールブランに問いかけた
「<流石に白竜教団の御子は察しがいいな。その通り、次世代の精霊王がここにいる。私が、時が来るまで、大事に守ってきた>」
「じゃあ、[シャイニング・ブレイド]の封印を解いてもらう事はできるんだな? なら頼む! 精霊王に会わせてくれ!」
「問題ない。君たちは、僕たちの試練を乗り越えたのだから」
レイジの言葉にジンが答える
そしてジンはエルミナに向き直り
「エルミナ、エールブランの前に。次世代の精霊王を、君に託す」
「わ、私に、ですか!?」
「<その通り。お前にだ。お前にしか託せないのだ>」
最初はオロオロしていたが、やがて決心したようにエールブランの前に出る
「…わかりました。お願いします、…けど、精霊王はどちらに?」
エールブランが首を動かしてエルミナの前へ持っていく
「<うむ。では、手を出すがいい>」
「手を、ですか…? は、はい」
ゆっくりとした手つきでエールブランの前にエルミナは自身の手を差し出した
「<いいだろう。しっかりと受け取るがよい、これが、次世代の精霊王だ>」
光と共に、エルミナの両掌の上に置かれたのは――
「…卵…、ですか?」
「ああ、次世代の精霊王は、この卵の事だ」
ジンはエルミナの隣に歩いてきて口を開く
「で、でもジンお兄様! これではお話ができません! お話が出来ないと、承認を…」
あわあわするエルミナを宥めるようにアイラが言う
「大丈夫よエルミナ。心配はいらないわ。たとえ卵のままでも、貴女なら精霊王と話ができるの」
「私が、ですか!? そんな、無理です、そのようなこと、とてもとても…!」
「いや、君には力がある。エルミナ、小さい頃、僕やアイラに聞かせてくれたあの歌、覚えているか?」
「え、は、はい。ルーンベールに古くから伝わる、あの歌ですね?」
エルミナの呟きにアイラがしっかりと頷いた
「そうよ、その歌を歌ってみてくれる?」
「それで、きっとわかるはずだ」
「…、」
エルミナは考え込んでいるようだ
視点を様々な所に巡らせている
「ね? エルミナ。歌ってちょうだい。私を信じて」
「アイラ…、その言い方では悪者みたいだぞ」
「な! べ、別に私はそんなつもりは…!」
「わかったわかった。…いけるか? エルミナ」
「アイラ様…、ジンお兄様…。わかりました、私、歌ってみます!」
エルミナは決心したように息を吸い、また吐いて調子を整える
「では…、始めますね?」
◇◇◇
息を飲んだエルミナが歌を奏でる
それは、彼女の優しさが体現したような、可憐で済んだ歌声
「…エルミナの気持ちが、伝わってくる…」
思わず聞き入ってしまう
荒んだ心など一撃で清らかになってしまうだろう
別に、荒んではいないが
エルミナが歌って数秒、空に変化があった
曇り空しかなかったあの空の奥から、太陽が姿を見せた
それだけではない、精霊王の卵も同じタイミングで罅が割れ、そして、変化はユキヒメにも
刀姿のユキヒメは一時レイジの手を離れ、その刀身に何かが刻まれた―――
◇◇◇
「わ、わわわ…私、私が、こんなこと…、私が歌ったら、精霊王の卵が…、ユキヒメさんが…」
「<マナの歌を歌うことができるとは…。歌姫(ローレライ)か、そうか、お前が歌姫(ローレライ)だったのか…>」
「ろ、ローレ…ライ?」
歌った本人は訳もわからないと言った様子でその言葉を繰り返す
「そう、それが貴女の力…」
「そして、君の役目でもある。エルミナ」
エルミナの疑問に、アイラとジンが答えていく
「マナの歌を通して、精霊王に承認を求める事で、[シャイニング・ブレイド]の封印を解く鍵となる、歌姫(ローレライ)…」
「それが、役目なんだ」
「そうでしたか…、私は、歌姫(ローレライ)…」
俯いてぶつぶつと呟いて
「わ、私が!?」
なぜこのタイミングで驚くのだろう
「僕も驚いたさ。今回の件で精霊王の事を調べていたら、エルミナが歌姫(ローレライ)の血筋という事がわかったんだ。最初知った時は、アイラと一緒になって固まってしまったよ」
「そうだったのですか…」
「貴女に、レイジとユキヒメを連れてきて欲しいと頼んだのは、大いなる使命を背負うものへの試練なの」
「ずいぶんと苦労させてしまったが、な」
二人の言葉にエルミナは俯きながら
「も、申し訳ございません。お役目をいただいたのに、私、とろくて…」
しゅん…、とした様子で下を向いてしまった
「けど、結局は連れてきてくれたから、結果オーライだよ、な、レイジ」
「ああ。いろいろあったけど、悪いものじゃなかったしな」
「レイジとアラタの言う通り。…すまなかったな、エルミナ。アイラが無駄に困らさせてしまって」
「な! 私は困らせるつもりなんて! ほ、本当よエルミナ!?」
慌てて弁解を述べようとするエルミナを見ながらジンが口を抑えて笑いをこらえている
「い、いえ、そのような…! わ、私は、せいいっぱい…! あの…その…」
「落ち着くんだエルミナ。精霊らも感謝してる。氷と雪の精霊の力が、戻ってきたのを感じるよ。自然も落ち着いて、寒さも少しずつ和らぐ。エルミナのおかげだ」
「そ、そんな…、私なんか。困ります…。過分なお誉めをいただいてしまっては…、私…」
エルミナは真っ赤になりながらも、振り絞って
「あ、…ありがとうございます…」
◇◇◇
そんな中一人アルティナだけが渋い顔をしていた
「…アル? どうした、そんな不安そうな…、…」
聞こうとしてハッとした
「…フォンティーナの事?」
「うん…エルフの森に異変が起きてるのも、銀の森に棲む、[木の精霊王]の力が弱まってるからだと言われてるだけど…」
アルティナの言わんとしてる事がアラタには理解できた
もしかしたら、氷の精霊王と同じように、木の精霊王も倒されてしまってるのではないか、と不安になったのだ
「確か、木の精霊王も封印に関わってるから…。だけど、今すぐは流石に…」
「わかってるわ、まずはルーンベールの帝国軍を大人しくさせないと、自由に動けない事くらい、私にだって…」
そうは言うアルティナの顔は不安に駆られたままだった
◇◇◇
「そうだサクヤ、危うく渡し忘れる所だった」
「? …なにかしら、ジン」
一度砦に戻ろうとした時、しんがりを勤めていたサクヤを呼び止めた
「エールブランが先代から守ってきたものだ。サクヤならば、この力を使いこなせるだろう」
エールブランから一枚のカードを受け取ると、サクヤのもとに歩み寄って、そのカードを渡す
「これは…、氷の精霊力を制御する魔術プログラム…、ありがとう、ジン。これからの戦いで、必ず役に立ててみせるわ」
サクヤはジンにそう言うと先を行く戦線のもとへ走っていった
「<さて…。君も行くんだろう?>」
エールブランはジンに問うた
「ああ。ここで待っていても、正直暇だからな」
「<辛辣だな。全く>」
「今に越した事じゃないだろう?」
「<そうだな>」
軽く言葉を交わすとサクヤらを追い、ジンも歩き始めた
◇◇◇
氷の精霊王に承認を頂き、クレリアに戻った日の翌日
その日の夕方頃
「うむ、今日はいいお野菜いただけたからな。暖かいクリームシチューを作ろうかな」
サクヤの頼みで夕飯の買い出しに出かけていたアラタは歩きながらそんな事を呟いた
サクヤも料理自体は決めておらず「材料で決めましょう」と言っていたのできっと問題はないはず
クレリアの天候が落ち着いたと言えど、まだ肌寒い
やはりここは、身も心も温まるクリームシチューがベストだろう
「本当はカレーも食べたいけどなー」
カレーはアラタの好物の一つだ
他にもキムチなど比較的辛いものをアラタは好む
アルティナの家で何度かカレーを出したが、辛過ぎてアルティナに怒られたのを覚えている
が、味は良かったみたいだ
辛さを抑え少々ハチミツを混ぜたところなかなかの好感触
が、そのカレーを食べた人はまだアルティナしかいないのだが
「ま、今日はシチューでいいな」
ほくほくした人参はたまらない
そうどうでもいいような事を考えて酒場まであと少し、といった時
「あ、あああああ、あの、ありゃたしゃんっ!」
強襲されたと思ってしまった
「わわ!? …、あ、エルミナか…」
気持ちを落ち着けて改めてエルミナを見る
「どうしたのエルミナ。何か困った事が…」
「えと、…あの…、し、失礼しますっ!」
まさかの撤退だった
「ええ!? ちょっと、ちょっと待ってよ! 何気に凹むからそれ!」
慌ててエルミナを呼び止める
我に帰ったエルミナはしばらく何かを考えるように
(そ、そうでしたっ…、私、アラタさんにお願い事があったのに…、いけない、こんなことじゃあ…)
むん、と拳を握り締めて、再びアラタへと向き直った
「あ! あのっ! アラタさんっ! 少し、お時間よろしいでしょうかっ!?」
「は、はいっ! お時間よろしいです!?」
剣幕に押され、同じテンションで返してしまった
アラタ的には問題はないのでエルミナの相談を聞く事にする
(なんだろうなー、悩み事? むむむ…)
「あ、えっと…、その、あの…、ですから…あっと…」
…まずはエルミナを落ち着けないと無理そうだ
「エルミナ、慌てなくて大丈夫だよ。俺は逃げたりしないから」
そう言って慌ててハッとする
「あ! も、もしかして、俺が怖いとかかな!? だ、だとしたらごめん…」
「い、いえ! とんでもない! これは、全部私の性格のせいで…、ほ、本当にごめんなさい…」
「いや、俺の方が…」
「いえ、私が…」
「いやいや、俺が…」
「いえいえいえ…」
「いやいやいやいや…」
…話が進みませんね
お互いが深呼吸してアラタが続きを聞く
「…それで、俺を呼び止めたのは、何か頼み事かな?」
落ち着きを取り戻したエルミナが伏し目がちに口を開いた
「はい…。実は私、引っ込み思案な性格を治したくて…、それと、男性恐怖症も…」
切実な思いを吐露する
「私って、この通りの性格で…。今みたいに、男性と二人きりだと、うまく話せないんです…」
「なるほど…。そういうことなら、喜んで力を貸すよ。けど、どうして俺に?」
「はい。実は…、この性格を治したいって、ジンお兄様とアイラ様に相談したら、アラタさんに手伝ってもらえばうまくいく、と言われまして…」
アイラさん…、俺の知らないところで何を…とも思ったが、困っているエルミナを放っておくわけにもいかない
「む、おっけー! できる限りの事は、させてもらうよ、エルミナ」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます! アラタさん!」
「いいっていいって。困った時はお互い様だ。さしあたっては、早速行動に移ろうか」
その言葉にエルミナはキョトンとした表情し
「い、今からですか!?」
「思い立ったらすぐ行動。…あ、もちろんエルミナの都合を優先させるよ?」
「い、いえ…、今日は特に何もないので…、頼んだのは私です! やり遂げてみせます!」
どことなく後ろからゴォォォォォ、と炎が燃え上がっていそうな様子だった
彼女の決意は固い
なら、それに全力で答えなくては
「じゃ、とりあえず夕飯一緒に作ろうか」
「お夕飯…、ですか?」
アラタは頷いて
「買い出しの途中でね。とりあえずな無難な所をやってみようと思ったんだけど…、どうかな?」
「は、はい! 頑張ります!」
そうと決まれば話は早い
燃えるエルミナを連れてアラタは酒場の厨房へと入っていった
◇◇◇
「あら、エルミナと一緒? 珍しい組合せね?」
「ちょっといろいろありまして…。その、一緒にご飯作っても大丈夫ですか?」
「もちろん。人手が増えるのは歓迎よ」
笑顔で迎えてくれたサクヤにアラタは食材を見せて軽く相談する
シチューの事を出すと「いいわね、それにしましょう」と肯定し、今晩の夕飯はシチューとなった
◇◇◇
「エルミナ、包丁持ったことは?」
「あ、あんまり…」
顔を赤くするエルミナに苦笑いしながら
「わかった、じゃあ持ち方を教えるよ」
アラタは右手に包丁を持って見せる
「利き腕に持って…、んで、食材を空いた手に…、あ、なるべく食材支える手は猫の手を意識して…」
手取り足取りアラタが指導していく
「こんな、感じですか?」
「おお、いい感じいい感じ…」
飲み込みは意外に早かった
この調子なら料理を作るときに戦力になってくれそうだ
だがやっぱり手つきがまだまだ危なっかしい
「エルミナ、ちょっとごめんな」
アラタはエルミナの後ろに立ち、両手をエルミナの両手へと重ねて、直に教えていく
「…、」
その間エルミナの顔は真っ赤だ
だが不思議と嫌ではない
「…アイラ様やジンお兄様みたいです。…アラタさん」
「ん? そうかな」
「はい」
エルミナは短く返事し再び視線を手元に落とす
「ふふ…」
その光景を隣でシチューの鍋を煮ながらサクヤが微笑ましく眺めていた
(けど、ちょっと嫉妬しちゃうかな)
内心に彼女にしては珍しい感情を浮かべながら
ストックも半分…
もう少ししたら更新ペースが落ちますがご勘弁を