シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
妖精たちのアルペジオ 1
ルーンベールを後にした解放戦線は、銀の森に住むという木の精霊王の安否を確かめるために、エルフの国[フォンティーナ]を目指す
だが、フォンティーナは依然としてスレイプニル率いる暗号騎士団の制圧下にあり、戦況はアラタたちが出発したときよりも悪化していた
そこでアルティナは、エルフ族以外誰も知らない秘密の抜け道を使用して、エルフの避難民たちが暮らす[隠れ里]に一行を導いていく
だが、それは、彼女が何より重んじる、エルフ族の掟とは、相反する行動だった―――
◇◇◇
エルフの隠れ里[エドラス]
「へぇ…、フォンティーナにこんなすごいところがあったのか。エルフ族ってすごいな」
木々に囲まれたその街は、見つけにくい場所にあった
よく思いついたものだ、と式は内心呟く
「ここは帝国軍から目を逃れるための[隠れ里]よ。生き残ったフォンティーナの民の大勢が、ここで暮らしているの」
説明するようにアルティナが言う
式は皮ジャンのポケットに両手を突っ込んで耳を傾けた
「本当ならよそ者…、ましてやエルフ以外の人たちなんか入れてはいけないのよ? 今回は緊急時だがら、仕方なく―――」
「待て! そこの連中、そこで止まれ! これ以上先には行かせん!」
アルティナの言葉を遮ってまた別の声が響きわたる
エルフの衛兵だ
エルフの衛兵と確認するとアルティナはずい、と前に立ち
「警備ご苦労様。ですが、心配はいりません。この者たちは私の連れです」
エルフの衛兵はアルティナの顔を見るとかなり驚いた表情を浮かべ
「あ、アルティナ王女! お帰りになられたのですか!?」
そんな事をまくしたてた
いや、それよりも今気になる単語が聞こえた
「…王女ってお前の事か?」
そんな疑問を式はドストレートに投げかけた
「他に誰がいるのよ」
それもそうだ
「…いや、ただびっくりしただけだよ」
「そう? …とにかく、中に入るわよ」
そんな言葉を交えながらしれっと道を通ろうとした
が、衛兵が前に出て道を止められた
「…どうしたのです? そこを通してください」
「いえ、アルティナ王女。お通しするわけには参りません。我々は、長老会議よりの命令を受けております」
「…命令? どのような?」
「王女がお戻りになられたら、すぐに議長の前に連行―――いえ、お連れしろと。会議を招集し、お聞きしたいことがあると」
「…、」
今はっきりと連行って言いやがった
「議長がそのようなことを? …わかりました、そういうことなら参りましょう、案内を」
その雰囲気を眺めてた式は苦々しい笑みを浮かべ
(…面倒な事になりそうだな)
◇◇◇
衛兵に案内された会議場
その中心に座しているのが恐らく議長であろう
「困った事をしてくれたなアルティナ王女。我が従弟の娘よ。森全体が危機にある折だと言うのに」
議長の声色は若干の憤りが混じっていた
アルティナが何かしたのだろうか
「どういう事です、おじ…。いえ、議長。森が危機に陥ってるからこそ、私は協力者を連れてフォンティーナに戻ったのです」
それを聞いた議長はピクリと眉を動かして、やがて顔色を変えず口を開く
「いいかねアルティナ。我々エルフ族は、伝統と秩序を重んじる種族だ。問題の解決も、それに則って行わなければならぬ。…あくまでもエルフらしく。よもや知らぬ訳ではあるまい」
「もちろんです。私はずっとそうしてきたつもりですし、これからだって…」
「では何故彼らをここに連れて来た! 異種族をこの隠れ里に引き入れるなど、秩序ある行動とはとうてい呼べぬ!」
議長が声を荒げそう言った
やはり種族の壁は高いようだ
「ですから! 秩序を取り戻すための協力者たちをお招きしたのです! それが伝統に反してるとは思いません!」
「…反しておらぬだと? フォンティーナのエルフ族は、やむを得ず外の者に協力することはあっても、外からの協力者を必要とした事はない! あくまでも、我ら森に住む者たちの合議により、我らのみの力によって物事を解決する」
議長はアルティナの目を見据える
「それがエルフ族の伝統であったはずだが。違うかなアルティナ。それに、議員諸君」
議長がほかの議員に同意を求めた
問いかけられた議員はさも当然と言わんばかりに
「いえ、議長のおっしゃる通りと思います」
アルティナに向かってそう言った
「…、」
アルティナが押し黙る
圧倒的に分が悪かった
「…従弟は優れた指導者であったが、その娘たちはどうしてこのように勝手な事ばかり…。偶然帰ってきたラナといい、そのような事ばかりしてるから…」
ラナ、と言ったところでアルティナが驚くように顔を上げる
「姉さんが!? 帰って来てるのですか!?」
議長はうんざりといった様子を隠す様子もなく
「そうだ。出て行ったときと同じく、何の前触れもなくふらりと帰ってきた。つい昨日の事だ。そして、我々が止めるのも聞かず、一人…、いや、マコトを連れて銀の森へと入っていった。地竜ベイルグランに話があるとか言ってな」
「大地の守護竜ベイルグランに? 姉さんが、マコトと…」
しばらくアルティナは考え込むようにぶつぶつと呟きはじめた
それを読み取った龍那は議長の前に歩み寄って
「議長閣下。アルティナ王女様はなにか、大事な考え事がおありの様子。代わりに、私からの発言をお許しいただけますか?」
議長は龍那の姿を確認すると
「エトワール神殿の巫女殿か…。よろしい、発言を許可しましょう」
「ありがとうございます。レイジさん、ユキヒメさんを…」
「え? ああ、こいつを見せればいいのか?」
そう言ってレイジは手元にあるユキヒメを見せる
「<こら! こいつとはなんだこいつとは!>」
なにやらユキヒメが言っているが、気にしない事にした
「しかとご覧ください。この刀こそ、クラントールに伝わる霊刀・雪姫…、そして、雪姫を振るう資格を持つこの者こそ、異世界より召還されし新たなる勇者なのです」
そう言われ若干顔を赤らめて
「ど、どうも…」
落ち着かない様子でレイジは言った
「…なんと! では、その刀が、あの…」
議長が目を開く
霊刀を目の当たりにして、珍しく驚いたようだ
「<お初にお目にかかる。我こそは霊刀・雪姫なり>」
龍那は議長を見る
そして訴えかけるように
「…その事をご理解した上で、私たちやアルティナさんの処遇を検討いただけますと、大変に有り難いのですが…」
議長はしばらく考えたあと
「わかりました。…そういう事であれば、無下に追い出すわけにも参りません。あなた達の滞在を許可しましょう」
どうやら議長の許しが出たようだ
「ただし、当方からの要請がある場合には、隠れ里の防衛にご協力いただきたい。よろしいですな?」
「承知いたしました。よろしくお願いいたします」
どうやらなんとか収まったみたいだ
(…ふぅ…、冷や汗ものだ。…)
式はチラリとアルティナを見る
「…姉さんが…なんで…」
未だにぶつくさと呟いていた
(…不安だな、ホントに)
◇◇◇
「議長さん。一個聞いていいか」
会議の場での話が終わった頃を見計らって式が議長に声をかけた
「…まぁいいだろう。発言を許可する」
「感謝する。…先の会話に出たマコトって誰だ?」
「ああ、マコト、か」
議長は一度咳払いすると話し始めた
「マコトは、エルフ族に昔からの親交のある亜人族の少女だ」
「亜人族?」
議長は頷いて
「簡単に言えば、混血の少女だ。前はひどく迫害を受けていたが、二人の人間の友人が彼女を助けてくれたらしい。…そうだな、我々エルフ族が唯一、手を差し伸べられる種族の少女だ」
「…なるほど。そのマコトってのは、なんでこの隠れ里に?」
「うむ。マコトは、我がフォンティーナの危機に馳せ参じてくれたのだ。共に戦ってはいたのだが、昨日、ラナに連れられて銀の森に行ってしまってな」
「…色々と大変だな、エルフってヤツも」
式がそう言うと議長はふん、と鼻で笑い
「人間に心配されるほど、落ちぶれてはいない」
「そりゃ失礼しました。では、オレ…、いや、わたしはこれで」
議長に短くそう言って式はその場を後にした
◇◇◇
「全く姉さんったら…。いつもいつも勝手な事を…。あの人のせいで、私がどれだけ苦労したと…」
そう言いながらアルティナは歩きだす
行き先は地竜ベイルグランのところだ
「…どこに行くんだ。アルティナ王女」
いきなりと聞こえた声にアルティナは驚いてビクッとした
「し、シキ…。…皆も」
式の後ろにはレイジとエルミナもいた
二人とも笑みを浮かべている
「な、なによ。シキたちには関係ないでしょ」
「関係なくないです。私たち、ここまで一緒に戦ってきました。…仲間…、ですよね? ですから…」
「姉さんを捜しに行くんだろう? 地竜ってのに出くわして、[試練]を乗り越えよー、みたいな事になったらどうするんだ、お前」
式の言葉にう…、とアルティナは言葉を詰まらせた
「で、でも…これは私たち姉妹の問題だがら…」
そう言葉を言うアルティナにレイジが
「オレたちだって、べイルグランから精霊王の話を聞く必要があるんじゃないのか? そっちは、お前らだけの問題じゃない。そうだろ?」
「それは…そうだけど…」
またアルティナは言葉を詰まらせる
式は軽く溜め息をつき
「オレは付き合い短いから、言う資格ないかもだけどさ。仲間だろ? …頼りになんないのか?」
「な、なに言ってるのよ。エルフ族と他の種族が、仲間だなんてそんなこと…ある、わけ…」
いい加減式は肩を落としながら
「じゃーアラタはどうなんだよ。端から見てて、最高に眺めてて愉快だぞ?」
アラタの事を持ち出した
「―――!? あーもう! 好きにしなさいよ! 勝手にそう思ってなさい! 全く。人間って思い込みが激しくて困るわ!」
何故か逆ギレされました
「私行くから! ついてきたかったら、勝手にすれば! それじゃあ!」
そう言ってアルティナはサッサと歩いて行ってしまった
「…あれがツンデレってヤツなんだな。レイジ」
「なんでオレに振るんだ」
「まぁいいや。なら、オレたちも勝手にしようぜ」
レイジにそう言うと軽く笑み
「おう。勝手にしようぜ」
「エルミナも、いいか?」
式がエルミナにそう聞くと頷いて
「はい。勝手にいたしましょうっ」
そんなわけで、式たちは[勝手]にアルティナについていく
本人に言われた通りに
◇◇◇
「…あれから結構歩いてけど…、お前の姉さんどこにいるんだよ」
エドラスを発って数分歩いたが、見渡す限り自然ばかりだ
「黙って歩きなさい。…姉さんは絶対、こっちの方にいるはずなんだがら…」
とは言うものの、姉であるラナはどこにも見当たらない
「…いったい、どこにいらっしゃるのでしょう…」
エルミナが辺りを見回しながらキョロキョロする
「まぁ、状況が違えば、この自然を愛でてるのも悪くないかもな」
同じように緑の木々に視線をやりながら式はそんな事を呟いた
「…にしても、お姉さんとやらはホントどこにいるやら…」
「あら。意外と近くにいたりするわよ」
声が聞こえた
「…へ!? ラナさん!?」
「姉さん!?」
声のした方へと向く
一本の木の下
緑色の服を着込み、羽を模したヘアバンドをつけた金髪の女性
「はぁいエルミナ。龍那にサクヤも…皆お久しぶり! でもってもちろん、アルティナもね。こんなに早く見つかっちゃうなんて。思ってなかったわ」
そう言って屈託のない笑みを浮かべる
だがアルティナはどこか釈然としない様子だ
「やっぱりしっかりしてるわねぇ、アルティナ。あたしなんかとは大違い! まあそれだから、あたしもこうやって自由にやってるんだけど」
「…ラナさんが自由過ぎるだけだよぉ…」
すると木の陰からまた一人の女性が姿を現した
それは結構動きやすそうな服だが大変、きわどい格好だ
頭にはリスみたいな耳、何よりも目を惹くのはお尻にある大きな尻尾
「やぁだ。マコト、言ってくれるじゃない」
「ホントのことじゃんかー…」
一瞬アルティナが目を見開いたが、再び視線はラナへと向く
「まぁね。あたしが森にいたところで、逆に迷惑かけるだけかもしれないけどね。はははっ」
そう呑気に笑って言い放つアルティナは表情に怒りをはらませて
「…何を呑気な事言ってるのよ! 姉さんっていつもそう! 私の気持ちなんか全然知らないで、いつも好き勝手に動き回って…!」
徐々に声が大きくなっていく
「姉さんがそうやって勝手に森を飛び出したせいで、私がどれだけ苦労して心配してるかなんて、姉さんにはわからないんでしょう!!」
このままだと色々とマズい気がする
「…アルティナ。気持ちはなんとなくわかるけど、落ち着け」
式はアルティナの手首を掴んで強引に引っ剥がす
「ちょ、シキ離して! 姉さんにはまだ言いたい事が…!」
対するラナは柔和な笑みを浮かべながら
「ごめん、あたし急いでるから話は後で。べイルグランに大事な用があるの!」
そう言って走り出した
「じゃ、卵をもらったら、また会いましょうねっ。ほら、行くわよマコト!」
「ああ! 待ってよラナさぁん! …、」
マコトは一瞬アルティナを見て何か言いたげな様子だったが、何も言わずラナを追いかけていった
「…お前の姉さん、今、卵って言ったよな」
レイジはその発言を聞き逃さなかった
無論式も同様だ
「…ええ、確かに聞いたわ。…ということは、やはり木の精霊王も…。姉さん、どこでそれを知ったのかしら…」
「…まさか、その精霊王の卵をもらうつもりか」
式の呟きにアルティナがハッとした
「無茶よ姉さん! 一人でなんて…! レイジ、シキ! 姉さんを追わないと!」
「わかってる!」
「ああ。急いだ方が良さそうだ」
レイジと式は互いに頷きあって、ラナの後を追いかけた
◇◇◇
「姉さん! 待って、姉さんっ!」
どうにか先を走るラナへと追いついた
アルティナは先のラナに言葉を投げかけるが
「あれ? アルティナ。またついてきちゃったの? 留守番は嫌いだった?」
「ち、違うわよ! 姉さんを一人にしたら、何しでかすかわからないから、私も行くわ!」
「オレたちは付き添いだ、まぁ気にするな。それにあれだ。人数多い方が楽しいだろう」
式が何気なく言った一言にラナは「おお…」と一瞬おののき
「確かにねっ。それじゃあ皆、一緒に行く?」
「もちろんよ! 姉さんに勝手な事はさせないんだから!!」
「…やれやれ」
「なんか言ったシキ!?」
「別にっ」
怒鳴るアルティナを尻目に式は魔物の群れへと突っ込んだ
◇◇◇
ナイフ一つ
そして武術
これが両儀式の戦闘スタイルだ
昔から鍛えられてきたからか、一般人なら素手で一蹴する実力
「よっ」
慣れた手つきでリザードを狩っていく
割とこれまで生死を分ける闘いを繰り広げていたからこの程度朝飯前だ
「グォォォォォ!!」
「二度目はないよ」
軽く一瞥をくれてやると式は胴体をないだ
「…、やれやれ。いつの時代も、どの世界も、やってる事は一緒だな。オレは」
一瞬空を見上げる、がまた前を見る
「…まあいいや。さぁ、オレを楽しませろ―――」
優雅にナイフを逆手に持ち替えて式はまた群れへと走り出した
◇◇◇
「アルティナー!」
「あ、マコト…」
群がるリザードたちをぶっ飛ばしながらアルティナの下へと走り寄ってきた
マコト=ナナヤだ
「ごめんよぉ! 最初はラナたちと会った時に話したかったけど雰囲気で話しかけらんなくてー!」
ガバッとマコトはアルティナに抱きついていろいろとまくし立てる
「ちょ! 状況考えてマコト! まだ敵いる!」
「おっとっ…そうだった! それじゃあ、またあとで!」
嵐みたいに駆けつけて嵐みたいに去っていってしまった
「…相変わらずねぇ、マコトは」
軽く笑みを浮かべるとアルティナはまた弓を引き絞り、リザードを射抜く
姉さんには、負けてなんかいられない―――
◇◇◇
「双(かさ)ね鐘楼(しょうろう)!!」
ザン、と連撃をもらったリザードはゆっくりと倒れた
これで最後の一体みたいだ
「ベイルグランはあっちにいるはずよ! 急ごう、みんな!!」
「にゃわ! 引っ張らないでラナさぁーん!!」
全滅を確認するとラナはマコトの手を取り指差した方へ一気に走っていった
「姉さん!! ちょっと、待ってってば!!」
「口に出す前に追え。このままじゃ置いてかれる」
「式の言う通りだ! 急ごうぜ! アルティナ!」
「わかってるわよ! もう!」
そしてアルティナたちはラナを追いかけて、また走りだす
その先に、地竜ベイルグランが待っている―――
「…エルミナは大丈夫だろうか」
道中、アイラが心配そうな声色でそう呟いた
「信じてやれ。大切な妹分なんだから」
「妹分だから心配するのだ! ジン、お前は心配ではないのか!」
「心配さ。だけど、問題ないさ。サクヤたちは心強い」
「むぅ…」
雪道をかき分けるアイラの声がしぼむ
「…アラタはどう思う?」
「…なんで俺に振るんですか」
唐突過ぎてびっくりだ
「お前がエルミナと親交が深いからだ。あ、あとエルミナの頼みを聞いてくれて感謝するぞ」
「エルミナの…。ああ、あのことですか」
男性恐怖症克服に協力してる事だろう
「毎日嬉しそうに話してくれていたぞ。今日はあんな事を話した、と」
そんな事を話していたのか
ちょっと恥ずかしい
「…おほん。お喋りはそこまでだ。はやく解放して合流したい」
ジンの一言で二人が黙る
やがて無言でお互いに頷いて
「ああ、急ごう」
「皆を待たせられない」
三人はまた急ぎ足で駆け出す
ユキヒメの姉妹弟子、[ムラサメ]を助けるために