シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
先を走るラナの足が止まる
「…いた…、ベイルグランだ」
マコトが地竜の名を呟いた
直後に地震みたいな地鳴りが耳に届く
ドシン! ドシン! と大地を踏み鳴らし、ゆっくりと姿を現す
地竜ベイルグラン―――
見た目だけを連想させるなら亀だ
あくまでも、見た目だけは
甲羅に位置する場所には森林があり、鋭い眼光がレイジやラナを捉える
「…ふーん…。あれがベイルグランか。結構な大きさだな」
「…ず、ずいぶん呑気だな式」
「もともとだ」
レイジと短くやりとりを交わすと式はアルティナを見やる
「あ、あの! あなたがベイルグランですね? 私は、アルティナと言います。この銀の森の―――」
「<森の守り人殿じゃな? もちろん、おぬしの事は知っておるよ、お姉さんのラナの事も。おぬしらが小さいころから、ずっとな>」
想像していたよりずっと優しそうな声色でアルティナにそう返した
「ほ、本当ですか? ありがとうございます! じ、実は、今日はお願いがあって―――」
「精霊王! 精霊王の卵が必要なの! 貴方が守ってるんでしょ?」
アルティナを遮ってラナがそんな事を言い放った
「ちょ! ラナさん!?」
マコトが慌て始める
敬意も何もあったものじゃない
はっきり言って失礼だ
「<ほほう。知っておったのか。さすがおてんば王女は早耳じゃのう。だが、しかし―――>」
ベイルグランの目つきが厳しいものへと変わる
「<いくらおぬしたちでも、ただで卵を渡すわけにはいかんぞ? その事は、わかるな?>」
アルティナが察するように聞く
「…もしかして、試練ですか?」
「<左様! 我が試練を受けるがよい! 見事ワシを打ち倒し、おぬしたちが光の加護を受けるものと、証明してみせるのだ!>」
それを聞いた式は若干であるが、口角を吊り上げて笑みを浮かべた
「…わかりやすくていいな。相変わらず」
「おう! やってやろうぜ!!」
レイジの掛け声と同時、それぞれが自身の獲物を構える
試練の時だ―――
◇◇◇
「よっ」
ナイフを振るう
しかしベイルグランの甲羅には無意味なようでかきん、と乾いた音がした
「…案の定、効果薄いな」
流石は大地の守護竜
防御の硬さは尋常ではないものがある
「<今度はワシの番じゃ!>」
ベイルグランが声をあげた
うなりと共に式の地面から魔法陣が現れる
「やばっ!」
一瞬早く式は後方へと飛び退いた
直後式がいた場所から大地がせり上がってその場を破壊する
あの場にいたままなら確実に致命傷をもらっていただろう
「式! 無事か!」
式の隣にレイジが駆け寄ってくる
「ああ、なんとかな」
式は立ち上がって深呼吸を一つ
「流石地竜だな。無駄に硬い」
「だけど、これを乗り越えないと、承認を得られない…」
レイジに頷く
「それなりに行くさ」
ナイフを逆手に持ち替えて式は一直線に駆け出した
◇◇◇
「ふっ…!」
ビシュ! と一本の矢をアルティナは射る
だがベイルグランの硬さには矢一つなど石ころに等しい
「<それで終わりではあるまいて!>」
ベイルグランが唸る
ズズゥン…!! と大地が鳴り、アルティナの足を取る
「わわっ…!」
取られながらもなんとか姿勢を整えてベイルグランを見る
「アルティナ! 大丈夫?」
地面を軽快に移動しながらラナは的確かつ着実に弓を射ている
悔しいが、流石は自分の姉だ
「大丈夫よ! 姉さんは自分の心配をしてっ!」
「あははっ、おっけー! 余計な心配だったねっ!」
アルティナを見てそう純真な笑みを浮かべたあと再び地面を駆け回る
「…全く」
内心溜め息をつきながらも再びまた弓を構える
(…力を貸して。アラタ)
ぐっ! と弓を引き絞り、無意識下に彼を思いながら、矢を射った
◇◇◇
「やっぱり一筋縄じゃいかないね…!」
マコトが距離を取りながらベイルグランを見る
「やっぱり、ここは連携か」
「ああ、それで行こう!」
式の発言にレイジは同意し、雪姫を構える
「…よし、レイジ。オレたちはベイルグランを引きつけて、そこのもふもふが追撃、そして、アルティナ姉妹がトドメ、…こんな流れでどうだ」
式の提案に皆が頷く
「…もふもふってアタシ?」
「よし、行くか」
「スルーされた!」
◇◇◇
「<…ほぉ>」
ベイルグランの前にレイジと式が踊り出る
役目は簡単に言えば陽動だ
「零式秘技! 響っ!」
雪姫の刀身から繰り出される斬撃がベイルグランの首の横に直撃する
「<痒い痒い!>」
こそばゆいと言わんばかりに唸りをあげる
「おわっ!?」
ベイルグランから放たれた波動をモロに喰らいレイジは吹き飛んでしまった
「レイジ!」
「<他人の心配しとる場合かの!>」
「っ!」
口からまた波動が繰り出される
式はそれを[視]た
線を認識してナイフを凪ぎ波動を斬り犯(ころ)す
「ほら…、まだまだいけんぜ…!」
ナイフを持ちベイルグランを見る
言葉では強気だが正直長くは持ちそうもない
(まだか…、もふもふ…!)
◇
「…アルティナ、ラナさん。手はずどうりいくよ」
式とレイジがベイルグランの注意を引いてくれている今がチャンスだ
これを逃したら勝機は薄い
「いつでもいいよっ」
「私も…」
だがどこかアルティナだけが沈んだ表情をしている
「…アルティナ?」
心配になったマコトは優しくアルティナに声をかけた
「どうしたの?」
「…いえ、その、柄にもなく、不安になって…」
それもそうだ
今まさにベイルグランから承認を得ようとしてるこの状況で失敗なんてできない―――
「大丈夫よ」
「…姉さん?」
「流石にあたしを信じてなんて大層な事は言えないけど、貴女の仲間たちは信じてあげなさい。それだけでもけっこう違うわよ?」
そう言ってラナはアルティナに向かって静かに笑いかけた
「―――」
それまで黙ったままだったアルティナはやがてハッとした表情になり
「わ、わかってるわよそんなこと! 言われなくてもねっ!」
次第に顔を赤くして再びベイルグランを見る
そのやりとりを目の当たりにしたマコトは
(…大丈夫みたいだね)
やはり姉妹
なんだかんだで仲良しだ
「しゃあ! 行くよっ!」
マコトが叫ぶとアルティナとラナがそれぞれ飛び出す
「いっくよぉっ!」
◇◇◇
「っと…!」
なんとかベイルグランが生み出す魔法陣からの一撃をいなしてはいるが、体力が底を尽きそうだ
「レイジ、いけるか?」
「流石に、ちょっと…」
お互いに限界が近い
このままでは…、と思ったその時だ
「<ぬお!?>」
ベイルグランが声をあげた
「もふもふか!」
バッとマコトたちの方を見る
だが何故かマコトはおらず、左右を見渡すとアルティナとラナの二人
「アローバースト!」
「アローフレアッ!」
それぞれ別の場所にいる二人から雨のような矢の霰が降り注ぐ
流石にベイルグランでもこれは耐えざるをえなかった
「<ぐ…!?>」
その矢の霰が終わる寸前一人の女の子が走り寄っていた
マコトだ
「〆(シメ)はアタシがいただきます!!」
右手をぐるんぐるん回して数メートル前で止まり
「アタシの何かが光って唸るッ!! 轟けぇ―――!!」
グッ…!! と拳を引いたマコトの後ろに巨大な魔法陣が浮かび上がる
その中で魔力が凝縮され、それは一つの巨大な拳となった
「ビッグバンッ!! スマァァァァァッシュッ!!」
その魔力の拳がベイルグランに向かって放たれた
矢に気を取られていたベイルグランは、真横からのその一撃に対応できずに、宙を浮いて壁に叩きつけられた
「…あいつ、ばけもんか」
一撃を見ていた式やレイジたち顔を青くしていた
あのベイルグランをぶっ飛ばすとは
…案外バカにはできないかもしれない
◇◇◇
「<ほほほ…。手痛いのをもらってしまったのぉ>」
ゆっくりとした動きでベイルグランが立ち上がって軽快に笑い声をあげる
「アルティナ! やったね、これでベイルグランから卵をもらえるよっ」
「姉さん…、え、えぇ。そうね…」
「<いやいや、見事見事。たいしたもんじゃのう…。おぬしらは、まさしく光の加護を受けてるに違いない>」
ベイルグランの声はとても暖かいものだ
まるで孫の成長を喜んでるかのような錯覚さえ覚える
「<おぬしたちなら[シャイニング・ブレイド]の力を目覚めさせたとしても、正しく使ってくれるじゃろう>」
ベイルグランが人間ならば腕を組んでうんうんと頷く様が頭に容易に浮かぶ
「<では、約束通り精霊王の卵を渡そう。ちょっと、こちらに来ておくれ>」
「こちらって…、そこは、霊樹の下?」
ベイルグランに促されるままアルティナを筆頭に霊樹の下へと歩いてく
「…へ!? ここに、精霊王の卵があるの!? 私、何度もここに来てたのに!」
「<うむ。知っておるよ。森の守り人殿。お前さんの友達とも、すっかり仲良くなったしの>」
ベイルグランの呟きと共に霊樹から一つの小さなかわいいぬいぐるみのような―――
「フゥー! フゥー、フフフゥー!」
ケフィアだ
「ケフィア! あはははっ、ずっと待ってくれてたのね?」
アルティナに抱かれると「フゥフゥ~!」と嬉しそうな声を出す
そして一度アルティナのところを抜け出すとエルミナの周りをくるくると飛び回る
「あなた…、私の事も覚えてくれてたの? うれしい…」
エルミナに撫でられとまた嬉しそうに「フゥフゥ~!」と声をあげた
「<その子も、ワシと一緒に、卵を守ってくれておったのじゃよ。この木の精霊王の卵をな>」
ベイルグランから一つの光が放たれて、ベイルグランの顔のところで止まり、光が収まっていく
緑色の、木の精霊王の卵だ
「<さぁ、受け取るがいい。妖精の姫よ>」
「姉さん、卵を…」
「え? 違うわよ。卵を受け取るのは、あたしじゃなくて、あんたよ。アルティナ」
「…へ?」
ポカンと口を開けて一瞬フリーズするアルティナ
「さぁ、精霊王の卵を取って。それからあの歌。覚えてる? ずっと前に、母さんから教わった歌」
歌、という言葉にアルティナはハッとする
「…じゃあ、あの歌が、もしかして…。…わかったわ、私、歌ってみる…」
◇
アルティナは奏でていく
その歌声は几帳面だけどそれでいて優しい、彼女の心が現れた歌声だった
アルティナが歌うと同時、また空の雲が割れ、精霊王の卵がひび割れる
直後、また雪姫―――ユキヒメの刀身に、何かが刻まれた―――
◇
「アルティナっ! とっても良かったわよ! 立派な妹を持って、姉さん幸せよっ」
「相変わらずアルティナの歌声は綺麗だよぉ! 久しぶりに聞けたなぁ」
ラナは純粋に誉めてくれて、マコトはただ歓喜している
だが、戸惑いが強いアルティナは二人に目をやると
「…姉さん、マコト…。精霊王が、私の腕で…」
「そ! あんたは歌姫! [シャイニング・ブレイド]封印を解くために歌うのが、あんたの役目!」
それを聞いたアルティナはラナの顔を見やる
何やらマコトも頬を掻いてる
…もしかして、この二人
「…二人とも、それを知ってたの? それを知ってて、卵を取りに来たの? …じゃあ、姉さん、もしかして、私のために…?」
それを聞かされるとラナは苦笑いを浮かべて
「ま、まあね…。あたしにできるのは、せいぜい、それぐらいの事だし…」
「アタシはラナさんから聞かされたの。つまり昨日知ったんだー。アルティナにはいつも苦労させてるから、こんな時くらい姉らしく振る舞いたいなんて言われたら協力しないわけないじゃないっ!」
「ああ! マコト、それ言わない約束でしょう!」
二人のやりとりを聞いてアルティナは全てを今理解した
―――全部、自分の為だったんだ―――
「…姉さんは、もう…、姉さんはっ…! いつも! どうしていつもそうなの!?」
目尻に涙を浮かべながら今まで言えなかった想いを爆発させるように彼女は言葉を紡ぐ
「なんでもかんでも自分で勝手に考えて、勝手に決めて、勝手に動いて…! 私の気持ちなんか確かめようともしない…!!」
頬を伝う涙を拭おうともせず、アルティナは感情をさらにぶちまける
「確かめもしないのに、なのに…!! どうして私の事をそんなにわかってるの!? どうして私の為にそこまでしてくれるのよ!! そんな事するから、嫌いになれないんじゃないの!! 姉さんの事…嫌いになれないんじゃないの…! バカ…バカバカバカ! 姉さんのバカー!」
しまいにはポカポカとアルティナはラナの叩き始めた
初めて甘える赤子みたいに
「あ、アルティナっ、落ち着いて、痛い、痛いってばぁっ」
「バカーーーーーッ!!」
…しばらくはこの状態が続きそうだ
◇
数分後
「…もう落ち着いた? 大丈夫かな?」
「え、えぇ。…流石にもう落ち着いたわ。ごめんなさい、姉さん」
泣き止んだアルティナはウサギみたいに目が赤い
「でもまあ、姉さんと無事会えて良かったよな。アルティナ!」
落ち着いた頃合いを図って二人にレイジは言葉を投げかけた
「うん。…どうもありがとう。皆のおかげよ」
「…[ありがとう]?」
普段のアルティナからは滅多に聞けない声が聞こえた
「…皆のおかげ…」
式とエルミナが先ほどアルティナが言った言葉を復唱する
「…なによ。どうしたの?」
「…いや、まさかアルティナからそんな言葉が出てくるとは思わなくてな。ちょっと驚いただけだ」
レイジの言葉にアルティナは「まぁ!」と口を開き
「あなたたち! 私の事をなんだと思ってるのよ!」
「ご、ごめんなさいっ」
あわあわとエルミナが謝った
「…けど、感謝するならあと一人いるぞ」
「…アラタの事でしょ? わかってるわよ」
「ならいい」
言って式はアルティナに笑いかけた
普段の式は見せない、純粋な笑み
「―――、」
思わずアルティナは見惚れてしまったが、やがて彼女は式に笑い返す
その笑顔は、エメラルドよりも輝いていた―――
◇◇◇
「…アルティナは、お姉さんのおかげでいろいろ吹っ切れたみたいね。…で、お姉さんはどうする?」
いつの間にかサクヤがラナの近くに立っていた
「あ。サクヤ…来てたの…?」
「ええ。心配だったから。けど、杞憂だったみたいね。…それで、どうするの?」
「あたし? …そうね、やっぱりあんたたちと一緒に戦う事にするわ。…いいわよね? マコト」
「アタシに振る!? …けど、そうだよね。森をこんなにして、何の罪もない人たちをたくさん殺したドラゴニアは、一発思い切りぶん殴ってやんないと気が済まないよ!」
マコトの言葉にラナは頷く
「よく言ったマコト! さすが私の一番弟子!」
「…武器のジャンル真逆だけど…まいっか!」
そして二人して改めてサクヤを見る
サクヤは苦笑いを浮かべた後、普通に笑い
「もちろん大歓迎よ二人とも。ラナの援護とマコトのパワーがあれば心強いわ」
そう言われるとマコトとラナは「いえーい!」ハイタッチをやると
「まかせなさいって! まずはフォンティーナから闇の手先どもを追っ払ってやるわ!」
「徹底的にぶん殴ってやるさー!」
おてんばなラナとムードメーカーなマコト
二人がいれば、かなり心強いだろう
「<勇敢な戦士たちに、ワシからも力を授けよう。森を守る、緑の力じゃ。マコト、近う寄れ>」
「はいはーいっ」
マコトはベイルグランから一枚のカードを受け取るとサクヤの下へと走っていった
「はい! サクヤさんっ。サクヤさんならこの力を操るのに問題ないはずだよっ」
サクヤはそのカードを受け取り、ベイルグランを見やると
「これは助かるわ。ありがとう、森と大地の守護者よ」
頭を下げて礼を言った後、ラナへと向き直って
「それからラナ。ここでの指揮は、貴女に預けるわ。まずはなにをしたらいい?」
ラナはうーんと一度考える仕草をすると
「…こういう事は、しっかり者のアルティナに聞いてみましょ。…ねぇアルティナ、あんたはどう思う?」
「…ラナさん、早い…」
マコトのツッコミは華麗にスルー
アルティナは若干苦笑いを浮かべるがやがて表情を切り替え
「そんなの決まってるわ。姉さん、マコト。暗黒騎士団を追い出しましょう!」
どうやら前々から考えていたようだ
「森を我が物顔で駆け回って、隠れてるエルフを狩り立てているのよ! 絶対に許せない!」
「わかったわ、だったら、逆に―――」
「こっちから奴らを狩ってやろうラナさん! ほんで、フルボッコしてやろう!」
マコトの表現に苦笑いしながらラナは聞き
「よぅし! それでいいわね! 皆!!」
そして指導者らしく号令を飛ばす
「あたしたち姉妹が帰ってきたからには、森の中で好き勝手にはさせないわ!!」
「…?」
アラタはふと足を止めある一点を見た
方角的にフォンティーナの方だ
「どうした、アラタ」
「…いま、アルの歌が聞こえた」
アラタの呟きにジンが同意する
「…どうやら彼女は歌姫(ローレライ)だったみたいだな」
「アルが…」
アラタの表情が驚きに変わる、が、また通常の顔に戻る
「…透き通った歌声でしたね」
「ああ。優しさがこもった、とても良い歌だった」
アラタにアイラが同意する
どうやらジンとアイラにもアルティナの歌声は届いていたようだ
「アルも、頑張ってるんだな…」
柄にもなくそんな事を呟いてみる
アルも頑張ってる
「だから、俺も頑張らないと」
短く呟いてジンとアイラの後をついていく
先ほど近隣の町で封印されてる洞窟の情報が聞けた
多分、もう少しで付くはずだ
ムラサメのいる洞窟は―――