シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
まぁグダグダですがご容赦を
あれからどれくらい時間(とき)が経っただろう
ユキヒメはちゃんとやってるかな
私が封印を懇願した時に涙を流してまで止めてくれたユキヒメ
嬉しかった
ただ純粋に嬉しかった
だから私は迷惑をかけたくなくて自分を封印にかける事を先代に申し出たのだ
ユキヒメは私なんかよりも優秀だから
私という枷なんかで止まってなんか欲しくなかった
私はドジでマヌケだから、こんな事でしか恩を返せない
だから自分が消えることを望んだ
(…、)
…嘘だ
本当は消えたくなんかなかった
必要としてくれる誰かが欲しかった
けど無駄に魔力を喰らう私なんか誰も使いたがらないだろう
挙げ句力が暴走し、ただ魔力を喰らうだけの存在になってしまった
(…誰か)
これまで何人もの人が私を求めてやって来たが結果は明白
私に魔力を吸い尽くされ、命を落とした―――
私って、なんなんだろう
「…ここですね」
「ああ。間違いはないな」
「アイラは僕の後ろにいろ。僕とアラタが前に出る」
ああ、また今日も哀れな人たちが来てしまった―――
◇◇◇
「…ここが、ムラサメの封印されている洞窟らしいな」
ジンの後ろをついていって数時間
進んだ先に、木々に隠れてわかりづらかったが、なんとかその洞窟を発見できた
「…なんでも、近隣の町の人から、ここは[帰らずの洞窟]なんて言われてるらしいですね」
「ああ。まぁ、その変な噂のおかげで、すんなり来れたというのもあるが」
辺りを見回しながらアイラがつぶやく
ここに来るまでたまにドラゴニアの偵察兵と戦ったが、この洞窟に近づくにつれめっきりと遭遇確率が減った
「…早く助けて、サクヤたちに合流しよう。待たせてはいられない」
「ああ。だが何かあるかわからない、気をつけろ」
「了解です」
ジンの注意に返事しながら、アラタはナイフを抜く
このナイフは別行動をとる時、式から渡されたものだ
案外切れ味が鋭いのにはビックリした
恐らく毎日ナイフの手入れは欠かしてはいないのだろう
「さて…!」
式みたいに逆手にナイフを持つと、洞窟の中へアラタは駆け出していった
◇
「ふ!」
横に凪いだナイフの一撃が宙を飛んでいたウルフを裂いた
「洞窟の中は、意外とモンスターがいるんだな」
雪女を用いて同様にモンスターを狩りながらジンが呟いた
「…ムラサメの噂を聞きつけた者たちが何人もいた、という話もあったが…」
「なるほど。…早い話、おこぼれを喰らっているのか」
その噂の話をアイラから聞いたジンはある程度理解した
ここのモンスターたちは興味本位などでやってきた人間を喰らっているのだ
「モタモタしてると僕らもエサになる。走るぞ」
アラタとアイラは頷いて、ジンを先頭に先へと走っていく
途中、亡骸や食い散らかされたようなものがあったが、振り返る事はしなかった
◇
奥まで進んでいくとやけに広いところに出た
その部屋の中心には大きな魔法陣が展開され、その魔法陣の中には一人の女の子が浮かんでいた
「…ここですね」
「ああ。間違いはないな」
「アイラは僕の後ろにいろ。僕とアラタが前に出る」
「わかった」
アイラが杖を構えたまま、ジンの後ろに下がる
(<…何のよう>)
そのまま、突如として頭に声が響いてきた
「…貴女が、ムラサメか」
(<…ええ。私は、ムラサメ>)
アラタが一歩前に出てその女の子に向かって声を出す
遠目からだとわかりにくかったが、女の子はメイド服みたいなのを着用しており、頭には狐の耳みたいなのがある
「…貴女は獣人なのか?」
(<ええ。…けど、私は半獣人だから、人間の姿でしかいられないけど>)
女の子は目を瞑ったままで全く動かない
恐らく会話は念話でしか今はできないのだろう
「ユキヒメのことは知ってるな」
間を図ってジンがムラサメに聞く
(<…ええ。彼女は私の姉弟子にあたる。彼女が何か?>)
「僕たちは、ユキヒメから頼まれてきた。君を助けるために」
ジンがそう呟くとムラサメの顔がぴくりと動いた気がした
(<…ふふ。相変わらずね、ユキヒメは>)
ムラサメの口調が若干柔らかくなった感じがした
(<…けど、あなたたちでも先代の封印は解けないわ。今まで何人も来たけど、私には触れる事すら適わなかった。私に魔力を吸われ、あるいはモンスターに食い散らかされ。…嬉しいけどユキヒメの友達をそんな目に合わせたくない。…だから、帰って>)
そう言ってムラサメは念話を断った
「…優しい人ですね」
「ああ。ユキヒメが可愛がるのもわかる気がする」
アラタの呟きにアイラが同意する
アイラもエルミナを可愛がってるからなんとなくわかるのだろう
彼女は優しいんだ
ただその表現の仕方が不器用なだけで
「…アラタ、頼む」
「やってみます」
頷くとアラタはナイフを抜き放った
(<…何をするの?>)
ムラサメの念話がまた聞こえた
だが無視してアラタは更に前へと歩み出る
「…ぐ!?」
何かが吸われていくような感覚がした
そういえば魔力を吸うという話を聞いていた
つまり今魔力を吸われてるのだ
「…死ぬのが怖くて、こんなところになど来るか」
爛(らん)と眼を蒼く煌めかせ魔法陣の壁を睨みつけた
…線が細い
ならば更に意識を眼に集中させ、より深く見る
一瞬頭がクラリとした
だが諦めない
ここで諦めたらユキヒメや仲間たちに会わす顔がないではないか
(<止めて! 私は大丈夫だから…もうほっといて! 私に…、私に希望を抱かせないでよぉ…!!>)
珍しく感情を出しながらムラサメの声が頭に響いた
「知らないね…!!」
それでもアラタは視るのを止めない
徐々にクラクラとしてくるが、それがどうした
…はっきりと視えた
「ふんっ!」
視えた線をなぞるようにナイフを振るった
直後、パリン! と何かが砕けるような音が響いて結界が破壊された
宙を浮かぶムラサメが地に足をついて驚くような顔をした
「…先代の、封印を…!?」
「良かった…、なん、とか…」
ムラサメの声と姿を見届けたアラタはその場にバタリと膝をついてしまった
「…!?」
ムラサメは近づいてハッとする
(…私じゃ、彼を余計に消耗させてしまう…)
目を瞑り近づくのをムラサメは躊躇った
「…ユキヒメも綺麗だけど、ムラサメも綺麗だね」
目を開ける
いつのまにか歩み寄っていたアラタが自分の頭を撫でていた
…暖かい
「…バカですね。貴方は」
思わずその右手を取って顔の前に持ってくる
「…あれ?」「…あれ」
ふと気づいた
アラタは違和感に
ムラサメは自分の変化に
「…私、今貴方の魔力を吸収してるはずなのに」
「…俺、吸われてない」
◇◇◇
「…ジン、一体何が起こってるのだ。ムラサメとは魔力を吸うのでは…」
「いや、僕に聞かれても」
遠目からアラタとムラサメのやりとりを少し離れて見ていたジンとアイラは軽く言葉を交わす
「それは彼の右手のおかげね」
後ろから声が聞こえた
アイラが振り向くとそこには金髪で黒ドレスを身に纏った女の子が歩いてきていた
傍らには橙色のコートを着た赤い髪をポニーテールに整えた女性もいる
「レイチェル…。お前も来ていたのか」
「降りたのは最近よ」
短くジンに返すとレイチェルは改めてアラタの方を見る
そして説明を始めた
「彼の右腕に内包された[深蒼の魔導書]が、彼女の力を抑制し、制御してるのよ」
レイチェルはアラタとムラサメを見る
「おまけに、彼の右腕にはトウコが手を加えているからね。ムラサメとは相性がいいのよ」
「いつのまにそんな細工を…」
疑問に思ったことをアイラが口にする
「ふふ。女性は秘密を着飾って美しくなるのよ」
レイチェルは口元に人差し指を当て軽く笑う
傍らの女性はやれやれと言った様子で溜め息を付いた
◇◇◇
「…けど、貴方ならきっと私を使いこなせるかもしれない…」
ぎゅ、とムラサメはアラタの右手を握って真摯な眼差しを向ける
思わず顔を赤くしてアラタは顔を逸らしてしまった
「…私を、貴方に託します」
ムラサメが眼を瞑る
するとムラサメの体が輝き出した
ユキヒメと同じ現象だ
その光が収まった時、アラタの右手には立派な日本刀が握られていた
柄の色はユキヒメとは対照的に白と薄い紫、柄尻は銀色で、何よりも目を惹くのがその鍔
ユキヒメが氷の結集のような形なら、ムラサメは桜の花弁みたいな形をしてるのだ
「…これは」
「<…またこの姿を取れるなんて思ってもいなかった。貴方のおかげです。ご主人様>」
「…ご、ご主人様?」
なんかすごい言葉を聞いた気がする
「<…いけないですか?>」
「…アラタでいい。俺はそんなにえらい人じゃないよ」
一瞬ムラサメは黙ったがやがて
「<わかりました、アラタ様>」
様付けは取ってくれなかった
「…けど、ムラサメって名前もなんだか男くさいな…」
「<? そうでしょうか。名前なんて考えた事がなかったもので>」
むー…、とアラタは数分考える
やがて
「…決めた。今日から君は[ローナ]だ。[ローナ=ムラサメ]」
アラタが刀のムラサメにそういうと一瞬黙ってしまった
「…?」
どうしたんだろう
「<…はいっ! ありがとう、ございますっ…>」
なにやら感極まった声色で感謝された
「…どういたしまして」
左手で刀のムラサメをこつん、と優しく叩く
「<あう>」と可愛らしい声が聞こえた
「…終わったのか。アラタ」
近くまで戻ってくるとジンがアラタに向かって声をかける
「はい。ローナは、俺たちの仲間になってくれました」
「…ローナ?」
なにそれ? と言わんばかりにアイラが聞き返す
「…名前です。ローナ=ムラサメ。…ムラサメだけだと、なんだか男くさいですから」
「…確かに。カッコイいけどな」
アイラが苦笑いする
「よし。ムラサメも解放できた事だ。急いで戻ろう」
「だがジン。いくら急いで行けても、最低でも三日はかかってしまうぞ」
そうなのだ
この場所はフォンティーナとはだいぶ離れたところにある
はっきり言えば真逆の方向だ
下手すれば三日以上かかるかもしれない
「それは問題ないわ」
そんな中レイチェルが口を開いた
「ずっと徒歩で来たのでしょう? だがら、私が乗り物を提供してあげる」
「…あれ。なんでお前がここにいる」
「気にしたら負けよアラタ」
ぐぬ…、とアラタは口を噤む
アラタが黙ったのを確認するとレイチェルは指を鳴らす
するとレイチェルの隣の空間が歪み、そこから何かが現れた
「…馬?」
形だけ見れば馬だ
だが目つきは明らかに馬ではないし、頭に角が生えている
「ユニコーン?」
「違うわ。麒麟(きりん)よ」
なんと神獣を呼び出した
なんでもありなのかこの女は
「ま、正確には私が馬をベースに作り上げたの偽物だけどね」
それでも麒麟を作り上げる彼女の技術力には凄まじいものがある
「さ、乗りなさいアラタ」
「俺が乗るの!?」
「当たり前よ。あとこの麒麟あげるから。この子の面倒は見てあげて」
なんなんだこの女は
「行け、アラタ」
「ジンさん…、だけど」
「僕とアイラは大丈夫だ。君だけでも先に行け」
「…わかりました。先に行きます」
アラタは麒麟に乗ると、狼奈を人間体へと戻して自分の後ろに乗せる
「行きます!」
手綱を握り、軽く声を出すと麒麟が応える
「ッ!!」
馬なら「ヒヒーン!」と嘶くだろうが、麒麟は狼みたいな遠吠えだ
そして後ろ足だけで立ち上がったあと、凄まじいスピードで駆け抜けていった
「…ずいぶん早いな」
「偽物とは言え神獣よ。舐めてもらっては困るわ」
レイチェルがまた指を鳴らす
また空間が歪み、今度は二輪車のようなものが姿を見せる
「これはキサラギさん、貴方のよ」
「…僕の?」
ジンがハンドルに触れる
「…なるほど。これはなかなかのものだな」
呟いてジンはまたがった
「アイラ、僕の後ろに乗れ」
「わ、わかった」
一瞬顔を赤くしたがすぐに表情を戻しジンの後ろに乗り、彼の腰をしっかりと持つ
「…これは、どうやって動かすんだ?」
「それは私が教えよう。エンジンは―――」
しばらく橙子から乗り方に関してのレクチャーが始まった
◇
「わかったか」
「ああ。だいぶわかった。感謝する」
ジンは橙子に短く感謝の意を告げる
そして橙子から鍵を受け取ると慣れた様子でエンジンをかけた
「…いい。何故だろう、初めてなのにやけにしっくり来る」
右手で何度もエンジンをふかす
やがて車体を安定させて後ろのアイラに
「しっかり捕まってろ、アイラ」
「わ、わかった。何度も言わすな、早く行けっ」
「なら遠慮なく!」
一気にエンジンをふかすとジンはけたたましく音を出しながらバイクを発進させた
最初はうるさかったが、走り出すと思いのほかあまり音はなかった
「…やけに飲み込みが早いな」
「気のせいよ。さ、私たちも行きましょう」
レイチェルは橙子に促すと彼女は頷いた
そしてレイチェルは指を鳴らし二人の前の空間がまた歪む
二人がまたその歪みに入っていくと、その歪みは二人を飲み込み、そして消えた
後に残っているには、薔薇の花弁だけ―――