シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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妖精たちのアルペジオ 3

「式式!」

 

エドラスでナイフを手入れしていた式にラナが慌てた顔で話しかけてきた

 

「…どうしたんだ。珍しく慌ててるな」

 

「そりゃ慌てるよ! 実は、避難場所から隠れ里に移動してくる途中だった村人たちが、暗黒騎士団に襲われたんだ!」

 

「…暗黒騎士団?」

 

話には聞くとそれはドラゴニア帝国のスレイプニル率いるケンタウロスたちだという

 

…もっとなにか、ネーミングはなかったのだろうか

 

「まあいいや。助けに行くんだろう? 手を貸すぜ」

 

「ありがとう式! 村人たちに手出しはさせないわ!」

 

意気込むラナを後ろからついてきながら式はナイフを帯にセットする

 

そして左手の義手の調子を確かめるとグッ、と左拳を握る

 

「…よし。行くか」

 

まずはその暗黒騎士団とやらの顔を拝ませてもらおう

 

◇◇◇

 

「暗黒騎士団を見つけたわ! 急いで!」

 

ラナの後ろをついてくこと数分

 

遠方を指差してラナが叫んだ

 

だが指差された場所を見てはみるが、何も見えない

 

「…どこにいるんだ? 悪いがオレは見えないけど…」

 

「大丈夫、先導するわ、シキ。私たちについてきて!」

 

どうやらエルフの人たちは常人より眼が見えるようだ

 

「頼む」

 

式は短くアルティナに言うと後ろをまたついていく

 

しばらく移動すると

 

「…式、あいつらだ」

 

レイジがある一点を指差した

 

黒い鎧に身を包んだ馬上の騎士[ケンタウロス]のダークナイトが辺りを見回していた

 

「…へぇ、あいつがケンタウロスか。初めて見た」

 

式の言葉は案外素っ気ないものだった

 

「初めてって…」

 

「あんなの創作の中にしかいないからさ」

 

軽く笑うと式は後ろの帯からナイフを抜き放った

 

「…先に行くぜ。ラナ」

 

目配せすると式は茂みから飛び出して駆け抜けていく

 

「シキに続いて!」

 

同時にラナも弓を構えて援護を開始する

 

「よし、行くぜユキヒメ!」

 

「<ああ。不届きな輩を成敗してくれよう!>」

 

レイジも雪姫を携え式の後ろをついていった

 

◇◇◇

 

なにやら緑色のクリスタルが自分に波動を放ってくる

 

だが数々の修羅場を潜り抜けてきた式にとってこの程度は朝飯前だ

 

「よっと…」

 

卓越された身体能力で魔晶のエメラルドの攻撃を避け、隙を見て一撃を叩き込む

 

式の一撃を受けて魔晶のエメラルドはバラバラに砕け散った

 

「…呆気ないもんだな」

 

その場でナイフをクルクルと回しながらつぶやく

 

「…んじゃ、本命と行きますか」

 

パシッ、とナイフを改めて持つと視線の先にいるケンタウロス―――ダークナイトを睨みつけた

 

「…、」

 

ダークナイトも同様に式を睨みつけたように見える

 

そして右手のランスを式に突きつけた

 

「…なかなかイイ獲物じゃないか。気にいったぜ」

 

先に動いたのは式だ

 

先手を取らせまいと一気に接近してナイフでの攻撃を繰り出す

 

だがダークナイトは落ち着いた動きでナイフの一撃を左手の盾で防ぎ、カウンター気味にランスで突きを放つ

 

「おっと…!」

 

予期していたその突きを体をひねる事で回避し、後ろへ飛んで距離を取る

 

「こんなのは、どうだっ!」

 

左義手に仕込んでいる隠しナイフを瞬時に取り出し投擲する

 

一直線に飛んだナイフはダークナイトの右目に相当する部位に突き刺さった

 

「―――!?」

 

激痛に悶え苦しむダークナイトに式は素早く近づいて

 

「―――あばよ」

 

直死の魔眼でダークナイトを視る

 

胴体に点が視えた

 

式は一切の躊躇いなくその胴体の点をナイフで突いた

 

ダークナイトは叫びをあげる間もなく、その場に崩れ落ちた

 

「…ま、悪くはないよ。お前」

 

もう動かないダークナイトにそう言うと式はラナやサクヤたちの援護に回るべく走り出した

 

◇◇◇

 

「はぁっ!」

 

式がサクヤを視認すると、ちょうどサクヤは戦闘中だった

 

だがサクヤはいつもの黒いドレスでなく、蒼いドレス姿で、群れに波動を放っている

 

「いつもと服が違うな。イメチェンか?」

 

と式に聞かれたサクヤは苦笑いを浮かべて

 

「違うわよ。これはセルリアン。以前エールブランから譲り受けた力よ」

 

「ほー…」

 

説明を聞いた式はキョロキョロとサクヤのドレスを見始めた

 

「そ、そんなまじまじと見られると、流石に恥ずかしいのだけれど…」

 

式に見られ流石に顔を赤くするサクヤ

 

そんな彼女もなかなか新鮮だった

 

「いや。悪い、改めてスタイルいいからさ、お前」

 

「あ、ありがとう。…面と向かって言われると照れるわね…」

 

珍しく頬を朱に染めてそんな事を言う

 

やっぱり新鮮だ

 

「じゃあオレはいろいろと援護してくる。ここらは任せた」

 

「ええ。任されたわ」

 

軽く頷きあうと式とサクヤはそれぞれ反対方向へと走り出す

 

◇◇◇

 

「式!」

 

三体目のダークナイトを斬り伏せた時、レイジの声が式の耳に入ってきた

 

「よう。そっちは無事みたいだな」

 

「お互いさまにな」

 

レイジは額に浮き出た汗を拭いながら返答する

 

ラナやアルティナ、サクヤもそれぞれ敵を殲滅して戻ってきた

 

「もふもふは?」

 

「マコトは今村人たちを隠れ里に移送してる最中よ。安心していいわ」

 

式の問にラナがそう答えたその時だ

 

 

 

 

「きゃあーーーーーっ!!」

 

 

 

 

耳をつんざくような幼い悲鳴が響いた

 

「なんだ? 子供の悲鳴か」

 

アルティナが目を細めて悲鳴が聞こえた方を見る

 

「…あれは!? スレイプニルが子供を攫おうとしてる!!」

 

「なんですって!? 許さないわよそんなこと!!」

 

再びラナが先を行く

 

…まさか子供まで攫うとは

 

暗黒騎士団の名は伊達ではないらしい

 

そんな事を思いながら式は後ろをついていった

 

◇◇◇

 

「来ないで!! 来ないでぇーーーっ!! だれか! だれか助けてーーーーーっ!!」

 

悲鳴は更に大きくなる

 

恐怖が少女の頭を支配していた

 

誰でもいい

 

誰か…!

 

「大人しくしろ。お前の身柄を確保すれば、我らの行動がぐっと楽になる」

 

ずい、と身をかがめたスレイプニルの手が少女の頭を捉える

 

「いや! やめて! 離してよぉー!!」

 

「待ちなさーい!」

 

スレイプニルの耳に届いたのは聞き慣れない声色だった

 

方向を見ると金髪に羽のカチューシャをつけた女性が仲間を引き連れてこちらを睨んでいた

 

「スレイプニルだったわね! その子に手を出すんじゃないわよ!!」

 

金髪の隣には一人、見覚えがある女性もいた

 

「あ! 貴方…、私を追いかけていた人ですね…! こんな小さな子にまでヒドい事するなんて、許せません…!」

 

「ぬ…。貴公たちはあの時の…」

 

だが一人見当たらない人物がいる

 

かつてスレイプニルの槍を砕いたあの男の姿

 

別件でいないのか、はたまたいなくとも打倒できると小馬鹿にされているのか

 

どちらにせよ、今切り札はこちらの手にある

 

これを使わない手はない

 

「貴公らこれを見よ!!」

 

スレイプニルは先ほど捕獲した少女の体を見せつける

 

「ひっ…」

 

「っ!! お前!! その子に何する気だ!!」

 

その光景を見せつけられてレイジが叫ぶ

 

「何するかは貴公らの努力次第だ…。この少女の頭蓋が潰されたくなければ、な」

 

スレイプニルの発言にラナたちの表情に戦慄が走る

 

「なんて…、卑怯な…!」

 

アルティナが唇を噛み締める

 

「お前!! 仮にもケンタウロスなんだろ!! 騎士道精神とかはないのかよ!!」

 

レイジの言葉にスレイプニルは思わず笑った

 

「…騎士道、か」

 

おもむろにつぶやく

 

「この身は一度朽ちた身よ! 再び現界した時にはそんなもの、とうに消え失せた!!」

 

ぐ…! と左手に若干ながらの力を込める

 

少女の顔が苦痛に歪む

 

「止めなさい!」

 

ラナの声にスレイプニルが止まる

 

「…ならば交換といこうではないか。そちらが今所持してる精霊王の卵とやらと」

 

◇◇◇

 

「ぐ…、割と合理的な要求をしてくるわね…!」

 

ラナが拳を握る

 

人質がいては流石にこちらも好きには動けない

 

「…なら、一度要求を呑むしかないな」

 

「シキ!? 何言ってるの!」

 

式の言葉にアルティナは激昂するが、式は彼女は手で制し

 

「卵はまた取り返せる。だけど、命は取り返せないだろう。…一度卵を渡して、油断した時を狙えば…」

 

「…けど、上手くいく保証はないじゃない」

 

「何にもしないよりはいい。いざとなれば、オレが突っ込む」

 

「おっと。突っ込むならオレも同行するぜ」

 

レイジが式に進言する

 

「…好きにしろ」

 

「おう。好きにする」

 

◇◇◇

 

「マコト。これで避難民は全員?」

 

アミルはマコトに聞く

 

リックとマコト、エアリィ、アミルの四人はエドラスへ逃げ込む避難民を手助けしていた

 

「うん。これで全員のはず」

 

「ふう…、一時はどうなるかと思った…」

 

エアリィが安堵の溜め息を漏らす

 

「うん。一時はどうなるかと思ったけど…、リックのおかげでなんとかなったよっ」

 

そう言ってマコトはリックの背中をバシバシ叩く

 

「…痛い。やめてくれ」

 

対するリックは相変わらずな無愛想な表情でマコトに返す

 

「もー。釣れないなーリッくんは」

 

「っ!?」

 

リックが吹き出し顔を赤くする

 

「り、リッくん!? なんだその呼び方は!?」

 

「えー? 他意はないよ。略したらリッくんになっただけで」

 

「略してなんで文字が増えるんだ! …いや違う、そんな呼び方をするな!」

 

赤面しながらそう言うリックをエアリィとアミルは微笑ましい笑顔で見守っていた

 

と、そんな時だ

 

「…ん?」

 

パカラ、パカラ…、と遠くの方から声が聞こえた

 

ケンタウロス特有の蹄の足音だ

 

「…リッくん、気づいた?」

 

「その呼び方を止めろ。…ああ、わかってる」

 

リックはエアリィに視線を送る

 

エアリィは頷くと聖盾剣アーデットへと姿を変え、リックはそれを装備する

 

…徐々に蹄の足音が大きくなっていく

 

「…早いよ!?」

 

「隊長格か!?」

 

メンバーに緊張が走る

 

だが予想に反して現れたのは

 

「…あれ?」

 

「…なっ…!」

 

「…あーっ!?」

 

「<貴方は…!?>」

 

◇◇◇

 

「…賢明な判断だな」

 

苦情の決断でやはり一度精霊王の卵を譲渡する事にした

 

苦い顔をしたエルミナとアルティナを無視し、スレイプニルは精霊王の卵を手に取る

 

そしてようやく左手の少女を解放した

 

「…ほう。これが精霊王の卵か」

 

品定めするように卵を見るスレイプニル

 

(…そこだ!!)

 

左義手に内包されてあるナイフをスレイプニル目掛けて放つ

 

放たれた隠しナイフはスレイプニルに一直線に突き進み、直撃―――する寸前に開いた左手でナイフを掴まれた

 

「な…!!」

 

「…奇襲のつもりか。残念だな。気配は絶っていても、滲み出る殺気は隠し切れていないようだったな」

 

「ちぃっ…!!」

 

初めて式が舌を打つ

 

マズい、絶望的にマズい

 

「ちょ、離しなさいっ!」

 

「きゃ!? 何をするんです!」

 

「ふふふ…。これはダークドラゴン様に良い手土産が出来た。フォンティーナでの雪辱をこんな形で晴らせるとはな」

 

潜伏していたダークナイトがエルミナとアルティナの腕を掴んでいた

 

「アルティナ!」

 

ラナが妹の名前を呼ぶ

 

…最悪だ

 

(自分で提案しておいて、なんて様だ…!!)

 

式は苛立ってしまった

 

こんな時に何もできない自分自身に

 

「…くそ!」

 

「あ、まて式!」

 

苛立った式はレイジの制止を聞かず式は敵の群れへと突っ込む

 

だが苛立ちにまみれた斬撃は雑魚はあっけないが、ダークナイトが相手となると簡単に見切られてしまう

 

「さらばだ、異界の戦士よ!」

 

「シキ!」

 

「式さん!」

 

アルティナとエルミナの声で式の頭がハッとする

 

だが反応が遅かった

 

すでに式の眼前にはスレイプニルの槍が迫って―――

 

 

 

ガァオォォアッ!! と獣みたいな声が聞こえた

 

 

 

「…む!?」

 

ガウッ!! とスレイプニルの体に何かが当たった

 

それは空気の塊でダメージこそはなかったが、確実な隙となる

 

「っ!!」

 

その隙を見逃さない

 

冷静になった式はスレイプニルの手から零れ落ちた精霊王の卵をなんとか回収し、距離を取る

 

しかしアルティナとエルミナがまだ捕まったままだ

 

どうする、と式が考え始めたその時

 

「な、なんだありゃあ!?」

 

レイジの驚きの声がその場の全員の耳に届く

 

式は釣られて上を見る

 

「…な…!?」

 

馬だった

 

一言で表すなら馬だった

 

「<馬に蹴られて―――>」

 

「―――地獄に堕ちろぉぉっ!!」

 

そんな叫びと共に白い馬(?)がアルティナとエルミナを捕らえていたダークナイトを文字通り蹴っ飛ばした

 

「は、白馬…!?」

 

レイジが見たままの感想を告げる

 

「<いや…、それよりも、あの…、あの声…は!?>」

 

「…久しぶりに面見れたな、スレイプニル」

 

「貴公は…!! ふ…、やはり現れたか!」

 

白馬(?)に乗った人物はスレイプニルを一瞥した後、アルティナとエルミナに手を差し伸べる

 

「悪い、遅れた」

 

「…! 本当に、遅いわよ…! この…!!」

 

「…遅刻ですよ…、もう…」

 

アルティナは本当に若干目尻に涙を浮かべて、反対にエルミナは普通に涙を頬に伝わせて、白馬(?)に乗る人物を見て

 

 

 

『バカアラタ…!(アラタさん…!)』

 

 

 

 

一度アラタは二人を麒麟に乗せて、ラナのところへと運んだ

 

「アルティナぁ…」

 

「姉さん、わ、抱きつかないでって…」

 

無事を素直に喜ぶラナにまんざらでもない表情を浮かべるアルティナ

 

「つか、やっぱりアラタだったんだな! 最初その馬見たときはびっくりしたけど…」

 

「馬じゃないよこれは。…まあいいや、わかりやすいし」

 

アラタは麒麟から降りるとレイジと軽く拳をぶつける

 

「…まさかアラタに借り作っちまうなんてな」

 

苦い顔をする式にラナは

 

「気にしないでよ、失敗は誰にだってあるもん」

 

「…すまない」

 

そう言ってくれるだけで式は救われた気分になる

 

「<アラタ様、まずは敵を殲滅しましょう!>」

 

「ああ。遅れて来た分、暴れてやろう!」

 

アラタは手にした日本刀にそう答えると麒麟の影から身を出した

 

「いこう、ローナ!」

 

「<はい! アラタ様!>」

 

その後ろ姿を見ていたユキヒメは

 

「<…やっぱり…あの声は…!!>」

 

◇◇

 

「せいっ!」

 

狼奈から繰り出される斬撃は凄まじいな一言だ

 

切れ味はかつて自分が使用していた日本刀を遥かに凌駕している

 

ボーンファイターが剣を振り上げてくるが、その剣ごと破壊してボーンファイターを両断する

 

「<さすがアラタ様っ!>」

 

「誉めても何も出ないぞ」

 

そのまま軽い会話を交えながらボーンファイターを切り倒し、スレイプニルの前へ出る

 

「…、ふ、新たな獲物を手に入れたようだな」

 

「獲物じゃない。仲間だ」

 

狼奈を突きつけてスレイプニルを睨む

 

「<…アラタ様>」

 

「…まあ良い。現状では分が悪い。勝負は預ける」

 

「…? 勝負なんてまだしてないじゃんか。むしろ今からだろう」

 

「貴公とは真っ正面から戦って打ち砕きたいのでな」

 

「…またどういう風の吹き回しだ」

 

スレイプニルは槍を振るい背を向ける

 

「…先に騎士道が朽ち果てたと言ったが、やはり捨て切れてはおれんのかもな」

 

最後に一言そうつぶやくとスレイプニルは部下を引き連れて撤退していった

 

「…、」

 

アラタはそんなスレイプニルの後ろ姿をただ眺めていた

 

「…ならこっちも、真っ正面からぶっ潰してやるさ」

 

狼奈を鞘に納めると軽く上に放る

 

直後アラタの隣に人間体のローナが着地した

 

「…とりあえず、君をユキヒメに見せていこう」

 

アラタにそう言われるとローナは頷いて

 

「はい。…久しぶりだなぁ…ユキヒメ…」

 

想いを馳せながらローナは顔を綻ばせる

 

久方ぶりに会う親友に期待を寄せながら―――

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