シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
少々無理やり感がありますが…申し訳ないです
ローナがユキヒメと会ってる間、アラタはこれまでの事をサクヤに報告すべく、彼女の部屋を訪れた
「サクヤさん」
部屋をノックし反応を待つ
「入って」
「失礼します」
部屋に入ると椅子に座ったサクヤに―――
「…あら。少し淹れ方が上手くなったわね」
レイチェルがいた
「…なんでいるんだよ」
「…。あら、私がここにいるのがおかしいのかしら」
「いや、別におかしくは…」
アラタに短く返答すると再び紅茶を飲み始める
「アラタ。貴方もどうかしら? 長旅…かはわからないでしょうけど、疲れてるでしょう?」
気がつくとサクヤが紅茶のポットを手に、カップを用意していた
「あ、…じゃあいただきます」
せっかくの誘いを無下に断るのは気が引けるので、レイチェルと一緒に紅茶を飲む事にした
◇
「あ、美味しい…」
サクヤが淹れてくれた紅茶はとても美味なものだった
ほんのりと甘味があり、しつこくなく実に爽やかである
「ここに軽い茶菓子でもあるともっといいのだけれどね」
「無茶言わないで。急に用意なんてできないわよ」
ずい、と空のカップを差し出すレイチェルにサクヤはまた紅茶を注ぐ
割と仲は良いのかもしれない
「あ、そうだアラタ。一応報告は聞こうかしら」
ポットをテーブルに置くとサクヤはアラタに向き直った
そうだ
もともと報告するために来たのだ
危うく忘れてしまうところだった
「とと…、了解です」
ことり、とカップを置くとアラタはかいつまんで説明を始めた
◇
説明中
◇
「じゃあ、ジンたちも向かってるのね」
話を聞いたサクヤは空になったアラタのカップに紅茶を注ぎながらそう返事した
「はい。いつ到着するかは、わからないですが…」
「多分明日には到着すると思うわ」
不意にレイチェルがそんな事を言った
「明日って…」
「アラタにあげた麒麟ほどではないけれど、ちゃんと乗り物をあげたから」
「…俺が行ったあとにそんな事が…」
アラタが溜め息混じりに頭を抱える
「あ、ところで…」
唐突にサクヤが口を開いた
「アラタ。今ムラサメはどこにいるの?」
「ローナですか? ローナはたしか…、友達に会いに行ってるはずです」
そう言うとサクヤは小さく微笑んで
「ふふ。友達、ね?」
「ええ。友達、です」
◇◇◇
アラタからお暇をもらったローナはエドラスの街をただいろいろと歩いていた
今まではずっと薄暗い洞窟の中で封印されていたから街並みの変化には興味津々なのだ
「…ほぇー…」
口をあんぐり開けて驚愕するムラサメ、改めローナ=ムラサメ
久しぶりに外に出たローナにとって、目に映るもの全てが新しかった
「…、」
てくてくと辺りを見回してくローナ
と、スカートの裾をうっかり踏んでしまい派手に転び
「はぎゅ!」
地面におでこを強打してしまった
「はぅぅぅ…」
おでこをさすりながらその場で体を起こす
その痛みも、久しぶりだった
その久しぶりの痛みについ笑みがこぼれてしまう
「…、ふふっ…」
「…相変わらず、お前はよく転ぶのだな」
また久しぶりの声色
それは、とても懐かしくて、たまに厳しくて、大好きな声色
視線を向ける
紫のリボンに黒いドレス
「…ユキヒメ…」
「…お前の声色を聞くのも、久しぶりだ」
ユキヒメはローナへと歩み寄って手を差し伸べる
ローナはユキヒメの手を取ると彼女の力を借りて立ち上がる
暖かい、手だ
「…もう、永遠に会えないと思っていた」
ユキヒメが言う
その声色は彼女を知るものには珍しく、涙が入り混じっていた
「…私も。もう会えないってばかり考えてた」
ユキヒメの手を強く握る
「なあ…、今お前に触れられてるのは、夢ではないのだよな?」
「…ほっぺ引っ張ってみればわかるかもよ?」
ローナが何気なく言ったその一言にユキヒメは「あ、あぁ」と軽く頷くと
ふに、とローナの両ほっぺを引っ張った
「にゃ!? いらいよゆひひめー…。ほんろにひっはらなくても…」
ふにふにと頬をいじるとそれに合わせてリアクションするローナ
このやりとりも、久しぶりで、そしてそれは、親友が今ここにいる事を深く実感させた
「ムラサメぇ…」
ほっぺふにふにから解放されたローナは両頬をさすりながら
「もう…。なに―――って、わぁっ!?」
ユキヒメが勢いよく抱きついた
危なく倒れてしまいそうなのを慌てて支える
「ムラサメ…! 会いたかったぁ! ずっと! ずっとぉ…!」
珍しく泣きじゃくるユキヒメをローナは優しく抱き返す
「…うん。私も会いたかった」
ユキヒメに釣られて、彼女の頬にも伝うものがあった
言うまでもなく、涙だ
「ムラサメぇ…、ムラサメぇっ…!」
「…これからは、私も貴女を支えるね」
涙を流すユキヒメの頭を撫でながら、彼女をまた強く、抱き返した
◇◇◇
「ごちそうさまでしたー」
「また飲ましてもらうわ」
紅茶のお礼を言ってサクヤの部屋を後にするレイチェルとアラタ
「ところでアラタ。貴方料理はできるかしら」
「な、なんだよ藪から棒に」
「いえ。これを」
おもむろにレイチェルは懐から一枚の紙を取り出してアラタに差し出す
「…なんだこれ」
「ヴァルケンハインお手製の特製スコーンの作り方が書かれたメモよ」
「作れと!?」
レイチェルはさも当然と言うように頷いて
「それ以外何があるというの。これからはサクヤの部屋に行く度に貴方に作ってもらうから」
そう言うとレイチェルはアラタの先を歩き始める
そしてアラタの顔に視線をやると
「期待してるわよ」
と言い残してレイチェルは自身のマントを翻す
直後にバラの花弁を散らし姿を消した
その場に残ったのはバラの花弁と、呆然と立ち尽くすアラタだけ
「…はぁ。また面倒な仕事が増えた」
アラタはもらった紙を四つ折りにするとそれをポケットに仕舞うとドアを開けて外へと身を乗り出した
◇◇◇
「あっ! アラタ様っ!」
「おぉ。ローナ」
案外早くローナを見つける事ができた
傍らにはユキヒメもいる
目が若干赤くなってるところを見るときっと嬉しかったのだ、と信じたい
「あ、あらたっ…! お前には、感謝しても仕切れないっ…」
今も若干涙声だ
「そんな…、俺は別に」
「いいや、言わせてくれっ…、ありがとうっ…! 本当に…!」
なんだろう
すごく恥ずかしい
「ど、どういたしまして…」
「…ふぅ。すまない、少々取り乱した。ぐすっ」
涙を拭きながらようやく落ち着いたユキヒメがそう言った
「…さて! 私もムラサメに負けぬよう、レイジをしっかり鍛えてやらねばな」
ユキヒメはそう言ってぐっと握り拳を作る
「アラタ。何度も言うが…、本当にありがとう」
「気にしないでよ。俺たちは仲間じゃないか」
そう言うとユキヒメは笑みを浮かべて
「ふ…。そうだな。仲間、か。アラタ、ムラサメを頼むぞ」
笑みのままユキヒメは踵を返すと、小走りに走っていった
「あんなユキヒメ、初めて見た」
「結構かわいいでしょう? アラタ様」
頭の耳をヒョコヒョコさせてアラタを見るローナ
なんだか小動物みたいでそれはそれでかわいかった
「…さて、久しぶりに夕飯を作るかな」
「アラタ様が夕飯を作るんですか?」
「うん? ああ、そうだけど…」
そう言うとローナの目がキラリと光った気がした
「ぜひ、私もお手伝いさせてくださいっ!」
「え、そんな、悪いよ」
「いえ! このままアラタ様に助けてもらいっぱなしなんて私が許せませんっ! どんな些細な事でも、このムラサメ…、もといローナがお手伝いしますっ!」
「お…お願いします」
気圧されてしまった
…まあ問題はないだろう
◇◇◇
「アラタさんとお料理をするのも久しぶりです」
食材を切りながら笑顔でエルミナがそう言った
「そうねぇ…、サクヤさんと一緒に作るのも、勉強になったけど」
鍋を混ぜるアルティナもそれに同意する
「エルミナもだいぶ包丁の扱いが上手になったわね」
「えへへ…。アラタさんやアルティナさんのおかげです」
エルミナの包丁さばきも最初の頃に比べるとだいぶ上達した
ところどころはサクヤに教えをもらっていたが次第に安心して見ていられるまでに成長したのだ
「アルー、エルミナー」
こんこんとドアを叩く音
声色から察するにはアラタだ
「どうぞー」
アルティナがそう返す
するとドアを開けて入ってきたのは
「失礼しますー」
ローナだ
「あら、貴女は…」
「貴女は…!? 先日は、お世話になりました」
アルティナとエルミナが手を止めてローナを見る
ローナは若干顔を赤らめながら
「そ、そんな…。私は何にも…」
謙遜しながら両手をわたわたと振る
「あははっ、結構かわいいじゃない」
「わにゃっ、ほっぺをつっつかないでくださーい…」
ふにふにと人差し指をつっつくアルティナ
そんな二人をオロオロしながら見るエルミナ
「…そのへんにしてあげてくれ、アル」
そんな様子を見かねてか、ドアがまた開いてアラタが入ってきた
「あ、アラタ」
その存在を確認するとふにふにを止めてアラタを見る
「恥ずかしがり屋、なんだ。ほどほどにな」
アラタがそう言ってローナの頭を撫でるとそそくさとアラタの後ろに行ってしまう
「やれやれ…。エルミナ、今日の夕飯は?」
「はい。アラタさんが戻った記念に、ホワイトシチューを」
「わざわざいいのに…。けどありがとう、俺も手伝うよ」
苦笑いを浮かべてアラタは台所に歩み寄っていく
最初はローナも馴染めていなかったが、アラタのサポートもあいまって、徐々に笑顔が増えてきた
そしてちょっとびっくりしたのが一つある
意外にもローナは包丁さばきがハンパなく上手いのだ
人が変わるというのか、まさしくそれだった
ちなみにシチューは滞りなく出来上がって、皆の評判も良好だった
◇◇◇
夕飯が終わって数時間
エドラス入り口あたりにバイクを押してやってきたのはジン=キサラギとアイラだ
「だが、私だけここに乗ってしまっていいものなのか?」
アイラはジンみたいにバイクを押さず、そのままシートに座っている
乗れと言ったのがジンなのだから無下に断れない
「問題ないさ」
「ま、まぁジンがそう言うなら…」
ガタ、とバイクを押す手を止める
「着いた。早くサクヤに報告して休もう。流石に疲れた」
「同感だ。…久しぶりに氷のシャワーでも浴びようか」
「止めてくれ。想像しただけで風邪をひく」
そんな軽口をしながらジンとアイラはサクヤの部屋の扉を開ける
「…あら、早かったわね」
そこには書類を纏めていたサクヤの姿があった
「ああ。だいたいはアラタから聞いてると思うが、念のためにな」
ジンの言葉に頷くと
「ええ、話は聞いてるわ。とりあえず今日は休んで。長旅で疲れたでしょう?」
「助かるサクヤ。正直に言うと眠たかったのだ」
サクヤに頷いたあとに、大きな欠伸をするアイラ
そんなアイラをやれやれと見た後ジンは
「…じゃあ、お言葉に甘えよう。また明日、サクヤ」
「ええ、お休みなさい」
バタン、と扉を閉まる音を聞いたあとサクヤは
「…また少し仲良くなったかしら」
そんな独り言を呟いた
◇◇◇
「ところで貴女、好意抱いてる人とかはいないのかしら」
「ありしあっ!?」
いまだにいたレイチェルの一言に思わず普段ならあり得ない言葉を吐いてしまった
何を言うんだこの吸血鬼は
「ていうか、なんでいるのよレイチェル!?」
てっきり帰ったものかと思ったのに
「あの二人と入れ違いでまた来たのよ。悪いかしら」
おそらく二人が出て行ったのと同時に現れたのだろう
彼女の転移は音がない時もあるので、大変神出鬼没で心臓に悪い
「そんなことより質問に答えなさい。早い話よ、好きな人がいるかいないか」
荒くなった息をいくつか咳をして整える
「…私には無縁の話に聞こえるのだけど」
「あら。案の定にそっけないわね」
正直予想していた答えが返ってきた
使命優先な彼女から変えってくる言葉などわかりきっていたことだ
「夢がないわねぇ。最も今に限った話じゃないけれど」
「わかっているなら今日のところは早く帰って。私はまだやり残した仕事があるんだから」
レイチェルはそう言われるとやれやれ、といった顔つきでその場でクルリと回るとその姿を消した
「…はぁ」
軽くため息をつくとサクヤは仕事を再開するべく自分の席へと戻った
そしてとりあえず近くにあった書類の束を手に取って―――
もしかしたら、彼なら力になってくれるかもしれない
「…私もまだまだね。…ありもしない幻想にすがりそうになるなんて」
先ほどレイチェルから言われたことを無意識に気にしているのか
それとも〝彼〟と交流して意識が変わったのか
けれど、もしも、あるとしたならば
〝彼〟はこの手を掴んでくれるだろうか
◇◇◇
皆が寝静まった夜中
寝付けなかったアラタはその辺を歩き回ることにした
ちなみにローナは刀状態で自分の布団に寝てる
最初一緒に寝ますと言われたときはほどほどびっくりしたが、刀状態だと聞くと安心した
人間体ではこっちが寝れない
「…ん?」
ふと視線の先に一人の人影
「…ラナ、さん?」
「…あれれ、たしか…、アラタくん? だったかな」
ラナは屈託のない笑顔を浮かべてアラタを見る
「アルティナから聞いてるわよー? くのくの」
「いたっ、ちょっと、肘でつっつかないでくださいよ…」
びすびすとアラタのお腹をラナは肘で小突き始める
「ははっ。なんかかわいいね、君」
「…それ誉められてます?」
「当たり前じゃないっ、褒め言葉だよ」
…ちょっと調子が狂うというか
いや、悪気はないのはわかるのだけど
「ところでアラタくん」
「はい?」
「好きな人っている?」
「ぶけらばっ!?」
急に何を言うんだこの人は
「な、何言ってんですか!」
「やー、気になってさー。…アルティナとかどうかな?」
「あ、アルですか?」
…アルティナか
割と彼女とのそれなりに付き合いは長い
意思伝達は伝わりやすいとは思うが
気がつけば自分の後ろを守ってくれる大切な存在
「…けどなんで唐突に?」
「いやー、他意はないのよ? ただ…、なんとなくね」
「?」
奔放すぎて考えが読めない
「ふぁ…、そろそろ私寝るねっ、それじゃまたっ」
ばしっとアラタの背中を叩くと小走りにラナは走っていった
徐々に遠ざかっていくラナの背中を見ながら
「…ラナさんには好きな人いんのかな」
結局自分は聞かれただけだ
ま、他人の色恋沙汰に口を出す気はない
「…ふぁあ…。俺も寝よう」
眠気に襲われたアラタはそんな独り言を呟いて自分の部屋へと戻っていった
◇◇◇
「…ラグナさん、元気かなー」
走りながらラナは一人の人物を思い出す
かつて自分を助けてくれたあの人を
「…また会いたいなぁ」
心の内にそんな事を宿し、ラナは寝室へ戻っていく
――現在、ラグナがドラゴニアに荷担している事を、彼女は知らない