シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
あくる日
朝起きて朝食を食べ終えるとアルティナから声をかけられた
実際、かけられた、ではなく召集された、という表現が正しい
「アルがみんなに召集かけるなんて珍しいな、なにかあったのか?」
アラタが聞くとアルティナが重い口を開ける
「…、これから長老会議との話し合いがあるの。もう一度私たちと協力してくれるように頼んでみるつもり」
「長老会議…。ああ、あの人たちと。だいたいは式から聞いたよ。…大丈夫? 聞いたところによるとかなり頑固って聞いてるけど」
「かもしれない。…けど、やらなきゃ。このままじゃ、森が…。…だから、私と一緒に集会場に来て。私が議員たちに掛け合うところを見届けて。そうしてもらえれば、きっと…」
そう言うアルティナは本当に少しであるが震えてる
「…おっけー。お前の覚悟、見届けるよ」
アラタがそういうとアルティナは一瞬笑顔を浮かべて、すぐに決意に満ちた表情に戻る
これから彼女の戦いが始まるのだ
◇◇◇
「…議長、そして、議員の皆さんには、これだけは理解いただきたいのです」
議長、議員たちに向けてゆっくりとアルティナが口を開く
「これ以上、エルフ族の力だけでは、隠れ里を守り抜く事はできません」
「そう。いつまでも隠れ里に引きこもって、ちまちまと身を守ってるだけじゃ埒があかないわ」
アルティナに続いてラナも議長たちへ進言する
「ここにいるヴァレリア解放戦線の皆や、森の外にいる異種族たちと共同戦線を張るの。さもなきゃこのままジリ貧になるだけよ!」
アルティナとラナの張り切りが伝わってくる
だがあの議長をどう説得するのだろう
聞いた限りは頑固のイメージしかなかったのだが
「…ラナ王女、アルティナ王女。ご提案の件だが、我々にどのような協力が可能であろうか。詳しくご説明願いたい」
…あれ
「…え? どういう事ですか?」
意味がわからないという様子でアルティナが聞き返す
「どうしたのかね? 異種族、他国との協力は、そちらからの提案ではないか。詳しい説明をお願いしたいのだが」
「は、はい。もちろん説明はいたしますが…。でも、急にどうして…?」
「なんか、今までとずいぶん態度が違うんじゃない?」
ラナとアルティナが顔を見合わせて議長に聞く
「だろうな。驚くのも無理はない。だが、お前が連れてきた仲間たちの働きを目の当たりにし、そして、縁もゆかりもない異種族の少女を救うため、自分たちの身を危険にさらす。その様子を、我が孫から聡明に聞かされては…。我々は、あまりに頑なであったと反省せざるを得ないではないか」
「助けたって…、あの時式が保護した女の子って」
あの時はアルティナとエルミナを助ける事しか頭になかったが、それに乗じて式は人質の女の子をしっかりと助けていたのだ
「…あぁ、あの子か」
思い出したように式が手のひらを叩いた
「そういう事だ。礼を言うぞ、リョウギ殿。…さて、話を戻すぞ、我々には、何ができる?」
改めて議長が問いかけるとラナが答える
「決まってるじゃない! 戦うのよ! 皆と一緒に!」
さも当然、といった様子で言葉を続ける
「フォンティーナは、エルフ族の故郷だけど、エルフ族だけのものじゃない。ヴァレリアに住む皆のもの。だからこそ、あたしたちはフォンティーナを守らなきゃいけない。それは、他の土地も同じこと。シルディア、ルーンベール、ベスティア…、それにクラントール。いいえ、ヴァレリア全体、エンディアス全部が同じ事よ」
ラナは一度言葉を区切り、語りかけるように言葉を紡ぐ
「どこの土地だって、誰かの故郷で、みんなのもの。だから、皆で守り抜くの! 私達と! あなたたちと! 他の誰かと!!」
「姉の言う通りです、議長…、どうか…!」
「議長。私からもお願いします。力を貸してください…!」
アルティナ、サクヤもラナに続いて言葉を発する
「…承知した。我らフォンティーナのエルフ族は、あなた方ヴァレリア解放戦線と。そして、光の復活を望む、ヴァレリアの民と共に立ちましょう!」
ついに議長が首を縦に振ってくれた
「やった!」
素直に嬉しかったのかラナがそう言った
「ありがとうございます!」
アルティナが大きく頭を下げる
ようやく理解を得られたのだ
彼女も嬉しいに違いない
「では、サクヤ隊長、フェンリル副隊長、それから、ラナ王女にアルティナ王女。これより軍議に移りたい。別室の方へどうぞ」
議長が立ち上がると同時、右側の扉が開いた
そこに会議室みたいのがあるのだろう
サクヤ、フェンリル、ラナ、アルティナの四人がそこへ入っていく
…いったいどんな作戦になるのだろうか
◇◇◇
「待たせたな、エルフ族との共同作戦だが、内容が決まった」
だいたい一時間経ったあたりか
フェンリルが報告を持ってきた
「目標はフォンティーナの首都、エレンシア。敵に占領されているこの街を、こちらの手に取り戻す」
フェンリルに続けてアルティナが言う
「この街を取り返すことができれば、フォンティーナの民たちは希望を取り戻す事でしょう」
まず全域の制圧はエルフ族の戦士たちがやってくれるそうだ
我々の役目は、ラナの指揮にて、中心部へ突入する事
これが簡単な作戦の概要だ
「そんなわけだから、あたしに手間をかけさせないように頑張って戦うのよ! それじゃ、エレンシアに向けて、しゅっぱーつ!」
相変わらず奔放なラナにサクヤは苦笑いを浮かべて、アルティナに至っては
「姉さんったら、もう…」
小さく溜め息をついた
◇◇◇
「おーい、スレイプニルさんよ。準備はできたのか」
森の都エレンシア
外壁にスレイプニルは座していた
「ラグナか。予定通りきたようだな」
「メンドくせぇ事この上ねえよ。せっかくの俺の天玉うどんタイムを邪魔しやがって」
「…ふ、こんな時でも天玉うどんとは。お前はマイペースだな」
「うっせ。で、要件はなんだ。最初に言っとくが俺は手伝わねぇぞ」
そう言ってラグナは両手を広げる
ラグナはいつもの大剣を背負っておらず、戦う気はゼロだ
「わかっている。お前には特等席で見ててもらおう、フォンティーナの奔放王女が息絶えるところをな」
フォンティーナの奔放王女、と聞いたとき、ラグナの眉がわずかに動いた
「…奔放、王女だと」
「心当たりがあるか? まあそれでも構わんさ、私の最初の標的は決まっている」
スレイプニルは手に持つ槍を握り締める
「フォンティーナの殲滅はその後だ」
◇◇◇
「姉さん! 暗黒騎士団が…!」
先導するアルティナが一点を指差して声をあげた
「来たわね…、皆、やるわよ! スレイプニルたちをやっつけて、あたしたちの都、エレンシアを解放するの!」
「おう! まかせとけって!」
「スレイプニル…、勝負だ!」
レイジとアラタが二人意気込み、
「ローナ!」
「はいっ!」
アラタがローナに向かって手を伸ばす
同様にローナも手を伸ばし、彼の手を握り締めると同時
キィン…! と彼女の体が一振りの刀に変わる
「行くぞローナ。エレンシア解放線だ」
「<了解です! 成敗してしまいましょう!>」
◇◇◇
スレイプニルの軍勢は主にボーンファイター系統の奴らで構成されている
だがファイターが持っている武器は弓矢
名を付けるならボーンアーチャーと言ったところか
「そらっ!」
放たれた矢の間を縫うようにアラタはボーンアーチャーを斬りつける
バカンっ、と肋が砕けてその場にボーンアーチャーは倒れ伏した
「<アラタ様、左方!>」
狼奈からの声を聞いた後アラタは左側へ刀を向ける
ガキン、と金属がぶつかる音がした
どうやら一応剣は所持しているようだ
「だが、所詮は弓矢専門だな」
一度距離を開けると、太刀筋は素人だ
間合いの取り方ができてないし、剣の振る方向も先読みできてしまう
「せぇいっ!」
剣を叩き落とし脳天から真っ二つにぶった斬る
二つになったボーンアーチャーはその場に崩れ落ちた
「…さて、次!」
◇◇◇
「ていやっ!」
レイジの雪姫による一撃が、宙に浮くボーンクリスタルを斬り裂いた
「<その調子だレイジ! 腕を上げたな!>」
「よくアラタと模擬戦とかしてるからかな、なんだか調子いいぜ」
ボーンアーチャーから放たれた矢を斬り落とし、その胴を凪いだ
「負ける気がしねぇ!」
「<その意気だ、レイジ! ついてこいっ!>」
「おう! 行くぜユキヒメぇ!」
テンションの上がったユキヒメを携え、レイジはさらに敵の群れへと突入していく
◇◇◇
「見つけたぞ。アラタ」
「!」
ボーンアーチャーを斬り伏せた時、後方から声が聞こえた
「スレイプニル…!」
「この時を待ちわびた…! 貴様が人馬となっていない事が唯一の不満だが、この際それは些細な事!」
スレイプニルは槍を構え、アラタに狙いを定める
「へっ! お前なんて麒麟がいないくらいがちょうどいいさ!」
「ぬかせ!」
ガキンっ! と狼奈と槍が交差する
そのまま二度、三度と切り結び、四回目に武器が交差した時、お互いに後方へ距離を取る
「さらに腕を上げたか!」
「あんたもなっ!」
腹へ向けてアラタが蹴りを叩き込む
「ぐおっ! くっ…食らえっ!」
スレイプニルの持つ槍から黒い波動が放たれる
下がりながらアラタはそれを斬りさばき
「ローナ!」
「<はい!>」
狼奈の刀身に魔力を溜め、突き出すように撃ち出した
「なんの!」
スレイプニルも冷静に槍でさばき、あるいは避ける
「黒き波動を受けよ!」
スレイプニルが槍を上空にかざすとアラタの頭上から、岩石が降り注いできた
「わわわ!」
危なく当たりそうになったアラタは前方へ前転して回避しつつ、そのタイミングを狙ったスレイプニルの一撃を受け止める
「…!」
「っ!」
一触即発
まだ決着はつきそうにはなさそうだ
◇◇◇
「アラタがあのケンタウロスを引きつけてくれてるおかげか、案外配下の掃討は楽だったな」
「そうね…、危険を冒してスレイプニルと戦ってくれたアラタのおかげね」
一通りの戦闘を終えた式とサクヤは遠方からアラタとスレイプニルの戦いを眺めていた
「この後はラナにでも任せるとしよう、サクヤ。念のため周囲に探索に行こうぜ、伏兵でもいたら面倒だ」
「一理あるわね…、よし。じゃあ行きましょう」
サクヤと頷きあって式と二人、周囲の探索へと身を乗り出した
◇◇◇
「…すっかり配下やられてんじゃねーか」
スレイプニルの戦いでも見るか、と思って戦場に出かけてみたものの、すでに配下は全滅
この戦いは敗北か
「こいつは、先に帰って天玉うどんでも食うか…」
軽く欠伸をしながら帰路につこうとした時
「…あ、れ? なんでラグナさんが?」
聞き覚えのある声が聞こえた
「…この、声は」
ゆっくりとラグナは振り向く
そこには弓をだらり、と下にむけた―――
「ら、ラナ…」
「な、なんでラグナさんが…? あれ、けどここら辺には、ドラゴニアの奴らが…、嘘…。ラグナさん、嘘だよね!?」
思わず駆け寄ってラナがラグナの体をつかむ
「…認めろ、今のオレはお前の敵だ」
ゆっくりとラグナは言い放ってラナを軽く突き飛ばした
「ら、ラグナ、さ―――」
「来るな」
針のような鋭い声色にラナは思わず立ち止まった
振り向いたラグナの顔は何か言いたげだが、それを押し殺しているような表情
「…ラグナさん…」
ラナの呟きには答えず、ラグナは踵を返して歩き去っていった
「どうして…」
その場には呆然と立ち尽くすラナだけが残された
◇◇◇
「ぬ…!?」
切り結び始めて数十分
ようやく気づいたようにスレイプニルが辺りを見回した
「わが配下が、全滅だと…!?」
「…どうする、これ以上はジリ貧だぜ、あんたたちが」
「…やむをえん、撤退する。貴様との勝負は預けた!」
そうアラタに言い放ってスレイプニルは駆け出した
「姉さん、見て! スレイプニル将軍が逃げていく!」
「どうにか占領部隊は倒せたね… ラナさん、やったよ!」
アルティナとマコトがラナに駆け寄って嬉しそうに言う
「う、うん…! あたしたち、エレンシアを…、フォンティーナを帝国から取り戻したんだよ!」
一瞬、なぜだか戸惑いを見せたけれど、すぐにいつもの調子に戻る
「皆ー! やったよー! あたしたち、勝ったんだよー!」
その声に呼応するように、エルフの戦士たちが叫びを返す
「ふぅ…、どうにかフォンティーナでも勝てたわね。この勝利は大きいわ」
「頑張った甲斐があったな、サクヤ、アラタ」
「ああ。式もご苦労さん」
「貴女の力もあってのことよ」
そう言って軽くハイタッチを交わす三人
「アラタ、怪我とかないか? ずっとスレイプニルと戦ってたんだろう?」
ハイタッチの後レイジがこちらに歩いてきた
どうやらレイジも無傷みたいだ
「大丈夫だ。問題ない。レイジも無事で」
「おう。けど、やっとフォンティーナを取り返せたな」
「ああ」
その後、サクヤの指示でアラタたちは一度隠れ里へ戻る事にした
エレンシアを取り返した事を報告に―――
◇◇◇
「皆様のご協力で、首都エレンシアと我らが聖地を取り戻す事ができました。感謝いたします」
エドラスに戻り、議長へとその事を報告
議長は素直に謝辞を述べて
「美しかった都は、奴らの手ですっかり破壊されてしまったが、なに、我らエルフ族の寿命は長い。地道にコツコツと再建を進めていけば、以前のように美しい姿を取り戻す事ができるだろう」
そう笑みを浮かべて言う議長は、以前ほどの固さは感じられない
「しかし、その前にこのヴァレリアの地より、ドラゴニア帝国の脅威を取り除くという難題が横たわっている」
議長が真剣な面持ちで言葉を紡ぐ
「これを成し遂げるには、より賢明な指導者の下で、さらなるフォンティーナの民の団結と、他国との協力を推し進めねばならぬ」
一度言葉を切って
「そのため我ら長老会議は、帰還された王国に国の舵取りをお返ししようと思うのだが…。ラナ王女、お受けいただけるかな」
名指しされたラナはビックリした様子で
「え!? あたし!? どうしてあたし!? アルティナじゃないの!?」
「これは、議会の総意による指名だ。ラナ王女よ、今回の戦いにおける貴女の指導ぶりには、目覚ましいものがあった。この国を預けるには、貴女を置いて他に適任者はおらぬ。どうか、指名をお受けいただきたい」
「で、でも…あたしは…、フォンティーナの事も気になるけど…、それより世界というか、他の土地も気になるし…」
「だからよ姉さん。それだから、姉さんがフォンティーナの次期王女に相応しいの」
渋るラナに向かってアルティナがラナに言う
「フォンティーナのエルフ族は、これから森に引きこもってるばかりじゃなく、他種族とも協力していかなきゃならない。…そう言ったのは、姉さんでしょ? ちゃんと言った事には責任持ってみんなを導いてもらわなきゃ」
アルティナにそう説かれラナは「う…」と言葉を濁す
「そ、そう来たか…。そう言われると、返す言葉もないわね」
ラナはふぅ、と短く息を吐くと観念した様子で
「…わかったわ議長。謹んでお受けいたします!」
たった今、ここに、フォンティーナの次期王女が生まれたのだ
「姉さん…、女王即位、おめでとう!」
「頑張ってくださいよ、ラナさん」
アルティナ、アラタが純粋な言葉を投げかける
「おめでとう、お前なら、きっと立派な王女になれる」
「少なくとも財政面ではな」
アイラとジンがちょっとの冗談を交えてラナに言う
「はは、やだなぁ、誉めすぎだってば。えー、と…、まずは、女王として、当面の方針を」
こほん、とラナが一つ咳払いする
「議会の皆さん、フォンティーナは引き続きヴァレリア解放戦線との同盟関係を維持して、帝国軍との戦いを続けます!」
女王らしく、毅然とした態度でその場の皆に伝える
「帝国軍をこの森から、そしてヴァレリアから追い出すまで! どうか皆さん、力を貸してください!」
一人一人顔を見ながらラナが言う
「そして、女王であるあたしは、と、言いますと…、ヴァレリア解放戦線と行動を共にし、最前線での協力活動を行います!」
…あれ
それって、あんまり今までと変わらないのでは
そんな疑問がアラタの胸中に浮かびあがる
「てなわけで、長老会議の皆さん。あたしが留守の間、フォンティーナをお願いします! 以上!」
流石に議長も慌てた様子で
「ちょ、ちょっと待ちなさいラナ! それではわざわざ女王を決めた意味が―――」
「これは女王の決定です! 異議は認めませんっ!」
「…やれやれ、全く。お前ときたら…」
議長も笑みを浮かべて苦笑いを浮かべる
やっぱり前と変わらないではないか
「ラナときたら。こんな時でも自分を崩さないのだな。…実にラナらしい」
「だが、それが彼女の良いところなのかもな」
「はい。ジンお兄様やアイラ様とご一緒の時のラナさんそのものです」
「姉さんたら、もう…」
それぞれが口々に苦笑いを浮かべていく
皆、なんとなくだが予想はできていたのだろう
「しかし、フォンティーナが参戦となると、こちらの陣容も大規模になってくるな」
フェンリルの呟きにジンが答える
「だな。これでベスティアが健在で、戦いに本腰を入れてくれるなら、帝国軍とも戦える戦力が集まる。しかし、ベスティアがどうなってるかはまだわからない。果たして戦力を維持してるのか…」
「それに、ベスティアの火山島に棲む、炎の精霊王の事も気になりますね」
ジンの言葉に補足するように龍那が口を開いた
少しずつ次の目的が定まってきた
「では、次は百獣連合王国ベスティアに行ってみる必要があるな。…隊長」
フェンリルの言葉にサクヤが頷く
「ええ、次の目的地は、ベスティアね」
◇◇◇
数日後、ラナの女王即位式が、エルフの隠れ里において簡単ながらも執り行われ、彼女は名実ともに、フォンティーナの指導者となった
解放戦線の面々は、その儀式に出席した後、早々にエルフの後にし、ラナと共に、ヴァレリア北方へと向かう
目的地は、ヴァレリア随一の大国、[ベスティア]
砂漠と荒野に覆われた広大な土地を国土にする、様々な獣人たちが部族の連合国家
開戦以来、連絡を絶ったベスティアの地ではなにが起こっているのか
不安を胸に、ヴァレリア解放戦線は、北の大地を目指す―――
◇◇◇
とある場所
しんしんと降り積もる雪の中、その人影は立っていた
「…、む?」
ふと背後に気配を感じ、振り向く
振り向くと白い服に身を包み、銀髪赤眼、頭にリボンといういまどきな女の子
「ようやく誰かに巡り会えた。ね、私のお父さんとお母さん知らない?」
「…質問の意図がわからぬが。貴様、人間ではなかろう? …夢魔の類か」
「ご明察。…そんな私にお世話してくれたんだ、アラタとエルミナは。たまに銀髪のエルフがいたけど」
白い服の女の子はその場でクルリと周り、ステップをする
「…それで? 貴様は何が望みだ」
「簡単よ、私をしばらく同行させてくれないかしら? それに貴方は[ここに来た]ばかりだから、案内人は入り用だと思うのだけど?」
「…、」
人影は一度黙る
ここに降りたのはつい昨日
特に充てもなく歩いていたらついたのがここルーンベール
確かに、案内人はいても問題ないかもしれない
「…良かろう。だが私は金子がない、貴様の食事は用意できんぞ」
「いらないわよ。猫になればいい人たちはくれるから」
「…あくどいな。貴様は」
ふぅ、と人影は嘆息する
「そう言えば名前言ってなかったわ。私はレン。貴方は?」
「名乗るほど価値のある名前ではない。好きに呼ぶがいい」
「そう? じゃあ好きに呼ばせてもらうわ。…うーん、そうねぇ…」
レンはその人影をじっくりと観察し、特徴を探す
(いまどき白一色なんて珍しいわね。随所に眼みたいなのがあって…、白いお面…白いお面?)
やがて思いついたようにレンは声をあげる
「そうだ。[ハクメン]なんてどうかしら?」
レン
第三章でアラタとエルミナ(たまにアルティナ)がお世話していた白ネコ
本文では描かれていないが、アラタとエルミナはちょくちょく構っていた
別の地に出発したアラタらを追うべく人の姿を取る
出発する日、遭遇した人影を特徴(白いお面)から[ハクメン]と呼んでいる
あながち間違ってない
見た目は白レンをイメージするとわかりやすいです