シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
白刃のプレリュード 0
ふと、目が覚めた
目に見えるのは青い空
疎らに広がる白い雲
鼻に薫る木々の匂い
「…、」
明らかに異質なその気配に、アラタは目を開けて体を起こした
「…どこだ、ここ」
当然の反応
辺りを見回すと森が見えて、自分の近くには海があった
しかし自分はどちらかというと砂浜に寝かされていたらしく、体には砂しかついていない
「なんでこんな所に寝てんだろ…、つかここどこだよ…」
先ほどから無意味な自問自答を繰り返す
だって本当に今この状況がわからないのだ
とりあえず立ち上がって服についた砂を払う
しばらくその作業に没頭していると
「フゥー! フフゥー!」
特徴的な言語(?)が耳に入ってきた
その声の方向に目を向けると可愛らしい人形みたいのがアラタに向かって突っ込んで来ていた
「な! なんだこりゃ!?」
浮遊する人形みたいな可愛らしいのはアラタの周りをくるくると飛び回る
「…な、何だか可愛いな…」
何の気なしに指で突っついてみる
「フゥ! フフゥ! フゥー!」
表情があまり変わらないので良くわからないが声の調子から察するに嬉しそうだ
「君はどこから来たのかな。…て、言葉は通じないから意味ないか」
可愛いのの頭を撫でながらそんなことを呟いた
そんな時
「ケフィアー! どこにいるのー!」
遠くの方から女の子の声が聞こえた
ケフィア、とはこの可愛いのの名前だろうか
やがて足音は近づいてきて、人影が現れる
「ケフィア、こんな所にいたの。もう…心配かけて…、あら?」
女の子がアラタに気づいた
女の子はケフィアと呼ばれた可愛いのを見た後にアラタを見た
「…ケフィアが、人間に懐いてるなんて、意外ね…」
「ケフィアっていうのか? この可愛いの」
言いながらツンツンとつつく
するとケフィアはまた嬉しそうに「フゥ! フゥ!」と声を上げる
「…懐かれてるわね、本当に」
軽い笑みを浮かべるその女の子をよく見てみると耳が尖ってる
わかりやすく言うならば[ゼ○ダの伝説]のリ○クだ
しかしそんな事で差別などする人間ではないアラタは気にせず彼女に声をかける
「なぁ、ここはどこなんだ?」
「え? 貴方、ここがどこか知らないの?」
大変彼女は驚いたようで
「はい…、残念ながら…。ここがどこかは言うに及ばず、家やなにやらも…」
言っててなんか恥ずかしくなってきた
ていうかなんで自分はこんな所に寝ていたのだろう
何故だろう、どことなく薔薇の香りがする…
「フゥ! フゥー!」
「え? …そうね、ケフィアがそんなに懐くなら、彼は悪い人じゃないんでしょう」
そんなアラタを尻目にケフィアと女の子が軽く会話をしていた
どうやら彼女はケフィアの言葉がわかるようだ
「そういえば自己紹介がまだだったわね、私はアルティナ。この子は妖精のケフィア」
「フゥー!」
女の子―――アルティナがケフィアを紹介するとそれに合わせてくるくるとケフィアがその場で回る
「俺は、アラタ。えと…よろしく…」
そんな無難な事を言ってちょっとだけ目を逸らす
その姿を見てアルティナは苦笑いを浮かべて
「くすっ…。貴方、人間にしては少し変わってるわね。…ついてきて。私の家に案内するから」
「え? いいのか?」
「本当はダメだけど、貴方は特別。ケフィアも嬉しそうだしね」
笑みを浮かべケフィアを撫でるアルティナ
「ありがとう、恩に切る、アルティナ」
「その代わり」
礼を言ったアラタにずい、と顔を近づけて
「私の家に来る以上、しっかり働いてもらいますからね」
いたずらな笑みを浮かべてこちらを見るアルティナ
それにアラタは「わかった」と笑顔を交えて返した―――
◇◇◇
「ところでさ、気になってたんだけど」
アルティナはアラタの背後辺りを指差して
「その刀って、貴方の?」
「刀?」
言われて自分が寝ていた場所を再び見る
おそらく自分が寝ていたであろう近辺に一振りの日本刀があった
それは鞘に納められたまま突き刺さっており、抜かれるのを待っているようでもあった
「俺の…なのかな」
鞘を持ってその刀を砂浜から引き抜き、柄に手をかける
すると何故だろう
とてもしっくり来る
手に馴染む、と言ったところか…
いずれにせよ、この刀が自分のであることに変わりはないだろう
「あぁ、多分俺のだよ」
「多分って。また頼りないわねぇ」
「そんな事言われても…、しっくり来るからそう答えざるを得ないんだよ」
「そんなものなの?」
「そんなものだよ」
いや、きっとそんなではないと頭の中では思ってたが、この際気にしないことにしました
◇◇◇
「アルティナの仕事ってなんなんだ?」
アルティナの案内の元、彼女の家へ向かう道中、そんな事を彼女に問いかけた
「そうね…、基本的には森の見回りね。私は、銀の森の守護者なのよ」
「守護者? 森の守り神みたいな?」
「そう捉えてもらって大丈夫よ。この森を侵入者から守ることが私の仕事」
「なるほど。毎日大変なんだ…」
「えぇ。だから貴方には、お部屋のお掃除とか頼みたかったんだけど…」
言いながらアルティナはアラタの右手に握られた日本刀を見る
「貴方も戦えるようだから、貴方も一緒に回ってもらうからね」
言いながら顔だけをこちらに向けてウィンクする
そんな何気ない仕草に一瞬ドキッとしてしまったが、努めてアラタは冷静に
「了解。働かざるもの食うべからずだからな」
「その通りっ。わかってるじゃない。…、」
言葉の途中でアルティナが言葉を止めて辺りを見回し始めた
「…アルティナ、どうした?」
「しっ。…モンスターの気配がする」
モンスター
その言葉を聞いた途端に背筋にゾクリとしたものが広がる
「…モンスターはどこに?」
「…あそこ。見える?」
アルティナに指摘された方向を見ると緑色のゼリーみたいなのがうねうねしていた
グリーンペースト
それがあのモンスターの名称だ
「…数は多くないわね。せいぜい三体から四体って言ったとこかしら」
「…半分は俺がやろう」
「任せていいかしら? じゃあ…行くわよ!」
アラタとアルティナは頷き合うと同時に身を隠していた茂みから飛び出した
◇◇◇
おそらくあの緑スライムは遠距離に対する攻撃は内包してはいないはず
と言ってもアラタにも遠距離攻撃なんかないのでどちらにしろ接近して斬るしかないのだが
(幸いにもあのスライムは動きが遅そうだ。…なら、一気に近寄って、叩き斬るのみ!)
決心はついた
そう思案して一気にグリーンペーストへ接近すべく距離を詰めようとした時
何やらグリーンペーストの周囲に魔法陣みたいのが展開されるのが見えた
「…え?」
思った時にはもう遅し
次の瞬間グリーンペーストは光弾のようなものを放ってきたのだ
「やっぱりぃぃぃ!?」
盲点だった
まさか最近のスライムは遠距離攻撃も完備しているなんて
「ちっ! いくら遠方から放たれようと! 当たらなけりゃどうって事ねぇ!」
怯まずアラタはスピードを緩めるどころか逆に接近するスピードを上昇させる
すると接近に気づいたもう一匹のグリーンペーストが光弾を撃ってきた
先ほどよりも倍になったその光弾に対応しながら、時にそれを弾きながらさらに接近し、意識を集中させる
その時確かにアラタは[視]えた
グリーンペーストの体に浮かび上がった[線]と[点]を
「ぜぇぇぇぇあっ!」
二体同時にアラタは刀を真横に振り抜いた
斬ッ! という羽音と共にグリーンペーストが形を崩し四方に飛び散り消え去っていく
そう、本来なら有り得ない消え方だ
バラバラに飛び散って消え去ったのだ
「…なんだ? 今の」
アラタは自分の力にただ驚いていた
視えた線をなぞったら、スライムが死に至ったのだ
「…こんな危険な力がなんで俺に…」
「アラター!」
声が聞こえた
アルティナの声だ
アラタが振り向くと近くまで走ってきていたアルティナがすぐ目の前で止まる
「良かった、無事みたいね」
「あぁ、アルティナも怪我が無くて何より」
そう言うとアルティナは胸を張って
「当たり前よ。あの程度、私にとっては日常茶飯事なんだから」
「はは、そうだったな。聞くだけ無駄だったかな?」
「そうよ無駄な事よ。…ま、まぁ…心配してくれた事については、ありがたいかなー…て思ったけどね」
頬を赤くしながらぷいとそっぽを向いてしまった
アルティナ近くを飛ぶケフィアも「フゥー!」と言いながらくるくると回る
まるでアルティナを茶化してるようにも見えてどこか可愛かった
「と、とりあえず! 早く家に行きましょう! ほら、こっち!」
恥ずかしさから逃げるためかすたこらさっさと歩を進めていってしまうアルティナ
「あ、待ってってば! 土地勘わかんないんだよー、置いてかないでくださーい!」
叫びつつもどことなく笑みがこぼれている事にアラタは気づいていなかった
おそらく、その笑みは本当に、ごく自然に浮かんだものだからだろう―――
別の場所、とあるお城にて
「…大丈夫そうね、彼は」
レイチェルは下界を見ながらテーブルに置かれた紅茶を一口啜る
…相変わらず、ヴァルケンハインの煎れる紅茶は絶品だ
紅茶を熟知してるだけならず、自分の好みを的確に突いてくる手腕は脱帽モノだ
思いながらまた下界を見る
彼を少々転移した場所に難があったかな、と思ったが、特に問題はないようだ
「さて…。私は傍観者。貴方を[傍観(み)る]事しかできないけれど…」
レイチェルはティーを皿に戻し間を開けて、また呟いた
「やれるわ、貴方なら…きっと」
なれないハーメルンに四苦八苦しています
ではまた次回