シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
ローランでの一夜が明けて翌日
「アラタ」
「あ、刃九朗さん」
顔を洗いに水場へ来たら刃九朗と遭遇した
白と黒の翼には目を惹かれるものがある
「おはようございます」
「はは。そう固くなるな。自然で構わん」
「そう言われても…。努力します」
むぅ、と言った様子でアラタが呟く
「それでいい。そうだ、皆に伝えたい事がある。朝食が終わったら、集会場に集まってくれぬか?」
「あ、わかりました」
恐らく昨日の任務の概要があらかた決まったのだろう
(…アルベリッヒ…、街の人たちをさらってどうしてるんだ)
事と次第によっては、自分を抑える自信がない
だが、今は冷静であれ
自分にそう言い聞かせてアラタは厨房へ足を向けた
◇◇◇
「おはようございまーす」
厨房に入るとサクヤとローナがいた
そう言えば今日はローナは先に起きていたみたいで隣に姿はなかった
どこにいったのやらと思っていたがまさか朝ご飯を作っていたとは
「あ! アラタ様! おはようございます!」
食材を切っていたローナは首だけを向けて満面の笑顔でそういった
本来ならかなり危ない事をサラッとやってのけてるが、どういうわけかローナはピクリともミスをしない
むしろ惚れ惚れする腕だ
「ローナ、ダメでしょ食材切ってる時によそ見しちゃ」
ぺち、とサクヤに頭を叩かれ「ぁぅ」と小さく声を漏らすと「はぁい…」と短く返事した
「で、おはよう。アラタ」
ローナを軽く叱ったあとサクヤはアラタに顔を向けて微笑みを浮かべた
「おはようございます、サクヤさん」
「彼女、すごいわね。私なんかいなくてもご飯が出来ちゃうわ」
微笑みながらそう語るサクヤの顔はどことなく寂しそうである
「そんな! 私なんかサクヤさんの足元にも及びませんよ!」
だが実際包丁の技術は天下一品である
「…はぁ」
サクヤは苦笑いの溜め息
こんなサクヤは珍しい
「さ、とりあえずご飯作りましょうよ」
アラタがサクヤに向かって言うと彼女は一つ息を吐いて「そうね。負けてられないわ」と意気込んだ
◇◇◇
ローランの集会場にて
朝食を食べ終えた一行は刃九朗から話を聞くべく、彼に教えられた集会場へと足を運んでいた
「刃九朗さん、話っていうのは」
その場を代表し、アラタが聞く
「うむ。ここから遠くない場所に、大勢の民間人を収容している施設があるらしい。捕らえた敵兵からの情報だ。所在は、偵察隊によって確認は終わってる」
「やっぱりね。…そこでなにしてるかはわからないけど、野放しには出来ないわね」
式の頭の上に乗ってたリンリンが重々しく口を開いた
「同感だな。その民間人たちが危ないし」
式もリンリンに頷いて目を細める
「ああ、早く助けに行かないと! 周りの警備は厳重なのか?」
少し慌てた様子でレイジが聞いた
「こちらが打ってでれば対処できなくはないが、正直それは難しい」
レイジの問いに刃九朗は表情を重くする
「なにしろ、人質が取られてるも同然だからな。下手を打てば捕まった人たちがどんな目に合わされるか…」
悔しいがその通りだった
捕まってる人たちを助けに行き、逆に危険に晒しては意味がない
「だがこのまま見殺しには出来ない! 何か、良い手はないのか!」
リックが焦りに駆られながらそう言葉を荒げる
当然だ
人質の中にネリスがいるかもしれないのだ
「…そうだな。考えられるのは、少数で内部に侵入し、奇襲にて警備の排除。人質の安全を確保したあとで、待機していた本隊が突入、潜入班と合流し人質を救出する、というのが妥当だが」
ジンがそこまで言って言葉を区切る
「問題は潜入班の人選だ。かなり危険な仕事になる」
「だったら俺が行く。一人で行けば見つかる可能性はいるハズだ」
リックがジンの顔を見てそう進言した
その目に迷いはない
「ちょっと待った! さすがに一人じゃ無茶だろ! オレも行くぜ!」
レイジもリックに乗っかって発言する
レイジだって人質を助けたいと思っているのだ
「俺も行く。こんな事する奴らはほっとけない」
それに乗りアラタも潜入班へ志願した
しかし
「必要ない。来るな」
バッサリとリックは拒絶した
「ダメだ。お前の腕は認めるが、いくらなんでも単独行動は危険すぎる。だから二人と行け。サクヤから聞いたぞ。前に組んだ事があったんだろう」
ジンの言葉に気圧されたリックは最初こそ黙ったがやがて
「…わかりました。レイジ、アラタ。足手まといになるな」
「言わずもがな。君の邪魔はしないよ」
レイジと軽く頷きあうと潜入する準備をするべく一度ローランの集会場から出た
◇◇◇
「…近くに敵はなし。うん、問題ない」
今現在いる場所は、民間人が収容されているという施設にいた
アラタは壁に背をつけて奥の通路を覗き込んでいる
「<…なんだか、こういうのワクワクしますねっ>」
「ローナ。不謹慎だぞ」
「<はい…>」
ローナをたしなめて自分の隣にいる二人に視線を送る
リックは頷くと二人にまた視線を返して
「今なら敵の不意をつける。…やるぞ!」
リックの言葉に二人は頷いて、見張りの敵兵を殲滅すべく三人は動き出した
◇◇◇
壁伝いに進み、また奥の通路を覗き込む
「…敵兵が一人…」
巡回するドラゴニアの兵士
青い鎧に身を包み、剣を携えてえる
「…、」
息を潜め近づいてくるのを待つ
仕留めるチャンスは一瞬
その一瞬を逃がしてしまうと後々面倒な事になる
…足音が近づいてきた
「…!」
判断はまさに刹那の時間
バッと兵士の前に身を乗り出したと同時に斜めに狼奈を振り下ろした
ザシュッ!! と鈍い音が耳に響き、ドラゴニアの兵士は斜めに両断された
二つに避けたドラゴニアの兵士は、それでもまだ仲間を呼ぼうと腰の通信礼装(かはわからないが)を手探りで探そうとしたところで
アラタは躊躇なくその首を斬り落とした
しばらく手は動いていたがやがてピクリとも動かなくなった
「…次」
狼奈についた血を払うように振る
「悪い。お前を汚すような事を」
「<一番辛いのはアラタ様です。…私はアラタ様の剣ですから>」
「…ありがとう」
ローナの気遣いに感謝しながらアラタは進んでいく
◇◇◇
だいぶ広い場所に出た
広間…、と言ったところか
ここに来るまで見張りのモンスターやら兵士を斬ってきたのだが
「…、ん?」
視線の先には一つの扉
見張りも何もなくただ無骨な扉
見張りもないとつい開けてしまいたくなるのが人間の心情である
恐る恐るノブに手をやる
室内には気配があった
人、か何かはわからないが何らかの気配が一つ
念のため左手に抜き身のままの狼奈を構えて自身の体を扉の右側の壁に背を預ける
自分の中でタイミングを図って一気にタイミングを開け放った
バッと扉の中に侵入し狼奈を構える
「…ん?」
部屋の中には簡素な作りだった
というか隅にベッドくらいしかない
その部屋の真ん中に銀髪の眼帯少女がいた
スポーツ選手を彷彿とさせるピッチリとした上下のスパッツに、ボロボロのマントを羽織ってる
「…だれ?」
眼帯少女が聞いてきた
「あ、いや…、その…」
「またニューをいじめにきたの?」
「…いじめ?」
ニューと名乗った少女は頷いて
「いつもはたかれるんだ。…なんども、なんども。ニューがいたいっていってもやめないの」
そう言って俯いた
よく見てみると露出してる手足には薄いアザが見える
ふと、彼女の足元に一枚の紙片がある事に今気づいた
彼女に断りを入れてその一枚の紙片を手に取って内容を見る
それは報告書みたいなものだ
…
今日もダメだ
アルベリッヒ様により、この生体兵器に宿る力を目覚めさせよ、なんてよくわからない命令を受けてしまった
…いったいどうしろというのだ
肉体的虐待を続ければ自衛のために発現すると言われてるが
…まあいい
この少女(ガキ)が死んだとしても、問題ないとアルベリッヒ様にも言われている
なら、好きなようにさせていただこう
…
紙を握り潰した
…どこまでフザケた連中だ
「…ねぇ、ホントにニューをいじめないの?」
横からニューが聞いてきた
「ああ。俺は君を苛めたりなんかしないよ」
「ホント…?」
瞳に涙が溜まってきてる
「…、ニュー、うれしいよ…」
「や、そんな…。…ん?」
コツコツとまた別の足音が聞こえてくる
恐らくニューを虐待していた兵士だろう
「…どうしたの?」
ニューが怪訝な顔で聞いてくる
「いや。…狼奈」
「<…はい>」
扉の横に身を寄せる
そして扉が開いた瞬間に―――
「がっ!?」
顔面を掴み地面に叩きつける
そしてそのまま狼奈を相手の眉間に突き刺した
「―――!!」
目を見開いて、兵士はそのまま絶命した
「…これで君は自由だ。あとで出口に送るよ」
「…やだ」
「え?」
なんでか拒絶された
「ねえ、なまえきいていい?」
唐突に名前を聞かれた
そう言えば名乗っていなかったな…
「俺はアラタ。んでこの子は…」
狼奈が刀形態を解き、人間体となってその場で一礼
「ローナ=ムラサメです、よろしくお願いしますね」
「ローナに、アラタ…。うん! ニューふたりといっしょにいく!」
「ええ!?」
いきなり何を言い出すのだ
「こんなとこいてもつまらないもん。いたいし。…わたしのちからも、あなたたちのためにとおもうなら、きっとやくにたつよ」
ニューはそう言って笑みを浮かべる
どうやら意地でもついてくるようだ
「…はぁ…」
溜め息をしながら嘆息する
こうなったら仕方ないと言い聞かせて、アラタはまた刀となった狼奈を掴み、レイジたちと合流すべくその部屋を後にした
ちなみにピッタリとニューはついてきていました
◇◇◇
「レイジ、リック」
「来たか」
「悪い、遅れたか?」
「いんや、オレたちもつい来たばかりなんだ。…ところでその子誰だ?」
レイジはアラタの後ろにいるニューに視線をやった
「施設の協力者かなにかか?」
「似たようなところだよ。…人質の場所は?」
「向こうだ」
リックが顔を向けて場所を差す
「よし、アラタも来た事だし、助けに行こうぜ!」
レイジの言葉にリックとレイジは頷いて、道中を進み出した
◇◇◇
また広い場所に出た
壁に掛かれている明かりがなんとも言えない雰囲気を醸し出している
「…敵の姿は見えないな。どうにか、捕まってる人たちを救出できそうだ」
言いながらレイジは辺りを見回す
思えばこの施設は異様だ
あちらこちらに変な沼があったり、扉の解錠もどこかに設置されてあるレバーを使わなければならない
明らかに普通の施設じゃないだろう
「…ここは、ただの収容所じゃない。人を集めて、効率よく殺す。そのための場所だ」
ふと思い出したように、リックが呟いた
「…なにか知ってるのか?」
アラタがリックに聞き返す
彼は一度頷くと
「さっき捕まっていた人から話を聞いた。ここには、毎日ベスティアのあちこちから大勢、人が集められ、入ってきたのと同じぐらいの人数が、どこかに連れていかれるそうだ。そしてすぐ、大勢の悲鳴が聞こえ…」
リックは目を伏せて言葉を続ける
「…連れていかれた人は、冷たくなって戻ってくる。そして、残った人たちがそれを埋葬させられるんだ。…そんな事が、ずっと続いていると…」
「…なんて事を…!」
アラタが拳を握り締め、苛立ちを募らせる
「くそ…! 奴ら、いったいなにを…!」
アラタに同調してレイジも表情を怒りに染めていく
「…これだけはわかる。…奴らは、ルーンベールやフォンティーナとは桁違いの規模で、普通の人たちを殺している…」
「ちくしょう…! 帝国の奴ら、絶対ぇ許せねぇ…!」
ギリ…! と拳を握り、レイジが呟いた
アラタも同様に、言葉こそ発しなかったが、彼も同じように怒りを募らせている
しかし、本当に何もない
いくらなんでも見張りがいないなんて…
見張りが、いない?
「三人共! ここにいたか!」
突如として、羽の音と一緒に刃九朗が舞い降りた
「刃九朗さん!?」
「急いで本隊に戻れ! アルベリッヒが増援を連れてきたらしい! すぐに生存者を連れて後退する!」
「…アルベリッヒ…!」
リックが憎悪に似たような声色でアルベリッヒの名を呟いた
「…刃九朗さん、本隊のみんなに、急いで生存者を連れ出すように伝えてくれ! オレはここに残る!」
そんな中、レイジがそんな事を言い出した
「なに? どういう事だ?」
レイジに付け足すようにアラタが言う
「捕まってた人たちはかなり衰弱してる。助けながらじゃ、間に合わない。だから、時間を稼ぐ。な?」
レイジを見ながらそう言った
「ああ! みんなが安全に撤退できるように、食い止めてみせるぜ!」
「…食い止める? 違う。アルベリッヒはここで倒す。俺も残って、戦うぞ」
三人の言葉に刃九朗はしばし逡巡したがやがて
「承知した。だが決して無理はするなよ!!」
「あ、刃九朗さん! あと悪いんだけどこの子を―――」
「やだ!」
と言ったところで全力でニューに拒否られた
「ニュー、気持ちは嬉しいが、今そんな状況じゃ―――」
「だいじょうぶ! ぜったいアラタとローナのちからになるから!!」
「…ああもう!」
「…どうするのだ?」
「いえ、大丈夫です。なんとかします」
どうやらアラタも吹っ切ったようだ
刃九朗は改めて三人の顔を見ると
「よし、では武運を祈る!」
四人は頷きあって刃九朗はそのまま一度本隊に戻り、アラタとレイジとリックの三人はそれぞれ身構えて、アルベリッヒを待ち受ける
「油断すんなよ、レイジ、リック」
「わかってるって」
「言われるまでもない。…まっていろ、アルベリッヒ…!」
◇◇◇
しばらく待っていると大きな音が耳に届いた
アルベリッヒ本隊が来たようだ
「…来たか、アルベリッヒ…!」
「リック、アルベリッヒも大事だが、俺たちの目標は、生き残る事だ。因縁はわかるが、こらえてくれ」
アラタの言葉にリックは一瞬、止まる
そして
「…わかっている。…余計な事を言うな」
「…すまん。悪かった。…じゃあ、行くぞ!」
「おう!」
アラタとレイジ、そしてリックは前へと走る
人質の住民を逃がすための、戦いだ―――