シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
相も変わらずな出来ですが楽しんでください
ではどうぞ
そしてみなさん、今年もよろしくお願いします
先に動いたのはバレットの足
矢みたいな速度で一気に距離を詰めてきてその拳を突きだす
「あぶなっ!!」
なんとかその一撃をよけたものの束の間、次は彼女の足が飛んできた
さすがに声を出す暇もないからかその蹴りを自身の左膝で受け止める
ビィン…と痺れるような痛みが膝を襲う
「ぐっ…!!」
半端なく痛い
しかしこんなことでは終われない
「な…ろぅっ!!」
そのままの態勢で残った右足でバレットの脇腹を蹴りつけた
「がっ!?」
まともに食らったバレットはその場から後ろへと飛び退く
当然無理な態勢から蹴りを入れたために、アラタもその場にバランスを崩し転げ落ちてしまった
しかし後ろに後転し態勢を整えると狼奈を構えバレットを見据える
「はは…これはいい戦いになりそう…だっ!!」
言いながらバレットは一気に駆け抜けてアラタに向かってその拳を繰り出す
しかし今度はその剣撃を狼奈の腹で受け止めて、受け流す
「でぇやっ!!」
そのまま体をひねりながら肘鉄を打ち出す
対する彼女は左手でその肘を掴みとり、一度腰を落とした後
「はぁぁぁぁ!!」
そのままの勢いで自分の後方へと投げ飛ばした
「わわわわっ!?」
女性でありながらなんてパワーだ
思わずそんな事を心の中で思いながら空中で姿勢を制御する
地面に着地したと同時、狼奈の刀身に右手を通じ魔力を込めてバレットに向けて放つ
バレットはその波動を籠手で弾き返し再び接近をしてくる
「また投げられると面倒だ…こっちも連撃をするぞローナ」
「<はい!>」
◇◇◇
「<ほう…こいつは見物じゃねぇか>」
炎竜ブレイバーンは目の前で繰り広げられている戦いに見入っていた
バレットの拳から出される鋭い拳撃とアラタが持つ霊刀から繰り出される流れるような連撃
双方の実力もさることながら、一進一退の戦いがいまだに続いている
本当にいつまでも見ていられるほどの戦いだ
「<…いつか戦ってみたいぜ>」
ほとんどつぶやきに近い形でブレイバーンは言葉を発した
◇◇◇
「はぁ…はぁ…次で、決着かな」
「そうみたいだな…」
肩で息をしながらバレットにそう返すアラタ
あれから三十分ほどの殺陣繰り広げたが、純粋なスタミナの消耗になるだけで決定打には至らなかった
次第に二人の体力もそこをついていき、今は互いをにらみ合うのみとなっている
「互いの全力を、この一撃に賭けようじゃないか…」
ぐっとバレットは拳を握り締め力を込める
「おうさ…気張っていくぜローナ」
「<えぇ…どこまでもお付き合いしますアラタさま>」
狼奈からの返答を聞いた後に強く刀の柄を握る
「最後に…。名前を聞いていなかった。改めて、私はバレット。お前の名前は?」
「アラタ…。鏡祢アラタ。そしてこいつは―――」
「<ローナです。ローナ・ムラサメ>」
二人から名を聞くとバレットは微笑んで
「いい名前だ。覚えておこう、アラタっ!」
「それはうれしいなぁ、バレットぉ!」
お互いに名前を叫んだ直後、互いをめがけて一気に駆け抜けた
バレットの拳とアラタの刀
互いの獲物が交差した―――
◇◇◇
「<まさかお前さんが勝つとはよぉ>」
「あぁ。私自身とても驚いている」
激闘に末に立っていたのはバレットだった
「私も腹にもらったのだがな。体力が勝ったみたいだ」
腹を押さえながらも後ろを向く
そこにはぐったりと仰向けで気絶しているアラタとそれを看病しているローナの姿があった
「ブレイバーン。私は彼を送ると共に、戦線に合流する。構わないか?」
「<おお。そいつはかまわねぇ。っとと、ねぇちゃん、こいつをあの隊長の姐さんのとこにもっていきな>」
そう言うとブレイバーンは頭部の角から赤い輝きを放つをカードを生み出し、バレットの手に渡る
バレットはそのカードまじまじと見つめながら
「このカードは?」
「<あの姐さんならその力を十分扱えるだろうよ。俺に似た熱い力だぜ?>」
「ふふ。ブレイバーンに似た力か。あぁ、きっとうまく扱える。了解した、これを彼女に届けよう」
そうブレイバーンに言うとバレットはそのカードをポケットにしまい寝ているアラタと看病しているローナを見て歩み寄る
「アラタはどうだ?」
「ぐったりです。バレットさんから良いの一発もらっちゃいましたから」
にははと笑いながらはにかむローナ
「お前たちもな。良い戦いだった」
返しながらバレットはアラタを担ぎだす
「お前も披露しているだろう。さすがに霊刀まではもてないが…せめて後ろからゆっくり歩いてきてくれ」
「はい。お気遣い感謝します」
そうバレットに感謝の言葉を述べながら、ローナはバレットの後をついていく
激闘の名残を肌に感じながら
◇◇◇
一方火山島南側
女海賊セイレーンの隠れ家
その隠れ家は洞窟の奥深くにあり、まさに隠れ家といった雰囲気が出ている
「へぇ…。ここがセイレーンの隠れ家か」
興味ありげにきょろきょろとあたりを見回す式
「式、だいぶ地中深いから、足元に気を付けてよ」
「ういー」
気怠そうな声で返す式を見ながらレイジはつぶやく
「…大丈夫かな」
「<まぁ問題あるまい。ああ見えてしっかりしておるしな>」
ユキヒメとそんな会話を交わしながらずんずんと下りていく
最下層に到達したときには辺りに目に見えるほどの湯気と肌ですぐわかる熱気がレイジらを包み込む
「…セイレーンって奴は温泉好きなのか。それとも単に熱いのが好きなだけなのか」
「いや…別にそんなわけでは」
式の何気ないつぶやきにレイジが返答する
今式らの前方にある道は渡り廊下のような構造になっており、その周囲には温かいお湯がはっている
いや触れてみるとなかなかに高温で、熱湯というべきだろうか
「…地下温泉って。やっぱり風呂好きか」
「式…」
先ほどからわけの分からないこという式を苦笑い気味にサクヤが見る
そんなサクヤを軽くスル―しつつ唐突に式が眉をひそめた
「…どうした、式」
「静かに。…歌が聞こえる」
ディランから聞かれ式が答える
言われたように耳を澄ませている女の人の歌う声が聞こえてきた
「…綺麗な歌声だな…」
「レイジ、静かにしろ。…誰かくる」
レイジは驚いて声を潜める
前方から一人やってくる
やってきた人物はフェンリルのような獣人だった
そのモチーフは黒豹で背中には長刀、腰には小太刀を携えていかにもな武人のようないでたちだ
その武人はこちらを見つけると開口一番に叫んだ
「おぬしら、何者だ!! ここを海賊ミスティ様の住居と知っての狼藉か!!」
案の定というかさっそく敵意を向けられた
その武人に向かってレイジが歩み寄り口を開く
「すまない。けど俺達は怪しいものじゃないんだ。ただ精霊王の卵のことで頼みがあって…」
「おぬしらの頼みなど聞く耳持たん! 早々に立ち去れぃ!」
全く持って引き下がる気はないようだ
そればかりか逆に敵意がにじみ出ている
「もし引かぬというのであれば…この刀にかけても…」
そう言って黒豹の獣人は刀に手を伸ばし抜刀の構えをとる
「…おい、騒ぎをでかくしてどうすんだレイジ」
「そ、そんなこと言ったって…!」
慌てるレイジを尻目に式は獣人へと視線をやる
構え、間合い、眼光
どれをとっても隙がない
戦ったら一筋縄ではいかないだろう
「へぇ…」
そのとき獣人の視線が別のところへと変わった
レイジの霊刀・雪姫である
「…む…その形…クラントールに伝わりし、霊刀・雪姫と見た」
「<…いかにも>」
「やはりか…ならば相手に不足なし! いざ!」
「レイジ、指名されたぞ」
「ちょ、なんでこうなるんだよ!」
半ば投げやりにレイジが雪姫を構えようとしたその時
「何じゃ騒々しい! わらわの入浴の邪魔をするでない!」
さらに奥の方から女性の声が聞こえた
恐らく先ほどの歌を歌っていた人だろう
「これは、ミスティ様…」
獣人が畏まったような態度をとる
その獣人の視線の先
そこには絶賛入浴しているミスティの姿があった
入浴、ということは当然相手は服を脱いでいるわけで
「…ぇえ!? 風呂入ってるぅ!?」
慌てて後ろを向くレイジを置いといてユキヒメが何かに気づいたように声を上げた
「<あれは…!? レイジ…は駄目か。シキ、彼女の持ってるものを見てみろ>」
「あぁ。たぶん〝炎の精霊王〟の卵なんだろうな」
「<そのようだ…これは、彼女と話してみる必要があるな>」
式は頷いて入浴中のミスティに近づいた
「女海賊。オレは両儀式、話を聞いてもらってもいいか」
「うむ。聞こうではないか」
「話の前に一個要求。…風呂をあがってくれないか。話の中心のやつが話できないからな」
その要求にミスティは少しため息を吐きながら
「…仕方ないのう…」
◇◇◇
ミスティが風呂から上がり服を着替え終えて話を再開する
「で、話とはなんじゃ? まぁ、咲くほどの会話から察するにこの精霊王の卵…とやらの事であろうが」
言いながらミスティは手に持った〝炎の精霊王〟の卵を見せる
「あぁ。帝国の奴らと戦うためにどうしてもそれが必要なんだ。頼む、それを譲ってくれないか」
レイジが頭を下げてミスティに懇願する
礼儀正しいレイジの姿を見て少し感心する式
「…帝国と? それがわらわたちと何の関係がある」
「へぇ…結構余裕あるんだな」
式がミスティに向かってそんなことを言い放つ
「当たり前じゃ。その気になれば帝国など叩き潰せる。いらぬ心配ということじゃ…と、普通ならいうところじゃが、今回は協力してもよかろう」
「…? なんだそりゃ」
思わず式やレイジと顔を見合わせてそれからミスティを見直した
「なに。先ほどからこの卵が、お前たちと行きたがっている気がしての」
行きたがってる、という声を聴いたときサクヤが「えっ!?」と声を小さく上げた
「あなた、卵の意思がわかるの?」
「もちろん。これはわらわのものじゃからな。わかっても不思議ではなかろう。しかし、いくら卵の願いとあっても、一度手に入れたものを黙ってわたすのは惜しい。だから、わらわも卵と動向するぞ」
そう言ってミスティはレイジを見て
「名高いクラントールの守護刀という宝を携えた間抜けそうな男に動向するのも面白そうじゃ」
「な…っ!?」
「<こらえろレイジ…事実を言われて怒る気持ちをわかるが、今はこらえろ…!>」
ユキヒメのまったくフォローになってない発言を聞いてさらにあぼんとなってるレイジを放置しつつ式はサクヤに目配せする
それにサクヤは頷いてミスティに向かって話しかける
「ミスティ。仲間になった記念と言ってはなんだけど、よかったら貴女の自慢の喉を聞かせてもらえないかしら。できれば、知ってる中で一番古い歌を」
そう聞くとミスティはふふんと得意げな顔になり胸をはる
「なんじゃ。わらわの美声聞きたいというのか。ふむ。よかろう」
そして彼女は大きく息を吸い込んで旋律を奏で始めた
◇◇◇
彼女の奏でるその歌はミスティらしく内に秘めるその情熱を現したような詩
メロディは静かだが何か意思みたいな力が込められていて聞いているこちらの方も気分が高揚する
獲物を一途に追い求める、だけどそれだけじゃないなにかを探し求めている…
そんな旋律…
そしてまた一つ、精霊王の卵が弾けユキヒメの刀身に朱き文様が刻まれる
◇◇◇
「な、なんじゃ!? なんなのじゃいまのは!? いったい、何が生まれたのじゃ!?」
しかし歌った本人であるミスティはいまだ現状が理解できていないらしく、戸惑ったようにあたふたしている
「そうか…そうだったのか」
彼女の歌を聞いてレイジも納得した声を口にする
「卵の意思がわかるというから、もしやと思ったのだけど…」
「まさか女海賊が、
サクヤと顔をまた見合わせる
「ま、なにはともあれ一石二鳥なわけだ。早いとこ帰ろうぜ、疲れた」
「そうね、入り口でディランとイサリを待たせているし」
そう言って二人は出口の方へ歩いていく
「じゃあ俺達も帰るか」
「<うむ>」
その二人を追っていくレイジ+ユキヒメ
「ちょ、ちょっと待て!! 誰か、これがどういうことか事情を説明せんか!! こらーーー! 待て! 待てと言っとろうがーーーーー!!」
そんな叫びを聞きながら今回の遠征はひとまずの終わりを告げるのだった
◇◇◇
「…あ、帰ってきたみたいだな」
出口付近でディランらと話し込んでいたバレットがサクヤが出てくると同じタイミングで彼女に話しかけた
「バレット…どうしてここに?」
「私も同行したいと思ってな。それに、彼も届けにね」
「彼?」
そう言ってバレットが親指で指した場所に視線を移す
そこにはローナの膝の上で寝ているアラタに姿があった
「戦いは貴方が勝ったのね」
「あぁ。私もぎりぎりだったがな。アラタはいい戦士になれる」
「ふふ、貴方が言うのだから、それは間違いないわね」
互いに笑いあいながらふと思いだしたようにバレットがポケットから一枚のカードを取り出しサクヤに渡す
「これはブレイバーンから預かったものだ。お前なら使いこなせるだろうってな」
「…これは熱いプレゼントね。温かくいただくわ」
新しい力、そして新しい仲間
着実に、そして確実にヴァレリア解放戦線は力をつけていく
シャイニング・ブレイドの封印を解放するに必要な精霊王の卵は、残り二つ