シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜   作:桐生 乱桐(アジフライ)

36 / 49
最新話です

今回はもう一つの小説のキャラが現れます
ただそっちのキャラはだいぶ先の話の設定なのであしからず

なるべくネタバレはしないよう頑張ります
そして一言
長いです今回

ではどうぞ


ローレライの涙

朝、自分の部屋で目が覚めた

 

見慣れた天井にようやく意識がはっきりしてきてそのまま上半身だけ起き上がらせた

 

自分が寝ているベッドの付近の椅子には座ったまま寝ているアルティナがいた

 

恐らくこんな自分をまた付きっ切りで看病してくれたのだろう

 

「…また余計な心配させちゃったかな」

 

頭を掻きながら昨日の事を思い出す

模擬戦をバレットと行い、見事に自分は負けて…そこからあんまり記憶がない

 

「あら、アラタ。気が付いたのね」

 

部屋のドアを開けてサクヤが姿を現した

おぼんをもっておりその上には朝食と思わしきパンとミルクを乗せて

 

 

「サクヤさん。おはようございます」

 

「えぇ、おはよう。体の調子は大丈夫?」

 

「えぇ。だいぶ回復しました。…迷惑をかけてすみません」

 

ベッドの上で上半身だけ折り曲げて申し訳ない気持ちを形にする

すると頭の上にポン、と彼女の手が置かれた

 

「大丈夫よ。迷惑はかけるものでしょう? 貴方が元気になってくれたらそれでいいのよ」

 

ただし、とサクヤは言葉を区切って

 

「…あんまり心配はかけないでね?」

 

そう言って彼女は額に指を当ててこつんと小突いた

 

「あぅ…肝に銘じます」

 

額をなでながら苦笑いを浮かべるアラタ

そんな彼をみてサクヤは安心したようでおぼんをテーブルに乗せると

 

「それじゃあ私は戻ってるわ。朝食はしっかり食べなさいね」

 

そう言うとサクヤは部屋のドアを開けて外へ出ていく

サクヤの気遣いに感謝をしつつ、アラタはベッドを下りて布団を畳む

 

そこですべて畳まずに一枚の掛布団だけ椅子で座りながら寝ているアルティナに起こさないようにかけてあげる

 

「…いつも迷惑かけてばかりだよなぁ。俺」

 

ぼそりとそんなことを呟きながら部屋を見渡す

今気づいたがローナがいない

外に出かけているのだろうか

もさもさとパンを食べながらそんなことを考えていた

 

◇◇◇

 

「う、うぅ…ん」

 

朝食を食べ終わったころと同じタイミングでアルティナが目を覚ました

目をこすりながらゆっくりと瞼を開き、きょろきょろと辺りを見回してアラタを見つける

 

「…おはよう、アル」

 

ちなみにアラタは普通に部屋の掃除をしておりちょっと気まずそうだ

 

「おはよう。…案外元気そうね」

 

ゆっくりと椅子から立ち上がると自分にかかっていた布団を畳み、ベッドに戻しアラタに歩み寄る

 

「ま、元気そうで何よりよ。バレットさんに運ばれてきた時はぐったりしてて不安だったけど…よかった」

 

そう言ってアルティナは満面の笑みを浮かばせた

 

◇◇◇

 

おぼんを返すべくアルティナと一緒に自分の部屋を出る

その後アルティナは昼食作りのお手伝いをするべく厨房に向かっていった

自分も手伝う。とアルティナに進言してみるとアルティナに

 

「病み上がりはまだ休んでなさいっ」

 

なんて笑顔で言われた

けど妙に張り切っていたのでここは素直にアルティナの厚意を受け取っておこう

 

「…さて。やることがなくなってしまったなー」

 

「これ、そこの者」

 

「リハビリがてらレイジや式と模擬戦でもしようかな…」

 

「おい、お主っ!」

 

「ぬわっ!?」

 

唐突に声をかけられて振り向いた

振り向いた視線の先には赤いドレスを着こんだスタイル抜群の女性が腕を組んで立っていた

女性はやっと気づいたか、というような様子でこちらの顔を覗き込む

 

「…む? よく見るとお前は昨日倒れていた男か」

 

「や…そっちがどんな認識なのかしらんけど、まぁそうだよ」

 

「そうかそうか。…まぁ、そんなことはどうでもよい」

 

いいんだ

 

「ところで、名はなんという? 互いに名ぐらいは知っておかんと、不便じゃしな」

 

「ま、まぁそうだな…俺はアラタ。あんたは?」

 

「わらわはミストラル。…ま、長ったらしいのでミスティと呼ぶことを許すぞ」

 

えっへん、とミストラルと名乗った女性は胸を張る

その動作に若干ながらその豊満な胸が揺れた

 

「あぁ。よろしく、ミストラル」

 

「うむ。苦しゅうな…へ?」

 

「どうした?」

 

「…貴様、なぜミスティと呼ばぬ?」

 

そう聞かれたアラタはふむぅ、と考え込んだ後

 

「やっぱり初対面の女子を呼び捨てで呼ぶのはちょっと」

 

「下らんところでまじめじゃなおぬしは」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

そう言い残してアラタはまた歩き始めた

その後ろ姿をひとしきりミスティは眺めたあと

 

「…面白い男じゃな…」

 

そう言ってうっすらと笑みを浮かべた

これからどんなことが待っているか、そんなことを楽しみにしているかのような、そんな笑み

 

◇◇◇

 

アラタが目を覚まして数日経ったある日

 

「アラタ様ー」

 

ガチャリ、と扉を開けてローナが入ってきた

 

「ん? どうしたのローナ」

 

「いえ、その、サクヤさんが…。て何やってるんですか」

 

ローナの目に飛び込んできたのはアラタのベッドですやすやと寝入るニューの姿

 

実に気持ち良さそうに寝ているじゃないか

ローナは寝ているニューを起こさないようにアラタに近寄って

 

「どうなってるんですか、なんっでニューが」

 

「急に眠くなったって言うから寝かせてあげたんだよ。結構寝顔も可愛くてさ」

 

そう言いながらアラタは寝ているニューの頬を突っついた

 

「そうなんですか…な、なんてうらやま…いえいえ、そんな事よりアラタ様、サクヤさんが呼んでいます」

 

「サクヤさんが? わかった、すぐ行く」

 

ニューの事をローナに任せて、アラタはサクヤが待つ酒場へと足を運んだ

 

◇◇◇

 

「すいません、遅れました」

 

アラタが酒場へ足を踏み入れるとそこにはレイジとリックがすでにいた

おそらく二人ともサクヤに呼ばれたのだろう

 

「…なんだ。お前も師匠に呼ばれたのか」

 

「お前も、って事はリックもか? 恐らくレイジも」

 

「あぁ。アラタもか?」

 

アラタは頷く

この三人を招集した、ということはまた何らかの任務だろうか

そう考えていたところでサクヤが食堂に入ってきた

その傍らにはリンリンもいる

 

「三人とも、いるわね」

 

「サクヤさん。何か情報が?」

 

アラタの言葉にサクヤは頷いて

 

「先ほど報告が入ったの。アルベリッヒが配下の部隊を、例の収容所に集めているらしいの」

 

「収容所に?」

 

収容所、とは以前解放した人質を集めていた施設の事だ

奴らがそこで何をするか、目的がわからないが…

 

「…まさか、また人質を…」

 

リックの言葉にアラタとリックははっとした

 

「おそらく最終的にはそうするでしょうね。あの施設の奥には彼らにとって大事な装置が隠されていることが分かったの」

 

「大事な装置? なんです、それって」

 

レイジの問いかけにサクヤはたっぷりと間をあけて、やがて口を開いた

 

「人間の魂を、大量に効率よく集める…そう言った装置よ」

 

魂を集める…?

 

憶測だがその装置いうのはローゼリンデが所持しているようなランタンを大きくしたようなものなのだろうか

 

「彼らの目的はダークドラゴンの復活…そのために、多くの魂が必要なのよ」

 

それも、と彼女は言葉を続ける

 

「悲しみや絶望…そう言った負の感情が凝縮された魂が…ね」

 

「だからこの装置を使って多くの人の魂を散々苦しめてから―――」

 

「言わなくていい」

 

リンリンが紡ごうとしたそのセリフをアラタが遮った

その横顔にはどこかさびしさも纏いながら

 

「…気分が悪くなる」

 

「…そうね…正直私も言うのは嫌だったの」

 

そう言ってリンリンはまたサクヤの足元に歩み寄る

 

それを聞いていたレイジの拳が固く握りしめる

 

「…くそ…絶対許さないぞ…アルベリッヒ…!」

 

「…師匠、必ずアルベリッヒを倒します。出撃の許可を」

 

リックはその表情こそ変わらないもののその瞳には激しい怒りがあった

無論、アラタにもその怒りはあった

そんな事を平然と実行する奴らには一度ぶんなぐらないと気が済まない

 

「もちろんよ。そのために貴方たちを呼んだのだもの」

 

サクヤはそれぞれの表情を見て再び口を開いた

 

「出撃の準備を! その装置の再起動を防ぎに、可能ならば破壊するわ!!」

 

◇◇◇

 

「出撃か?」

 

酒場の出口を通った時に聞きならない声が耳に届いた

声の方を向くと壁によっかかっていたバレットの声だった

 

「あぁ。今から準備するところだけど…」

 

「そうか。なら私も同行していいか? というか行きたい、行かせてくれ」

 

怒涛の言葉ラッシュに若干たじろぎながらもアラタはバレットに言葉を返す

 

「お、俺は別にかまわないけど…サクヤさんがなんて言うか…」

 

「隊長殿なら問題ない。あとで私から言っておくから」

 

そう言ってずいって顔を近づける

バレットは結構美人な部類に入るから顔が近づいてしまうといかんせん顔が赤くなる

 

「ニューもいく!」

 

そんなアラタの後ろからまた別の声

ニューである

傍らにはローナもいる

 

「ニューもいく。アルベリッヒを、いっしょにたおす!」

 

「えっ!? け、けどニューにそんな危ない事させるわけには…」

 

「アラタ様」

 

傍らのローナが口を開く

 

「ニューの意思は変わりません…私も危ないからっていったんだけど聞かなくて…」

 

そうローナは少し肩を落とす

あの表情はあとはお任せします、というような意味合いも含まれていると思う

しばらく考えてやがてアラタはふぅ、と小さくため息をついてニューに向き合うと

 

「いいかニュー。絶対に無茶はしないこと。危なくなったら俺のとこにくること。いいね」

 

「うん!!」

 

満面の笑みを浮かべるニュー

…少し不安になったのは内緒である

 

◇◇◇

 

サクヤの案内の下、アラタたちはかつて人質を収容していた収容所へとたどり着いた

メンバーはアラタ、サクヤ、レイジ、リック、バレット、ニューの六人である

ちなみに今回のリックのパートナーはアミルだ

 

「…なんでこいつがいる」

 

リックが不服そうな表情でニューを指差しながらアラタに耳打ちする

 

「俺が責任もって面倒見るから。だからチームを組もう。サクヤさん、レイジ、リックの三人と、俺、バレット、ニューの三人だ。…どうです? サクヤさん」

 

割と妥当な組み合わせだと思うのだが

 

「ええ。バレットはここに来るのは初めてだし、ニューは貴方になついているし。むしろ適任だと思うわ。それでいいわね?」

 

それぞれ視線を合わせてサクヤは確認をとる

皆が頷いて、それぞれが獲物を構えたところでサクヤが言った

 

「目標は中枢部、ただそこを目指して!」

 

『了解!』

 

◇◇◇

 

サクヤらと別れアラタら三人は壁伝いに進路をひた歩く

ここは前回来ていたこともあってか、特に問題もなくスムーズに進めている

 

「それにしてもエラい複雑だなここは」

 

すぐ後ろにいたバレットがそんな感想をもらす

 

「<もとは人質の収監所みたいなものでしたからね>」

 

「そうだな。そしてニューと初めて会ったのもこの場所だったな」

 

最初はたた不憫に思って助けただけなのだがまさかなつかれてついてくるとは思わなんだ

 

「…噂には聞いていたが、本当に胸糞悪い事をする奴らだな、ドラゴニアとは」

 

バレットは己の拳を握りしめてそんなことを呟く

 

「…あのままブレイバーンのところいなかったら、ドラゴニアの傭兵として、お前たちと戦うことになったかもしれないな」

 

「恐ろしい事言わないでくれ。あなたとマジでやりあうことになったら、本気で俺殺される」

 

笑いながらアラタは言うが正直笑いごとじゃない

実際あの戦いのときにもらった一撃で軽く走馬灯を見たほとだ

 

「あぁ、安心しろ。その可能性は潰えた」

 

「いたぞ!! あいつらを殺せぇ!!」

 

奥の曲がり角から数人のドラゴニア兵士が姿を現した

こちらを見るなりに剣を抜いて一心不乱に襲い掛かる

 

「今の私は―――」

 

言葉を紡ぎながらバレットは襲い掛かってくる一人の兵士の剣をよけつつ、その剣を叩き落とす

直後にその足を蹴り払い相手をうつ伏せに倒れさせると足を掴みあげて束になっている兵士たちにブン投げた

投げられた兵士は弧を描き、その束に命中しバランスを奪う

 

「フリント…シューターァァッ!!」

 

その後に拳に力をためて、一つの衝撃波にし、それを飛ばす

地を這う衝撃波は地面を進み、兵士らに直撃しそれらを大きく吹き飛ばす

 

「…ヴァレリア解放戦線のメンバーだからな」

 

殲滅したその後にアラタとニューの方向に振り向いて、にかっ、とカッコ可愛い笑顔を浮かべる

 

「…カッコいい」

「うん…」

 

ニューと二人して、そんな事しか口にできなかった

 

◇◇◇

 

「このさき!!」

 

サクヤらと再び合流し、ニューの案内の下、ついにその中枢部へとたどり着いた

 

その部屋は正方形の形で広く、右斜め方向に何らかの装置が二つ、その反対側に二つ、計四つの装置が見えた

 

「サクヤさん、あれが…」

「ええ。あれが例の装置よ」

 

どうやら間違いないようだ

そしてこの部屋の中央

そこにはリックの仇敵、アルベリッヒの姿が見える

 

アルベリッヒがこちらの到着に気づくと「ちぃ!」と舌を打ち

 

「奴らをこれ以上行かせるな! 装置を死守するのだ!!」

 

付近の兵や魔物にそう指示を飛ばすとアルベリッヒも自身の杖を構え戦闘態勢に入り―――

 

「アルベリッヒ!!」

 

不意にリックが前に出る

その表情には今まで見せなかった怒りの感情をあらわにさせている

 

「おい! 一人で飛び出すな!!」

 

バレットの制止を無視し、リックは言葉を続ける

 

「よくもアミルとエアリィを…!! それに、ネリスをどこにやった!!」

 

「む…!? 誰だ貴様は、ネリスとはなんだ?」

 

「俺はリック! クラントールでお前が襲ってきたのは俺の故郷だ! その時に一人、行方不明になった女の子がいる! その子をどこにやった!!」

 

それを聞いてアルベリッヒはフン、と鼻で笑いながら

 

「莫迦かお前は。そんなもの、私が知るはずなかろう」

 

だいたい、とアルベリッヒは続ける

 

「私がいくつ村を滅ぼしてきたと思う。多すぎて、いちいちそんな些細な事、覚えていられるか」

 

「こいつ…!!」

 

リックが持つ剣に力が込められる

いや、あんなことを言う輩に情けなどいるものか

だが今は―――

 

「レイジ!!」

「おうよ!!」

 

アラタはレイジの名を叫ぶと二人は一緒に駆けだす

狙うは一番左端の装置

 

「アラタ、雑魚は俺に任せてお前は装置をぶっ壊せ!」

 

「言わずもがな!!」

 

周囲の魔物を斬り倒したレイジに背中を任せアラタは件の装置に向かう

その装置の外見は紫色の大き目なクリスタルのようで見た感じでは固そうだ

あくまで見た感じだが

 

「どけぇ!!」

 

狼奈を振るいクリスタルの護衛をしていた魔物を殲滅し、アラタはクリスタルへと視線をやり、神経を瞳に集中させそれを視る

 

「視えた…!」

 

捉えたその線を狼奈で一閃する

数秒の後、クリスタルはパキパキと音を立て砕け散った

 

「なっ!? 装置が一撃で!!」

 

「よそ見をしている暇があるのか!!」

 

ひゅんと、アルベリッヒの横をリックの剣が横切った

 

「くっ!?」

 

なんとかその剣を回避したもののリックの剣は攻撃をやめない

その光景を剣の姿のままでアミルは見ていた

否、見てるしかなかった

 

<リック…>

 

「お前が…! お前のせいでっ…!!」

 

 

リックがアルベリッヒを引きつける形になってしまったがこれはチャンスでもある

残る装置…わかりやすくクリスタルと呼称する…は三つ

 

サクヤはバレットへと視線をやる

その視線を受けてバレットは理解したのか、小さく笑みを浮かべて一番左端のクリスタルへと突っ走った

付近の魔物の攻撃など完全に無視し、ただクリスタルへと駆け抜けて、その目前に到着すると拳を握る

 

「人の魂を吸い出す機械など…!」

 

そして思い切りジャンプするとそのクリスタルに向かって―――

 

「必要ない!」

 

バゴォン!! と拳を叩きつけた

彼女が殴ったクリスタルは直撃と同時に一瞬で粉々に吹っ飛んだ

 

「うわ…すごい威力…」

「言ってる場合か。あと二つ、今度はお前の場の番だぜレイジ」

 

そう言ってアラタはレイジの背中をポンとおす

 

「っとと…、おうよ、行くぜユキヒメ!!」

「<あぁ! 存分に私を振るうがよい!!>

 

駆けだすレイジの後ろを見守りながらサクヤは、軽く笑み

 

「私も負けてられないわね…」

 

そしてレイジの後ろを追いかけてもう片方のクリスタルの方へ走り出した

 

◇◇◇

 

「…アルベリッヒ…」

 

リックのアルベリッヒの戦いを眺めていたニューは小さく呟いた

 

「む…貴様は役立たずの人形か」

 

その視線にアルベリッヒが気づく

その言葉には明らかに侮蔑の色が入っていた

 

「ニューはあなたなんかにちからをかしたくなかった。…それだけだよ」

 

「ふん。…古の戦闘機兵などに期待した私が馬鹿だったのだ。…っと」

 

器用にリックの攻撃を回避しながらアルベリッヒは続ける

 

「所詮古の人形などに頼ろうとしたことが愚かだったのだ」

 

「…!」

 

カッとなったニューは自信に秘められた能力を解放しようと―――

 

「それ以上、仲間を侮辱しないでもらえるか」

 

不意に現れたアラタがニューを守るようにニューの前に立った

 

「アラタ…」

 

そして今度はリックとアルベリッヒの間に割って入る

 

「どけアラタ! また、こいつを倒していない!」

「落ち着けよ。もう例の装置は全部壊した」

 

「…何!?」

 

アラタの何気ない一言に半ば驚いたアルベリッヒは後ろを振り向いた

その視界に入ってきたのは粉々に砕け散ったクリスタルの残骸に、たった今破壊したと思われるレイジとサクヤの姿が

 

「…ち、ここは引いた方がよさそうだな」

 

そう呟くとアルベリッヒの体を覆うように黒いオーラが現れる

 

「な…まて!! アルベリッヒ!!」

 

「小僧、リックといったか。特別にお前の名前は覚えておいてやろう。光栄に思うのだな」

 

そうセリフを残し、徐々にその姿が薄れていく

 

「くそっ…!! まて! アルベリッヒぃ!!」

 

「待てリック!」

 

走り出しそうな勢いになったリックをアラタが止める

 

「今は堪えて! かならず次が―――」

 

 

 

「次って何時だ!?」

 

 

「!?」

 

今まで聞いたことのない大声がその場に響き渡った

普段押し殺している感情を爆発させたような、そんな声

 

「そうやってる間にも…ネリスが…!!」

 

「…」

 

それ以上かける言葉が見つからず、アラタは黙りこくってしまった

別に、リックのことがわからない訳じゃない

しかし一番苦しいのはリック自身なのだ

 

「…まぁ今は、その装置を壊せただけでも、良しとしよう」

「…えぇ、そうね」

 

バレットの言葉を皮切りに、サクヤたちはその施設を後にした

 

その帰り道

 

「あの…アラタ」

 

ローナと一緒にのんびり歩いていたアラタは不意にニューに声をかけられた

 

「どした? ニュー」

 

「その…ニューのこと…なかまって…」

 

「…そんなの、当たり前じゃないですか。ねぇ、アラタ様」

 

「あぁ。愚問だよ」

 

そう言ってアラタはニューの頭を軽くなでるとその先を歩き始めた

 

「はにゅ…」

 

その後ローナが彼女の隣に行くと、優しくニューの手を握りしめる

 

「…ローナ?」

 

「さ、一緒に帰りましょ」

 

「…うん!!」

 

◇◇◇

 

戻ってきたアラタは一人黄昏ていた

特に理由はない

なんとなく来てしまったのだ

 

「あ、こんなところにいた」

 

背後から聞こえた声

その声はこの世界に来て初めて聞いた声でもある

 

「アル…」

 

「どうしたのよ。珍しく黄昏て」

 

ざ、ざ、とアルティナがアラタの隣へと歩いてくる

 

「そんなに珍しいかな? 自覚ないけど」

 

ははは、と小さく笑みを浮かべ顔を俯かせた

その行動が気になったアルティナは

 

「…なにか悩みでもあるの?」

 

「悩みというか…。人間の魂を吸い出す機械なんか、どうして作れんだろうなぁ…なんて考えてさ」

 

「…わからないわよ。あんな奴らの考えていることなんか」

 

即座にアルティナはそう返す

無抵抗の人間たちやエルフ族をためらいもなく殺す奴らの考えなど知りたくもなかった

 

「だよな。…だから早くあんな奴らは潰さないといけない」

 

ぐっ…と力強くアラタは拳を握りしめる

握りしめた拳から赤い血液がにじみ出るほどの力で

 

「…貴方は放っておくと何しでかすか分からないもの」

 

小さい笑みを浮かべてアルティナは優しくその拳を自分の両手で包み込む

 

「だから…一人で背負わないで」

 

「…ありがと。アル」

 

何気ない優しさに感謝しつつ、その手を放した時だった

 

「こんなところにいやがったか!」

 

珍しく焦りながら式が駆け込んできた

 

「式…? どうしたのさ」

「血相変えるなんて珍しいわね」

 

「どうしたもこうしたもあるか! また帝国の歌姫(ローレライ)が出てきやがったんだ!」

 

◇◇◇

 

式の案内の下、たどり着いたその時にはローゼリンデはまた魂を奪う歌を奏で始めていた

 

「ドラゴニアの連中、あぁまでして魂を奪いたいみたいだな」

 

ぼそりとつぶやいた式の言葉を耳にしながらローゼリンデの表情の違和感を覚えた

彼女の頬を伝う水は、涙だ

彼女は泣いているのだ

 

「ローゼ、リンデ…泣いてるのか?」

 

その事実を知ったレイジはいてもたってもいられなくなり、ずいと一歩前に出て彼女の名前を呼ぶ

 

「ローゼリンデ! 俺の声が聞こえているか!? なぁ、ローゼリンデ!!」

 

レイジは声を張り上げて叫ぶが当の本人は全くの無感情

涙こそ流してはいるがその表情に色はない

まるで無機質な人形のようだ

 

「…もうやめろレイジ。今のあいつには心がない。あんな状態じゃ届くものも届かない」

「けどよアラタ!! けどよぉ!! くっそ…ローゼリンデぇぇぇぇぇ!!」

 

その叫び空しく、無情にも彼女の隣にいたファフナーが彼女から再び先の欠けた心剣を抜きだした

直後にローゼリンデもその朱槍を構え、戦闘態勢を取る

それに便乗して赤い男も大剣を構えた

 

「レイジ、どんな事情があるかは知らんが構えろ。奴ら、戦う気満々ではないか!」

 

ミスティが己の杖を構え戦う態勢を取る

それに合わせてそれぞれ式、サクヤも武器を構える

 

「…今は耐えろ。行くぜ、レイジ」

「…くそぉ…!! ちくしょぉ…!!」

 

レイジは雪姫を構え、アラタと共に突撃した

 

◇◇◇

 

ガキン!! と雪姫と心剣が交差する

 

「ファフナーといったな! これ以上ローゼリンデを…彼女を利用するな!! 彼女は…泣いているんだぞ!!」

 

怒りをあらわにしながらもレイジは叫ぶがファフナーは興味もなさげにこう呟いた

 

歌姫(ローレライ)の歌を妨げるなら、斬る」

 

「な…!! ふざけやがって!! これ以上ローゼリンデを悲しませるなら、俺がお前を叩き斬ってやる!!」

 

ぐっと握りしめた雪姫から振るわれた斬撃をファフナーが心剣で受け止める

そんな時だった

 

キィン…と雪姫の刀身に刻まれた紋様が輝きだしたのだ

 

「!? な、なんだこれ!?」

 

「ユキヒメが光ったぞ!? どうなってんだこりゃ!?」

 

レイジも驚いたがその近くにいたアラタも同様に驚いた

切り結んでいたその時に刀身が輝くなど誰が想像できようか

 

「<な、なんだこれは…私に、いったい何が…!?>」

 

「…!」

 

わずかながらローゼリンデの表情が変化したがそれに気づくものはいない

 

「よそ見してていいのかよ!!」

 

唐突なその声にアラタは側転しその一撃を回避する

直後アラタが先ほどいた場所にセラミックの大剣が振り下ろされた

 

「ちったぁやるようになったみたいだな。お前」

 

ガラン、と大剣の先を地面に滑らせて赤い男が笑みを浮かべる

 

「なんだよ…前も聞いたがも褒めてるのか、それは」

 

「何度も言ってんだろう? 褒めてんだぜ!!」

 

直後大剣に変化が現れた

ガシン!! という音と共に大剣が大鎌へと変形を遂げた

 

「えぇ!?」

「この剣にはよ、こんな使い方があんだぜ!!」

 

言い終わった後に男は跳躍しその大鎌を振り下ろす

 

「ブラッドサイズ!!」

 

「くそ…!!」

 

その鎌の一撃をよけたはいいがいかんせん攻撃に転じることができない

鎌のリーチが把握できていないのだ

どうする…そう考えたとき

 

「はぁ!!」

 

ヒュン、と放たれたサクヤの一閃が男の鎌をとらえる

 

「ちっ…!!」

 

男は鎌からまた大剣に戻し再び距離を取り、構えなおす

 

「サクヤさん…」

「行くわよアラタ。油断しないで」

 

サクヤに言われ、また狼奈を構えなおす

すると男は思い出したように

 

「そういや、名前名乗ってなかったな。…一応言っとくか。お前、名前は」

 

「…鏡祢アラタ」

 

「そうかい…俺はラグナ。ラグナ・ザ・ブラッドエッジ。好きなように呼びな!!」

 

言った直後大剣を振りかぶり、斬撃を放ってくる

 

「アラタ!」

「はい!」

 

合図と同時サクヤとアラタは右、左それぞれに駆け出し、息の合った連撃をラグナへと叩き込む

時折反撃してくるが二人の猛攻に次第に押されラグナは防戦一方になっていく

 

「ち…やっぱ二人相手はきついかな!」

 

ブゥン! とセラミックの大剣を横薙ぎに振るい、二人と距離を放つ

 

そして三人の視線がまた交差した

 

◇◇◇

 

「そら!」

 

ヒュンと振るわれたナイフを器用に受けて、ファフナーは反撃に式の腹に蹴りを打ち込んだ

 

「ぐっ!?」

 

「はぁぁ!!」

 

式が一度離れたのを見計らいレイジが雪姫を唐竹に振るった

しかしその一撃はローゼリンデに防がれる

 

「!? ローゼリンデ…!」

 

「はっ!!」

 

ビュンと振るわれた朱槍に吹き飛ばされ、レイジを後方へと追いやった

 

「ぐはっ!」

 

「これが受けきれるか…!!」

 

レイジと式が立ち上がったのを見てファフナーは心剣に魔力を込める

すると二人の頭上に何らかの魔方陣が顕現された

やばい、と判断した式は神経を瞳に集中させて、線を視た

 

「そこか!!」

 

式は右義手に仕込まれた隠しナイフを取り出すとそれを魔方陣に向かって投げつけた

 

魔方陣の中心にあたると同時、魔方陣はキン! と音を立て飛び散った

 

「馬鹿な!? どんな手を使った!?」

 

「行け、レイジ!」

 

「おう! サンキュー式!!」

 

式に感謝しつつレイジがファフナーに向かって雪姫を振り上げたその時だった

 

「…う、う、あぁ…!?」

 

ローゼリンデの様子がおかしい

突如彼女が頭を抱え苦しみだしたのだ

 

「なんだ!?」

 

ラグナと戦っていたアラタもサクヤもローゼリンデに視線を集中させる

 

「…もしかして」

 

小さくそう呟いたサクヤはじ…とローゼリンデを見る

 

「ちッ…ファフナー!! 引き上げるぞ!! 今日はもう終いだ!!」

 

「あぁ。ローゼリンデ、今日はここまででいい。引こう」

 

「はい」

 

そうファフナーは言ってラグナが二人に合流し三人は背を向け撤退を始める

 

「! 待て! ローゼリンデ! ローゼリンデぇぇぇ!!」

 

その叫びはただ無情に空に木霊するだけだった―――

 

◇◇◇

 

「ダメか…! やっぱり答えてくれないのか…!」

 

戦いが終わったあと、レイジはうなだれていた

 

「アラタの言ってた通り、心のないままじゃ、ダメなのか…どうすれば…いったいどうすればいいんだ…!!」

 

いまだに視線の先には背を向け撤退している三人の背中が見える

 

「<…いいのか? ローゼリンデが行ってしまうが…>」

 

「…いや、待ってくれ!! せめて、呼びかけるだけでも…!!」

 

その勢いはそのまま追いかけてしまいそうなのを察知したのか、付近にいたリックが止めに入る

 

「おい、よせ!」

「<大丈夫だ。レイジも追いかけたりはしない…だから、言わせてやってくれ>」

 

パートナーだから通ずるものがあるのか、ユキヒメはそう諭す

否 パートナーだからこそ、こんな時の気持ちはわかるのだ

かつての自分と似たような状況のレイジだからこそ

ローナという相棒を一度失った経験があるから

 

「…なら、好きにしろ」

 

最終的に折れてレイジを促す

彼は頷いて数歩前に歩み出ると力いっぱいに叫んだ

 

「ローゼリンデ!! 今は何も感じなくてもいい! ただ、覚えていてくれればいいんだ!!」

 

どうすればいいのかわからない

それでも必死にレイジは言葉を探す

 

「どうすればいいのか、今はわからない! だけど、なんとして…必ず、絶対に!! お前を連れ戻してやるからな!! だから…信じて待っててくれ!! ローゼリンデぇぇぇ!!」

 

レイジの叫びは夕焼けに染まっていく空に響き渡る

 

◇◇◇

 

その光景を遠くで眺めていたアラタはやりきれない気持ちになっていた

どう声をかけてやればいいのか、なんて接すればいいのか、わからないのだ

 

「…アラタ様」

 

そんなアラタにローナが声をかける

彼女も表情はどこか暗いままだ

 

「…その…レイジさんたちは、どうします?」

 

「…今は一人にしてあげよう。俺たちがいても、何にもできない」

 

「…はい」

 

佇むレイジを背にアラタはローナと共に帰路へとつく

 

「私…なんとなくレイジさんの気持ちわかるんです」

 

「え?」

 

「敵対してはいないですけど…失った辛さだけは、わかりますから」

 

そうさびしげに呟いてそれっきりローナは黙り込む

それに呼応してか頭の耳もしゅんとしてしまった

そんなローナの様子を察したのか、アラタは少しだけ距離を詰めて、腕と腕を触れ合わせた

 

「…アラタ様?」

「…いつかお前を助けたように、ローゼリンデを助けてみせる…だから、お前も手伝ってくれな」

 

そして優しくローナの頭を撫でた

温かい掌の感触を感じながら、少しローナは笑顔になる

 

「…お任せあれ」

 

そして笑顔のままに、アラタの服の袖をきゅ、っと握った

 

◇◇◇

 

収容所の戦いの後、アルベリッヒはベスティアから撤退した

 

辛くも生存した生存者たちは、抵抗組織のメンバーを中心に〝ベスティア軍〟を再編成することとなる

 

アラタたちは、同盟軍の代表者と今後の方策を協議するために、刃九郎を伴って自分たちの根拠地であるシルディアへと帰還する

 

そしてシルディアで思わぬ出迎えを、彼らは受けるのであるが…

それは、また次回の事…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾久しく、薔薇咲き誇る中庭

風が吹くたびに薔薇の花弁が散り乱れるこの中庭のテーブルに一人の少年が座っていた

 

「…で、人をこんなところに呼び出して何の用だよ」

 

「そうカリカリしないの。レディに好かれないわよ?」

 

「そうですかい…。とりあえず要件があるなら早く話してくれ。こちとらいろいろ立て込んでるんだ」

 

そうはいってみるが、相変わらず目の前に座る女の子は優雅に紅茶を飲むだけだ

 

「…要件は一つ。私と共に、とある下界に降りて手伝ってほしいのよ」

 

「…下界?」

 

「えぇ。その世界での危機を救うために、貴方の中に眠る力を貸してほしいのよ」

 

ことり、と紅茶のカップを置いて言葉を続ける

 

「そして可能ならば、もう一人の貴方(・・・・・・・)の成長の手助けをしてほしいの」

 

「…もう一人の俺だと?」

 

女の子は空で手を動かすと中空に小さいディスプレイを出現させた

そしてそれを少年に見せる

 

「…これは…」

 

「貴方、一度死にかけた事があるでしょう? その時に生まれたのが、彼」

 

少年はしばらくそのディスプレイを眺めたまま固まる

 

「…答えは?」

 

「わかった、手伝ってやるさ。ちょっと興味も出てきたし」

 

がたり、と席を立って女の子を見る

 

「連れてってくれ。レイチェルさん?」

 

「えぇ。話が早くて助かるわ…オリジナル(鏡祢アラタ)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告