シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
相変わらずです
ではどうぞ
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誤字修正しました
「ふぅ…」
このところ急激に軍勢の規模が大きくなりすぎたせいかどうにもこちら側とフィリアスとのやり方が違いうまく連携、並びに意思の伝達ができていない
この連携の不出来は大きな痛手となってしまう
戦いにおいて連携が取れていないのは孤立しているものとほぼ同じ
こんな状態でドラゴニアの連中と戦ってしまえば結果は目に見えている
そんなこともあってアラタはため息をついた
「…どうしたものかなぁ」
サクヤに相談しようにも彼女も同じ理由で大忙し
聞く暇すらとれないのだ
「あらたー…」
何やら疲れたような声が聞こえた
声の方を振り向くとくたくたと歩くマコトと一緒に歩くノエルとツバキとアルティナが
「聞いてよー…さっきの訓練なんだけどさー…」
「こらマコト。すぐに愚痴とか吐かないの。アラタさんだって疲れているのよ」
思わず愚痴を吐こうとしたマコトをツバキが制止する
どうやら彼女たちの方もうまくいっていないようだ
「私たちは問題ないんですけど…どうも義勇兵と正規兵の勝手が違くって…」
「基本系統や方針が、フィリアスとはまるっきり勝手が違うから…どうにも慣れなくて」
苦笑いを浮かべノエルとツバキは口々に思わずそれぞれの思いを喋ってしまう
「二人だって愚痴ってるじゃないか―!」
うがー、と言いながら反論するマコト
しかしここまで連携が取れていないと本当に不安になってくる
こういった混成部隊は連携が取れてこそ強力な力を発揮できるのだ
「けど早く何とかしないといけないわねー…」
ふむぅ、とアルティナは腕を組んで考える
アルティナの呟きももっともだ
こうも指揮系統が整っていないとなるといらん心配が現実になりそうで怖い
最も敵も結構な損害故にまだ時間はあると思うのだが―――
カン!! カン!! カン!!
その音で一気に現実に引き戻される
まさかとは思うが、本当に…
「アラタ!! 四人も!!」
その五人めがけてレイジが走ってくる
その顔色は焦りを宿している
「レイジ!! 敵か!」
「あぁ! スレイプニルと暗黒騎士団だ!!」
不安は的中し、額に嫌な汗が伝い落ちる
なぜだろう、やな予感がする…
◇◇◇
戦場に出てみるとそこにはスレイプニル率いる暗黒騎士団がそこにいた
しかしその場には骨の戦士ボーンファイターしかおらず、数も少ない
その布陣がスレイプニルらしくなかった
「スレイプニルの突破を許すな! 何としてもここで阻止するんだ!!」
「わかってる! 絶対先には行かせねぇぞ!!」
フェンリルの指示が広がりこちら側に「応!」と声を上げる
それにレイジも乗っかり手に持ったユキヒメを構えた
そうだ、今は下手に考えるより敵の進行を食い止めないといけない
そう自分に結論付けてアラタは手に持った狼奈を抜く
狙うは、大将、スレイプニル―――
カッと目を開いてアラタは戦場を駆け出し始めた
道中隣を横切ったときアラタはレイジに向かって告げる
「レイジ、スレイプニルは任せてくれ! みんなは周辺の敵を!」
「あぁ! 任せるぜアラタ!」
レイジの声を聴きながらアラタは道を邪魔するボーンファイターを斬り刻みながら一気にスレイプニルに向かって突きを繰り出した
対してスレイプニルもわかっていたのか彼が接近すると同時にスレイプニルも手に持った槍を突き出し互いの武器を交差させる
「ふ、来ると思っていたぞアラタよ」
「俺も! アンタとは戦いたかった!」
二人の関係はもはやただの敵味方ではない
好敵手と言っても差支えなかった
しかしそうなると周りが見えなくなるようで
背後からの強襲に気が付かなかった
だから―――
「目の前しか見てないんだから!」
そんな声と共にボーンファイターが射抜かれた
アルティナである
彼が走ると同じタイミングで彼女もボーンファイターを射抜きつつアラタをフォローできる位置に移動していた
「サンキュー、アル!」
彼女の気持ちを知ってか知らずかそんな笑みを浮かべてこちらを見てくる
「…まったくね」
しかしわかりきっていたこととアルティナは苦笑いを浮かべ周囲の敵を射抜き、アラタを見守った
◇◇◇
しかし今回の戦いはどうにも違和感があった
いや、この戦いは最初から違和感の塊だ
わかりやすい布陣に少ない敵の数
もしかして相手はなにか探っているのではないか、と考え始めたその時だ
「…名残惜しいが、今回はここまでとしておこう」
「!?」
あり得ない言葉を聞いた気がする
執念深いスレイプニルがこうも簡単に撤退する?
何か裏がありすぎる
「おい! どういうことだ!!」
「おいそれと話すわけがなかろう!! さらばだアラタ! 次に会った時が貴様の最期だ!!」
そう叫ぶと同時に踵を返しスレイプニルは撤退していく
ぽつんと取り残されたアラタは再び考える
思惑、弱点、状況
「アラタ」
考えているその時に式が走り寄ってきた
手には何やら報告書みたいなものをもってる
「式? …これは」
「今伝令がサクヤに持ってきた報告書だ」
その報告書を受け取って目に通した時は目を疑った
「…マジか、これ」
「あぁ。大マジだ」
その内容はベスティア、フォンティーナ、ルーンベール
ほぼヴァレリア全域においてドラゴニア帝国が攻勢に出た、というもの
侮っていた
まさかドラゴニアにそんな余力が残っていたとは想像してはいなかった
「いまレイジがほかの拠点に行って情報を集めてる。一旦砦に戻ろうぜ」
「あぁ」
アラタは式に頷いてすぐ後ろで話を聞いていたアルティナに声をかける
「アル、戻ろう」
「う、うん…」
彼女の表情には不安があった
当然だ
自分の故郷であるフォンティーナが襲撃されたのだ
「…」
励まそうとしたが言葉が浮かんでこない
こんな時こそ何か声をかけてやるべきなのに
何もできない自分が恨めしかった
◇◇◇
数日経ったある日、レイジが帰ってきた
その表情には曇りが見える
「ご苦労だったレイジ。状況を報告してくれ」
フェンリルに促されレイジは会議室に入っていく
すぐさまクララなどの主要人物が招集され、緊急会議が開かれた
「とりあえずどこの拠点もしばらくは安全そうだ」
レイジからそう報告を聞いてアラタは少しだけ安堵する
だがしかし問題は山積みである
「まだ連携はいいとは言えないけど、それなりに防御を固めてどうにか敵を跳ね返してる」
「規模は? 指揮官とか」
アラタの問いかけにレイジは「いや」と首を振り
「規模はかなり大きかったけど目立つような指揮官はいなかった」
ということはスルトやスレイプニルは出ていないということになる
敵はどういうわけか先日のスレイプニルの襲撃以来鳴りを潜めていた
それが気になって仕方なかった
「サクヤさん、どう思います?」
考え詰まったアラタはサクヤに聞いた
彼女は頷きながら
「これだけ大規模な攻勢なのに将軍たちが指揮を取っていない…なんだか気になるわね…」
もしかしたらこれまでの攻撃には何かの事前準備なのかもしれない
…事前準備?
そい考えて唐突に何かが閃いた
こちらの弱点はなんだ?
―――急激な増員による連携不足…
まさか―――!!
思い立って口を開こうとしたその時だった
「サクヤ!! フェンリル!!」
猫形態のリンリンが声を上げて入ってきた
半ば声色に焦りが見える
「リンリン? どうしたの?」
「前線部隊からの伝令! ベスティア、フォンティーナそれぞれ味方の戦線が突破されたわ!!」
開いた口から告げられる事実
いや、いつかは突破されると思っていた
「そんな!! 防衛体制は整っていたはずじゃ…」
「おそらく、スキマを突破されたんだ」
そこでアラタが口を開いた
「スキマ…?」
「…レイジ、今の戦線の弱点は?」
「えっ…? 連携とかが…あっ!?」
どうやらレイジは気づいたようだ
「あぁ。それぞれの隊、国ごとには連携は取れていたはずだよ。けど、弱点を克服できぬまま奴らの攻撃を受けた…つまり部隊部隊の間を正確に狙われたんだ」
「なるほど…これまでの散発的な攻撃は弱点を探るためのけん制か…!」
ギリと拳を握りながらフェンリルは悔しそうに呟く
「突破したのはどこの部隊だ?」
「ベスティア方面はスルト将軍率いる部隊、フォンティーナ方面はスレイプニル将軍率いる暗黒騎士団のようね」
式の言葉にリンリンは淡々と報告を述べていく
どうやらその部隊は指揮官がいるようだ
とても因縁のある相手が
「スルト…!! とうとう出てきたか!!」
今にも食って掛かる勢いになりながらもフェンリルは自分を制止する
焦ってはいけない、そう自分に言い聞かせながら
「けどその二つを抜かれたということは…」
シルディアに向け進軍し、いつでもアルゴ砦を包囲できる状態になった、ということだ
「まずいわね…敵の進軍を抑えてなんとか包囲だけは阻止しないと…」
サクヤの言うことには同意である
このまま包囲を許しては全方角からの攻撃を相手にしなくてはならないということだ
それではどうにも勝ち目がない
「副隊長! とにかくスルトの方へ向かおうぜ! そっちに気を取られてくれれば進撃が鈍るかも!」
「そうだな…隊長!」
フェンリルに言われサクヤは頷く
「えぇ。とにかくスルトの方に戦力を集中して、そちらを確実に押さえましょう」
現状の目標は決まった
とにかくどちらか一方を防げば包囲を防ぐことは出来る
「けど、スレイプニルはどうします?」
「そっちは俺が引き受ける」
リックの問いかけにアラタが名乗りを上げた
自分でもなんだがあいつの扱い方は慣れてるつもりだ
「だからリックやレイジ、副隊長やサクヤさんはスルトを食い止めてくれ。スレイプニルは俺が食い止める」
「…わかったわ、フォンティーナは任せるわね。じゃあ皆! 準備はいいわね! 出撃よ!」
サクヤの号令が響き渡る
だがこののち起こる悲劇を、彼らはまだ知る由もなかった
◇◇◇
「…なんでいるんだ?」
他の皆がスルトのいるベスティア方面に向かった戦線とは別にアラタと一緒に残ったメンバーもいる
それはアルティナとエルミナ、そしてケルベロスの三人である
それでもまだアルティナはまだわかるとしてなぜエルミナとケルベロスが?
「そ…その…少しでもアラタさんのお役にたちたくて…」
あぅあぅと言ったような感じでエルミナは顔を伏せる
そんな健気な彼女の厚意を無下に断るわけにもいかない
とりあえず全力で守ってあげなければ、と心に誓う
そして今度はケルベロス
「マスターからの指示です。貴方を援護してくれと」
「サクヤさんから?」
「はい。無茶しがちな貴方をフォローしてあげて、と」
そんなサクヤの気遣いにアラタは少し嬉しい気持ちになった
心の中で彼女を含め無事でいられるようにと祈る
「…、じー」
そんなアラタをジト目でみるアルティナ
その視線にちょっと恐怖を感じたのは秘密にしておく
◇◇◇
急いで麒麟を走らせてフォンティーナに駆け寄っていく
ちなみにアルティナとエルミナはアラタの後ろに乗り、ケルベロスはブーストで飛んでいき追従する
遠目に後ろ姿のスレイプニルが見えた
しかし背後からの攻撃はなんか忍びない気がしてならない
だからアラタは速度そのままにスレイプニルを飛び越える
そのままアラタは視線を下に向けた
ケンタウロスであるスレイプニルと視線が交差する
「来ると思っていたぞ、アラタ」
ガタリ、と麒麟の足が地面に着地する音が聞こえアラタは振り向いた
「こんなまどろっこしいことするとはね。…ちょっと意外だったな」
「<意外どころか想定外です>」
ローナの声を聴きながらアラタは狼奈を抜き放つ
そして切っ先をスレイプニルへと突きつけた
「麒麟、フォンティーナの人らの安全確保を」
麒麟に向かってそう言うと一つ唸り声をあげ、麒麟は隠れ里の方へ駆けて行った
「しかしこの数だ。たった四人で何ができる」
ちゃき、と自身の持つ槍をアラタにむけて呟く
最低でも敵の数は二十以上はいるだろう
おまけに増援も来ると言っていい
勝てる見込みは低い
だからと言ってこのまま引き下がることなどできない
「ローナも入れて…」
「<五人ですね>」
突きつけた狼奈を鞘に戻しアラタは身構える
自分んらの仕事は、足止めだ
◇◇◇
「エルミナ、ケルベロス。私たちはアラタを援護しながら敵の数を減らしていくわよ」
アラタがスレイプニルと交戦しているときは完全にスレイプニルはアラタしか見ない
こういったときは敵の数などを減らすチャンスだ
「わ、わかりました!」
「お任せください」
それぞれ了承の言葉を述べると二人は武器を構える
エルミナは杖を、ケルベロスは二丁拳銃を
二人が構えるのを見てアルティナも弓を構えた
「じゃあ、行くわよ!」
アルティナが掛け声をかけると同時ケルベロスは発砲し、エルミナは魔力の球体を放つ
それに便乗しアルティナも弓を射る
完全に遠距離の編成であるがゆえに接近されると危ないものがある
「けど…もう失いたくないのよ…!!」
アルティナの矢を持つ力が強くなる
家族を殺され、森を荒らされ…これ以上ドラゴニアに奪わせるものか
そう思いを込めながらアルティナは矢を射る
仲間を守らんとするために
◇
エルミナは放った火球はドラゴニアの兵士に直撃し相手は崩れ落ちる
何体もの敵を倒しただろうか
これでもアイラにより多少なりとも鍛えてもらってはいるのだがさすがにこの数は少し辛いかもしれない
ちらりと自分の付近で戦っているケルベロスを見る
彼女は全く表情を変えることなく手に持った拳銃で駆逐している
見ていて清々しくなるような光景だ
それと同時にすごいなぁ、とも思い羨やましくなる
今度は反対方向にいるアルティナを見てみる
勇猛果敢に動き回り相手の急所に向かって矢を射るその姿は気高くもあり、美しさもあった
純粋にすごいと思うし見習いたい戦いだ
そして最後にスレイプニルと激闘を繰り広げているアラタを見る
スレイプニルの苛烈な槍野攻撃をさばき切り愛刀である狼奈を振るいその槍とぶつけ合う
その後に一度後ろに飛んで刀に力を込めて一本の衝撃波をスレイプニルに向かって撃ち出した
その戦いぶりを見て自分がかすむほど弱い存在と再認識してしまう
私にもあんなふうにうまく戦えたなら、と何度想像したことか
「エルミナ!」
「え?」
不意に聞こえたアルティナの大声
ふと気づくと自分はアラタとスレイプニルとの戦いに割って入る位置に立っていたのだ
「ぐ…!! 小娘! わが戦いの邪魔をするか!」
ターゲットが自分へと切り替わる
スレイプニルはガッと槍を持ち直しエルミナに向かって突き出した
「―――あ」
迫ってくる死の恐怖
人間とは不思議なものでこういった状況に陥ると本当に何もできなくなる
そんな恐怖に我を取り戻したエルミナは思わず目を閉じて顔を手で覆った
ズグリっ!! とナニカを突き破る気味悪い音が耳に届く
それと同時に生暖かい液体が自分に降りかかった
「…え!?」
なぜ自分に降りかかるのか
その答えは眼を開けたらすぐにわかった
目の前にアラタが立ちふさがってその槍に貫かれていたのだ
「ガフッ」とアラタに口元から血が零れる
「…失望したぞアラタよ。たかが小娘一人にこの戦いを棒に振るとは」
「うる、せい…! 仲間を守んのは最優先だ…そっちにはそんなんは、ないかな?」
貫かれたままの状態で口を開くアラタ
喋るたびにゴポリと血を吐き散らしながらスレイプニルの槍を掴む
「…ふん」
軽く鼻で笑うとスレイプニルはアラタを貫いたままの槍をその辺の木に突き刺してアラタごと縫いつける
「がはっ!!」と血を吐き散らし、体中に衝撃がアラタを襲った
その光景をエルミナはただ茫然と見てることしかできなかった
「このぉ!!」
怒りの込められた矢をアルティナは放つがスレイプニルはそれを首を動かすだけで回避した後踵を返した
「興が冷めた。…撤退するぞ」
◇◇◇
そう呟くと槍を手放して歩き始めた
槍の補充など帝国拠点でいくらでもできるのか、とアラタはそんなことを考える
「アラタさん!!」
眼に涙を溜めたエルミナが自分に向かって駆け寄ってくる
彼女の両手は真っ赤だった
それはおそらく自分の返り血か、とどうでもいいことを考えてしまう
「ごめんなさい! …私の…!! 私のせいで…!!」
「気にすんな。…好きでやったこと…だし…げほっ!!」
痛みに耐え、自分の血液を吐きながらもアラタは自分に突き刺さったままのスレイプニルの槍を引き抜こうと槍を持ち力を込める
しかし手に力が入らない
それどころか少しくらくらしてきた
「アラタ、待ってて! 今治癒を…!」
アルティナが駆け寄り自身に向かって治癒フォースを使用しようと精神を集中させる
だが―――
「いや…アル、お前らは先に、アルゴ砦に、戻れ」
「はぁ!? 何言ってるのよ馬鹿! ここで何もしなかったらあんた死ぬかもしれないのよ!?」
案の定言われると思ったことを言ってくれるアルティナ
気持ちは嬉しいがここで時間をかけるわけにはいかない
自分一人よりも、砦の大勢の仲間たちの方が優先だ
「私も、お手伝いします…って、わひゃぁ!?」
エルミナが唐突に変な声を上げた
それは戻ってきた麒麟が彼女の襟を咥えあげ、半ば無理矢理に乗せたからである
「アラタ!? 何してんの!?」
「ケルベロス! アル連れて砦に戻れ。…なるべく、早く…」
だいぶ時間が経過したからか少し痛みが引いてきた
これなら注意していれば槍を抜けそうだ
「し…しかし」
「早く!! ごほっ…! サクヤさんたちが危険な目に遭ってるかもしれないんだぞ…だから―――!」
しばらくケルベロスは迷いの表情を見せていたが、のちにゆっくりと頷いて彼女はアルティナを抱え上げた
「ちょ、なにするのケルベロス! 離して! アラタが―――」
「…申し訳ございません」
その言葉はアラタに向けられたものか、それとも抱えられたアルティナに向けたものか
それともどちらに向けたものなのかはわからない
そう告げた後半ば強引に麒麟に乗せ、一つ嘶いたあと麒麟は駆けだした
二人の声が聞こえたが、それを聞いてあげることは出来なかった
◇◇◇
「ぐっ…」
何とか踏ん張ってスレイプニルの槍引き抜き、それをその辺に放り捨てる
体に開いた風穴からはとめどなく血が溢れ返り自分の手を押し当てどうにか出血を防ぐ
「大丈夫ですか? アラタ様」
「大丈夫じゃ…ないかも」
現在はローナの支えあってどうにか歩ける状態だ
一人だったら確実に死んでいただろう
「…とりあえず、早いとこ俺も戻んないと…レイジや、サクヤさんが心配だ…」
そん考える自分の意思とは裏腹に意識が朦朧としてくる
徐々に視界もぼやけてきた
足もおぼつかなくなり、その場に倒れてしまう
「アラタ様!」
ガッ、とローナに支えられその場に膝をつく
体に力が入らない
「アラタ様…」
自分を支えてくれているローナの不安げな声が聞こえる
かつて自分は同じような経験をしたことがある
それは一種のデジャブに近しいものがあった
「…あら。ここで終わる事はいただけないわね」
目の前にふわりと薔薇の花弁が舞った
自分の意識が途絶える前に見た最後の光景は薔薇の花弁を撒き散らすレイチェル=アルカードの姿だった
◇◇◇
アルゴ砦には重い空気が漂っていた
スルト撃退戦の時には勝利目前という時にドラゴニア帝国軍が古代兵器を率いたアルベリッヒの介入より敗北
そしてスレイプニル撃退戦にてアラタという仲間を失うという大打撃を喰らってしまった
今この場でドラゴニアの攻撃などがあるならなすすべなく敗走してしまうだろう
エルミナは一人自室で何をするでなくとも椅子に座っていた
涙はもう枯れ果てた
エルミナは改めて考える
自分でも何か役に立てるかも、と思いアラタを手伝うべくくっついていったものの結果はどうだ
役に立つばかりか逆に自分の不注意でアラタを怪我させてしまう始末
結局何にもできてはいないじゃないか
「…このままじゃ、いけない」
アイラとの特訓もとても嬉しかったが、甘えてるばかりではダメだ
体だけでなく、自身の心も鍛えなくていけない
今まで守ってくれたアラタや、アルティナ、仲間たちに恩を返すために
そして今度は、自分が皆を守れるように
思い立った彼女は意を決した様子で椅子を立ち上がる
目指す人物の場所は一つだ
◇
「エルミナか。どうした?」
尋ねた先は両儀式の所
彼女は重い空気漂う酒場に一人佇んでいた
決して空気に惑わされることなく腕を組みながら目を閉じたままの状態でいたのだ
「いえ…今日は折り入って式さんに頼みたいことがあってきました」
「頼み?」
コクリ、と頷きながらエルミナは続ける
「…私を、鍛えてくれませんか?」
まさかのエルミナ超強化計画