シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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なんだかんだでお気に入り数百五十人を超えていました
ただひたすらに感謝の極みです

こんなもんではありますがこれからもお願いします

それではどうぞ


輝ける光のシンフォニー 3

ふと、目が覚めた

 

目に入ってくるのは小さく光り輝く星のひとつふたつ

それは深い夜なのだと知るのに少々時間がかかった

 

「ここ、は…」

 

むくり、と上半身を起こしてキョロキョロとあたりを見回す

自分が寝ていたのは朱い薔薇が咲き誇る庭園

周囲にはかぼちゃのランプのような灯りや弦で纏われた墓の石など一風変わっている

ビュウ、風が吹くたびに薔薇が散り、花弁が宙に舞っていく

その光景は儚さを交えながらもどこか堂々としていて見とれるものがあった

 

「…あれ」

 

ふと違和感に気づき腹部に手を伸ばす

ぽっかりと穴が開いていた腹は完全に塞がり傷跡一つない

血で真っ赤になっていた衣服も元通りに綺麗になっていた

 

「…そうだ。ローナは…」

 

よく見渡すと彼女がいない

彼女は意識が消える間際そばにいてくれていたはずだ

一体どこにいったのだろうか、と思い立ち上がって再びきょろきょろと見渡した

 

「目覚めが早いのね」

 

また一つ大きな風が巻き起こった

同時に一人の人間の気配

風の方を向くと黒いドレスにを包んだ女の子〝レイチェル=アルカード〟がそこに立っていた

しかしいつもの取り巻きであるナゴとギィは連れ歩かず、彼女の手には今まさしくアラタが探し求めていたパートナーの姿があった

 

「ローナ!!」

 

ローナは今現在刀の姿でレイチェルに持たれている

魔力を吸うはずのその刀は機能しなくなってるのか普通の刀のように静かだった

 

「…ローナは?」

 

「眠っているだけ。魔力を吸う力の方は私が押さえているのよ。少し疲れるけど」

 

レイチェルは残った左手で髪を書き上げると指をぱちんと鳴らす

すると庭園の中央に位置する場所の空間が歪みそこからテーブルが現れた

彼女は優雅にその椅子を引いて腰を掛けた

 

「座りなさい」

 

彼女は言う

 

「そろそろ気づいているんでしょう? 自分の真実に」

 

◇◇◇

 

薄々分かっていた気ではいた

どう頑張っても過去の記憶が思い出せない

それは違う

 

ないのだ

 

自分には過去の記憶が

断片的に覚えているのは自分自身の記憶ではなく、自分の元になった人の記憶なのだとなんとなく思っていた

 

「…けど貴方がこの世界で得た記憶は、貴方自身のものよ」

 

「…励ましてるつもりか?」

 

苦笑いぎみアラタは返した

しかしそれに「違うわよ」とレイチェルは返答し

 

「確かに貴方の過去がないのは真実。…けどそれと同じように貴方に未来があるのも真実なのよ」

 

その言葉の真意がわからずにアラタはきょとんと変な顔を作ってしまった

やれやれと言った表情で彼女は柔和な笑みを浮かべ

 

「確かに貴方は昔がない。過去は作れるものではないわ。けど貴方は確固たる自分の意思がある。今まで悩み、迷い戦い抜いてきた今までの貴方は紛れもない真実…つまりはそれがあなたの過去。そして未来はこれからあなた自身が作っていけるもの」

 

今まで見せたことのない笑顔だった

大抵は薄い冷笑を浮かべ人をおちょくっていた彼女からは思いもよらない表情だった

 

「<そうですよ、アラタ様>」

 

脳裏に響く声

それはテーブルに置かれた狼奈、すなわちローナだった

光り輝いた狼奈は徐々に人の姿を形作り、ローナの姿となる

 

「自分の身を顧みないでこんな私を救っていただいた恩を覚えています。その時の握ってくれた手の暖かさも、アラタ様の悔しさも…全部覚えています」

 

そういってローナは笑顔を浮かべてアラタの隣に歩み寄っていく

 

「だって…アラタ様はアラタ様なんですから」

 

「…ありがとう。ローナ。レイチェルも」

 

何だろう

少し自信を取り戻せた様な気がする

それ以前にもっと大事ななにかも

 

「礼なんていいわアラタ。戻るんでしょう? 少し右手を見せなさい」

 

若干赤くなった頬を逸らすように右手を見せるよう要求してくる

そんな何気ない仕草がまた少し可愛かった

しかし口にすると確実に怒られるので黙って右手を差し出した

 

「…」

 

しばらく右手をジッと見つめて彼女は言う

 

「これからの戦いは、そろそろこの右手も使えないと厳しいわ。あっちに戻る間に使い方を叩き込んであげる。覚悟しておきなさい」

 

ジロリ、と睨まれて若干アラタはたじろぐ

幼い外見と言えど持っている力は凄まじいものがある

目の当たりにしたことはないが、それは彼女が纏う雰囲気で感じ取れた

 

「それと、もう一つその右手の事話した方がいいかしらね」

 

唐突に振り向いて口を開いた

これ以上何を話すのだろうか

 

「その右手…深蒼の魔道書(ブレイブルー)は己の力を引き出すと同時に、自分が心から信頼した相手の心の鍵…つまり心鍵(しんけん)を抜き出す力を宿しているの」

 

「心鍵…? なんだそりゃ」

 

完全に初耳である

つまりそれはドラゴニアのファフナーのようなものなのだろうか

 

「あっちは剣でしょう。貴方は(けん)よ」

 

…どう違うのだろうか

全く違いが判らない

唯一わかるのはイントネーションの違いくらいか

 

「さ、無駄話はこの辺にしましょう。アラタ、構えなさい。使い方を叩き込んであげる」

 

言いたいことを言うだけ言うとレイチェルはアラタに向き直り誘うように手を動かす

戦闘態勢をしたのだと理解したアラタはローナに視線を合わせる

その視線だけで彼女は理解してくれたようで目を閉じたのち、光と共に一振りの刀と変化した

その刀を握りしめてレイチェルに向き直る

 

「来なさい。加減はいらないわ」

「誰がするか!!」

 

そう発すると同時にアラタはレイチェルに向かって駆け出した

 

◇◇◇

アルゴ砦にて

 

包囲されて何日経っただろうか

古代兵器により敗北の味を味わい、大切な仲間を一人失った事によりヴァレリア解放戦線の空気は一気に重くなっていた

 

届く報告は各国の防衛状況

しかしそのどれもが悪い知らせばかりで正直聞きたくはない報告ばかりだった

それでもレイジはあきらめることなく、式との鍛錬も怠ることはなかったし今自分にできることを精一杯やるつもりだ

 

そんなアルゴ砦の中央広場

そこの特徴は広場の中央に大きな噴水があることだ

よく眠気が取れなかったときなどはこの噴水で顔を洗って眠い眼を起こしていた

そんな噴水に

 

 

「あぅっ!!」

 

 

バッシャーン!! と一人の女の子が落とされた

落ちた衝撃で水を口に含んでしまいその水が正しく喉を通らずむせかえってしまう

 

「げほっ!! っほ!!」

 

落とされた相手はエルミナだ

ばしゃ、と彼女は水にぬれた身体を起こしながら自分を吹き飛ばした相手を見据える

 

「…どうしたエルミナ。まだ始まったばかりだぜ。寝ぼけてんなら覚めただろ? 喉が乾いたならその場で飲め。水分補給できて一石二鳥だろう」

 

鬼か、とは誰もが思うだろう

しかしそれが甘やかして彼女を鍛えていたアイラとは違うと言うことをはっきり示していた

 

「おら。早く来い。出るまでは待ってやるから」

 

「っ…! はい!!」

 

ばちゃばちゃ、と噴水から出て自身の持っていた木刀を構えようと―――

 

「あ、あれ?」

 

先ほどまで手に持っていた木刀がなかった

噴水に落ちた衝撃で水の中に落としてしまったのだ

焦ったエルミナは噴水の方を振り返りその木刀を探そうと手を伸ばして

 

 

「がっ!?」

 

 

唐突に腹部にもらった一撃が彼女の意識を明滅させる

視界が歪み、身体が宙を舞う

 

 

 

「何堂々と背中向けてんだ。待つのは出るまでって言っただろ」

 

 

 

どしゃあ、と地面に身体を打ちながらも何とか態勢を持ち直し式を見据える

こちらが視線をやったことに気づいた式は無造作に噴水に手を突っ込むとばしゃあ、と一本の木刀を掴みだすとそれをエルミナに向かって投げた

 

「わわ、わわわ…」

 

慌てた様子でそれを受け取るとエルミナはそれを構え式を見た

その瞳は一切の迷いがなかった

その眼を見て式は小さく笑みを作る

 

「…来い」

 

「はい!」

 

◇◇◇

 

そんな二人の木刀がぶつかり合う中、サクヤは自室で事務の仕事をこなしていた

ナニカをしていないとどうにかなってしまいそうだったから、というのが理由だが

 

「失礼」

 

コンコン、と二度ノックをした後了承を得ずに入ってきたのは橙色の髪をポニーテールに結び、オレンジ色のコートを着込んだ落ち着いた雰囲気の女性だ

サクヤは彼女との面識はないが、知ってはいた

 

「…レイチェルと近くにいた女性ね?」

 

「ご明察。名を蒼崎燈子という。お見知りおきを」

 

短くそう言って彼女はサクヤの方に歩いていった

サクヤは一度仕事の手を止めたあと燈子の顔を見た

意外にも燈子はきれいな顔立ちで女性であるサクヤでも見とれてしまうほどだ

 

「君がヴァレリアのリーダー、か」

「ええ…けど駄目ね。大切な部隊を危険に晒し、あまつさえ仲間を見殺しにしてしまうような事をしでかしてしまったのだから」

 

そう言ってサクヤは窓の外の空を見上げる

少数より大勢

部隊を率いる身では当然の判断ではあるがそれでも心が痛むものがある

なまじ一番大切に思っていた人なだけに

 

「あいつの生還を信じてはいないのか?」

 

燈子の言葉にサクヤはハッとなった

まるで自分の心を見透かされたような気分

燈子の方を見てみると彼女はくすくすと笑っている

 

「…何がおかしいの」

「いやなにすまない。私が思っていたイメージと違っていたものでね」

 

そう言ったあとまたくすくすと笑い始める

その姿はまるで子供のようで少し変な感じがした

 

「…もっと冷徹なものかと思っていた。だがしかし、実際は違うものだな」

 

「…え?」

 

「失礼した。それとな、もっとあいつを信じてやれ」

 

短くそう言い残して蒼崎燈子は扉を開けて出て行った

あいつとはおそらく彼の事だが…

 

「…信じているわよ…最初っからね」

 

今さっき出て行った燈子に返すように呟いた

信じていない訳ないじゃないか

ふぅ、と一度息を吐いて気持ちを落ち着ける

その後サクヤは再び事務作業を再開した

彼女の表情にはいくらか明るさが戻っていた

 

◇◇◇

 

今日この日のエルミナへの稽古が終わり疲れ果てて寝入った彼女を式は抱きかかえ運んでいた

師という立場は初めてなのだが自分にはああいった稽古のつけ方しか出来なかったのだ

 

「…ごめんな。お前も辛いだろうに」

 

気を失ったエルミナに式は呟いた

包囲されて数日経ったある日、また別の悲報が耳に入ってきたのだ

それは彼女の敬愛している人物、アイラとアルティナの姉、ラナが唐突に行方知れずになったという知らせだった

つい先日アラタを失い、心労しているエルミナやアルティナにとってその報告はこれ以上ないくらいの追い討ちだった

それでも二人は決して下を向かずに前を向いて歩いて行っている

 

…自分とは大違いだ

 

かつて自分の思い人が死んだと言われた時、今ある生を放棄しようとしたことがある

幸いにもその思い人は健在でその行為もすぐに放棄したのだが

 

「…」

 

辺りを見回りに行ったり食事を作るのを手伝ったりするアルティナと自分から強くなりたいと言って稽古を自分に頼んできたエルミナ

辛いことにも振り向かずただ前を進んでいる彼女たちは眩しかった

 

「…ほんと、度胸があるな」

 

クスリと普段見せない笑みを零す

その笑顔を見る者は誰もいないが、その笑みは紛れもなく麗しい女性だった

 

「シキ」

 

エルミナをベッドに寝かせ布団をかけてきあと、外に出たところでアルティナが話しかけてきた

恐らく夕食の事だろう

 

「お夕飯なんだけど…」

「コッペパン一つでいい。下手に食っちまうとすぐ食料難になるからな」

 

そう伝えるとアルティナは少しくらい顔をした後に謝辞の言葉を口にした

 

「ごめんね、気を遣わせて…」

「気を使ってんのはお前だお前。気持ちはわからんでもないがたまには休め。体が持たないぞ」

 

式の言葉を受けて少し苦笑いを浮かべるがすぐまたそれを笑顔に戻し

 

「ありがとう。…けど、何かやってないと潰れちゃいそうだから」

 

そうは言っているが彼女は内心でだいぶ無理をしてるだろう

恐らくそれを自覚していながら彼女は行動しているのだ

それをなんとなく式は悟っていた

悟っているのならば何か言ってやるのが良いのだろうが、苛立つことにこんな時に気の利いた言葉が思い浮かんでこない

 

「…無理、するなよ」

「うん。シキもね」

 

短く交わすとアルティナは酒場へと走って行く

その背中を眺めながら式は茫然と立ち尽くし自分に向かって呟いた

 

 

 

「なんて…無様…」

 

 

 

自分自身に放ったその言葉は夕方の風にかき消されていった

なんとなしに見上げた朱い雲はひどく歪んで見えた―――




もうすぐアークが出ますね
一応予告的なのはなんとなく考えてはおります

もしご希望があれば予告編を短編にしてみようかと思います

ご希望の方は感想に気軽にお書きください
ただアーク編はいつやるかは未定なのでそこだけはご容赦を

ではでは
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