シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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今回からレイジが登場します

最後のほうですが…


白刃のプレリュード 1

アラタがアルティナの家に居候して早一週間

 

最初はオロオロと戸惑ってばかりだったアラタも三日を過ぎるとだいぶ慣れてきたようで、すっかりフォンティーナに馴染んでいた

 

エルフだ異種族だなどと決して差別せず、彼は常に自分たちと同じ立場で接している事がエルフたちにはとても好印象だったようで

 

「ホント、あんな人間も珍しいわよねー…」

 

「フゥー」

 

今もエルフの子供たちと遊んでいるアラタを見ながらアルティナは何の気なしに呟いた

 

子供たちには大人気で、連日遊びをせがまれているほどだ

 

「…フフ」

何でか笑顔が浮かび上がる

 

最初こそ多少は警戒したものの、ケフィアが懐いた事で彼の印象が変わった

 

わかってはいたが、人は見た目で判断してはいけないということを痛感した

 

「…そろそろかしら」

 

太陽を見ながら呟く

 

もうじき森を見回る時間だ

 

楽しそうに遊ぶ子供たちに申し訳ないと思いながら

 

「アラター! 見回りの時間よー!」

 

◇◇◇

 

「アラター! 見回りの時間よー!」

 

いけない、もうそんな時間か

 

子供たちと遊んでいるとついつい時間を忘れてしまう

 

「お兄ちゃん、いっちゃうの?」

 

エルフの男の子が寂しそうな目でアラタを見てくる

 

その男の子を中心にさっきまで遊んでいた男の子女の子が集まってくる

 

「あぁ、今日はこれまでだ。また明日遊んでやるから。な?」

 

一人一人子供を撫でながらアラタは言う

 

ひとしきり撫で終わった後で、アラタはアルティナに振り向いて彼女の元へと走り出す

 

「悪い、待たせた」

「うぅん、待ってないわよ。逆に悪いわね、子供たちの相手させちゃって」

 

「大丈夫だよ、俺が好きでやってる事だからさ」

 

子供たちと触れ合うのは癒やされるし、何より元気な子供たちと交流すると、こちらも元気な気分になってくる

 

どんな世界でも、子供は未来の宝物なのだ

 

「そう? …なら良かったわ。さて、じゃあ今日も見回りに行くわよ」

 

「おー」「フゥーッ!」

 

アラタとケフィアの叫びが一致した

 

ケフィアの声が予想外に大きかったので、ちょっとアラタはビックリした

 

◇◇◇

 

今日も今日とて、森の見回り

 

木々の薫る、緑の匂い

 

爽やかな風が吹きすさぶ森の風

 

この自然が、フォンティーナの良いところだろう

 

「相変わらず綺麗な森だな」

 

「そう? 改めて言われると、なんだか誇らしいわね」

 

髪を弄りながらアラタの前を歩くアルティナ

 

そんな彼女の後ろ姿を見ながらアラタはまた口を開く

 

「なんだか、森全体が生き生きしてるっていうか。漲るっていうか」

 

「…えぇ、森が綺麗だと、森の精霊たちも元気になるの。…だけど最近は、少し危険な状態なの」

 

アルティナの言葉のトーンが低くなる

 

そして聞き慣れない単語も耳に届く

 

「危険って…なんで?」

 

「…ある日突然襲ってきたの。ルーンベールが」

 

「ルーンベール?」

 

確かアルティナの家の書物にあったのを読んだが、強襲なんかするような国じゃなかったはずじゃ…

 

「むしろ、襲ってくるなら…。なんだっけ、ドラゴニア帝国って奴らじゃなかったっけ?」

 

風の噂でそう聞いた

 

「確かに、ドラゴニアの連中が隣国に攻撃を仕掛けてるのも知ってるわ。だけど、このフォンティーナを襲ってきてるのは、ルーンベールのケンタウロス」

 

「…なんだって?」

 

「…私は、守り人の役目を与えられて、この銀の森にいたから難を逃れたけど…、私の、両親は…」

 

「…悪い、嫌な事を思い出させた」

 

うかつだった

 

ほんの興味本位で聞いたつもりが、辛いことを思い出させてしまう結果になるなんて

 

「違うわ、一瞬たりとも忘れたりなんかしなかった。あれ以来連中は何度も森を襲って、民を苦しめて、森の木々も枯れている」

 

そうなのか

 

素人目から見ても特に何事もないように見えるのだが、流石は銀の森の守り人だ

 

その決意を、アラタはまだ知らなかった

 

「…森のあちこちで遊んでた精霊や、妖精の姿も見えなくなった。…きっと全部、帝国の…闇の力のせいよ」

 

ぎゅ…、と彼女は拳を固く握り締めた

 

その手から血が滲んでしまうのではないか、と錯覚してしまうほどに

 

「…こんな状態であの日の事や仲間たち、そして…両親の事を忘れられる訳ないじゃない…!」

 

アルティナにとって、そのことは本当に辛い出来事だったろう

 

だが、それら全てを受け入れて、前に進むと彼女は言ったのだ

 

「…強いな。アルティナは」

 

「な、何よいきなり。何にも出ないわよ!?」

 

軽く顔を赤らめてアラタをジッ、と見る

 

青白く、くりっとした瞳がアラタを捉える

 

その恥じらう顔に、少しだけドキッとしたが

 

 

 

「フゥ! フゥーッ!」

 

 

なにやら慌てた様子のケフィアが割り込んだ事で場の空気が変わった

 

「どうしたの!? ケフィア!」

 

「フゥ! フゥフゥーッ!」

 

「えっ!? わかったわ、すぐに行く! アラタ、ついて来て!」

 

ケフィアと短い会話を終えたアルティナが走り出したので、アラタも慌ててアルティナを追う

 

「どうした!? アルティナ!」

 

「侵入者よ! ルーンベールのケンタウロス!」

 

噂をすればなんとやら

 

◇◇◇

 

アルティナを追っかけていると突如アルティナが茂みに身を隠した

 

それに倣うようにアラタも彼女の近くに身を屈める

 

「そのケンタウロスは?」

 

小さい声でアルティナにそう聞くと、彼女は目線だけである一点を指摘した

 

促された方向を見ると、そこには下半身が馬、上半身は人間の姿をした亜人がいた

 

それはどこからどうみてもケンタウロスだ

 

馬の体も漆黒の装飾物が施され、人間の体も同じように漆黒の鎧を身に纏った人影(?)が一体

 

その周囲に取り巻きのゴブリンが二体ほどが立っていた

 

ケンタウロスは右手に鋭いランスを携えてとても威力が高そうだ

 

「…俺が、前に出る」

 

「…大丈夫?」

 

アルティナの声がアラタの耳に届く

 

アルティナの方を振り向くと強い瞳がアラタを貫いた

 

同時に、自分を案じているような表情も読み取れた

 

…いや、流石にそれは自惚れだ

 

「あの黒い騎士みたいなヤツは俺が叩く! アルティナはちっこいヤツを頼む!」

 

「わかったわ!」

 

頷き合うと二人は全く同じタイミングで自分たちが身を隠していた茂みを勢いよく飛び出した

 

◇◇◇

 

狙うは馬上の騎士ケンタウロスのみ

 

背後の守りはアルティナを信じるだけだ

 

二体のゴブリンの間を通り抜け刀を抜き放ち一直線にケンタウロス目掛けて日本刀を振り下ろす

 

ガキンっ! と振り下ろされた刀は左手の盾で受け止められた

 

「マジかよっ!?」

 

その動揺が確実な隙となり、好機となる

 

闇の騎士―――ダークナイトは右手に持ったランスでアラタを突き殺そうと突き出した

 

「っ!」

 

咄嗟に刀で受け流し衝撃を和らげる

 

そして着地と同時後ろへ飛んで距離を離す

 

すかさず距離を詰めようとダークナイトが動こうとした時、一本の弓がダークナイトの顔すぐ隣を掠めた

放たれた方向を見ると弓を構えたアルティナが立っていた

 

既にもう一本の矢を弓にセットしており、いつでも撃つ準備はできているようだ

 

「…、」

 

弦を引き絞り、さらにもう一つ矢を放つ

 

ヒュンッ! と風を切り裂いて再びすぐダークナイトを横切った

 

「…、」

 

それでもダークナイトは狙いをアラタに捉えたまま再びランスを突き出した

 

「おっと!」

 

ガキンっ! と刀を振るい間一髪で攻撃を防ぐ

 

そのままいくつか何度も斬り結ぶ

 

アラタの刀とダークナイトのランスが幾度もぶつかり火花を散らす

 

時折放たれるアルティナの矢もダークナイトはいとも簡単に弾くようになった

 

「くっ…!」

 

アルティナは軽く舌を打ちながら再び場所を移動した

 

タイミングをずらして命中させやすくするのだ

 

「!」

 

アルティナがそんな行動を起こしているとは知らずアラタは目に神経を集中させた

 

爛(らん)、と目を蒼く煌めかせ―――

 

アラタは[視]た

 

今自分の目前へと迫っているランスの死の線を

 

「でぇぇい!」

 

すんでのところでアラタはランスを回避して、ランスの刀身に浮かび上がっている線をなぞるように叩き斬った

 

直後にダークナイトが持っていたランスが音を立てバラバラと砕け散る

 

「―――!?」

 

目の前で起こった出来事についていけないダークナイトはその場で一瞬固まった

 

「あばよ、ケンタウロス!」

 

その決定的瞬間を逃さずに、アラタはダークナイトを一刀のもと斬り伏せた

 

◇◇◇

「アラタ!」

 

戦いが終わるとアルティナがアラタに向かって走り出してきていた

 

「大丈夫? 怪我とかない!?」

 

「…それ、普通俺が言うセリフじゃないかな」

 

アラタがそう言うとアルティナはワケがわからないのかキョトンとしてしまった

 

「なんでよ?」

 

「なんでって…、アルティナ」

 

ほけっとしてるアルティナに向かってアラタは真っ正面から言ってやった

 

「君は女の子なんだから」

 

特に意識していない、ごく自然に浮かび上がった笑顔を見せながらそんな言葉をぶつけた

 

対しアルティナは

 

「…な、な、な…!」

顔をトマトみたいに赤くしながら狼狽してる

 

同時になぜか言い淀むように言葉を途切れさせ、そして

 

「な! 何言ってんのよ! ばかーっ!」

 

その日最大の絶叫をアラタにぶちまけた

 

◇◇◇

 

物語が動くのはそれからさらに数日後

 

いつの間にかアラタもアルティナの事を[アル]と愛称で呼ぶようになった

 

アルティナも最初こそ戸惑っていたものの、次第に慣れていき、すっかりアルで通っている

 

今現在、アラタとアルティナは森の中を散策している途中である

 

なぜか、という理由はケフィアがまたどこかに行ってしまったからだ

 

「…もう…、どこ行ったのよー」

 

「見当たらないな…、どこか他に思い当たる場所はないか? アル」

 

「あと最後に、貴方と出会った海岸ね。ここでいなかったらもう打つ手なし…、て、あ!?」

 

進んだ海岸沿いにケフィアがいた

 

「ケフィア、こんなところにいたの? …あら?」

 

フゥ、フゥと言いながらふわりふわりと浮かんでいる

 

 

 

 

砂浜に、倒れている青年の近くで

 

 

 

 

「これは…」

 

「フゥ! フゥーッ!」

ケフィアが珍しく叫んでいる

 

 

 

彼を助けて

 

 

 

何故かはわからないが、そんなイントネーションに聞こえた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある世界、あるお城にて

 

ずず、と紅茶を啜りティーカップをテーブルの上に置く

 

「ようやく動くみたいね…、待ちくたびれたわ…」

 

誰に呟くでもなく彼女はテーブルに置かれたスコーンに手を伸ばして一口かじる

 

じわり、と暖かい甘味が口いっぱいに広がっていく感覚

 

「流石ヴァルケンハイン。絶品だわ」

 

「恐縮でございます、レイチェル様」

紳士を体現した執事服を着こなした老人は右手を軽く胸の前にやると軽く礼をする

 

「ヴァルケンハイン、ひとまず今は戻っていいわ」

 

「はっ」

 

彼女がそう命じると老人はゆっくりと消えていった

 

持ち場へ戻ったのだろう

 

「…さて」

 

彼女は軽く息を吐きながらまた下界へと目を向ける

 

「面白くなりそうね…、少なくとも、今は…」

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