シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
そして次回で六章は多分終わりです
まぁ、相変わらずではありますがどうぞ
少し時間はさかのぼる
どのくらい遡るかというとアイラとラナが戻ってきた時くらいだ
シルディアとベスティアの国境の境にある深い森の中
ひっそりとドラゴニアの眼から逃れるために作られた小さい里がある
その里の名前は、忍びの里
ある一人の男が束ねる里である
その里はドラゴニアの襲撃によって故郷を失くした人たちを積極的に受け入れてその人たち野第二の故郷になれるように陰ひなたに努めている
そんな里に一人の忍びが慌てた様子で帰ってきた
「お頭ぁぁぁ! お頭ぁぁぁ!」
そう叫びながらその里の奥に位置するそのお頭の部屋へ突っ込む
勢い余って扉を開けた瞬間に転んでしまった
「どうしたでござるかぁ!?」
転んだ音に驚いた件のお頭が走ってくる
その男こそ子の忍びの里の頭領〝シシガミ・バング〟
実力は確かだが暑苦しいのが玉にキズである
「お頭ぁ! あ、アイラ様から、これを!」
そう言ってバングの部下は一枚の紙を手渡す
受け取ったバングは紙を開きその中身に目を通す
読み終えたその時にはバングの瞳にはある決意があった
「…いよいよでござるか…」
「お頭、いくんですか!?」
部下の言葉にバングはゆっくり頷いて
「友が拙者を必要としてくれるなら、行かねばならぬ」
その紙を丁寧に折りたたみ、再び部下の手に持たせる
そしてバングは部屋の奥に置かれてある一本の大きな釘を持った
それは五十五寸もの大きさのある巨大な釘だ
「お主たちがいれば、この里はしばらく安全でござろう。…拙者がいない間、里を任せたでござるぞ」
真剣なまなざしを向けられ、バングの部下は拳を握りしめる
バングのいない間にこの里を守り切れるか? 否、守りきるのが使命だ
「お任せくださいお頭! お頭がいなくとも、この里は守りきって見せます!!」
そう元気のいい声を聴いたバングは大きな笑みを作った
これならば任せられる、バングは確かな手ごたえを感じた
「では行ってくる。任せたでござるよ!」
背中に大きな五十五寸釘を背負ってバングは家を飛び出した
仲間の為に、そして何よりこの里に生きるすべての人々の為に
今、優しき忍者は駆け抜ける
◇◇◇
ルーンベールの道中
数十人を引き連れたドラゴニアのリーダーは視線の先に目を凝らす
ないだろうが恐らく、というハザマの指示により彼は数十人を引き連れて敵の援軍を断とうとしていたのである
しかしその道中に妙な人影が見えた
それは美目麗しい女の子だった
純白のドレスに真っ白なリボン、童顔から繰り出させる微笑み
絶望させるにピッタリな少女だった
彼女はこちらの視線に気が付くとスカートの裾を両手で軽くたくし上げ可憐な動作で礼をする
「待っていたわ。覚めない夢空間にようこそ」
幼女はそう短く呟くとその場で踊るようにクルリと回って指を鳴らす
その仕草と同じタイミングでそのドラゴニア兵士たちの地面から鋭い氷の刃が現れて何人かの兵士を貫いた
ビシャリ、と雪の積もったその地面に朱い色が染みこむ
何がおこったのか理解できなかった
ただあの女の子はくるりと回って指を鳴らしただけなのに
「い、いけっ!」
情けない声色に我ながら苛立ちを覚えるがそうも言っていられない
幸いにも相手は一人、数で相手を包囲すれば問題なく勝てるはずだ
そう、今まさに勝利目前のドラゴニア帝国みたいに
しかし理想はすんなり叶うはずもなく、一人、また一人と彼女の手にかかって消されていく
なんなんだ
いつの間にか自分を含めて残り二人と乏しい人数になってしまっていた
少女は変わらない
あれほどまでにドラゴニアの兵士を手にかけたというのに白いドレスはまっ白いままで返り血ひとつなかった
相変わらず踊るようにステップを踏みながらこちらに接近してくるドレスの少女
近づいてくるたびに、ただそれだけの事なのにより一層恐怖を駆り立てる
ふとその少女は顔を自分の顔に近づけた
そしてたった一言
「私、ザンコクでしてよ?」
◇
総ての掃討が終わったレンは髪をいじくりながらルーンベール勢力が来るのを待つ
「それにしても、あっけなかったですわね」
呟きながらレンはぐるりと辺りを見回した
その視線に繰り広げられる光景は雪の積もった地面にぐったりと横たわるドラゴニアの連中
早い話レンはドラゴニアの兵士たちにちょっとした夢を見せたのだ
「さ、後は増援の方々が来るのを待つしかないわ。クウガやハクメンはうまくやってるかしら…」
ふわぁ、と可愛い欠伸をしながらレンはルーンベールの増援の人たちが来るのを待った
その佇まいは完全に普通の少女だった
◇◇◇
同じ時刻、ベスティアの援軍を迎え撃とうとしていたドラゴニアの兵士を率いていた隊長は進行方向の先に佇む一人の男を発見した
白い服の上から材質は不明だが黒いベストに黒いズボンを着込み、顔にはサングラスをかけていて一見して怪しかった
しかしドラゴニアの連中にとってそう言った変な奴でも獲物である
一人しかいないのが残念だがそれでもダークドラゴンの糧にはなってくれるだろう
隊長は指示を飛ばし、その男一体を確実に討ち取るべく包囲しようと群がっていく
しかし男はおびえるでもなく、かといって強がるでもなくただ微動だにせず動かないままだった
「…さて。やっと来たか」
そう短くと呟くと両手を自分の腰の前にと持っていく
すると浮き出るように変なベルトが現れた
そして一定の妙なポーズを取った後に叫ぶ
「変身!」
そう言って男は一度空中へと飛んだあとに地面に着地した
着地したその男の姿は先ほどの姿ではなく赤い装甲に二本の角をした仮面を被ったこれまた妙な格好になっていた
数瞬の沈黙のあと男は一度両手を叩きながら周りの兵士たちに殴り掛かった
たかだかパンチ一発なのにその一撃だけで数人のドラゴニア数人を吹き飛ばしていく
その強さに少しビクリとしたが幸いにも数はこちらが勝る
このままいけばいつか相手の体力が先に尽きる筈だ
しかしそんな考えも一瞬で吹き飛ばされることに直面がおこった
仮面の男はドラゴニアの兵士の一人から剣を一本ぶんどると
「超変身!」
と叫んだ
すると赤かった装甲がみるみるうちに紫を基調とした鋼の鎧に変化していき、赤い複眼も紫色に変わっていく
変わったのは体だけではない
手に持っていた剣も仮面の男に合わせて姿かたちを変えていく
次第に変化は終わり変わった剣の先がシュン、と伸びた
「地割れのごとく、邪悪を切り裂く戦士あり…」
うわごとのように呟くとその剣を両手で振るいドラゴニアの兵士たちを切り裂いていく
こちらの攻撃は当たってはいるのだがその鋼の装甲に阻まれて剣を通すことはない
全く持って男は防御行動など取っていないのにどれだけ固いのだこいつの装甲は
「考え事とは余裕だね?」
視線の先にはもうその男が目の前にやってきていた
仮面の男はゆっくりと剣を振りかぶって、躊躇うことなく振り下ろした
◇
「…ふぅ」
一応急所は外しながら斬るよう努めたが成功した可能性は低い
しかし最初に殴られた連中は多分生きているはずである
「あとは援軍の人らと合流して、シルディアでレンやハクメンと合流、と」
この後の予定を確認する
特に邪魔が入らなければこのまますんなりと二人に合流できるはずだ
「…けど俺が行方不明、ね」
空を見上げながらそんなことを呟く
ここでの自分に出会ったことなどないがいったいどういう経緯で行方不明になったのかはわからない
そして何よりもう一人の自分に会ってみることが少しだけ興味を持ったのだ
「…よし。とりあえず待つか」
考えても意味がないのでその場でベスティアの連中が来るのを佇んで待つこととする
その場にはただ心地よい風が吹きすさぶのみ
◇◇◇
フォンティーナの一本道
シルディアへと向かうにはこの道を通るしかないのだが、いつもと違いそこには違和感しかない
その原因はわりかしすぐ近くにあった
「…機械人形、もしくはゴーレムという輩か」
ハクメンが向かったフォンティーナに向かって遭遇した相手はほかの二人と違い人ではなかった
それは人間の数倍あるであろう巨体の人形、〝ゴーレム〟だ
その大きな手を振りかぶってハクメンめがけて鉄拳を繰り出す
ハクメンは後ろに大きく飛び退いてその一撃を避けていく
しかし拳打はそれだけでは収まらず、ゴーレムは連続で拳打を放ち動きを捉えようとハクメンを追いかける
「ちっ…面倒だな」
ハクメンは一度動くのをやめて背中にある剣〝
「グオォォォ―――!」
咆哮と共に繰り出されるそのパンチを鳴神の腹でそれを受け止める
ビィン…とその衝撃が剣を通じて伝わるが耐えられないほどではない
むしろそれを好機としてハクメンはずいずいとゴーレムを押し返していく
「グ、アァ!?」
押していくはずのゴーレムが逆に押されるという奇妙な現象が今起きた
徐々に押され態勢が崩されていき次第にバランスを崩しその場に転んでしまった
どどぉん、大きな音と共に砂煙が巻き起こる
徐々に煙が薄れていく中ゴーレムの視界に見たものは
「
鳴神に自身の力を溜めこんでいるハクメンの姿
その佇まいは堂々たるものがあり、意識を持たぬはずのゴーレムがピクリとも動くことができないほど
「疾風」
ヴン、と振り下ろされたその一太刀を追うことすらできず、ゴーレムは斬られたことすらも自覚できぬままにその機能を停止した
「…所詮は人形。こんなものか」
短く吐き捨てるとハクメンhが鳴神を鞘に仕舞い、ほかの二人同様にその場でフォンティーナの増援が来るまで待つ
今、絶望に打ちひしがれた者たちが、たった二人に突き動かされてここまでの行動を起こす
そのことがただハクメンには興味深かった
「…私のいた世界と、この世界」
自分の世界とこの世界では相違点が多すぎる
特に、あのハザマとラグナの仲が良いなどあり得ないのだ
「…フン。そんな未来もあったのやもしれぬな」
吐き出すように呟いてハクメンは空を見上げる
見上げた空には自由に動く雲があった
◇◇◇
決戦当日
その朝
アルゴ砦の中央広場に戦線の一同は集まってきていた
「調子はどうだ」
今戻ってきた式がその広場に到着するのを待ってフェンリルは彼女に聞いた
式はその場で軽く息を整えると報告する
「レイジの指示通り、夜明け前に皆配置についた。あとは救援隊が動くのを待つだけだ」
報告を聞き終えたフェンリルは短く「分かった」と頷くと改めて門の先を見る
その様子をアイラの近くで見ていたエルミナはふと呟いた
「…いざ、始まるとなると…ちょっと、緊張しますね…」
いかに式に鍛えられていようとやっぱり女の子
一抹の不安はぬぐい切れていないようだ
そんなエルミナの頭を軽くなでながらアイラは
「大丈夫よ。信じて待ちましょう」
アイラにそういわれてエルミナは意を決したように大きくうなずいた
そして式に渡された刀を見てまた大きく深呼吸をする
「斬る事に拘るな」
いつの間にか来ていた式に多少驚きながらも顔を向けながら彼女の言葉に耳を傾ける
「お前は人を斬るのは初めてだ。けど、別に恥ずべきことじゃない。いいか。自分に来た相手だけ斬れ。それが魔物でも、ドラゴニアの兵士でも、だ」
まっすぐ目をあわせられて言う式に頷くエルミナ
自分は、迎撃に徹すればいいのだと自分に言い聞かせる
「…アルティナ。あたしの事は心配しないで。自分の面倒は自分で見れるから」
そんな会話の傍ら、ラナとアルティナが言葉を交わしていた
何時になく真剣な表情をするラナに対してアルティナは慌てた様子で
「な、なに言ってるのよ! 心配なんかしてないわよ!」
そう言ってツーンとそっぽを向いた
内心ちょっとは心配してくれてるかなぁ…とは思っていたがそうはっきり言われるとちょっぴりショックである
「けど…」
その台詞の後にちらー…と目線をラナの方に向けてほんのりと顔を赤くしながら
「姉さんはフォンティーナの女王だし…怪我とかしたら大変だから、私も、年の為に、そばにいさせてもらうけど…」
でれた
その一言が聞けて少しだけ心が軽くなった気がする
ちょっと昔に戻れたような、そんな気がした
「うん。二人で一緒にがんばろうね!」
その一言を聞いたアルティナはまた顔を赤くしてフン、とそっぽを向いた
◇
「なんか、ちょっとドキドキしてきたね」
腕をぐるぐると回しながらマコトがワクワクした様子で右手を振り回す
まるで興奮を抑えきれない遠足前の子供のように
「マコト。この一大事に何言ってんのよ」
そんなマコトの後頭部をチョップで制裁しながら戦闘服に着替えたツバキが歩いてくる
彼女の服は城が基調で帽子の眼がトレードマークとは本人の弁である
「あだ。っとーにぃ…ツバキはわかんないかなぁ。一度負けちゃったけれども、希望を捨てずにまた挑むこのこの高揚感! テンション上がるでしょう!!」
「わからないでもないけど、こんな時にあげちゃいけないから」
無駄にテンションが高いのはこれか
まぁたまに読む本の中にもそんな展開があると確かにこう心に来るものが―――
「て、違う違う…」
思わず考えを頭を払って脳から追い出すと改めマコトと向き直る
不意にきょろきょろし始めたマコトは
「あれ、ノエルは?」
「もうそろそろ来ると思うけど…あ。来た」
ツバキの視線の先には慌てて広場に駆け込むノエルの姿が
しかし普段と違うのはいつもつけてるベレー帽的な何かを外して、まとめている金髪の長髪をさらけ出しているのだ
「はぁはぁ…ごめんなさい、こんな大事な時に遅れちゃって…
「…あれ、ノエルなんか雰囲気変わった?」
「え? あぁ、この格好の事かな?」
マコトの指摘にノエルは改めて自分の服装を見直す
そしてその場でくるりと回転して
「…変じゃ…ないかな?」
そう上目遣いで聞いてきた
そんな仕草で言われたならもお…
「似合ってるよノエル~ん!!」
勢いよく抱き着いたマコトを支えきれず思わず後ろに倒れてしまうノエル
じたばたじたばたするマコトと慌てふためくノエルを見ながらツバキははぁ。とため息をつく
「落ち着きがないわねぇ…ま、そこがいいのだけれどね」
◇
「さぁて…そろそろだなリック。大暴れしてやろうぜ」
後ろでそんな微笑ましい事がおこってる最中、門の前にいたリックとレイジ
レイジはこれから始まる戦いに身構えながら隣のリックに声をかけた
しかしリックは相変わらず
「勝手にしろ。俺は俺で、勝手にする」
「お前、いつもそれだな。たまには気の利いたこと言ってくれよ…」
「大きなお世話だ」
似たような問答を何回繰り返したことか
戦線のみんなとは仲良くなれたのにいまだにレイジとはこれだ
…やっぱり打ち解けることはないんだろうか
そうため息を吐き出した直後である
ドオォン! と大きな爆発音が耳に届いた
それはかつて自分たちを敗北に追いやった砲撃の音だ
「…レイジ、いよいよ始まったぞ」
隣のユキヒメに言われてレイジは「あぁ」と頷いた
その時肩をポンと叩かれて
「合図をくれ、レイジ殿」
そうカッコいい笑顔でバレットが言ってきた
男よりも男らしいその笑顔に少しときめいてしまいそうになるが、改めてレイジは深呼吸し
「よし…!! 行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
全軍に響き渡る大声で叫んだ
今、ここに反撃の狼煙が挙げられた―――
◇◇◇
「そろそろ私たちも戻りましょうか」
レイチェルの庭園にて
アラタの右手についての特訓を終えたレイチェルが下の世界をのぞいていたが呟いた
「わかった。ローナ、用意はいいか?」
アラタは先ほどもらった蒼いコートを着ながらローナに言う
ちなみにこのコートは特訓を終えたときにレイチェルから貰ったものだ
その下にはこの世界に来た時に来ていたオリジナルの制服をそのまま着ていた
「はい。いつでも行けます」
対する彼女はいつものメイド服ではなく黒い忍び装束を着込んでいた
黒をベースとしたその服のスカートは少々短い
「…やっぱりこれ短くないですか?」
案の定ローナも思っていたようでその短いスカートの裾を掴みながら多少頬を赤らめながらアラタに言った
「…別に無理して着ないでもいいんだぞ」
アラタはコートだから来ているのだが彼女の場合は少々目のやり場に困る服装である
特に下半身が…こう、なんだろう
「いえ! せっかくレイチェルさんがくださったのですから!! 着こなして見せます!!」
どうしてこういう時の彼女は無駄に張り切っているのだろうか
てんで分からないがやる気になっているのだからそれをそぐのも忍びない
「終わったかしら? いい加減待てないわよ」
痺れを切らしたレイチェルが目の前の空間を歪め始める
彼女の前の空間は徐々にねじれはじめ、そこには黒い大きな穴みたいなのを作り出した
恐らくそれがエンディアスへの戻り道なのだろう
「さ、行きましょう」
ふわりと呟いたレイチェルが自然な足取りでその空間に入っていく
「俺達も行くぞ」
「はい!」
そんな彼女を追いかけてアラタとローナもその黒い穴へと飛び込んでいった
自らの真相を知って、自分はまた前に進めるようになった
こんな自分でも、皆を助けられるなら、前に進むことをあきらめない
少年はやっと、戦う目的を見つけたのだ―――