シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
アンケートの方もご協力ありがとうございます
では第六章最終部、拙い文面ではありますがお楽しみください
「あれだけ追い詰めていたのにこれは一体どういう事だお前たち!!」
クラントール王国
そのグランデル大聖堂にて
バルドルが将軍たち相手に怒鳴っていた
「あれほどの軍勢を率いていながらなんだこの様はッ!!」
「っせぇなぁ…あともう少しだったんだ! だっつうぅのにスレイプニルの野郎がよぉ!!」
「聞き捨てならん言い様だな。貴公の落ち度をまるでこちらのせい、とでも言わんばかりのようだが」
「お前たち二人のせいだろう」
「ンだとこのヤロウ!! テメェは最後においしいところを持ってこうとしてただけじゃねぇかッ!!」
言っているそばから三人は口々に罵り合いを始めた
正直言ってそれぞれにはちゃんとした責任があるのかもしれないが単にそれを認めたくないのか
「いい加減にせんか! 無能同士何を揉めておる!!」
無駄な争いをし続ける三将軍に向かってまたバルドルが声を荒げる
「貴様たちのせいで貴重な戦力を浪費し敵を勢いづかせることになったのだぞ!! その責をなんとする!!」
いくら互いのせいだと罵倒したところでその事実だけは変わらない
今後はどういった手段で奴らを追い詰めてやろうか、とバルドルが考えようとしたときに伯爵が口を開いた
「ご心配なくバルドル様。土地と戦力を失ったところで何の問題がありましょうか」
「…何?」
バルドルが訝しんだ声を上げる
「我らの目的はダークドラゴン様の復活。それさえ果たせば、敵がどれだけ戦力を増やそうと問題ありません」
伯爵の言葉にバルドルはふむ、と息を整える
「…確かにダークドラゴン様のお力にはいかなる軍勢とて、対抗しうるわけがないな」
つまりいくら土地が奪い返されたところで最後にすべてまとめて取り戻せば問題はないというわけだ
「…なるほど。それを理解したうえで、〝シャイニング・ブレイド〟の復活を阻止すれば問題はない、というわけだな」
「えぇ。そうすれば、我が方の勝利はより確実なものになるかと…」
「…よし。ならば良しとしよう」
口元に大きな笑みを浮かべバルドルは将軍の方へと向きなおる
〝シャイニング・ブレイド〟に必要なのは精霊王の卵と聞く
しかし残念なことにファフナーやラグナからは発見したとの報告はない
だったら
「スレイプニル!!」
「……何用か」
バルドルに呼ばれたスレイプニルはさも不機嫌そうにそう返事した
呼んだ方のバルドルは普段なら何らかの反応でも示すところだが今回は目的がある
「お主も精霊王の卵を探しに行くがよい。これ以上奴らに卵を渡すわけにはいかぬ」
「それならば、スレイプニル殿にはベスティア方面に向かっていただくことが肝要かと…」
バルドルに付け足すように伯爵が口をはさんだ
「…何故か?」
疑問に思ったスレイプニルが伯爵に向かって聞き返した
聞かれた伯爵は柔和な笑みを崩さず
「ベスティア方面で面白い現象が起きており、それが精霊王の卵となにか関係があるかと思われるからです」
なかなか納得のできる返答だ
ひとしきり聞いたスレイプニルはふむ、と小さく頷いた
「よいか、卵だ! 必ず卵を手に入れてもらうぞ!? スレイプニルっ!」
…相変わらず耳にうるさい男だ
己だけは何もせずただこの大聖堂に居座っているだけの存在が何を偉そうに
「万が一にも〝シャイニング・ブレイド〟を復活させるようなことがあってはならぬのだ。例の男も生きているということも判明した今ではな!」
「…何?」
バルドルが何気なく言ったその一言にスレイプニルはピクリと反応した
例の男…も、生きている…?
このドラゴニア帝国において例の男という言葉は一人を除いて他ならない
…もしやと思っていたが、まさか、やはりだ
「…よかろう。その任、しかと引き受けた」
もし自分に口というものがあるならば大いに口元に笑みを浮かべていただろう
それくらいにスレイプニルは高揚していた
当たり前だ、決着があんなあっけないものなど認めるものか
「ただ一つの条件がある」
「条件?」
バルドルの聞き返しにスレイプニルはうむ、と応える
「その例の男が現れた場合には、私はそちらを優先させてもらう」
「…ふむ、いいだろう。〝シャイニング・ブレイド〟も厄介だが、その男も厄介だからなぁ…」
また何かぐちぐちと言われるかと思ったが案外すんなり通ったようだ
ならば問題はない
スレイプニルは「感謝する」と彼にしては珍しい言葉を述べながら踵を返しその蹄を歩かせる
(待っていろアラタ…!! 貴様の首は…このスレイプニルが頂く…!!)
◇◇◇
アルゴ砦にて
時刻は深夜
何時かはわからないがとにかく深夜である
久しぶりに見たアラタにニューは大層喜び、会って早々にダイブをボディに喰らいぶっ倒れたのは記憶に新しい
正直言うと痛かった
しかしそれだけ心配されていたのだと考えるとその行動も可愛く見えてくる不思議
そんなニューをローナと共に寝かしつけてアラタは一人中央広場の噴水にと足を運んでいた
「…ふぅ」
戻ってきてからいろいろと刺激が強い出来事が次々と降りかかっている気がする
エルミナはなんだかびっくりするくらい強くなっていたり、レイチェルは相変わらずだったり
それでもその喧噪のなかにいることで改めて自分はここにいるのだと感じるのだ
「黄昏てるな」
「? 誰だ」
唐突に声がした
辺りを見回してもそれらしい人影はいない
一体どこから話しているのだろうか
「こっちだ」
今度は自分の後ろ
振り向くと白いワイシャツと黒いズボンを着て、サングラスをかけた男がそこに立っていた
体格はどういう訳か自分と似ている気がする…
「…いや、お前まさか―――」
「ご明察―――。初めましてだな、俺」
そう言って男はサングラスに手をかけるとそれを勢いよく取り外す
サングラスの下の表情は自分自身と全く持って瓜二つ―――
「アンタは―――」
「鏡祢アラタ。お前のオリジナルだ」
◇◇◇
静かな空気がその中央広場を支配する
ただ立っているだけなのだがそれだけで気圧されてしまいそうだ
(…どうする)
相手の目的はなんだ、本物が偽物を消しにきたか、それても俺を殺して存在を奪い取るのか…
冗談じゃない、ようやっと戦う意味と意義を見出せたんだ
いくら自分のオリジナルと言えど…
「なんか物騒な事考えてないか?」
「…えっ?」
先に動いたのはオリジナルだった
しかしその声に敵意などなくむしろ好感さえ持てるような
「…別にお前の存在なんてあんま興味ないよ。ここにいるのはお前だし、俺は俺だからな」
そう言ってにはは、と屈託ない笑顔を浮かべる
その笑顔は友達に見せるような自然すぎる笑みだった
「いいか俺。この世界を守んのはお前だし、どう生きるのか決めるのもお前だ。…まぁうまく言えないけど、これはお前の物語だからな」
言いたいことだけ言ってオリジナルはまたサングラスをかける
そしてまた一言
「…ダークドラゴンとかいう訳分んない奴に負けんなよ」
きっとそれは彼なりの励ましなのだろう
不器用ながらそう伝えるとオリジナルは深夜の暗闇の中へと消えていく
その背中が完璧に見えなくなるまで、アラタはそのその背中を見守った―――
◇
「アラタ?」
一人物思いにふけってるとサクヤが声をかけてきていた
てっきり自分以外寝ているものと思っていたのだが
「サクヤさん…起きていらっしゃったんですね」
「なんだか寝れなくて。気晴らしに散歩してたのよ。…アラタは?」
「俺も似たようなものです」
笑顔を交え短くサクヤにそう返答する
問われた彼女も「そう」と笑顔交じりで返しアラタの隣に立った
その場に少しの沈黙が流れる
だけど別に心地悪いものでなく、なんだかそれだけで落ち着いた気持ちになれるような感覚がある
「…えっと…」
しかしいざ話そうとしてみるもなかなか話題が浮かばない
こういう時何か気の利いた言葉を話せない自分にちょっとみっともなく思えてくる
「…本当に戻ってきてくれてよかった」
ぼそり、とサクヤが先に口を開いた
「え?」
「皆心配してたのよ? もちろん、私も心配してたけど」
屈託ない笑みと共にそんなことを告げるサクヤ
思えば各国の援軍諸国はアラタとレイジを慕って皆やってきてくれたとアルティナは言っていた
知らないうちに自分らはそこまで人助けをしていたとは思わなかった
アラタとしては至極当たり前のことをしていただけなのだが
「…改めて言います。ご心配おかけして申し訳ありませんでした」
サクヤの前に移動し深々と頭を下げる
どんな理由があろうと部隊に穴をあけ皆を深く傷つけ心配させてしまったのは変わらない
もう二度とそんな心配はさせたくないのだ
「大丈夫よ、こうして帰ってきてくれたんだから…」
サクヤは自分の手をアラタの両肩に乗せて続ける
「…だけど、本当にもう無理はしないで。貴方がいなくなったら…私は―――」
途中まで言いかけてサクヤは、ハッとして手を離す
「…サクヤさん…」
アラタの言葉を受けながら彼女は視線を少し地面に向けたあと顔を上げる
その顔は少し無理をして笑っていたように見えた
「あはは…ガラじゃないわね、弱音なんて…。じゃあアラタ、また明日」
茫然とするアラタを尻目にサクヤは彼の肩をポンと叩いて自分の部屋へと駆け足で戻っていく
そんな彼女の背中をただ見つめていることしかできなかった
「…サクヤさん…」
まだ自分は彼女の力になれていない事を痛感する
今思えばこの深蒼の魔導書を使いこなせてやっと自分は半人前なのだ
「…もっと強くならないと」
自分に言い聞かせるように呟く
いつか彼女を支えられるくらいまで、守れるくらいまで、強く―――
◇◇◇
「話は済ませてきたの?」
とある家の屋根の上
そこには白いのドレスの女の子が足をプラプラとさせながら首だけをこちらに向ける
その女の子はレンである
もう一人のアラタ…クウガは彼女を確認するとレンの隣に立つ
「ハクメンは」
「さぁ? いつもの事でしょう、ふらっといなくなるのは」
ぶっきらぼうにそう告げると彼女は手に持っていたパンにかじりつく
しばらく口をもくもく動かし、やがて満面の笑みを浮かべ
「ん~。美味しいぃ…! 味気ないパン生地に餡って格別よねぇ…。やっぱりアンパンはこしあんだと思うんだけど…ねぇねぇ、クウガは、いえアラタはどう思う?」
こいつは本当に夢魔なのか、いやそれ以前に猫なのか、と疑いたくなる
ていうか甘いものって猫は歯の健康によろしくないんじゃなかろうか
「つうか、なんで名前呼ぶのさ。こっちの俺と被るだろうが」
「えぇ? いいじゃない。クウガってのは名前じゃないんでしょう? そんなので呼び合うなんて可笑しいじゃない」
難だってこういう時は無駄に律儀なんだこの野郎が、と突っ込みたい気持ちを抑えながら気持ちの中ではぁ、と吐息をする
ひとしきりアンパンを食べ終えたレンはクウガに向かって
「ねぇ、またあなたの話を聞いていいかしら?」
「あぁ? いいけど…お前確かエルミナって娘とアラタに会うために来たんじゃないのかよ」
クウガはそう聞くとレンはむー、と唇を尖らせると
「最初はそう思ってたんだけど…。元気にアラタ…あ、クウガじゃない方ね、…と話してるエルミナ見てたら大丈夫かなって思っちゃって」
一片の曇りなく言い切るその言葉に偽りなどなさそうだ
そんな事より早く話せと言わんばかりにきらきらと瞳を輝かせる
観念したようにアラタははぁ、とため息をつき話し始めた
「えっと…そいじゃあ今日は我が親友〝上条当麻〟の事でも話そうか…」
「待ってましたっ。その人はどんな人なのよ?」
「ん~…一言でいうと、すっごい不幸な男だなぁ」
一つ一つ話すアラタと聞くたびにうんうんと頷くレン
その二人の様子はまるで仲良さげな兄と妹を連想させた―――
◇◇◇
こうして様々な種族、民族を超えて集った人々は、レイジとアラタを中心として光の軍勢、〝シャイニング・フォース〟を結成
世界を闇で包まんとするドラゴニア帝国との対決姿勢を改めて明確にした
しかしバルドルによるダークドラゴンの復活は地道に、しかし確実に進み、ドラゴニア帝国軍はまだ強大な力を秘めている
レイジと、アラタと、そして〝シャイニング・フォース〟の本当の戦いは、ここから始まる―――