シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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白刃のプレリュード 2

倒れているのは黒のノースリーブを着た赤い髪の青年だ

 

抜き身のままの刀を胸に抱いたまま気絶している

 

「…これは、人間…? しかも武装してるわ…。なんでこんなところに…」

 

アルティナが訝しんだようにそんな事を呟く

 

「…それも気になるが、横にいるネコも気になる…」

 

思った事をアラタは口にした

 

そう、赤い髪の青年のすぐ横にちょこんとお座りしてる黒ネコがいるのだ

 

「フゥ! フゥーッ!」

 

「この人間を、助けろっていうの? ケフィア」

 

「どちらにしろ、放っておけない。俺も助けように賛成だ。…最終的には、アルに任せるけど」

 

「丸投げ!? ちょっとアラタ!?」

 

と、そんな時なのだ

 

「助けるか助けないかは、貴女たちの自由だけど、こちらとしては助けてもらえるとありがたいわね」

 

黒ネコがしゃべった

 

「え!?」

 

驚きの声はアルティナのだ

 

いや、アラタもスッゴいビックリしているが

 

二人してビックリしていると今度は抜き身の刀が一瞬青白く光った気がした

 

「<迷惑なのは重々承知しているが、どうかこのバカを助けてやってはもらえまいか? 流石に、このままでは…>」

 

刀の声が聞こえた

 

「い、今しゃべったのって…。…あ、そうか、貴女、ネコだと思ったら、ネコの妖精ケットシーだったのね…」

 

アルティナは納得したようにウンウンと頷いている

 

「アル、彼女がケットシーである事は間違いないが、しゃべったのは彼女だけじゃないぞ」

 

「…え?」

 

やはり気づいていなかったようだ

 

それを証明するかのように再び青年が抱いている刀が輝いた

 

「<私だ。今、お前に話しかけているのは、私の方だ>」

 

アルティナは一瞬目をパチクリさせていたが、声の聞こえた方―――つまり刀を見ると

 

「…刀? 刀が喋った!?」

 

本日は驚愕の連続だ

 

流石に刀が喋る、といった事に警戒したのかアルティナは目を光らせながら

 

「貴女、何者!? まさか、ドラゴニアの手先!?」

 

「<なっ…!? 私を知らんのか!? しかも言うに事欠いて帝国の手先だと!? そのような者と間違えられるとは…なんたる屈辱!>」

 

「アル。なんでドラゴニアがここで溺れて倒れてるのさ」

 

アラタの冷静な指摘を受けてアルティナは

 

「…確かに」

 

と間を開けて呟いた

 

「<…まぁ良かろう。こちらは助けを求めている身。ぐっとこらえて名乗りを上げよう。しかと聞くがよい、エルフの娘よ。あと、そこな人間も」

 

刀は一拍間を開けて、名乗りを上げた

 

「<我が名はユキヒメ。クラントール王国を守護し、闇を滅する霊刀・雪姫とは我のことなり。耳にした事くらいあるであろう>」

霊刀・雪姫

 

…確かに、書物を読み漁ってた時にそんなのを見た気がする

 

選ばれし者しか扱えぬ霊力を秘めた刀…とかなんとか

 

アラタの記憶が曖昧なのは正直当時はあんまり興味がなかったからである

 

「<そして、ここに倒れし男は、我と志を同じくする者。異界より呼ばれ来たる剣士レイジ。我を振るう資格を持つ男なり>」

 

その話を聞いたアルティナは

 

「クラントールの霊刀…、って、まさか、クラントール王国から流されてきたの!?」

 

「遠いのか? そのクラントールって」

 

「バカアラタ! クラントールっていうのは船で何日もかかるとても遠い国なの! …あなたたち、よく生きてここまで流れついたわね…」

 

そんなに遠い国なのか

 

「<全くだ。レイジは運が強いとしか言いようがないな…>」

 

「確かに。クラントールってところはドラゴニアに占領された、と聞いたが…」

 

「その戦いでも生き延びたのね…。確かに運がいいわ…」

 

アラタとアルティナ、二人してうんうん頷いていると黒ネコが口を開いた

 

「ところでエルフのお嬢さん。二つほど聞きたいのだけれど、いいかしら?」

 

黒ネコは真っ直ぐに見据えて

 

「一つ、あなたたちのお名前はなんていうの? 二つ、レイジは助けてもらえるの? どうかしら? 聞かせてくれる? あ、ちなみに、私の名前はリンリンよ。以後よろしく」

 

実に自然に自己紹介を交えた語りに少し聞き入ってしまったが、慌てて二人も名乗る

 

「あ、よ、よろしく…。私はアルティナ、そっちの精霊はケフィアよ」

 

「俺はアラタ。…で、二つ目の問の答えは? アル」

 

「それは…」

 

悩むアルティナの前にケフィアが飛び回り「フゥ? フフゥ!」と声を上げながら飛び回った

 

その声に何らかの意志を感じ取ったアルティナは

 

「…そうね。ケフィアが警戒していない、ということは、きっと悪い人ではないのね」

 

「よしきた」

 

アルティナがそう決意するやいなやアラタはレイジを抱え上げた

 

「ありがとう! これでようやく一安心ね…」

 

リンリンが安堵の息を漏らす

 

同じくしてユキヒメが三度輝き言葉を喋る

 

「<レイジ! おいレイジ! 聞こえるか? もう大丈夫だぞ、おい! レイジ!>」

 

終始レイジを励ますユキヒメの声をBGMに、アラタはアルティナの元へ歩いていった

◇◇◇

 

夢を見た

 

「…うっ…」

 

自分の背後にはもう何もなく、あるのは海だけ

 

断崖絶壁に自分は追い込まれていた

 

「レイジ!」

 

女性が自分の名を叫んでいる

 

敵の手に捕らわれている彼女が喉を震わせている

 

「どうした若造。もう後がないぞ? ちょっとでもその者たちが剣を突き出せば…。ふふふ、どうなるかな?」

 

そんな事聞かれるまでもなくわかりきっている

 

敵の大将は面白がっているのだ

 

大将の声を皮切りにじりじりと剣を構えて距離を詰めていく

 

「…ちくしょう…」

 

何も出来ない自分が苛立たしかった

 

「全くしつこいヤツだ。いい加減に諦めたらどうだ?」

 

「そんな事が出来るか! オレは約束したんだ! 絶対に守るって…、必ず守ってみせるって…!」

 

「レイジ! いいの! 逃げて! お願いだから、逃げてっ!」

 

「ダメだ! 諦めるんじゃない! ちょっとだけ待っててくれ、今、お前を助けだして―――」

 

「それは無理な相談だな! やってしまえ!」

 

大将の声が聞こえたと同時、兵士たちが一斉に自分に向かって剣を振りかざして襲ってきた

 

「ぐっ!」

 

相手の剣をユキヒメを用いて捌いていく、が

 

がくん! と足元がぐらついた

 

それは自分の足場が崩れ落ちる音だと理解するのが数瞬遅れてしまった

 

「―――うわっ!!」

 

「レイジっ!」

 

咄嗟に手を伸ばしても、もう崖には届かず―――

 

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

「レイジ! レイジぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 

 

 

最後まで耳には、彼女の声が聞こえていた―――

 

◇◇◇

 

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

 

目が覚めた

 

「<レイジ!>」

 

「目を覚ましたようね。安心したわ…」

 

ユキヒメとリンリンの声が聞こえて、レイジはやっと落ち着いた

 

「…え? …こ、ここは…」

 

「フォンティーナの銀の森にある私の家よ。…全く、人間ってどうしてこう騒々しいのかしら。目を覚ますときくらい静かに出来ないの?」

 

そうエルフの女性に言われやっと辺りを見回し状況を把握したレイジは女性を見ながら

 

「フォンティーナ? そんなところにまで流されちまったのか? …ていうか、誰だお前」

 

「<バカモノ! なんだその態度は! このアルティナが、倒れていたお前を助けてくれたのだぞ!>」

 

「え!? そ、そうだったのか。それは、悪かった、ごめん。状況が飲み込めてなかったもんだから…」

 

ユキヒメから聞かされ、慌ててレイジは口を開く

 

「お礼を言わなきゃな。助けてくれて、ありがとう」

 

「いいわよそんなの。ていうか、お礼なら私じゃなくて、アラタに言ってよね」

 

「アラタ?」

 

「貴方をここまで運んできてくれた人。今ご飯作ってるからここにはいないけど」

 

そう言われるとなにやら鼻にとても美味しそうな匂いがしてきた

 

「ま、体が元通りになるまでは、せいぜいここで養生していく事ね。野垂れ死にでもされたら寝覚めが悪いし」

 

「ありがたいんだけど、そうノンビリもしてられない。オレ、もう行かないと」

 

「え?」

 

今なんと言ったこの赤髪青年は

 

「ちょ、ちょっと! 何言ってるの!?」

 

「友達が、オレの助けを待ってるんだ。急いで見つけ出さないと…。行こう! ユキヒメ!」

 

「<お、おい!? レイジ!?>」

 

「リンリンはここで待っててくれ、できるだけ早く戻ってくるからな。じゃあ、行ってくる!」

 

レイジは言うや否や置いてあったユキヒメを掴みリンリンにそう言い残すと足早に出口の方へと歩いていく

 

「<レイジ!? 落ち着け、おい、レイジ!!>」

 

ユキヒメの静止を聞かずアルティナがポカンとしてるとバタン、とドアが閉められた

 

「…は!? い、行っちゃった!?」

 

そんな慌てふためくアルティナに、お盆を持ったアラタが台所から歩いてきた

 

「どうした? アル。そんなに慌てて」

 

「慌てるわよ! えっと…」

 

 

 

説明中

 

 

 

「…マジかよ。アル」

 

「マジもなにも大マジよ! 捜しに行かないと…」

 

「わかった。あ、リンリン」

 

「? 何かしら」

 

こと、とリンリンの前にクリームシチューが置かれた

 

「…食べて、いいの?」

 

「もちろん。シチューとかは暖かい方が美味しいからな」

 

「…ありがとう。いただくわ」

 

軽く礼を言うとリンリンは舌でペロペロとクリームシチューを食べ始めた

 

「…よし! 行くぞアル」

 

「おっけー、アラタ。早いとこあの赤髪を捕まえるわよ!」

 

アラタは日本刀、アルティナは弓矢を携えて家を出た

 

…大丈夫だろうか、レイジとやらは

 

◇◇◇

 

ザン! という音ともに目の前のグリーンペーストが消滅した

 

あれで三体目のグリーンペーストだ

 

「はぁ…はぁ…」

 

肩で息をする

 

流石に、病み上がりで三連戦は厳しかったか

 

「<おいレイジ。…だいぶ疲れているようだが、大丈夫か?>」

 

「さ、流石に、バテちまった…。こり以上は、キツいかも…」

 

「<だから言ったではないか。無茶をしおって…。…とにかく、今は引き揚げるぞ。物音を聞きつけて、モンスターが現れないとも限らんからな>」

 

「わかった…」

ユキヒメの言葉に応じると、ユキヒメは光り輝き始めた

 

その眩い光が収まるとレイジの手に刀はなく、隣にはショートカットの黒い髪の女性が立っていた

 

頭に紫色のリボンを付け、黒を基調とした服装をしている

 

彼女はユキヒメ

 

先ほどまで刀だったユキヒメだ

 

「行くぞレイジ。撤退だ」

 

「わかってるってば」

 

先を歩くユキヒメについていく形で、レイジは歩を進めていった

 

◇◇◇

 

「…まずいな。…レイジ、気づいているか?」

 

「あぁ、来ちまったみたいだな。モンスターたちがさ…」

 

この状況は非常によろしくない

 

味方はいないし何よりレイジの体力が残り少ない

 

「…レイジ、戦えそうか?」

 

「なんとかやってみるさ」

 

「…わかった。いいか? 絶対に諦めるな。粘れば、きっと勝機も…」

 

そのときだ

 

確かに背後に気配を感じた

 

「…! 新手か!?」

 

慌ててユキヒメが振り返り背後の気配を確認し―――

 

「いた! やっと見つけた!!」

 

「捜したぞ! こんなところで何やってやがる!」

 

気配の正体はアルティナとアラタだった

 

意外な来客にレイジは目を見開かせ

 

「アルティナ!? それと…」

 

「アラタだ。顔を合わせるのは初めてかな」

 

アラタは軽く挨拶を交わすと辺りを見回す

 

「…また厄介な状況だな。アル」

 

「全くよ。どこまで迷惑かければ気が済むのかしら」

 

「いや、大丈夫だ。迷惑はかけない。自分の身ぐらいは、自分で…」

 

「そんなふらついてちゃ説得力ねぇよ。…無理して体壊しちまったら守れないだろ?」

 

言われたとき一瞬なにかを言おうとしたがやがて諦めたのか首を下に動かした

 

「…悪いな。偉そうなこと言って」

 

「いや、アラタの言ってる事は間違ってないさ。今は自分だけを守る事に集中するよ」

 

「あぁ、それでいい。自分に来た相手だけを倒せばいい。…よし、行こうアル。援護は任せる!」

 

「前衛は任せたわ、アラタ!」

 

二人で軽く視線を交わすとアルティナは弓を引き絞り、アラタは刀を抜き放ち、一気に駆け抜けた

 

◇◇◇

 

モンスターはグリーンペースト四体とイノブタと呼ばれるイノシシみたいなモンスターが二体だ

 

イノブタをわかりやすくいうなれば某大ヒット狩猟ゲームのファ○ゴみたいなものを想像してくれるとわかりやすい

 

アラタはグリーンペーストの群れに突っ込みかき回す

 

「―――!!」

 

グリーンペーストの一体が好機と見たのか体を伸ばしてアラタに体当たりをかましてこようとした

 

アラタはそれを見切っていたのか振り向きざまに刀を振り抜き一閃する

 

ザシュッ! とグリーンペーストは斬られると周囲に四散した

 

その隙をついてイノブタが走り出して突進を叩きこもうとした、が

 

一本の矢によって不発に終わった

 

それはアルティナが放った矢だ

 

アラタは親指を立ててアルティナに視線をやると刀を構えて

 

「ぜぇぇいやぁっ!!」

 

自らの体を回転させて残りのグリーンペーストを一層した

 

その動きにレイジは純粋に見惚れていた

 

「…あのアラタという男、かなりの手練れだな」

 

「あぁ、…動きに全く無駄がない。オレの調子が万全でも、勝てたかは…」

 

「レイジにも、見習って欲しいものだ」

 

「なんだよそりゃ!」

 

そんな二人の会話を余所に、アラタはアルティナの援護の元、最後の一体であるイノブタへ駆け出した

 

「―――!!」

 

近付かせまいとイノブタは角を地面に突き刺して、地面を掬うように掘った

 

その土の塊がアラタに降り注ぐ事はなかった

 

バァンッ! と音がした

 

アルティナの放った矢がその塊を粉砕したのだ

 

(ナイス、流石はアル!)

 

動揺したイノブタの一瞬の隙をついて一気に接近し、アラタは刀を振り抜いた

 

手応えを感じたアラタはヒュン! と刀を宙で振るうとその刀身を鞘へと戻す

 

直後ズゥン…! とイノブタが倒れる音が耳に聞こえた

 

◇◇◇

 

「お疲れ。アル」

 

「貴方も。アラタ」

 

二人して軽くハイタッチを交わす

 

これは見回りをしていた頃やっていた事なのだが

 

「…、」

 

ふとレイジが黙っているのが気になった

 

「…どうしたレイジ。どこか、怪我か?」

 

「いや…違うんだ。今、オレほとんど何も出来てない。人の手を借りなければ、戦う事も…」

 

レイジは拳を握り締めて言葉を続ける

 

「このままじゃ、あの子を助け出す事なんかできっこない。…一体オレ、どうしたら…。…いて!?」

 

そんなしんみりした表情をするレイジの肩をポンと叩いた

 

「バカ。今何も出来ないのは当たり前だろ」

 

「そうよ。貴方は怪我して、流されて、さっき目を覚ましたばっかりなのよ! いきなり戦えるはずないじゃない!」

 

アラタに続いてアルティナが全くの正論を叩きつける

 

「だいたい、貴方は焦りすぎよ。本当にその子を助けたいなら、まず力をつける事を考えなさい!」

 

「そうだな。なら、俺たちと森を見回る事をオススメしようかな」

 

「…森を、見回る?」

 

レイジの呟きにアラタは頷いて

 

「まぁ俺もアルを手伝っているのだけど。彼女の仕事は銀の森の守り人。侵入者から森を守るのが役目だ。当然、モンスターや侵入者との戦いもある。…戦いのカンや体力を戻すのに持ってこいだ。どうだ?」

 

レイジは少し考えてからやがて口を開いた

 

「…そうだな…。わかった、そうさせてもらうよ」

 

そう答えるとアラタは軽く笑みを作り

 

「よし。ならとりあえず今日は戻ろう。シチューがすっかり冷めてしまう」

 

「あ、そういえばアラタ作ってたっけ」

 

「ユキヒメの分もあるから、一度帰って食べようか」

 

「<私のもあるのか!?>」

 

ユキヒメが驚くような声を上げた

 

珍しく和気あいあいとしたその帰路は、少し楽しかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある世界のあるお城

 

 

「ん…」

 

一人紅茶を啜る

 

ヴァルケンが淹れた紅茶は相変わらず絶品だ

 

これにスコーンがあれば完璧なのだが、残念な事に今回はない

 

暇をつぶすべくなんとなく下界の様子に目をやった

 

「…ん? 彼は…確かレイジ」

 

その人影を見た見た彼女はうっすらと笑みを浮かべて

 

「なるほど。彼も合流したのね。…今後が、楽しみだわ…」

 

そんな事を言いながら実に自然な動作で、再び紅茶をずず…、と飲み始めた

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