シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
「ふぅ…」
アルティナの家に帰ってきて開口一番に呟いたのがレイジだ
一通り歩き回ったからか、疲労が溜まっているのだろう
「お帰りなさい。だいぶ歩き回ったようね」
出迎えてくれたのは留守番していたリンリンだ
傍らには空のお皿があった
結構キレイになっていたので、ガッツリ舐めつくしたのだろう
「なによ。もう疲れたの? だらしないわね」
「まぁそう言うなよ。起き上がったばかりでまだ本調子じゃないんだから」
毒づくアルティナをやんわりとフォローを入れるアラタ
「はは。言われても仕方ないさ。全く持ってその通りなんだから」
笑いながら肯定するレイジ
「<お前はもう少し落ちつきを覚えれば良いのだがな>」
「う…、わかってるっての」
そんなレイジを口撃するユキヒメ
そんな事を言ってはいるが、やっぱり心配なのだろう
「さて約束だ。とりあえず皆で食事にしよう」
リンリンの傍らにある皿を回収する
「ありがとう。貴方料理がお上手なのね」
「それほどでもないよ」
苦笑いしながら台所へ歩いていく
一回り大きいお鍋で作ったから温め直せば今日の晩と明日の朝までは大丈夫なはずだ
◇◇◇
で、今日の晩
「うんめぇっ!!」
レイジが大絶賛してくれた
「そこまで喜んでくれるとこっちも嬉しいな…」
しかしそんなにオーバーに喜ばれると流石に照れる
「しかし、男性でこれほどの味を出せるとは…。驚きだ」
ユキヒメでさえうんうん頷いて舌鼓を打っている
…やはり恥ずかしい
「当然よ。アラタの料理はとっても美味しいんだから」
「なんでお前が誇らしげなのかな」
えへんと胸を張るアルティナがわからなかった
「アラタ! おかわりだ」
「はいよ、待っててなー」
レイジのお皿を受け取って再び台所へ
なんだか自分の行く末は専業主婦? と少し不安になったのは内緒なのだ
◇◇◇
アルティナ宅の居間
つまり晩にみんなで座ったテーブルの椅子にアラタとアルティナは座っている
やがてアルティナが口を開いた
「…それにしても、いつになったらルーンベールは襲撃を止めるのかしら…」
「…いや、やっぱりまだ納得がいかないよ。本当に彼らはルーンベールから来ているのか?」
「何を言ってるの。貴方だって見たじゃない。あれはルーンベールのケンタウロスじゃないの」
「確かに、ルーンベールはケンタウロスの作った国だ。…だが、それだけでルーンベールだ、と決めるのは早計だと思うんだ」
「そ、それは…そうだけど…」
「…いざとなれば、ルーンベールに行く事も考えないと」
「…え?」
一瞬空気が重くなった気がした
「…どうした、アル」
「い、いえ…。何でもないわ。…うん」
なんだかアルティナの様子が著しく重くなった感じだ
「私、先に寝るね」
「お、おう…。わかった」
そそくさと自分の部屋へと歩いていくアルティナの背中をアラタはただ呆然と見送った
「…俺も、寝るか」
やがてアラタも睡魔に負けて、自分の部屋へと戻っていった
◇◇◇
「…なんであんな態度とったかな」
ぽふ、と自分のベッドへとダイブしながらそんな事を漏らした
「…別にアラタの事なんて何も思ってないのに」
強いて言うなら仲の良い男友達みたいな感じなのだ
そう言った認識だからこそ、彼がルーンベールへ行くという発言に動揺してしまった
「…私はエルフで、彼は…人間…」
何の気なしに種族名を呟いてみた
「…そうだよね。ちょっと仲の良い友達なだけだもん…」
そう自分に言い聞かせて、アルティナは眠りについた
◇◇◇
朝
朝食を食べ終えて、レイジと模擬戦
勘を取り戻すのはやはり実戦が一番だ
流石に真剣は危ないのでその辺に落ちていた棒で戦ってる
カッ! カッ! と互いが持った棒が音を立てる
「お互い楽しそうね…」
「歳も近いからだろう。ああいう同年代なら気兼ねなく全力で戦えるのだろう」
アルティナの隣で人間体のユキヒメがそう言葉を紡ぐ
「だいぶレイジも、調子を取り戻してきたしね」
リンリンの言葉通り、レイジの動きが良くなっている
傷や疲労も癒え、体調も万全になったレイジは以前とは比べものにならないキレの良い動きをしているのだ
「やっぱり強いな、レイジ!」
「アラタもな!」
棒と棒をぶつけ合いお互いの距離を確認する
おそらく次の一撃がお互いの最後の一撃になるであろうと思ったその時
「フゥ! フフゥ!」
割って入ったケフィアの声で中断させられた
「ケフィア!?」
言葉がわかるアルティナがケフィアの声を聞き取る
「なんて言ってる?」
棒をアルティナ宅の壁に置き、アラタはアルティナの近くへ歩み寄った
「侵入者よ! 今度は森の中心部に!」
「なんだって!?」
「レイジ!」
レイジの前に走ったユキヒメが光り刀となってレイジの手に収まる
アラタも日本刀を携えてレイジに
「行くぜ、レイジ」
「わかったぜ、アラタ」
「そこ! 早く行くわよ!」アルティナに怒鳴られ男二人は静かに『はい…』と返事した
ちなみにリンリンは再びお留守番だ
◇◇◇
「…いないな。…先ほどの小娘、いったいどこへ逃げたのだ…」
漆黒のケンタウロスがキョロキョロ、と見回す
そのケンタウロスの顔は骸骨のような面をしている
あんなケンタウロスは見た事はない
「皆の者! 草の根分けても捜し出すのだ! よいな!」
随伴していた骨の戦士―――ボーンファイターにそう指示を飛ばす
そこに駆けつけたアルティナが叫ぶ
「待ちなさい! 誰を捜してるかは知らないけど…、森の中で勝手な事はさせないわ!」
その叫びを聞いてかつかつ、と体の向きをアルティナの方に変える
そして
「…森の番人か。貴公には用はない。早々に立ち去るがいい」
「ずいぶんな態度じゃんかよ、勝手にずかずか入ってきたのはアンタだろう!」
アラタは刀をリーダー格のケンタウロスへ突きつけて叫ぶ
「…あくまでも逆らうつもりか。良かろう、ならば相手になろう」
ケンタウロスは手にしたランスを頭の上で回転させ、名乗りを上げる
「我はスレイプニル!! 闇に仕える、ドラゴニア帝国の騎士!! 光の者を滅さんと、流血の誓いを立てし者!!」
ブゥン! とランスを振り払い、名乗りを終えたスレイプニルはランスを構える
どうやら戦いは避けられないようだ
「…アラタ、まずは随伴の骨野郎から倒そう」
「同感だ。幸いにも数はそんなに多くない。まずは相手の数を減らす。アル! 援護を!」
「任せなさい!」
アラタの号令と同じくしてアルティナが弓を引き絞る
「行くぞレイジ!」
「おう! 後ろは任せたぜ!」
二人は軽く拳をぶつけあうと二体のボーンファイターへそれぞれ駆け出した
◇◇◇
素体が骨だからかはわからないが、ボーンファイターの攻撃は単調で、防御や回避は容易かった
だが、生ける屍のようなボーンファイターは、割と固くて倒しにくい
使いたくはなかったが、アラタは目に神経を集中させる
だいぶ力の使い方もわかってきた
神経を研ぎ澄まし、感覚を鋭敏化させ、ただ視る事に集中する
やがて
(…視えた!)
人間で肋や、肋骨に該当するその部位に、線と点を
「はぁっ!!」
相手の攻撃の隙をつき、胴体に視えた線をなぞるように斬り裂く
直後に崩れ落ちるようにバラバラと四散した
「アラタ、無事か!?」
同じタイミングでレイジもボーンファイターを倒したようだ
「問題ない。レイジは」
「オレもだ。ちょっと固かったがなんとかなったぜ」
「OK、…なら次は」
レイジとアラタ、二人してスレイプニルを睨む
「…ほう、少しはやるようだな」
パカラ、パカラ…とケンタウロス特有の馬の足音を響かせて、ゆっくりと歩いてくる
「我が槍の錆にしてくれる!」
そして二人の間に叩きつけるようにランスを突き出した
二人は左右に飛び、その攻撃を回避する
直後にスレイプニルに向かってアルティナが放った矢が一直線に飛んできた
「ふん!」
が、流石と言うべきか、いとも簡単に手に持ったランスで弾かれた
続けて二発、三発と矢を立て続けに放つが、すべて弾かれるか、避けられてしまった
「オレを忘れんな!」
弾いた隙を見計らってレイジがユキヒメを振るう
しかし
「遅い!」
左手の盾により、阻まれてしまった
「ち…!」
「<レイジ! 一度距離を取れ!>」
「わかった!」
なんとか左手を弾くとレイジは素早く後ろへ飛び距離を開けた
「次は俺だ!」
勇んでアラタは飛び出すと納刀の状態から一気に抜刀し、スレイプニルの胴体目掛け振り抜く
「ぬ!?」
しかしなんとかランスでその一撃を防御したが、少しだけぐらついた
アラタはその隙を逃さずスレイプニルの腹部に蹴りを叩き込んだ
「ぐおっ!?」
決定打にはならなかったが、確実なダメージにはなったはずだ
「やるな…、小僧…!」
「誉められたのかな…?」
ニィ、と笑いながらスレイプニルを見る
「抜かせ!」
スレイプニルは再びランスを振るい、アラタに向かって突き出した
アラタはその一撃を回避し、ランスを視る
一瞬視えた死点を突くように刀を突き出し返した
ガキン! とランスにヒットしたか、と思うと、真ん中からバラリ、と粉々に砕け散った
スレイプニルは驚愕する
「なんだと!?」
「そこね!」
その驚愕の隙をついたアルティナが矢を放つ
「!? くっ!!」
慌てて首を動かして、矢をなんとか回避する、が
「はぁぁぁぁぁ!!」
最後にレイジの一撃が
「なに!?」
ザシュ!! とユキヒメの一太刀がスレイプニルに決まった
倒すには至らないが十分なダメージだ
「ぐ…、なんだ、その力は…! …仕方ない、ここは一度引き揚げよう…」
斬られた箇所を押さえながらスレイプニルは足早にその場を後にした
「…なんとか、勝てたな」
「あぁ。少し、ヒヤッとしたけどな」
レイジが苦笑いを浮かべながらアラタに言った
「ほっとけ」
「二人とも、そんなの後にして!」
中心部に位置する場所には確か霊樹があったのだっけ
それが傷ついたかどうかを確かめるべくアラタとレイジはアルティナの後を追った
◇◇◇
「良かった…。この辺りに被害はないようね」
「森の奥にこんな木があったのか」
「アラタにはまだ案内してなかったわね。あとで案内するつもりだったんだけど…」
アルティナは「ん、んっ」と調子を整えて
「銀の森に古くから立っている[霊樹]よ。この木の周りだけは、精霊たちも以前のように元気なの」
言われて霊樹の方を見る
確かに、森の精霊たちはとても元気に遊んでいる
表情はわからないがどの精霊も楽しそうだ
「ほらね、みんなとっても元気でしょう?」
「フフフゥー♪」
霊樹の前だからか、心なしか少しだけテンションが高い気がするケフィア
「よしよし、みんなお行儀よく。…それじゃあ、聞かせてあげるね」
アルティナは息を吸って調子を整えると両手を広げて、鼻歌を歌い始めた
「ふ~ん♪ ふふふ~ん♪ ふふ~んふ~ん…♪」
「へぇ…」
そのキレイな声色にレイジは聞き入っている
それと同じように、アラタも聞き入ってしまった
「…結構、綺麗な歌声なんだな」
「アラタ、聞こえてるわよ?」
「あ! いや、これは…」
慌てて弁解しようとしたその時
「なんて素敵な歌声…」
左側の茂みから物音が聞こえた
「何者だ!」
すかさず三人はそれぞれ武器を構えてその茂みを見据える
アラタが近づきながら問いかけていく
「…出てこい」
警戒しながら慎重に言葉を選ぶ
「は、はい…。すみません、今、そちらに…」
思いの他あっさり出てきた
出てきたのは金髪で緑色の服を着た女の子だ
「も、申し訳ありません。私、ここに隠れていたのですが、綺麗な声が聞こえてきたもので、つい…」
「隠れていたですって!? 貴女は何者!? どこから―――」
「アール! そんな警戒しないで」
「するわよ! いきなり出てきて…」
「とりあえず、ここは俺が話をするから。…レイジもいいか?」
レイジに聞くと「あぁ」と言って頷いてくれた
アルティナはしぶしぶと言った感じで承諾した
「…で、君はどこから来たんだ?」
改めて少女に向き直って質問する
「私、ですか? 東の聖王国ルーンベールから参りました、エルミナと申します…」
「…ルーンベール!?」
その単語を聞いてアルティナは目くじらを立てたが、頭をぺち、と叩いて黙らせる
「…さっきのケンタウロスたちは、貴女の仲間なのか?」
「ち、違います! 私、あの方たちに追われて…。私、シルディアにこんな深い森があるなんて知らなくて…」
すると今度はレイジが反応した
「シルディア? 今シルディアって言った?」
「はい、シルディアと。…あら?」
なんかエルミナがキョロキョロとして、恐る恐ると言った感じで聞いてくる
「あ、あの。つかぬ事を伺いますが、ここは、シルディアではないのでしょうか…?」
「…ここは、フォンティーナの銀の森よ」
その答えをアルティナが言った
エルミナは考えるような仕草で
「フォンティーナ…? あの、あなたがおっしゃっているのは、エルフの国、フォンティーナの事でしょうか…?」
「フォンティーナは、それ以外にないわよ」
「そうですか…。ご親切にありがとうございます。フォンティーナと言えば、ルーンベールから見て南側にあり、シルディアは西…。…え!? えぇえ!? わ、私、全然違う方向にっ!?」
…どうやら彼女は道を間違えたみたいだ
「どうしましょう、私、とんでもない事を…。こんな事では、アイラ様に合わすお顔が…。あ、アイラ様…、お許しください…。…う、うぅうぅ…、ぐすっ…」
泣き出してしまった!
「ちょ、落ち着いて! とにかく、事情を話してくださいますか!? ここで泣かれてしまいますと、罪悪感が…」
「ぐすっ…、ぐすっ…申し訳ありません…ぐすんっ…うぅうぅう…」
落ち着くまでに五分くらいかかりました
◇◇◇
「…そうなの。ルーンベールも、そんな状態に…」
「はい。…聖騎士団は壊滅し、国王陛下も戦死され…。私も、命からがら都を逃げ出しました。でも、まだルーンベールでは、生き残った王女、アイラ様の指揮の下で、戦いが続いています。西方のクラントール王国は、完全に帝国に占領されてしまったようですが、ルーンベールを始め、他の諸国では…、帝国に対する抵抗が続いているようです。アイラ様はそうした勢力と手を結ぶため、なんとか連絡を取ろうと努力しておられます。私も、アイラ様の命令で、ヴァレリア地方の中央にある都市国家シルディアに向かうところだったのですが、どういうわけか、ここに…」
純粋に迷子のようだな、この子は
「どうして、シルディアに向かってたんだ?」
レイジの質問にエルミナは答える
「はい。何でもシルディアには、帝国と戦う意思を持つ方々が集まり…、ヴァレリア解放戦線という、義勇兵部隊を結成しているとか。その状況を視察した上で、私に出来る事があれば、お手伝いするように、というのが、アイラ様のお言いつけです」
その話を聞いたアルティナは顔を曇らせながら
「…そう。森の外も、そんな事に…」
「…その、ヴァレリア解放戦線には、いろんな国の連中が集まってるんだよな?」
「行ってみる価値はあるかもしれないな。今の世界情勢も、わかるかもしれないな」
レイジは考えて、やがて
「よし、わかった。エルミナ、オレもシルディアに行くぜ」
「本当ですか!? 一緒に来ていただけて、心強いです。ありがとうございます…」
「いや、エルミナのためじゃないんだ。オレも帝国と戦わなきゃいけない理由があるからな。アルティナ、アラタ。二人も一緒に来ないか?」
レイジはアラタとアルティナにそんな言葉を投げかけてみた
「俺は問題ないが…」
チラッとアルティナを見る
「わ、私には、この銀の森を守るという役目が…」
「アル、先ほどエルミナからも聞いたろう。森の外はもっとひどい。このまま放っておいたら、森の中も、さらにひどくなるかもしれないんだ。一度、外の様子は見た方がいいと思うんだ。…あ、いや、当然、無理になんて、言わないよ。だから…」
「…いいえ、アラタ。森を守るためには、外の様子も知らないといけない。アラタの言う通りかもしれないわね…」
アルティナの答えは、外に出る
ここにいる者たちの意思が、重なった
「ちょっと、待ってくれる? 森から出るには、長老会議の許可を取らないと」
「で、では、アルティナさんと、アラタさんも来て、いただけるんですか…?」
「えぇ、行くわ。…あなたたちと一緒に」
「フゥー! フフゥー!」
「ごめんなさいね、ケフィア。あなたを外に連れてくわけにはいかないの。けど、必ず帰ってくるから。待っててね」
寂しそうに俯くケフィア
「良い子で待ってな。会えなくなる訳じゃないんだ」
アラタがケフィアを撫でると「フフゥ!」と元気よく返事した
「…三人は、先に私の家で準備をしてて。私は長老に話を通してくるから。…私は、森を守るために、行かないとって」
「じゃあ、出発は明日の朝でいいか? アル」
「えぇ。構わないわ」
「…よし。…なら、先に戻ろう、二人とも」
レイジとエルミナの前をアラタは歩いた
これが、大きな戦いの前兆―――
とある世界のとあるお城
「今日はずいぶん珍しいお客さんね?」
彼女は振り返りながらクスリ、と軽い笑みを漏らす
「なに。今回来れたのは偶然さ。おかげで、何体か人形を壊してしまった」
つかつかと歩いてくる橙色の髪の女
ポニーテールにまとめたその髪がゆらゆら揺れている
そして赤みがかったコートを着て、中は白いYシャツと黒いズボン
「で、貴女ほどの女性が私に何のようかしら? 蒼崎橙子さん」
女―――蒼崎橙子は懐からタバコの箱を取り出して一つ取り出すと火をつける
「いやなに、何やら君が面白いことしていると聞いてね」
ふぅ、と息を吐きながら橙子は口を開く
「
その言葉を聞いたとき、わずかにレイチェルの眉がつり上がった―――