シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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今回から第2章です


第二章
義勇兵たちのバラッド 1


城塞都市国家[シルディア]

 

ヴァレリア地方中央部に位置するこの小国は、多くの街道が交わる交通の要衛として栄え、この地方での交易、外交の中心を担ってきた

 

強固な城壁によって守られていたシルディアだが、今は帝国軍の襲撃で国家機能の大半を失っており、戦闘能力はもう皆無と言っていいだろう

 

だが、かろうじて原型をとどめた城壁の中は、故郷を追われた難民たちが逃げ込む最後の避難所であり

 

また避難所であると同時、帝国と対抗する義勇兵部隊[ヴァレリア解放戦線]の兵站基地にもなっている

 

アラタ、レイジ、アルティナ、エルミナの四人がリンリンの案内の頼りに向かったのは、そのシルディアの街から、少し離れた街道沿いに位置する解放戦線の砦

 

そこでは、各地から集まった義勇兵や、行き場を無くした敗残兵らが、強大な闇の勢力に対して抵抗を続けていた…

 

これから、どのような戦いがあるのかは、まだ、誰も知らない

 

◇◇◇

 

砦に足を踏み入れて、まず四人が行ったのは、副隊長どのへのご挨拶だ

 

あいさつって大事

 

アラタは意味なくそんなことを心の中で呟いてうんうんと首を縦に動かす

 

「…なにしてるの?」

 

「…や、何でもないです」

 

本気で心配してる声色と視線が辛かった

 

やがてアラタたちの前に紫色を基調とした服を着込んだ狼の獣人が姿を現した

 

「お前たちか。隊長の言っていた新入りというのは。シルディアによく来てくれた。俺は、[ヴァレリア解放戦線]の副隊長、フェンリルだ」

 

フェンリルは少し間を置いて戦況を淡々と語り始めた

 

「知っての通り、この砦は帝国軍の侵攻を食い止めるために構築されたものだが、残念なことに戦況はあまり思わしくない。それだけに、戦力は常に不足気味でな。腕に覚えのある者はいつでも大歓迎だ。お前たちには期待しているぞ」

 

「承知いたしました。できる限りの事は、させていただきます…」

 

エルミナはやや緊張気味におずおずと言った感じで言葉を紡いだ

 

「帝国の手から、私たちの森を救うためですから」

 

アルティナは相変わらず、と言った感じだ

 

無論、そんな感じの方がアラタも安心できる

 

「役に立てるかはわかりませんが、お役に立てるよう最善を尽くします」

 

アラタもそんな二人に倣って簡潔にあいさつする

 

そして最後にレイジは…

 

「…、」

 

まさかの無言だった

 

「<おい。何をぼさっとしてる。お前も副隊長どのにあいさつしないか>」

 

「う、うるさいな。それぐらいわかってるよ! …え、ーと…、よろしく」

 

「ものすごい普通なあいさつだな」

 

「<全くだ>」

 

ユキヒメとアラタの二人から口撃を受けるレイジは「う…」と呟きながら顔を逸らした

 

するとその光景を見ていたフェンリルが興味深そうに呟く

 

「…言葉を話す刀か。すると、その刀がユキヒメ…、持ち主のお前が、レイジだな」

 

「? あぁ、そうだけど…。…なんで知ってるんだ?」

 

するとフェンリルは

 

「お前たちの事は隊長から聞いている。西のクラントール王国の戦士だそうだな。ここには王国から落ち延びた者も大勢いる。その中に、お前と引き合わせておきたい男がいるんだそうだ。その件を隊長から頼まれていてな」

 

その言葉にレイジは疑問を抱いたようで

 

「オレと、そいつを? どうして?」

 

「さぁな。そこまでは知らん。とにかく会ってみろ。おい、 リック!」

フェンリルが名前を呼ぶ

 

するとこちらに歩いてくる人影が

 

「…なんです?」

 

リックと呼ばれた青年はさも面倒くさそうに聞き返す

 

「こいつはリック。クラントールから来た連中の一人だ。こいつを、お前に会わせろというのが、隊長からの指示だ」

 

フェンリルにそう言われレイジは戸惑いながら

 

「そうなのか。…え、と、まぁこんちわ。オレは、レイジ。出身は別なんだけど…、オレもあの時、クラントールにいたんだ」

 

レイジという名を聞いた時、リックの目つきがほんの僅かに変わったのをアラタは見逃さなかった

 

「なに? …そうか、お前がレイジか。異世界から来た戦士…」

 

「今はこんなことになっちまってるけど…、ここから巻き返すことだってできると思うんだ。…だから、一緒に頑張ろうぜ」

 

「…ごめんだね」

 

前向きなレイジの発言にリックは真っ向から断った

 

「っ!?」

 

レイジはおろか、付近にいるアルティナやアラタ、エルミナも驚いた

 

「何も守れない役立たずに、用はない。…お前などに未来を託さなければ、こんな…」

 

その発言を聞いたレイジは顔色を青くさせて

 

「…そ、それって…、もしかして、クラントールでの事を言ってるのか…? そうなのか…?」

 

「…、」

 

リックはその問に答える事なく、無言でその場を立ち去ってしまった

 

その背中にどこか孤独のようなものを纏わせて

 

「あ、おい待て! リック! 待ってくれよ! おい! …くそ、行っちまった…」

 

その場でレイジは複雑な表情のまま佇んだ

 

「お前たちに何があったかはわからんし、聞くつもりもないが、そう落ち込むな。ヤツも訳ありなんでな…」

 

「訳あり?」

 

興味を持ったアラタが聞いてみる

 

「アイツはいつもあんな調子なのさ。誰にも心を開こうとしない。…最も、[死神]なんて噂を立てられちゃ、あんな風になるのも無理はない。まぁ、アイツの事は大目に見てやってくれ」

 

「…死神?」

 

不吉な単語

 

あまり彼には似合わないと思う異名だが…

 

「リックと出撃した者は、生きて帰ってこられない」

 

浮かんだ疑問に一人の女の子が答えてくれた

 

緑色の服を着込み、髪を左右に結わいた女の子

 

「どんなに激しい戦いでも、リック本人だけはいつも生き残ってしまう。…そんな風に言われてるのよ」

 

「…貴女は?」

 

アラタの問に女の子は慌てた様子で

 

「あ、ごめんなさい。私はアミル。リックの代わりに、謝りに来たの」

 

「友達…」

 

「うん。クラントールにいたころからの。そして、今のところは、一人だけの」

 

その表情は本当に寂しそうで、思わずアラタは言葉を失ってしまい、沈黙が場を支配する

 

その空気を慌てて変えようと、アミルは口を開いた

 

「リックも、クラントールにいたころは、あんな風じゃなかったわ。…でも…」

 

思わず話に聞き入ろうとしたその時だ

 

 

 

 

カァン! カァン! カァン! と、耳をつんざくような音が鳴り響いた

 

 

 

 

「これは!?」

 

「敵襲の知らせだ。見張りが敵を発見したようだな。行くぞ!」

 

フェンリルがそう声を出す

 

どうやら戦いの時みたいだ

 

「了解です。…アミル、その話は後ほど」

 

「うぅん! 私も、リックと一緒に行かないと!」

「わかった、気をつけて。…レイジ! いつまでも呆けてるなよ」

 

「あ、あぁ。わかった!」

 

「アル! 行こう!」

「わかったわ!」

 

アルティナと軽く言葉を交わしアラタは走り出した

 

本当の戦いが、始まろうとしている―――

 

◇◇◇

 

「<レイジ! 油断するなよ、慎重にやれ!>」

 

「わかった! アラタ! アルティナ! エルミナ! 行こうぜ!」

 

「は、はい!」

 

「なによもう…。仕切らないでくれる?」

 

ぐちぐちと小言を言うアルティナに苦笑いを浮かべながらアラタはアルの隣に立って

 

「気にすんなって。とりあえず行こう、アル」

 

「あ、待ってよアラタ」

 

先を行くアラタに、アルティナは小走りで追いかけていく

 

「<リック! 敵はあっちよ! 急いで!>」

 

「あぁ、行くぞ!」

 

リックは少し特殊な形状をした剣を携えて敵の群れへと突入していく

 

◇◇◇

 

主にいるのはスティンガーという多少大型のハチと、スパイダーという名前から察するという通り、同じように多少大型の雲だ

 

アラタはスパイダーと対峙し、隙を窺おうと、様子を見る実際こんなでっかいクモと対峙したのは初めてだ

 

てゆか現実にこんなバカデカいクモがいたら人間誰しもが卒倒するだろう

 

そんなクモが存在するのがこの現実(せかい)なのだが

 

と、思考に埋没してるとスパイダーが糸の塊を撃ち出してきた

 

「おっと!」

 

すかさずに刀で糸を斬り捌き一気に接近して刀を突き刺した

 

刀を抜き絶命を確認すると別のターゲットへと視線を変える

 

「…悪いな」

 

一瞬、スパイダーに情が乗ったが、その視線は、真っ直ぐだった

 

◇◇◇

 

リックの剣がスパイダーを斬り裂く

 

彼が力を欲するようになったのは、あのクラントールでの戦いからだ

 

大切な人たちが蹂躙されていく様を目の当たりにして、優しさなどには意味がないのだ、と悟ってしまった

 

力がないのが悔しかった

 

大切な人たちを守るために村の自警団へと入ったのに、全く役に立たなかった

 

だから彼は、力を求める

 

守る力を

 

「…次だ…!」

 

誰よりも、何よりも

 

その目に迷いはない

 

◇◇◇

 

(へぇ…リックのヤツ、なかなかやるじゃないか)

 

敵を倒し少し余裕が出来たレイジはリックの戦いを眺めていた

 

(…あれ、けどアミルがいないな…。どこ行ったんだ?)

 

砦での会話は聞こえていた

 

その際にアミルはリックと一緒に行く、と言っていたから、リックの付近にいると思ったのだが…

 

「きゃ!?」

 

「エルミナ!? 大丈夫か! 今、そっちに行く!」

 

「は、はい…すみません…」

 

今はそんなことを考えている場合ではない

 

とにかく、目の前にいる相手をどうにかしなければ

 

◇◇◇

 

「副隊長さん! 敵が逃げてく!」

 

数体のスパイダーやスティンガーを倒していると、集団の敵が逃亡していくのが目に見えた

 

アラタはそれをフェンリルに叫んで報告する

 

「追うぞ! 俺に続け!」

 

フェンリルの号令にそれぞれが応答し、追撃戦がスタートする

 

◇◇◇

 

全力で追撃して、なんとか敵の集団に追いついた

 

「なんとか追いついた…。勢いこのまま、殲滅しよう」

 

「おう!」

 

「わ、私も…!」

 

アラタの呟きにレイジとエルミナがそれに応答する

 

「ふ、威勢がいいな。だが、張り切りすぎて怪我をするなよ?」

 

そして最後に副隊長フェンリルが、上手い具合にまとめた

 

流石は副隊長だ

 

「…よし、アル、援護を!」

 

「任せなさい!」

 

アラタは背をアルティナに任せ、再び集団へと突入していった

 

◇◇◇

 

今度の敵はまたサソリを一回り…、いやけっこう大きくしたモンスター、[スコーピオン]だ

 

「…またエグいなおい」

 

ドラゴニア帝国にはこんなのしかいないのか

 

アラタは日本刀を抜き放ちスコーピオンを睨みつける

 

先に動いたのはアラタだ

 

先手を打って出鼻を挫こうとしたのだがスコーピオンも黙ってはいない

 

自在に動くサソリ特有の尾で攻撃を仕掛けてきた

 

「い!?」

体を横に転がしその一撃を回避したのもつかの間、危機は去っていない

 

「シャーッ!!」

 

一匹のスパイダーがアラタの背後へ強襲を敢行していたのだ

 

「っ!!」

 

油断していた

 

敵は一体ではなかったということを忘れていた

 

「はぁっ!」

 

そのスパイダーに一本の矢が突き刺さった

 

誰の矢かは考えるまでもない

 

「悪い、助かったアル!」

 

「アラタこそ、油断してんじゃないわよ!」

 

アルティナの声を耳に入れながら、再びアラタはスコーピオンと対峙する

 

◇◇◇

 

やがて敵も少なくなり、アラタが最後のスコーピオンを斬り裂いた

 

「無事か、アラタ」

 

こちらを走ってくるレイジの声が聞こえた

 

「大丈夫だ。お前も無事みたいだね」

 

 

レイジの無事を確認し、周囲を見回してみる

 

どうやら殲滅したようだ

 

「どうやら、敵は残っていないようだな。よし、皆。砦に引き上げるぞ」

 

「…了解」

 

「わかりました」

 

「こっちも了解だ。…なぁリック、ちょっといいか?」

 

「…、」

 

またもレイジの言葉を完全無視しさっさと歩いていってしまった

 

「あ、おいリック! ちょっと待てって! おーい!」

 

リックはその言葉に振り返る事なく、砦へと戻っていった

 

「…行っちまった。アミルの事を聞きたかったのに。…なんなんだよ、アイツ…」

 

同様にアラタも気にはなったが、アミルの事は胸に仕舞い、砦へと歩いていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある世界のとあるお城

 

 

「誰から聞いたのよ。そんな噂」

 

「気にする事はないさ、正直に言えば気になったからだが」

 

実に自然な動作で橙子はテーブルへと歩いていく

 

レイチェルは指を一つ鳴らし、橙子の椅子を出現させた

 

橙子はその椅子を引いてストン、と腰を下ろす

 

「…アラタの右腕、[深蒼の魔導書]に手を加えたのは貴女ね?」

 

テーブルに置かれたスコーンを手に取りながら、そんな言葉を投げかけた

 

「あぁ。少々、不安があったのでな。アラタの右腕は、義手だ。拒絶されたらたまらない」

 

橙子も懐から煙草を取り出して、口にくわえ、火をつける

 

「…なるほど。どうりで上手くいったワケね。合点がいったわ」

 

「アルカードの当主にそう言われると、照れるな」

 

軽く軽口を交えたその言葉にレイチェルは目を細くし

 

「…わたくしをバカにしてらして?」

 

「まさか。素直な言葉さ」

 

そう言って橙子は口から紫煙を吐き出す

 

その仕草を見てレイチェルは軽く笑みを作った

 

「…面白い人」

 

「お互い様だ」

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