シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜 作:桐生 乱桐(アジフライ)
アルゴ砦
フェンリル副隊長の後ろについていき、酒場に到着
その酒場で、黒いドレスに身を包んだ威厳あるオーラを纏った女性が佇んでいた
「皆、お疲れさま。どうやら今のは、敵の偵察隊だったみたいね」
「…ん?」
その黒いドレスの女性を見た時レイジが顔をしかめた
そして
「…あ、あれ!? サクヤさん!?」
レイジが驚きの声を上げた
そんなレイジを置いといて
「おや、隊長。お帰りでしたか」
「隊長? …隊長って…、サクヤさんがここの隊長!?」
「なんだレイジ。知り合いなのか?」
アラタが皆が思った疑問を代表して問いかけた
「いや、知り合いていうかなんつーか…あっちの世界で、オレに剣を教えてくれた人だから…、言ってみれば、師匠って事になるかな」
「なるほど…、師匠なのか」
「えっと…、どういう事でしょうか?」
エルミナがまだちょっと理解しかねていたが、
「安心してエルミナ。…ぶっちゃけ俺もわかってない」
アラタも人の事言えなかった
「オレだってよくわかんないよ。ていうか、それ以前に、どうしてサクヤさんがここにいるのかって事なんだけど…」
そのレイジの疑問にサクヤは笑いながら
「ふふ。まあその内わかるわよ。…リンリン、レイジをきちんと案内してくれたみたいね。ご苦労様」
「いいえ。これぐらいなんでもないわ。それはそうと…、久しぶりの再会だし、ちゃんとご挨拶、させてもらおうかしら」
なにやら含みのある言い方をするリンリン
「挨拶って、まさか…」
サクヤさんもなにやらを察知しているようで
突如として、リンリンが人間の姿へと変身した
あまりの早業(?)にアラタは目が追いつけなかった
「え!? えええええ!? な、なんじゃこりゃ!?」
レイジの某名作ドラマの名俳優みたいなセリフを耳に聞きながら
「にゃははは! サクヤぁ! ただいまぁっ!」
キャラ変わりすぎだろおい
誰もがそうツッコミを隠せない情景を見ながら、リンリン(人間体)はサクヤに抱きついた
よく見ると胸に頬摺りなんかもしちゃっている
「あぁん、もう! やっぱりこれ? こらリンリン、抱きつかないの。くすぐったいじゃないの」
「いいじゃないの、久しぶりに会ったんだから。これぐらいサービスしてよ。にゃははは!」
「り、リンリンが! リンリンが、獣人に…」
いつまで驚いているんだレイジは
「何よ、リンリンがどうしたの?」
「いえ…、あまりに突然の出来事だったので、驚いてるんですよ。まさか獣人体に変身できるなんて」
レイジに変わりアラタがそう進言する
「隠してたわけじゃないんだけど、戦う時くらいしかこっちの姿には変身しないから。見る機会がなかったって事ね」
「なるほど。なら仕方ないですね」
「ちょ、納得って、いいのかよアラタ」
「いいんだよレイジ。たまたま俺たちは見る機会なかっただけなんだから。詮索は不用だよ」
「ふふ、ありがとっ。あ、あと貴方の作ってくれたシチュー、とってもおいしかった。また作ってくれるかしら?」
「そんなに気に入ってくれるとは光栄だよ。その内ね」
「も、もう馴染んでる…」
背後でアルティナがそう呟いた
「それでサクヤ。次の仕事は?」
リンリンはアラタとの会話を終えるとサクヤに聞いた
「ふふ、今度は思いっきり体を動かす仕事よ。解放戦線に加わって、戦いの方を手助けしてくれる?」
「やった! まっかせて! サクヤの指示通り戦闘は控えてたから、体が鈍っちゃいそうだったよ」
「貴女の腕には期待してるわよ。でも今のところは急ぎの仕事もないし…、いつもの姿で楽にしていて」
サクヤがそう言うと再び達人芸
まばたきの間にリンリンはまたネコの姿に戻っていたのだ
「…では、そうさせてもらうわ。…ふぅ、やっぱり、この姿の方が楽ね」
そして切り替えが早い
…昔、知り合いにこんな感じの人はいなかっただろうか
「さてと、リンリンの事はともかく、もう一つ大事な用を済ませておかないとね。リック、ちょっとこっちへ来て!」
サクヤは唐突にリックを呼び出した
リックは相変わらずの様子で歩いて来て
「…なんです?」
「長い事待たせて、ごめんなさい。やっと見つけたわ、この子を…」
そう言ってサクヤは奥から一人の女の子を連れてきた
修道服を着込んだ金髪碧眼の女の子
「…え、エアリィ!?」
その女の子を見た途端にリックの雰囲気が変わる
「エアリィ…!!」
アミルも思わず、と言った様子で声を出した
「リック…、アミル…! 良かった、やっと会えた…!」
修道服の女の子も嬉しそうに笑顔を浮かべて二人の元へ駆け寄っていく
「…アミルと同じようにして、連れてきたわ。それしか助ける方法がなかったの。…ごめんなさい…」
「いえ、いいんです。また会えただけでも。サクヤさん、ありがとう…!」
そんな様子を見ながらアラタは目を凝らしていた
「…む」
彼は無意識に自らの能力を発言させてしまっていた
(…やっぱり。あのアミルとエアリィって…)
聞こうとして、その考えを振り払うように首を横に振った
変に事情を聞くつもりはない
あれは少し複雑過ぎる
彼女たちは、なんていうか、普通とは違う線が見えたのだ
それだけ聞ければ十分だ
「…街でも見て回ろうかな」
アラタはサクヤに退出を告げて出口に向かって歩いていった
そして酒場の出口辺りで
「あ、アラタ…」
「あれ、アル」
アルティナが酒場出口の壁付近に背中を預けて待っていた
「どうしたんだ、こんなところで」
「べ、別に、どうって事はないんだけど…、ほら、私…、外の世界って、初めて…で…」
「あぁ、どこ行くか迷ってたとか?」
「違っ! 違うわよ!」
慌てふためくアルティナを見てるとちょっと心が和む
「行こう、アル。二人でいろいろ見て回ろう」
アルティナにそう笑顔を浮かべて隣を行く
「あっ…」
一瞬アルティナは戸惑ったが、やがてその表情に笑顔を浮かべてアラタを追いかけた
「待ってよ、アラター!」
◇◇◇
そんなワケでアルティナと二人、砦の中の街を練り歩く事にした
「あ、パン屋さんなんてあるんだ」
「あら、兵隊さん。こんにちは」
パン屋さんの女将(?)さんはぺこりと一礼する
「私はジュリア。このパン屋を切り盛りしてる…まぁ若女将みたいなものかな?」
苦笑いを浮かべ笑い声をこぼすジュリアさん
店頭に並んでいるパンはどれも焼きたてで美味しそうなのばかりだ
「食べていく?」
「え? いいんですか?」
「いいわよ。帝国と戦う時にお腹減ってたら、カッコ悪いでしょう?」
「違いない…、じゃあいただきます。あ、代金は…」
「今回はタダであげる。次回はしっかりもらうけどね」
そう言って軽くウィンクするジュリアさん
「ありがとうございます」
そんなジュリアに礼をし、さて、どんなパンを選ぼうかなー…、と考えた時
「…、」
背中でもじもじしてるアルティナが目に入ってきた
「…アル?」
「ひゃ!? な、なに…!?」
えらい驚きよう
一体どうしたというのか
「どうした。アルらしくない」
「い、いえ…、別に…その…」
やがておずおず、といった感じで、かつ小さい声色でアラタの耳に囁いてきた
「そ、その…、人間の人と話すの…慣れてなくて…」
「? なんで。俺やレイジとは普通に話せてるじゃんか」
「あんた達は別よ」
なんだそれは
いや、だがそれはそれだけアルティナと親しくなった、という事だろうか
そう考えると少しだけ顔がにやけてしまった
「なにニヤニヤしてるのよ?」
「え? あ、いや…、ははは…」
そんなアラタ全くもう…といった感じでアルティナは眺めていた
「お嬢さんもどうですか?」
「え、け、けど…」
慌てて耳を隠すように手を当てる
「遠慮なさらないで。はい」
優しく渡されたパンをアルティナは見つめる
それはあんパンだ
「…あ、ありがとう…」
アルティナは耳を隠していた両手をそっとパンに移し、優しく握る
ほんのりと伝わる、焼きたての暖かさ
「あら、貴女、可愛い耳ですね」
「えっ…?」
予想外な一言がアルティナの耳に届く
「ふふ…。いろいろ大変かもしんないけど、頑張ってね」
ジュリアはそう言って優しく微笑ってくれた
「…あ、」
あんパンの温もりが両手を通してじんわりと伝わってくる
「ありがとうございます…」
優しさを感じながらアルティナはそう感謝し、あんパンを一口かじる
「あ、ジュリアさん。俺にもメロンパンを」
慌ててメロンパンを一つ受け取って礼を言うとアルティナを見る
「…美味しい」
そう顔をほころばすアルティナの笑顔は本当に可愛くて、心を奪われそうになる
「…良い笑顔じゃんか。アル」
「うるさいわよ、ばかアラタ」
「むが!?」
唐突に何かを口に入れられた
それはあんパンだと気づくのに時間がかかった
あんの甘さが口いっぱいに広がる
「あむ」
呆然としてると今度はアルティナが何かを食べた
それはついさっきかじったメロンパン
「…これもサクサクしてて美味しいっ」
また笑顔を浮かべるアルティナ
「あ、アル…!」
顔が赤くなる
だってアルティナが口をつけた場所は―――
「さ、アラタ! 行くわよ!」
前を走るアルティナ
「あ、待てアル!」
すかさず追いかけるアラタ
戦いの中の一時の休息
ああ、たまにはこんなのも、悪くはないかもしれないなぁ―――
とある世界のとあるお城
「…なかなか美味だな、ここの紅茶は」
椅子に腰掛けて煙草を吸う橙子は思わずそう漏らした
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね」
サクリ、とスコーンをかじるレイチェル
「…ふぅ」
吸い終わったタバコを携帯灰皿にぶち込んでそれを懐に仕舞って今度はテーブルに置かれたスコーン、つまり先ほどレイチェルが食べていたスコーンに手を伸ばして一つを取ると、サクリ、とかじった
「…旨いな。ただのスコーンとは思えない…」
「ヴァルケンハインの作るスコーンを、下界のその辺のスコーンと一緒にしないで欲しいわね」
「恐縮でございます、レイチェル様」
ヴァルケンハイン、と呼ばれた老執事は手を軽く胸にやると一礼する
「…私のところにも、そんな執事が欲しいものだ」
ずずず、と紅茶を啜りながらそんな事をぼやいた橙子であった