シャイニングブレイド 〜蒼の魔導書を持つ男〜   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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義勇兵たちのバラッド 3

目が覚める

 

砦での朝を迎えたのは何回目だろうか

 

与えられた部屋はなんか無駄に日差しが強いので一発で眠気が吹っ飛ぶ

 

「ん、んー…」

 

のびー、と背中を伸ばし気分を確かめる

そして自分が寝ていた布団を畳んで、整理する

 

太陽を見てみるとまだ出てきている途中…

 

時刻に現すと六時くらいだろうか

すでに何人か起きているだろうが、主要なメンバーはまだ寝てそうだ

 

…ヤバい、果てしなくやる事ない

 

どうしよう

 

困った時はとにかく体を動かすに限ると考えたアラタは日本刀を手に持って部屋を出た

 

◇◇◇

 

どこか素振りに適した場所がないか歩いて探す

 

少し歩いていくと割と広い原っぱに出た

 

「…ここなら、良い感じに素振りできるかな…」

 

朝ご飯まで少し時間がある

 

その時間まで体を動かしてお腹を減らすとしよう

 

アラタは日本刀を置き、手頃な枝を探す

 

少し探すと真っ直ぐで割と良質な枝を見つけるとそれを手に持ち、その付近のいびつな枝もついでに持つ

 

真っ直ぐな枝を右手で正眼に構え、いびつな枝を上空に放り投げる

 

「…、」

 

目を閉じて、タイミングを計る

 

耳、肌、音

 

全ての感覚を鋭敏に研ぎ澄ます

 

「…ッ!」

 

目を見開く、その瞬間に枝に数撃を打ち込む

 

カカカッ! と木特有の音が響きポテ、と落ちる枝

 

「…だいたい五から六、ってところか…」

 

この世界に来ていろいろ知ったが、未だに自分の事だけはわからないままだ

 

唯一知った自分の事は、眼で見た線を断ち切り、相手を犯(ころ)せる、という事

 

結構すんなり使っているが、一歩間違えばとんでもない事件を引き起こしかねない禁断の力だ

 

「…気をつけないと」

 

気を引き締めて、再び枝を正眼に構えたその時だった

 

「…あ、先客がおられましたか」

 

ちょうど自分の背後辺りから声が聞こえた

 

振り向いて確かめるとそこには肩まで切られた髪にスラリとした顔立ちの、鎧を身に包んだ青年が立っていた

 

「…貴方は…」

 

「あ、失礼しました。私は、イゴールと申します」

 

イゴール、と名乗った青年は軽く一礼する

 

「イゴール、さん…、ね。俺はアラタ。よろしく」

 

「はい、こちらこそ」

 

二人はお互いに挨拶を交わし握手をする

 

「…唐突ですが…、リックさんの事をどう思いますか?」

 

本当に唐突だった

 

「リック、ですか?」

 

「ええ、リックさんです」

 

リック

 

彼からはどこか自分から仲間を避けている様子が見える

 

どんな激しい戦いに巻き込まれても、彼だけは生存し、帰還する

 

そんな出来事が幾度も続き、ついたあだ名が、[死神]

 

…ヒドい話だ

 

リックはただ懸命に戦って生き残っただけであろうに、そんなあだ名、もとい異名をつけられてしまった

 

アミルの寂しそうな表情がよくわかる

 

「…、どう思うって言われると返答に困りますね。俺はリックと、まだ出会って浅いんで」

苦笑いしながらそんな事を返答した

 

そんな自分が憎たらしい

 

なんて評価すればいいからわからないから、日が浅いからという事を理由にして、逃げたのだ

 

「いえ、そんな評価をした貴方は、なかなかいませんよ」

 

「…え?」

 

「彼は、死神など呼ばれる所以(ゆえん)、孤立しがちなんです…。私は…、どうも心配なんです」

 

「…、」

 

アラタは純粋に驚いていた

 

他人の事をここまで思いやりを持った人間を見た事がない

 

たまに同僚の兵らの話を耳にすると大抵がリックに対する陰口ばかり

 

そんな中このイゴールはただリックを心配してこのような質問をぶつけてきたのだ

 

「…優しい、ですね。イゴールさん」

 

「イゴールで構いません。さん付けはちょっと苦手で」

 

「じゃあ俺もアラタで構わない。他人行儀は嫌いでな」

 

そういうとイゴールは軽く微笑んで

 

「…わかりました。よろしくお願いしますね、アラタ」

 

「こっちこそ。よろしく、イゴール」

 

ガシッ、と握手を交わした

 

「アラター! どこいんのよー!」

 

「やべ、アルの声だ! じゃな、イゴール! またあとで!」

 

慌ててアラタは置いてあった日本刀を持ち、声の方向へ駆け出した

 

イゴールはその背中を見送りながら

 

「…慌ただしいお方だ」

 

静かに笑みを浮かべた

 

◇◇◇

 

「あんな朝早くから何やってたのよ」

 

「や、ちょっとトレーニングを…」

 

アルティナがお怒りだ

 

何やらプンプンした状態でアラタに問いただす

 

「朝ご飯もう出来てるわよ。早くいこ」

 

てててー、とアルティナは前を歩く

 

そんなアルティナの背中をアラタは追う

 

「もうそんな時間だったのか。没頭してると危ないな…」

 

「銀の森にいた時もそうだったでしょ? トレーニング始めると私が呼びにいかないとずっとやってるんだから…」

 

全く、といった様子でそんな事を呟くアルティナ

 

「はは…、あん時は悪かったよ」

 

銀の森にいた時は本当にひどかった

 

飲まず食わずで結構な時間を消費してしまい、アルティナに怒られたのだ

 

あの時は、ちょっとへこんだ

 

そんな他愛ない会話を交わしながら酒場へ到着

 

用意された朝ご飯を食べるべくアラタは席に腰を下ろす

 

その隣にアルティナも座った

 

「おっす、アラタ」

 

「おはよ、レイジ」

 

男二人で挨拶する

 

レイジはすでに朝ご飯を半分ほど食べており、あと少し、といったところか

 

「アラタ。時に、今日朝早くからどこか行かなかったか?」

 

レイジの隣に座り同じように朝食を採っていたユキヒメがそんな疑問を聞いてきた

 

「あぁ、朝練してたんだよ」

 

「なんと! レイジ、お前もアラタを見習え」

「な、なんだよいきなり」

 

「レイジ。何度も言うがお前はまだ未熟、アラタのように地道な努力こそが…」

 

くどくどと始まったユキヒメのお告げ

 

一度発動するとなかなかに終わりが見えないものだ

 

「俺らは俺らで食べようか」

 

「そうね」

 

薄情者! と言うレイジの視線をスルーし、アラタとアルティナは朝食を食べ始めた

 

◇◇◇

 

「以上が、詳細であります」

 

「ご苦労様。ゆっくり休んで」

 

「はっ」

 

情報を収集していた兵士、いわゆる偵察兵からの報告を聞き終わるとサクヤはふむ…、と短い息を吐いた

 

「人選は…、どうしようかしら」

 

先ほどの報告を頭の中に巡らせながら最適な人物を考える

 

「あ。あとでアラタとも話をしておかないと…」

 

彼の纏う雰囲気は少し気になってはいた

 

「あら。割と板に付いてきてるわね」

 

「誰!?」

 

突如聞こえたその声にサクヤは身構えた

 

「久しぶりねぇ、サクヤ」

 

ドアを開いて堂々とその人物は姿を見せる

 

「…レイチェル=アルカード…」

 

「元気かしら。聞くまでもないけど」

 

レイチェルはツインテールの内の片方をくるくると弄びながらサクヤを見た

 

「…珍しいわね。滅多に下界に降りてこない貴女が。明日は雨かしら」

 

「たまには様子を見ることも必要かと思ってね。私の婿の」

 

「…婿?」

 

なんの事だそれは

 

「気にしないで、ちょっと口が滑ったわ」

 

「え、えぇ…」

 

レイチェルは何を考えてるのかはわからない

 

それなりに彼女と面識はあるが、彼女の思考は全くわからない

 

唯一わかったのは、彼女はやけに紅茶が好きだという事だ

 

過去に一度会話した事があるがその際にティーセットがない事だけでレイチェルのテンションが下がったのがはっきりと見てとれた

 

それ以来ティーセットを常備するようになり、紅茶の葉も置いておく事を決めたのだ

 

ただ、紅茶の銘柄などは流石にサクヤはわからないので当たり障りのない普通のヤツを選んで購入したのだが

 

 

「…不味いわね」

 

「…貴女が飲む紅茶と一緒にしないで欲しいのだけど」

 

案の定辛口なコメントが帰ってきた

 

まぁ当然といえば当然だ

 

[傍観者]の彼女が下界の紅茶が好みのはずはない

 

…もしかしたら煎れ方がいけないのかもしれないが

 

 

「私は隊の皆に任務を伝えにいくけど、貴女は?」

 

「この紅茶もどきを飲んだら戻るわ」

 

そう言うとレイチェルは再びティーセットに手をやりまたずず、と飲み始めた

 

「わかったわ。飲み終わったらちゃんと片してね」

 

サクヤがそう言って部屋から出ようと扉を開けた時

 

「…無茶、するんじゃないわよ」

 

レイチェルの呟きが聞こえたような気がした

 

「…わかっているわ、レイチェル=アルカード」

 

短くそれに返答しサクヤは部屋を出ていった

 

◇◇◇

 

お昼にさしかかったその日

 

隊長であるサクヤが「興味深い情報を仕入れてきた」という事で、皆が酒場に集まっていた

 

「いったいどんななんですか?」

 

代表してアラタが問う

 

「ヴァレリアは以前にも闇の勢力の侵略を受けて危機に陥ったことがあってね。その時に中心となって戦った、白竜教団の巫女がいるの」

 

そんな話は初耳だ

 

無論、知らないのはアラタだけなのだが

 

「その巫女が守っていたエトワール神殿は、今回の帝国軍の襲撃で、破壊されてしまったらしいんだけど…、彼女自身は、護衛の竜人と一緒に、この砦から少し離れた所にある別殿に立てこもって、独自に抵抗を続けているらしいわ」

 

「なら、その巫女たちと協力できれば、今後の戦いが楽になりますね」

 

アラタが思った事を口にする

 

しかしサクヤは「いえ」と言葉を濁し

 

「破壊された神殿の周囲は、敵の動きも活発で、このままでは近づく事ができないの」

 

まさに前途多難

 

「では、どうすれば…」

 

オロオロとエルミナが言葉を漏らす

 

「しばらくは神殿方面に、こまめに偵察隊を出すくらいしかできないわね。そうやって様子をうかがいながら、隙を見て神殿側との接触を図るのよ」

 

「確かに。それしか手はなさそうですね」

 

今のところはそれが最善の策だ

 

現状で無理をするとこちらが全滅しかねない

 

「それで、今から偵察隊の第一陣を出してみようと思うの。神殿に通じる街道の様子が知りたいから」

 

サクヤはそう言いながらリックを見て

 

「リック、その仕事を頼んでいいかしら。メンバーの選抜はあなたに任せるから」

 

リックはサクヤに頷いて

 

「わかりました。ですが俺一人で行きます。死神と一緒に行きたいヤツなんかいないでしょうから」

 

「…、」

 

その発言を聞いたサクヤの表情が暗くなり

 

敵意を撒き散らすリックの周囲に微妙な空気が支配したその時

 

「ちょっと待った、勝手に決めるなよ。オレが一緒に行くぜ」

 

その空気をぶち壊したのはレイジだ

 

そんなレイジの言葉にもリックは

 

「…、断る。役立たずはついて来られても迷惑なだけだ」

 

「迷惑かどうか、行ってみなけりゃわからないだろう。それにもし本当に迷惑で邪魔なら、遠慮なく見捨てればいい」

 

それを聞いてリックは一瞬だけ眉をぴくり、と動かした

 

「とにかく、オレは行くからな」

 

「…勝手にしろ。面倒は見ない」

 

「見てもらおうとは思ってない」

 

悪い空気ではないのだがこう真っ向からの対立してる空気はどうにも声をかけづらい

 

アラタがその場をただ眺めていた時、ツンツン、と誰かに肘でつつかれた

 

アルティナだ

 

「行かないの?」

 

「行かないのって、なにが」

 

そう聞き返すとアルティナはガクッとして

 

「偵察の任務よ。さっきサクヤさんが言ってたでしょ?」

 

「あぁ、あれか。悪いけど行かない」

 

きっぱりとアラタはその質問を切り捨てた

 

「…どうして?」

 

不思議に思ったアルティナがアラタに聞いてみる

 

「偵察にそれほど人員を割く必要もない…、はちょっと自惚れが過ぎるかな。けど、あの二人を一緒にさせたら、ちったぁ仲が改善されるかなって、思ったんだが」

 

そう言われるとアルティナはふむぅ、とうなり声をあげた

 

確かにリックのレイジへの敵意は異常だ

 

何でも、クラントールでの一件が問題らしいのだが

 

「じゃあアラタ。ちょっと行ってくるぜ」

 

アルティナが考え事をしてるといつの間にかアラタがレイジと軽く会話をしていた

 

内容から察すると送り出しているのだろう

 

レイジが酒場の出口へ行ったあと次にリックとエアリィだ

 

なぜリックがエアリィと一緒にいるのだろう、前回はアミルと一緒に行ったのに…、

 

ぼんやりとアラタはそんな事を考えているとリックと視線が合った

 

改めて確認するが今回のパートナーはエアリィのようだ

 

リックがアラタの横を歩き通るとき、静かにアラタが口を開いた

 

「なぜそこまでレイジを目の敵にする?」

 

その問いかけにリックはアラタの数歩先に行ったところで立ち止まり

 

「貴様には関係ない」

 

そう言ってまた歩き出して行ってしまった

 

その後ろを歩くエアリィが申し訳なさそうに頭を下げるのがアラタの視線に止まった

 

◇◇◇

 

アミルとエアリィが体にまとう…なんだろう、言いにくいがオーラが違う

 

同時に、瞳に映る線の形も

 

勘が正しければおそらくあの二人は…

 

いや、いずれ気づいてしまうだろう

 

それに、今日の偵察任務で同行したレイジも、今日知るはずだ

 

リックとアミル、エアリィの真実は否が応でも知らないといけない

 

アラタはそれに、瞳に宿った力のおかげで気づいてしまっただけ

 

「アラター!」

 

「ん?」

 

聞き慣れた声が聞こえたから振り返る

 

当然ながらアルティナだ

 

「どうした、アル」

 

「どうしたじゃないわよ! なんだかリックたちが貴方を睨んでたから気になって…、何か言ったの?」

 

アルティナがそう言って覗き込んでくる

 

アラタは心配してくれるアルティナの顔をつん、とつっついた

 

「わ…、いきなりおでこつっつかないでよ」

 

「悪い悪い。アルがかわいかったからつい」

 

「なぁ! なにいってんのよ!?」

 

何はともあれ、アラタはアルティナをからかいながら任務に行った二人を待つことにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サクヤの自室にて

 

「ごちそうさま」

 

そうレイチェルは言ってカップを皿の上に置く

 

相変わらずのようで何よりだ

 

「けど、背負いこみ過ぎよ。サクヤ」

 

いつか倒れてしまうのでは、とヒヤヒヤさせられる

 

「…けど、私は傍観者…。見守ることしかできない」

 

そう寂しそうに呟いてレイチェルはティーセットを魔法で洗い元の位置に戻す

 

「ありがとう、また来るわ」

 

隊長の仕事に戻ったサクヤに静かにそう言うとレイチェルは自分に纏ったマントをバサァ! となびかせる

 

次の瞬間、レイチェルの姿は消え失せていた

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