幻想警察録~Unit-6 Operation~   作:SOCOMレオン

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お買い物

ーー前回の事件から2時間後ーー

 

 

たいして厳しくもない取り調べのあと、和人は独房に入れられていたが、備え付けの粗末なベッドに転がり天井を見上げていた

 

 

(はぁ・・・こんなことだったら刑事課配属の話断りゃ良かった)

 

 

正直、こんなに厳しいとは思っていなかった。張り込みしながらあんパンと牛乳を飲んでいればいい仕事だと思っていたからだ。すると、和人は交番勤務の時の事をふと思い出す

 

 

(鈴のやつ元気にしてるかなぁ・・・)

 

 

和人は自分の後輩のことを思いだし、しばらく思い出に浸るが、ここは昔の勤務先ではない。そんな思い出などすぐに打ち砕かれた

 

 

「はぁ・・・・・」

 

 

ため息をついた和人はベッドで静かに眠り出す。彼は執務室で起きていることなど当然知らず、すぐに寝息をたてる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「納得いきません。何故彼を処罰しないのですか?」

 

 

さとりは執務室でコーヒーを飲んで寛いでいる紫に異議を申し立てている最中だった

 

 

「無警告で先制攻撃を行った。それは認めるわ。だけどね、彼は押収した薬の取引を防いだ挙げ句、ボスの居所まで吐かせたわ。それも、かなり大物のね。そのお蔭でボスを確保出来た上に薬も全部の押収に成功した。この功績は大きいわ」

 

 

「ですが、取引を行おうとしていた者達も逮捕するべきではなかったのですか?確保して法の裁きを受けさせるべきではなかったのですか?投降させるべきだったと思いますが?」

 

 

「あら、銃撃した挙げ句に車で逃走を図った犯人達に投降の意志があるとでも?それに、貴女の部下のハーフの子・・・リサだっけ?彼女だって彼に向かって私情で引き金を引いたでしょう?これも十分アウトなのだけど?そして、それを黙って見過ごしていた貴女にも問題点はあるわ」

 

 

そういい放った紫は飲み干したコーヒーのマグカップを机に置いて椅子の背もたれに背中を預ける

 

 

「ッ・・・・・」

 

 

「でもこのままじゃ双方に不利益が生じたまま。そこで、取引といきましょう」

 

 

「取引・・・・?」

 

 

「彼を釈放させる代わりに、貴女とリサの事を見逃してあげる。どう?悪い話じゃないと思うけど?」

 

 

「・・もし断れば?」

 

 

「貴女とリサをクビにして、彼を法廷に出すわ。まぁ、事件に対する責任能力が無いでしょうから、結局無罪でしょうね」

 

 

つまり、リサとさとりがクビになろうが残ろうが結局和人は職場に復帰する、ということだった

 

 

「・・・最初から貴女に不利益なことなんて無いじゃない」

 

 

「上手く相手を誘導させて自分に少しでも有利な方に傾ける。これが私なりの交渉術よ」

 

 

「・・・乗ったわ。今回の件に関して、和人には何も言わない」

 

 

「交渉成立ね」

 

 

紫はフフン、と勝ち誇ったような顔をするが、さとりはどこか悔しそうな顔だった

 

 

「・・失礼するわ」

 

 

さとりは紫に背中を向けて執務室を出ていく。さとりは悔しさのあまり唇を血が出るほど噛み締め、手で口を押さえて泣いていた

 

 

和人を法廷で裁く事が出来ない。そして、なに事も無かったかのように復帰させられる。こんな理不尽がさとりには納得いかなかった

 

 

刑事課の待機室に戻った彼女を見たリサ達は、さとりの表情を見て察する

 

 

「お姉ちゃん・・ダメだったの?」

 

 

さとりは返事の代わりにコクコクと頷く。さとりは椅子に座って紫に言われたことをリサ達に説明する

 

 

「・・・ごめんなさい。私のせいで・・」

 

 

「いいのよ・・リサのせいじゃないわ。貴女が責められるべき対象じゃないの」

 

 

さとりはそう言うが、リサに大きな責任がのし掛かる。あのとき私情で引き金を引かずに、それを堪えて和人を確保すれば良かった。そうリサは考えていた

 

 

すると、待機室のドアが開いて元凶である和人が入ってくる。なんの悪びれもなく、フーセンガムを膨らませながら入ってきた態度をとっていた

 

 

「よぉ、一同お揃いのようで」

 

 

和人は破れたフーセンガムをまた口の中に戻して、クチャクチャと噛み始める

 

 

「ッ・・・あんなこと起こした張本人がよくそんな態度とれるわね」

 

 

「んぁ?まだ気にしてんのかよ。しつこいなぁ。もう過ぎた事じゃないか」

 

 

「それをまた起こさないために犯人殺害は控えてほしいけどね」

 

 

「何故?警告に従わない犯人は殺すべきだろ?自分の身が危ないからな」

 

 

和人はそう言うと、またフーセンガムを膨らませる。分かりきったことだが、反省の色など全く見えなかった

 

 

「・・・はぁ、もういいわ」

 

 

さとりはため息をついて椅子に座り、それ以上何も言わなかった。紫に言われたことを思い出したからだ。それを聞いた和人はガムを包み紙に包んでごみ箱に捨てる。そして、口直しをするかのようにタバコに火を付ける

 

 

「いい加減に機嫌治しなよ。くだらないことでそんなに怒るなよ」

 

 

「誰のせいだと思ってんのよ」

 

 

「はいはい悪ぅござんしたぁ。そんなことより俺のロッカーどこ?」

 

 

「・・・そこよ」

 

 

リサが不機嫌そうにロッカーを指差すと、そこにはちゃんと「箕輪和人」と書かれたプレートが付けてあるロッカーがあった

 

 

「お、あったあった。さて・・物はちゃんと入ってるかな」

 

 

和人がロッカーを開けると、そこにはちゃんと自分が頼んだアサルトカービンが入っていた。偶々ロッカーの中身を見たヤマメが立ち上がりロッカーの中身を覗き混むように見る

 

 

「お、おい・・・お前なんでこんなもん持ってるんだよ!?」

 

 

ヤマメの血相変えた声に、さとり達も和人のロッカーの方を振り向き、目を丸くする。ロッカーの中に、正規の警察の装備ではないアサルトカービンが入っていたからだ

 

 

「コルトM5・・・よく手に入ったなぁ・・」

 

 

「行きつけの場所があってな。そこで買った」

 

 

和人は、珍しそうに見るヤマメを他所に、ロッカーの扉を閉める。ヤマメは思わず、「あっ」と短く声に出す。まだ、見たかったようだ

 

 

「はい、おしまいだよ」

 

 

「もう少し見せてくれよ、ケチ」

 

 

ヤマメは少し不機嫌そうにタバコをくわえる。すると、和人はヤマメのタバコにライターで火を付ける

 

 

「お、あんがとよ」

 

 

「どういたしまして」

 

 

和人はどうやら銃を見て目を光らせたヤマメを軽く気に入ったようだ。リサ達に聞こえないように彼女にそっと耳打ちする

 

 

『後でいいとこ連れてってやる』

 

 

彼はそれだけ言うと、待機室を後にする。ヤマメには"いいとこ"というのが少し気になっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間17分後。和人とヤマメは覆面パトカーに乗ってパトロールをしながら目的の場所に向かっていた

 

 

「いやー、今日はいい天気だな。デートにはもってこいだ」

 

 

「・・・私はそんなつもりはないぞ」

 

 

「んだよ、単なるジョークさ」

 

 

「ふん、どーだか」

 

 

ヤマメは少し不機嫌気味だが、窓を開けて車内に溜まっていたタバコの煙を外へと逃がす。少しの沈黙が守られるが、和人が唐突に口を開く

 

 

「ヤマメ、ここで質問だが構わないか?」

 

 

「・・んだよ」

 

 

ヤマメは和人の方に顔を向けるが、相変わらず和人はフロントガラスの方を見ていた

 

 

「Aと言う男がBと言う男を殺しました。パトロール中の警官である貴女はAを偶々見つけましたが、Aは凶器の包丁を持っていました。さて、貴女が取るべき行動は?」

 

 

「・・・相手の凶器を落として手錠をかける」

 

 

ヤマメの答えを聞いた彼は溜め息を吐いて、少しがっかりしたような雰囲気を出す

 

 

「なんだよ。私がなにか間違ったこと言ったか?」

 

 

「なんで殺さない?」

 

 

ヤマメは「は?」と言いたそうな顔をするが、和人は続けて言葉を発する

 

 

「AはBの生きる権利を蹂躙したのに、なんで殺さない?」

 

 

「なんでって・・・そりゃお前、殺したら法的に不味いだろ」

 

 

「一人の善良な市民も守れない法律を守る必要があるのか?そもそも法律を破った人間に対してまともな手段でいくのが正しいことなのか?高々5年か10年ちょっとで出てきていいのか?」

 

 

「和人、お前の言いたいことは分かるがそれは私達の仕事じゃない。私達の仕事は法律に従って犯罪者を捕まえるのが仕事だ」

 

 

ヤマメは自分の思っている警察官の職務を和人に向けて言い放つと、和人はため息を吐いてそれ以上何も言わなかった。やがて赤信号が青に変わり、和人はアクセルを踏む

 

 

それから再び沈黙が守られるが、20分してから和人が教会の敷地内にある駐車場に車を停める

 

 

至って普通の教会で、シスターや神父が外で子供と遊んでいた

 

 

「行くぞ」

 

 

和人は先に車を降りて教会の中に入っていくと、ヤマメもそれに続いて和人の後についていく

 

 

それなりに大きな扉を押して入るが、中には誰一人居なかった。今は礼拝の時間では無いのだろうと、ヤマメは察した

 

 

「おい和人、誰もいないぞ?」

 

 

「心配すんな、いつものことだ。こんなとこに参拝に来んのは好奇心旺盛なガキとよっぽどの物好き位しか居ねえよ」

 

 

「神の御前でなんつー事抜かしてやがる。不信者が」

 

 

和人の位置から近いドアから一人の神父が悪態を吐きながら入ってくる。顔立ちから考えると、どうやらロシア人のようだ

 

 

「お前こそ客に対してなんつー口の聞き方だ。イワン」

 

 

イワンと言われたロシア人の彼は、左手で持った花を教壇に置かれた鉢に活け始める

 

 

「ここにゃ殺戮好きの警官に食わせるパンやブドウ酒はねえよ。神様の逆鱗に触れたくなけりゃとっとと帰れ」

 

 

「タダ飯やタダ酒を貰いに来たんじゃねえよ。こいつに良いもの買わせてやろうと思ってな」

 

 

和人が親指でヤマメを指すと、イワンは溜め息を吐きながら頭を軽く掻いて自分の携帯をだす

 

 

「嬢ちゃん、何番がいいんで?」

 

 

「えっ・・・?」

 

 

いきなり番号を問われて、若干うろたえるヤマメに和人を助け船を出す

 

 

「ヤマメ、ここじゃ"商品"は皆番号なんだよ。月によって番号は違うが、メールで配信されてる。まぁ、俺は迷惑メール扱いだがな」

 

 

「最後の一言は余計なんだよ、ボケ」

 

 

「へーへー、悪ぅござんしたぁ」

 

 

和人はそう言いながら、保存されたメールを開いてスマホごとヤマメに渡す

 

 

そこには、番号と共に弾薬や本来なら民間には出回らない代物の写真が添付されていた

 

 

(うっわ。こりゃヤバいヤツじゃねえか・・・)

 

 

メールを見ながらどれにするか迷っているヤマメを他所に、和人が立ち上がってイワンのもとに歩き寄る

 

 

「イワン、最近警察の連中が押収した銃のルートを探ってる。お前ん所がバレるのは時間の問題だ」

 

 

「だろうな。最近尾行(ツケ)られてる」

 

 

「彼女の件でラストオーダーにしろ。そのあとはほとぼりが冷めるまで何処かに隠すか本国にでも送り返しておけ」

 

 

「ちぇっ。商売上がったりだ」

 

 

「おぉーい和人ぉ」

 

 

和人を呼ぶヤマメの声が後ろから聞こえてくる。どうやら決まったようだ。和人が彼女のもとに駆け寄ると、ヤマメは"7番"のライフルを指さしていた

 

 

「いい趣味してんなぁ、お前さん」

 

 

「そりゃどーも」

 

 

和人はイワンに向かって左手をあげて、ハンドサインで7を表すと、イワンはコクりと頷く

 

 

「んじゃあ代金の郵送方法だが・・・」

 

 

すると、和人が歩み寄って耳元で小さな声で囁きだす

 

 

『タダにしてやれ』

 

 

その言葉にイワンは驚愕に満ちた顔を作る。それもその筈、ヤマメが選んだライフルは一級品であり40万ほどの価格だからだ

 

 

『ジョーダンじゃねえよ!なんでタダにしなきゃなんねぇんだよ!』

 

 

『よく考えろ。ここで40万を損してこれからも安全に銃を売るか、40万得してブタ箱に入って強制送還になるか、どっちがいい?』

 

 

『くっ・・・・』

 

 

結局、彼は渋々代金をチャラにして商品を受け渡していた。客と冷やかしの刑事はイワンの方を振り返らずに礼拝堂から出ていく

 

 

「はぁ・・・あの野郎にゃ敵わねぇ」


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