俺は今現在加織の家の扉の前に加織と2人でいる。
「いい加減にして、流石に部屋までは入って来ないのでしょう?!」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ?観察と言ったらその人の行動全てを見るものだろう。待てよ、今の俺は現世に受肉しているから常にこの世界に干渉している状態になるのか…」
俺が考える素振りを見せると加織は困ったように言った。
「女性の部屋に入ろうなんて図々しいわよ!」
「ふむ、仕方ない。風呂とかまでは勘弁してやろう」
俺の呟きに対し加織は唖然としていた。
流石にそこまでは家までは入ってこないだろうと思っていた男が、実は風呂までついて来るとは思ってもみなかったため、加織は絶句していた。
「ん?どうした?早く鍵を開けろ」
言われるがままに加織が鍵を開けると扉が勝手に開き始めた。
加織はここからこの男について考えることをやめた。
「ふむ、グールとしてはなかなかいい部屋に住んでるではないか」
加織の部屋は3LDKの部屋をピンク一色に染めていた。
「人は見かけによらないな」
すべてピンクに染まっている部屋は座る場所、ましてや立つ場所すらもなかった。
要するに汚い。
俺は無意識のうちに部屋の中で身体を寝かせて浮遊していた。
「神園さん、なんで浮いてるの…」
俺はしまったと思い少し顔を顰めるがすぐに諦めた。
「もう演技はお終いだな。俺のことは琉斗って呼んでくれ。神園なんて名字は適当に付けただけだからすぐに反応できないからな」
うんうんと頷いている俺に何の反応も示さずに、加織はひたすら自分の問いに対する答えを待っていた。
「実を言いますと、俺は神殺しをした神で神界では《破壊神》って呼ばれてた。口調も元に戻すけど、そんな堅くならなくていいからな。だから気軽にルトって呼んでくれ」
ルトと呼べと2回も言ったんだからきっとルトと呼んでくれるだろう。
少し満足だ。
加織はどうにかして納得しようとしきりに唸っていた。
しかし、考えることが無駄だとわかったのか遠いところを見つめた。
「うん、なんとなくわかった気がするー」
ダメだこりゃ。
なんかネジが一本飛んで行ってしまったロボットのようだ。
「まぁ、正体をバラしてしまったから口止め料として何か1つ願いを叶えてやるよ」
「え?」
俺の言葉に嬉しそうに反応している。
隠そうとしているようだがバレバレだ。
「なら、この部屋の家電を全部最新式にして!」
「お安い御用だ」
右手で指をぱちんと鳴らせばあら不思議、一瞬で最新式の家電に変わった。
ようやく俺がどんな存在なのかわかったのか、加織の俺を見る目が変わった。
ったく、現金な奴だな。
「ルト…」
上目遣いで浮いている俺を見ながら加織は更に大それたことを言った。
「部屋の片付けをして」
俺は実際、座れなくても構わないのだが汚いのも癪だったから快く承諾した。
同じように右手で指をぱちんと鳴らせばあら不思議、部屋の荷物が本来ある場所に勝手に戻って行った。
「凄いのね、ルト様は!」
「様なんてつけるなよ、この世界では俺のような奴とは別の神がいるんだから」
俺が加織に言うと、
「なんでダメなの?」
と、聞いてきた。
もちろん、理由はただ一つだ。
生まれた場所が違うからこの世界にとっては異物でしかないからバレたら俺がこの世界に居られられないからだ。
俺は神殺しが好きってわけではないし極力戦いを避けたいんだよな。
まぁこの世界の神は沢山共存しているようだし俺なんかには気にも止めないだろうし許可するか。
「他人行儀で嫌だからだな。加織、俺はお前を気に入った。特別に俺の家で住むことを許可するぞ」
「引越しするのは面倒よ」
加織は顔から表情を消し言い放った。
なんて奴だ、加織はとんでもない面倒くさがりだな。
「俺の力で引越ししてやるけどどうする?」
「引越ししましょう!」
その後、加織にご飯を貰いその日は加織の家で寝た。
翌日の昼頃に加織を俺の家に招待した。
「神の癖に意外と控え目なのね」
「なるべく目立ちたくはないからな」
俺が言うと加織は納得したかのように頷いた。
妙に聡い癖に面倒くさがりで慣れるまでに時間がかかりそうだなと感じた。
俺は家の一室に設けた加織の部屋に案内した後にリビングでダラダラ浮遊していた。
すると、そこに加織がおめかしして現れた。
「琉斗、買い物に行きましょ」
「んー、構わないぞ」
あれ、何かが頭の端に引っかかっている。
「あっ、思い出した!加織、お前仕事は!?」
てっきり仕事に行ったものだと思っていた。
14時から料理教室の仕事が入っているって昨日の夜に聞いていた。
「それ辞めちゃった、てへ」
最後に首を可愛く横に傾けて言ってきた。
こいつ、俺に寄生する気満々だな。
けど、なかなか悪い気はしないな。
人間はこういう気持ちになるから家族のために一生懸命に働くなどと吐いていたのか。
俺は今になって少しずつ人間の言動の意味がわかるようになってきていたことに少し驚きを感じていた。
こういうのも悪くないな。
一旦そう思ってしまうと行動は早かった。
「何買うんだ?」
そう言いながら俺と加織は買い物に出掛けた。
買い物は順調に終わり、俺と加織は夕飯も食べたので夜はすっかり更けていた。
そろそろ家に帰ろうかと思ったとき、俺は金木と例の女性の2人を見つけた。
2人はすぐに裏路地に消えていったのを目で確認しつつ、加織に少し用が出来たからそこのカフェで待っててくれと指を刺し2人を追いかけた。
「ちょっと!急用って何よ!」
加織の戸惑った声を背に俺は2人を追った。
追跡の結果から言うと、金木は奇跡的に生き延びた。
そして、グールだった女は一応
俺はいないものとして関与するため見てるだけに留まったが鉄柱が落ちたことでなった大きな音に気づいた人が電話で110番していたから金木は生き延びられるかもしれないな。
不思議とそれ以上は観察する気にならず、加織が待っているカフェへと戻った。
「観察する気にならないってのはなんかおかしな気分だ。この世界に毒されたか?」
自嘲気味に笑いながら俺は歩いて行った。
カフェに戻るとプリプリ怒っていた加織がいたが、俺の言葉を素直に聞くなんて忠犬か?と茶化したら更に怒ってしまった。
けれど、家に帰ると機嫌を直したのか風呂に一緒に入ろうと言われたが断ったらまた怒っていた。
加織の感情の起伏には手掛かりそうだが、下界の者との暮らしは新鮮で面白かった。
加織が風呂に入った後に俺も風呂に入り、寝る支度をしてから寝室に来ると加織が寝ていたのでリビングで寝ることにした。
明日は金木がどうなったかニュースでやってるか確認してみようと思い寝た。
加織の夕飯はお弁当です、グールですから人間と同じ食べ物は食べません