魔皇、無限の蒼穹を翔る   作:とるべりあ

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非常に遅れて申し訳ありません。
早速続きをどうぞ。

尚、今回は◆◆◆毎に昴也と刀奈の視点が入れ替わりますので、ご注意を。


act.02 邂逅

 ――昴也(こうや)ですが、小屋の中の雰囲気が最悪です。

 

 などと思わずネタに走ったが、状況はあまり良くない。

 (くだん)のお嬢だが、拘束を解いた途端、あっと言う間に身を(ひるがえ)して小屋の隅に駆け込み、こちらをじっと睨みつけたまま警戒中で取り付く島も無ぇ。

 ……まぁ、確かに拘束監禁された上に、やっと解放されたかと思えば、その相手が女物の服着た自分とそう変わらん歳の男だったら普通警戒する。俺だってそうする。

 

 とは言え、何時までもこうしてる訳にもいかん。お嬢がここに監禁されてたって事は、最低1人でもここに運んだ奴が居る。

 しかも生きたままって事は、何らかの目的があって今後も彼女を必要としている。つまり死なない程度の世話をしに、その内誰かがやって来るのが確実って事だ。

 しかし悲しいかな、ここが何処かすら分からん現状じゃ、宛もなく彷徨(うろつ)くのも無理がある。

 

 ならばせめて神帝軍(しんていぐん)との決戦がどうなったのかだけでもと聞いてみると、何この頭が奇怪(おか)しい人とでも言いたげな表情で「何それ?」と、たった一言で片付けられた。

 

 ……いやいやいやいや、あんだけ各地でドンパチやってたのに何も知らないってどういう事だ?

 いくらこのお嬢が厳重な箱入り娘だったしても、まったく耳に入らないってのは有り得んだろ!?

 

 ――と、この時の俺は相当精神的に追い詰められていたと後になって思う。

 何せ冗談でも()()()()()を全く思い浮かばなかったんだから。

 

 

 こうして無駄に時間を費やしていると――

 

 

 クゥ……

 

 

 と、可愛らしい音がお嬢の腹の辺りから聞こえた。

 

 ……あー、何時から放り込まれてたかしらんが、そりゃずっと放置されてりゃ腹だって減るわな。

 屈辱と羞恥に顔を真っ赤にさせた様子に、うっかり吹き出さない様我慢しつつウエストバッグから非常食のカロリーバーを取り出すと、そのままお嬢の足元へと滑らせる――が、こちらを睨んだまま手を出そうとしない。

 はて? と思って気付いた。要するにこのお嬢、俺がこいつに何か一服盛ってるんじゃないかと思ってる訳だ……ほんと面倒臭ぇ。

 

 俺は無言で残りのカロリーバーを無造作に数箱取り出すと、再びお嬢へと全部滑らせる。

 

 

「ほれ、毒味してやっから、そん中から適当に1本選んでこっちに寄こせ」

 

 

 そう言うと、こっちを警戒したままひと箱選び、1本取り出して俺へと放った。片手で受け取ってそのまま無造作に齧り付くと、食べていると分かる様にゆっくりと咀嚼する。

 やや大げさに飲み込むと、ミネラルウォーターを取り出して顔を上に向け、飲み口に口を付けない様に流し込みながらそれも飲み、蓋をしてお嬢へと転がす。

 そして、いつまで経っても俺に何の異常も起きない事を確認できたのか、おずおずとであるがそれらを口にした。

 

 当然、薬や毒なんて仕込んでないから異常なんて起こる訳が無い。

 

 ま、仮に入ってたとしても、魔皇(まおう)である俺には、()()()()()()()()()んだがな。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 ――迂闊だった。

 

 いくらお父様が不在だったからと言って、まさか本宅に乗り込んで私を誘拐するだなんて、あの人達を完全に甘く見ていた。

 

 あの人達――自分達の事を改革派なんて自称してるけど笑わせないでほしい、実態は単に更識本家にとって変わって裏の権力を玩具にしたいバカの集まりでしかない。

 別にうち以上に仕事が出来て、ちゃんと国への貢献が果たせるならこんな役目、喜んで熨斗付けてくれてやるわよ。でもあの人達は欲に塗れた勘違い連中とつるむだけの愚か者でしかない。

 そんな人達にこの役目を任せられる訳がない。

 

 でも何故この行動に出たのかまったく理解できない。私が更識の次期当主にほぼ内定しているとは言え、実際に楯無の名を継ぐのはまだ何年も先の話。

 なのに今動いたと言う事は、あの人達のトップにそうせざるを得ないイレギュラーが起こったのかしら?

 

 ……駄目だわ。判断材料が少ないし、何よりその答えを出すまでの考察力を私はまだ身に付けていない。我が身の至らなさが歯痒くて仕方ない。

 

 そこまで考えて、ふと自分の思考に自嘲した――これ、絶対普通の小学生が考える事じゃないわよね。

 

 さて、差し当たっての問題はここからどうやって逃げ出すか、ね。

 本家の方でも既に動いてるでしょうけど、今すぐ助けが来るとは思えないから私自身で何とかするしかないんだけど……悔しいけど無理ね。

 全然土地勘の無い場所に加えて、武器も無いんじゃ逃げ出したとしても結果は見えてる。

 

 確認してみたけど、目の前にいる男の子もここがどこだか知らないらしい。本人曰く気が付いたら近くに倒れていたって言ってたけど……胡散臭い。

 じゃあその前は何をしてたのかって聞いたら、言葉を濁して誤魔化すし。『しんていぐん』とか『まおう』だとか、全然意味不明な事聞いてくるし……厨二病ならもう少し大きくなってから罹りなさいよ! あ、でも簪ちゃんなら許す。

 そんな事より何で平然と女物の服着てるのよ? しかも変に似合ってる所がまた癪に触るったらありゃしな――

 

 

「……へくちっ」

 

 

 ……不意にくしゃみが出た。只でさえパジャマだけなのに加えて夜で気温が下がってる――これで風邪でもひいたら、余計逃げ辛くなる……どうしよう。

 

 

 

「――ほれ」

 

 

 バサッ……

 

 

 目の前の彼は何処から出したのか、大人が着そうなサイズの上着を私に放っていた。

 

 

「ちょいと汚れてるが、無いよりマシだろ。すまんな、もっと早く気付いとくべきだった」

 

「……ありがと」

 

 

 上着を拾い上げると、そのまま肩から羽織る。多分、立ち上がったら膝まで隠れるくらい大きい。

 汗と煙草の匂いが微かに香る。普段なら不快に感じるんだろうけど、何故か今は安心できた。

 

 

 意外と紳士的なんだ。

 

 

 ふと、そう思った。ぶっきらぼうではあるけど、彼は結構気が利いていた。

 さっきの水の毒味だって行儀は悪かったけど、後からそれを飲む私に気遣っての行動だと理解できた。

 

 ちょっとだけ……彼を信用しても良いのかもしれない気になった。

 

 

「ねぇ……あなたは何とも思わないの?」

 

「何が?」

 

「こんな人知れない山に、女の子が縛られて閉じ込められていたのよ? 犯人が近くにいないか不安になったりしないの?」

 

「全然」

 

 

 ……即答だった。肝が座ってるとかそんなんじゃない。例えて言うなら、土砂降りの中、傘も差さずに外を歩いたらずぶ濡れになるのが当然ってくらいな感じで言い切った。

 

 何故そう言い切れるんだろう。相手が身代金目当てのチンピラで、人数も1人か2人だって勘違いしてるんだろうか。

 でも相手は荒事対処が仕事な更識の関係者で、人数だって恐らく10人単位の筈。只の子供が敵う相手じゃない。だとしたら、その間違いを教えないと……

 

 

「勘違いなんてしてないぞ」

 

「……え?」

 

「あんたを縛ってたロープ、巻き方が綺麗だったし、何より関節外しても手が抜けない特殊な縛り方してた。

 そんな手際ができる様な奴ならそれなりに荒事には慣れてるだろうし、こんな山中まであんたを運ぶなら集団で動くのが常だろうなぁ。

 それに子供ったって案外重い。二三人程度じゃ、交代しながらでも途中で疲れて動けなくなる」

 

 

 ……本気で驚いた。

 

 この人、一体何者? あんな少ないヒントだけで、ここまで答えを導き出せるなんて……この若さで、どうやって?

 

 だから――声に出してはっきりと問いただした。

 

 

「あなた……何者なの?」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

「あなた……何者なの?」

 

 

 お嬢は今まで以上の警戒と威圧を綯交(ないま)ぜにして、俺を睨みながら問うてきた。

 

 さて、どうするか? これまでの事から、このお嬢は本当に魔皇や神帝軍を知らないって事は分かったから、面倒ではあるが説明するだけなら問題はない。

 だが、事ここに至って俺にもどうやら我が身に何が起きたのか、朧気に見えてきた気がする。もしそれが正解だったなら、それを証明する手段が全く無いとまでは言わんが少ないし、何より俺は口で説明するのが苦手ときてる。

 

 だったら、実際に見せてやるのが手っ取り早い。普通の奴なら気付かないだろうが、俺には――魔皇の強化された耳にははっきり聞こえる。

 さてさて、まだ見ぬ誘拐犯さん達よ。恨むんなら俺じゃなく、知らなかったとは言え不用意に近付いた自分らの迂闊さを恨むんだな。

 

 

 

 ――さぁ、溜まりに溜まった鬱憤晴しに付き合ってもらおうか!

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

「黙ってないで何とか……きゃっ!?」

 

 

 それまで小屋の壁にもたれて座っていた彼が、信じられない疾さで立ち上がったかと思ったら、いきなり私を押し倒してきた。

 

 

「ちょっと! いきなり何する……」

 

「伏せてろ!」

 

 

 短くそれだけ言うと、扉口から私を隠す様にして立ち上がる。

 

 

 ――そして私は見た。

 

 

 彼の右手の甲にそれまでは無かった筈の――紋章の様な、金色の模様が浮かんでいたのを。

 

 

 途端、扉口が荒々しく開け放たれ、素早く中に入ってきた男達がその手に持った拳銃を彼に向け――

 

 

 ――一斉に引き金を引いた。

 

 

 鼓膜が破れるんじゃないかと思うくらい、何発もの銃弾が撃ち込まれた。

 硝煙が小屋中に立ち込める中、顔を上げた私は彼が居た場所に目をやるけど、そこに彼は居なかった。

 慌てて周囲を見渡すと、撃たれた衝撃で小屋の隅まで飛ばされ、倒れて身動きしない彼が見えた。

 

 

「……そん……な」

 

 

 出会いは最悪だった。

 

 無作法さに正直むっとした。

 

 意味不明な事を聞かれて呆れ返った。

 

 聡明さに驚かされた。

 

 優しさに安心できた。

 

 ――でも、その彼はもう動かない。

 

 あれだけ撃たれたのだ、生きている方がおかしい。

 

 でも。

 

 でも――!

 

 

「……ねぇ、起きて。起きてよ……」

 

 

 四つん這いのまま彼の側まで寄ると、彼の身体を揺する。

 

 何時の間にか流れていた涙のせいで、力無く倒れたままの彼の姿がぼやけて見えない。

 

 

「私……あなたの名前を聞いてない。私の名前も教えてない。そんな……そんなままなんて嫌だ。だからお願い……起きて……」

 

 

 でも彼は身動ぎひとつしない。

 

 何が更識家次期当主よ。

 

 私は、何もできなかった。

 

 

「お願い……」

 

 

 簡単に誘拐されて。

 

 偶然巻き込まれただけの、たった1人の男の子すら守れなかった。

 

 

「起きてよぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

 私には、彼に縋り付いたまま、大声で泣き叫ぶしかできなかった。

 

 

 

 

「そこまでにして頂きましょうか、刀奈様」

 

「――っ!」

 

 

 彼を撃った人達のリーダー格らしい男が肩に置いた手を、思わず振り払う。

 

 

「我侭は困りますなぁ、刀奈様? 我々としましても、貴女に手荒な真似はしたくありませんので」

 

「よくもそんな戯言が言えたものね。私を無理矢理攫っただけでなく、無関係な人を警告も無く殺しておいて!」

 

「無関係? ご冗談を。子供が何の目的も無く、この様な誰も近付かない山中に、しかも真夜中にうろついていると?

 恐らく本家の息が掛かった者でしょうよ。どうやってここを割り出したか聞いてみたくはありましたが……まぁ、本家に通知される危険を冒す訳にも参りませんので、致し方ありません」

 

 

 許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。ゆるさない。ゆるさない。

 

 ――ユルサナイ。

 

 例え私がこの人達の傀儡(くぐつ)にされたとしても、必ずこの償いはさせてやる。

 

 

「おぉ、怖い目だ。ですがお忘れなき様。我々にしてみれば、担ぐ神輿は扱い易ければ誰でも構わないのですよ?

 

 ――そう、貴女であろうが、()()であろうとね」

 

 

 ニタリ――と、まるで蛇を思わせる様な冷たく無機質な笑みで私を睨み付ける男。

 

 途端に私の中で蠢いていた激情が萎えた。

 

 ……駄目、簪ちゃんは、あの子だけはこんな汚れた(くら)い世界に居させられない。

 そうなったら、あの優しい妹は壊れてしまう。それだけは絶対にさせちゃいけない。

 

 その所為で私が命を落とす事になっても。

 

 男は私が肩を落としたのを見て、私を立たせようと手を伸ばす――

 

 

 ――が。

 

 

 

 

「……ぇ?」

 

 

「なっ……!?」

 

 

 その手は、別の手によって掴まれていた。

 

 甲に、金色の紋章を浮かべた、私ではない小さな手によって。

 

 

「いやぁ、まさかこんな簡単に引っ掛かってくれるとはねぇ? あまりにも上手く行き過ぎて、実はバレてたんじゃないかと勘繰ったくらいだよ」

 

 

 ――ありえない声が聞こえた。

 

 もう二度と聞けないと諦めた声だった。

 

 

「つかさぁ、幾ら中が暗いからって、あんだけ人に銃弾ブチ込んでおいて、床に一滴も血が流れてないって普通気付かないもんか?」

 

 

 ……気付いてなかった。

 

 

「だ、だって目の前であんなに撃たれたのよ? 慌ててそれどころじゃなかったのよ!」

 

「はいはい、そーゆー事にしといてやるよ、お嬢」

 

「……お嬢じゃない」

 

「ん?」

 

「私は刀奈――更識刀奈よ。お嬢なんて呼び方しないで」

 

「了解したよ――刀奈」

 

 

 さっきまでの沈んだ気持ちなんて吹き飛んでいた。

 

 こうして彼と軽口を言い合うのが心地好かった。

 

 そして彼に名前を呼ばれたのが――嬉しかった。

 

 

「――は、離せっ!」

 

 

 そう、目の前の無粋な存在を忘れるくらいに。

 

 男は無理矢理彼から離れる、見るとかなり強い力で握られていたらしく、手首は彼の手形で真っ赤になっていた。

 

 

「おっと、悪ィな。撃ってくるのは分かってたから人化は解いてたのと、只の人間を相手するのは久し振りだったんで、ちょいと加減を誤ったわ」

 

「き……貴様、何者だっ!?」

 

 

 それは私も是非とも知りたい。

 あれだけ撃たれていたのに無傷な理由もだけど――私が今、本当に知りたいのは彼の名前だけど。

 

 

「俺が何者かって? 急かさんでも、これから嫌って程その身に叩き込んでやるよ。

 

 ――そう、この『魔皇・修羅の黄金』が1人、橘昴也がな」

 

 

 そう言って彼――橘昴也は、この先何度も私に見せる事になる、不敵で不安を消し去る笑みを初めて浮かべた。




以上です。

……今回はほんと難産でした。
道筋は分かってるのに、全く文章が浮かんでこない状態で散々悩まされる事しきり。
予定では戦闘シーンも入れるつもりでしたが、全然入る余地もありませんでした。
その分、次回は初っ端から戦闘シーンから始まる予定です。
では次回も宜しくお願いします。

あと、御意見感想もよろしく。
できればお手柔らかにw
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