魔皇、無限の蒼穹を翔る   作:とるべりあ

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お待たせしました。まずは本編をお楽しみ下さい。

今回も◆◆◆毎に視点が切り替わって行きますのでご注意を。


act.03 魔皇

「俺が何者かって? 急かさんでも、これから嫌って程その身に叩き込んでやるよ。

 

 ――そう、この『魔皇(まおう)修羅(しゅら)黄金(きん)』が1人、(たちばな)昴也(こうや)がな」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 ――さて、諸兄は無数の銃弾に晒された昴也が、何故無事でいたのか疑問に思っているであろう。

 

 その種明かしの前に、彼の宿敵である神帝軍(しんていぐん)の事を少し話そう。

 

 ある日、遥か虚空から現れた神帝軍は、自らを神から遣わされた者と宣言し、瞬く間にほぼ全世界を掌握した。

 その勢いは神速、苛烈を極め、正に赤子の手をひねる様なものであった。

 

 

 何故ここまで人類は手をこまねいたのか?

 

 

 確かにその科学力は、地球の最先端の遥か彼方を行っていた。

 

 確かに全世界規模で対応するには、その準備も連携も不充分だった。

 

 確かに神の御使いを名乗る彼らの幹部の名とその神々しさが、ある世界規模の宗教に記される、主に付き従った13人の使徒そのものであると()()()()()()、その信者の多数が彼らを攻撃する事に躊躇もした。

 

 

 ――だが、それら全ては以下の事実に対して、取るに足らない理由であった。

 

 

 刃も。

 

 銃弾も。

 

 爆弾も。

 

 大砲も。

 

 ミサイルも。

 

 ガスも。

 

 酸も。

 

 毒も。

 

 ウィルスも。

 

 そして――核ですら、彼らに毛ほどの傷ひとつ付ける事は()()()だった。

 

 

 ありとあらゆる物理法則を無視した存在、それが神帝軍。彼らによる地球の完全掌握は時間の問題であった。

 

 

 だが――そこでイレギュラーが現れた。

 

 魔に属する者、魔皇。嘗て行われた神帝軍の地球支配を辛くも退けた、神への反逆者たちが再び現れたのである。

 

 魔皇たちは己が身に流れる魔力を武器――魔皇殻(まおうかく)――に込め、神帝軍に挑んだ。

 するとどうであろう、これまで一切の攻撃を全く受け付けなかった彼らが――斬られ、抉られ、貫かれ、砕かれ、潰され、刻まれ、割られ、撃ち抜かれたのである。

 

 魔皇と人間の違い、圧倒的な身体能力の差もあるが、それは『魔力』の有無であった。

 

 どれだけ強力な兵器であろうが、()()に少しでも魔力が込められていなければ、途端にガラクタと化したのである。そして逆に言えば魔力さえ込められていれば、ただの剃刀一枚で彼らの喉を掻っ捌いて殺す事ができた。

 ましてや、神帝軍を相手に想定されて造られた武器ならば、その威力は言わずもがなである。

 

 こうして神帝軍に反抗する者は現れた。

 

 超常のモノを斃せるのは、また同じ超常のモノのみ。

 

 ここまで言えばお分かりであろう。魔皇も神帝軍同様、魔力を込められた攻撃でしか斃せない存在なのである。

 ならば、たかが銃弾程度で昴也が傷ひとつ負わなかったのは至極当然の事であった。

 

 魔力を込められた攻撃ができない以上、現時点で昴也を害せるモノなどこの世に存在しない。

 

 

 ――そう、()()()では。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 さて、ワザと小屋の隅に飛ばされる様に誘導できたんで、お嬢――刀奈にはここに退避しててもらうか。

 念の為、盾の魔皇殻である真ディフレクトウォールを召喚して、刀奈を隠す様に浮かべるとそこから出ない様言い含めて、奴らの前に立つ。

 

 無粋な連中には早々にお帰りになってほしいところだが、こっちも何故かガキに縮こまっちまったんで、これまでとの動きにどの程度支障があるか確認したかったんで、丁度良いから実験台になってもらうか。

 

 とは言え人間相手じゃ、魔皇殻使ったら手加減しても簡単に殺しちまうからなぁ……素手でも良いんだが、リーチの確認も兼ねてるから何かしら持っときたいんだが。

 

 ――あ、そー言や()()があったっけ?

 

 おもむろにウエストバッグに手を突っ込んで目当てのモノを掴むと、円を描く様に引き出しつつ目の高さに振り下ろす。

 

 

「……………………扇子?」

 

 

 引っ張り出したモノを見た刀奈が、気が抜けた口調でそれを確認した。

 あ、今お前馬鹿にしたな? 扇子は扇子でも只の扇子じゃねぇんだぞ、コレ。

 

 

「さて、たった今取り出だしたるこの扇子、只の扇子じゃ御座いません。かの()()揃いの『逢魔(おうま)の工房』製の逸品、その名も『Hi-扇子(ハイセンス)』!」

 

 

 ててれてってれー♪

 

 

「……………………(じー)」

 

 

 ……あ、視線が冷たい。

 

 いやいやいやいや、これマジで使えるんだって!?

 魔皇殻程の攻撃力は無いが護身程度ならこれで充分だし――

 

 ベシッ!

 

 思いっきりぶん殴っても壊れないんだぜ?

 

 実演宜しく手近な奴の懐に飛び込み、顎先を掠める様に閉じたままの扇子を振り抜くと、脳を揺らされた男はその場に昏倒した。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「え……?」

 

 

 若輩ではあるが、刀奈も更識家次期当主候補である以上、その立場に相応しい様に鍛錬はしていた自負はあった――だが、今の昴也の動きを視認する事が全くできなかった。

 

 それは襲撃した者たちも同様であった。我欲に堕ちはしても、暗部である更識の実行部隊。その実力は折り紙付きな彼らですら、まるで昴也が瞬間移動でもしたかの様にしか思えない程の疾さであった。

 

 答えは簡単である。

 

 現在の昴也は、人間世界に紛れて行動する為の仮初の姿である『人化状態』を解き、魔皇としての能力を開放した姿だからだ。

 

 魔皇がその能力を開放した場合、覚醒したての魔皇ですら常人の10倍の身体能力を得るのである。ましてや昴也は激戦を切り抜けた猛者、彼らとの差は大人と子供の比ではなかった。

 加えて昴也は専用武器である魔皇殻だけでなく、()()()をも封印していた。

 

 故に断言する。

 

 

 

 彼らは、昴也に出会った時点で――既に終わっていた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「――クッ!」

 

 

 周囲の連中は一瞬、何が起きたか把握できなかった様だが流石に復活は早く、無駄のない動きで抜いたナイフで斬りかかってくるが――

 

 キンッ!

 

 素早く開いた扇子の天で刃の根元から断ち切る。ちっとばっかコツはいるが慣れれば簡単ってね。使い物にならなくなったナイフに意識が向いた瞬間を狙って土手っ腹に前蹴りを叩き込むと、何人かを巻き込んで盛大にすっ転ぶ。

 

 さて、お次は何をして遊んでくれる? ……って、おいおいこんな狭い場所で拳銃(チャカ)抜くかぁ?

 素直にくらうのもウザったいし避けるのは簡単だが、盾があるとは言え下手に動いたら刀奈に流れ弾が飛んでいきかねんか……なら――

 

 バンバンバンバンッ!

 

 

「な……何だと!?」

 

「――フッ」

 

 

 俺に向けて撃たれた全ての弾丸を、開いたままの扇子で拳銃を持つ手目掛けて打ち返す。

 そのまま扇子で口元を隠して、拳銃を取り落とし激痛に顔を歪める連中を挑発する様に酷薄な笑みを浮かべると。

 

 

「……で、まだやんの?」

 

 

 如何にも馬鹿にした口調で、これ以上続けても全く無意味だと告げる。

 その際、連中に向けた扇面には、達筆な毛筆体で『降伏勧告』と言う文字が浮かんでいた……ほんと無駄に手ェ込んでんな迷匠共。

 

 一歩、もう一歩と、ゆっくりと歩を進める。すると気圧されでもしたのか、俺の歩みに合わせて連中が後退る。

 ……ふむ、こりゃもうひと押しでもしようもんなら、一目散に逃げ出すか?

 

 もう少し前だったなら、そのままお引き取り願ったんだが、今逃げられたら後が面倒になるな。

 そう考えつつ、気取られない程度に外の様子を探ると……そろそろか。

 

 もう一歩踏み出すと見せかけて、一気に刀奈のいる場所まで飛び退くと、そのまま庇う様に覆い被さる。

 こちらの意図が分からず、連中は一瞬だけ狼狽するも何かあると気付いたらしく慌てて逃げ出そうとするが……残念、もう遅ぇよ。

 

 不意に小屋の中に何かが投げ込まれた。片手で握れる程度の大きさで円筒形をしたそれは、数回跳ねたかと思うと――凄まじいまでの閃光を発した。

 

 

「ぐわっ!」

 

「め……目が…!」

 

「くそっ! 閃光手榴弾(フラッシュバン)か!?」

 

 

 目を灼かれ、逃げる事も抵抗する事もできず、ただ棒立ちになった男達に近付くと一人一人に当身をくわえて昏倒させた。さて、こいつらはこれで済んだが、今度は――

 

 

「……おい、いい加減出て来い。さっきから見てるだけだったクセに、美味しいトコだけ掻っ攫ってく気か?」

 

 

 扉口を睥睨しつつ、そこに隠れている奴に警告する。まったく、何だってこう次から次へと面倒事が頻発するんだか……。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「待ってくれ、我々は君と敵対するつもりはない」

 

 

 扉口の向こうから声が聞こえた。若くはないが、さりとて老齢でもない、貫禄ある声の持ち主であった。

 その声を聞いて、刀奈が反応した。

 

 

布仏(のほとけ)? 布仏ね!?」

 

「刀奈お嬢様! ご無事でしたか!」

 

「知り合いか?」

 

「ええ、彼なら信用できるわ。良かった……無事だったのね?」

 

 

 扉口から静かに長身の涼しげな微笑を浮かべた男が現れた。歳は30代後半から40代前半くらいだろう、だがその頭部には薄らと血が滲んだ包帯が巻かれていた。

 

 

「布仏、その傷!」

 

「大丈夫ですよ、大した傷ではありません、切ったのが額だったせいで少々出血は酷かったですがね」

 

「……ごめんなさい、私が油断したせいで皆に迷惑かけてしまったわ」

 

 

 項垂れる刀奈の姿に、慌てて自分にも油断があったと謝意を示す布仏だが、表情を改めて昴也に顔を向けると深々と頭を下げた。

 

 

「刀奈お嬢様を助けて頂いて本当に感謝している。君がここで奴らを足止めしていなければ、お嬢様を取り戻す事はできなかったろう。君は更識家の恩人だ」

 

「……まぁ、成り行きでそうなっただけだから、そこまで畏まれるとちょっと背中がむず痒くなるんで、礼はもう良いよ。 えっと、あんた……布仏…?」

 

(まこと)、布仏真だ。刀奈お嬢様の身辺警護を仰せつかっている」

 

「橘昴也だ。そっちこそいいタイミングで介入してくれたよ、お陰であいつらを無駄に傷付けなくて済んだ」

 

 

 真から差し出された右手を握ると、強く握り返された。心から感謝されていると分かる握り方だった。

 そうしながらも後から続いて入ってきた何人かの部下らしき者たちに、気絶している連中を拘束する様指示していく。

 

 

「宜しく昴也君。 ……しかし、君は一体何者なんだ? その歳にしては信じられないくらいの強さだが」

 

「……因みに、幾つくらいに見える?」

 

「? そうだな……お嬢様と同じ小学生の高学年か、行って中学生くらいかな?」

 

 

 ガックリと肩を落とす昴也、改めて他人から指摘されるとやはり精神に来る様だ。

 

 

「……だ」

 

「え?」

 

「俺は……24歳だっ!!」

 

 

 一瞬、時が止まったかの様に場が凍った。

 

 

「「ええええええええっ!?」」

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 驚いた。

 だってどう見たって私と同い年くらいにしか見えないのに、私の倍以上の年齢なんだって言われても誰も信じないわよ。

 

 それで彼が持ってた運転免許書と、スマホに残っていた写真をいくつか見せてもらったら、確かに彼がそのまま成長したらこんな風になるだろうって感じの男の人が写っていたけど……もしそれが本当だったとして、どうして彼は今の姿になったんだろう?

 

 それにそれ以外の写真……これにはもっと信じられない物が写っていた。

 

 人より遥かに大きい、鎧の様な装甲に包まれたたくさんの巨人たち。

 

 まるでファンタジー映画にでも出て来そうな多種多様のモンスターたち。

 

 そして――城の様でもあり、空母の様でもあり、それでいて翼を広げた生物の様にも見える、空に浮かぶ巨大な人工物。

 

 よくある合成写真とか、CG映像などではない。普通ならただの絵空事と斬って捨てる内容なのに、それを躊躇うくらいに本物が持つ存在感がその写真から感じられた。

 

 これは一体何なんだろう? 私も立場上、一般の人には絶対知られる事は無いであろう裏の秘密なんてものはある程度知ってはいるけど、これはそれら全てより衝撃的だった。

 

 彼に――昴也にその事を尋ねようとしたら、布仏がとりあえず本家に戻ろうと提案してきた。 ……そうね、まずは安全な場所に移動する事が先決よね。

 

 そうと決まれば後は早かった。

 拘束した連中を引き連れて山を降りた私たちは、用意されていた車に乗って更識本家へと向かった。

 

 その車中、ふと隣に座っている昴也をみると、何だかんだで疲れていたらしく、いつの間にか眠っていた。

 

 ……何気なく私は昴也に身を寄せると、こてんと彼の肩に頭を乗せた。

 

 触れた部分から彼の暖かさが伝わってきた。暫くそのままでいると、嗅ぎ慣れた匂いに気付いた。

 

 彼から渡された上着の匂い、それが彼の――昴也から香る事を。

 

 上着のポケットに入れたままだったスマホを取り出して、アルバムを立ち上げると何枚かスライドして目当ての一枚を眺める。

 

 昴也の言う事が正しければ、そこに24歳の姿をした彼が、メイド服を着た小さな女の子と一緒に写っていた。

 

 その彼は、今、私が羽織っている上着を身に着けていた。

 

 

「そうか……これって、昴也の匂いなんだ。じゃあ、やっぱり……この人が昴也なんだ」

 

 

 不思議と納得できた私は、彼に体を預けたまま静かに瞼を閉じた。私も休んでおこう。

 

 家に帰ったら――きっと忙しくなる。

 

 

 そして私は夢も見ないくらい、深い眠りに落ちていった――




以上です。

……戦闘シーン、思いっきりアッサリでしたね(汗
言い訳になりますが、何の対抗手段を持たない人間相手だと、どうしてもこうなります。
何せ普段着で宇宙から大気圏突入しても、魔力が絡んでなければ普通に生還可能なんで(汗

さて、今回どっかで見たような「何か」が出てきましたねー
今後、アレは一体どーなるんでしょーねー(棒読み

では、また次回お会いしましょう

次回は16代目更識楯無との出会いの予定です
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