魔皇、無限の蒼穹を翔る   作:とるべりあ

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お待たせしました。

ここ最近の大雨やら真夏日やらで疲れて、仕事から帰ったら何もしたくない病になってしまいました…。

では、続きをどうぞ。


act.04 会談

「――ん…」

 

 

 何かを感じて昴也(こうや)は目覚めた。

 

 ややボヤけ気味な視線の先に映るのは、見知らぬ天井――では無かった。

 

 左右から昴也の顔を覗き込む()()()()()()()()()()()

 

 

「あ、おきたー」

 

「…………」

 

 

 やけに気の抜けた、ぽややんとした笑顔の少女と、水色の髪と気の弱そうな表情の少女がそこに居た。

 

 

「……誰だ、お前ら」

 

「あー、人に名前を聞くときは、自分が先に言わないといけないんだよー」

 

「…………(こくこく)」

 

 

 ぽややん娘の言葉に、気弱少女が同意とばかりに首を縦に振る。

 

 別に名乗る事自体は構わないが、昴也自身、若干ヒネクレ者的性格でもあるので素直に言う気にもなれない。さてここはどう無茶振りをしてやろうかと、やや不穏当な考えに纏まりかけた所に――

 

 

「こらこら簪ちゃんに本音、お客様に失礼でしょ。後で紹介してあげるから、今は席を外してちょうだい」

 

 

 と、開けたままの障子から刀奈が現れ、先に居た二人に注意する。

 

 

「ぜったいだよー? かんちゃん、いこー」

 

「…………(こく)」

 

 

 刀奈に(たしな)められた二人は、意外と素直に部屋から出て行った。その二人を目で追いながら、昴也が刀奈に尋ねる。

 

 

「あの無口な方が、お前の妹か?」

 

「あら? 私、簪ちゃんの事話してたかしら?」

 

「俺が死んだ振りしてた時、あの誘拐犯と話してたろ」

 

「ああ……、あの時ね」

 

 

 額に手をやり、苦々しい表情になった刀奈が納得する。

 

 

「第一印象だから、あんま当てにはならんと思うが……荒事向きの性格じゃなさそうだな?」

 

「ご明察。簪ちゃんは優しすぎるわ……ま、そこが可愛いところなんだけど」

 

 

 既に姿は見えなくなっているが、それでも簪が去った先を眺める刀奈の表情は慈愛に満ちていた。

 

 

「――で? 俺を起こしに来たって事は、何か用事があんだろ?」

 

「ああ、うん。お父様が会いたいって。急ぎじゃないから、先にお腹に何か入れておく?」

 

「ああ、あるなら貰うわ。流石に腹減った」

 

「じゃあ、直ぐ用意するわ。ちょっと待ってて」

 

 

 布団に座ったまま、部屋を出て行く刀奈を見送ると部屋を見渡す。

 十二畳程の何もない普通の和室であった。恐らく客間として使われているのだろう。

 

 枕元に目をやると、着替えらしい衣服が畳んで置いてあった。昨日着ていた服はあの騒動でボロボロになっていたので、これは有難かった。

 刀奈が戻ってくる前に着替えると、まるで誂えたかの様にサイズがピッタリだった。ついでに布団も畳んで押し入れに仕舞っておく。

 

 着替えの傍に置いてあったウエストバッグを漁り、取り出した煙草に火を点けると、部屋から縁側へと出てよく手入れされた庭園を眺める。

 素人目に見ても、かなり金が掛かってるのが分かる立派さであった。

 

 

「お待たせ――って、何煙草なんて吸ってるのよ!?」

 

「だから俺は24歳だって言ってんだろ。部屋の中で吸ってないんだから見逃せ」

 

「だからって、はいそうですかって言えないわよ! 大体、その見た目じゃ誰も信じる訳無いじゃない!」

 

「そこだけは俺も同意だ……ほんと、何でこうなっちまったんだろうなぁ」

 

 

 遠い目をしつつ、吸殻を携帯灰皿に仕舞うと、部屋に戻って座り込む。

 押してきたキャスターから、刀奈が膳とお櫃、そしてポットと急須を昴也の前に置いた。

 献立は焼き鮭、出汁巻き卵、小松菜と油揚げのお浸し、納豆、そして味噌汁と、正に教科書通りの和食であった。

 

 ぞんざいに「いただきます」と言い、ガツガツと口に放り込む。

 マナーもへったくれもなかったが、意外と見ていて気持ちの良くなる食べ方であった。

 

 

「よくもまぁ……」

 

「――ぅん?」

 

「よくもまぁ、普通に食べられるなって思ったのよ。うちが訳ありな家って分かってるんでしょ?

 食事に一服盛られてるって思わなかったの?」

 

 

 味噌汁で口の中の物を流し込むと、昴也は一旦食事を中断する。

 

 

「そんなん意味ないから、だな」

 

「え?」

 

「確かに人化した状態でなら、普通に俺を殺せる。だが()()()()()()()()()()()()、ならだ」

 

「……どういう事」

 

「致命傷を受けたと身体が認識した瞬間、自動的に肉体が人から魔皇へと切り替わるんだ。しかも、それまでに受けた傷や毒が完全に消えた状態でな。

 ――何なら試してみるか?」

 

 

 冗談交じりに軽口で言っているが、目が全く笑っていない。実行したらどうなるかぐらい目に見えていた。

 その瞬間、自分だけでなく、この屋敷に居る者全てが報復されるのがオチだ。

 

 

「……やらないわよ。それとこちらを試す様な挑発も止めてくれない?」

 

「バレたか――すまんな。割りと気が抜けない日常を送ってたもんだから、ちょっと用心しただけだ」

 

「どんな日常よ……まぁ、良いわ。詳しくはお父様との話で聞かせてもらうから」

 

「何だ、お前も同席するのか?」

 

「当事者だし、次期当主でもあるから当然でしょ。あと、お前じゃなくて刀奈。何度も言わせないで」

 

「へいへい」

 

 

 言うと昴也は食事を再開した。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 刀奈に連れられて、当主の部屋へと向かう。

 

 元からかなりの大きさの屋敷らしく、まるで迷路の如く(実際そうなのだろう)右に左にと入り組んだ廊下を無言で進んでいく。

 

 やがて目的地に着いたらしく、襖の前でちらと昴也を見るとその場に正座し、部屋の中の人物に刀奈が語りかけた。

 

 

「お父様、客人をお連れしました」

 

「――ああ、入ってくれ」

 

 

 一瞬、自分も刀奈に(なら)うべきかと思ったが、客人扱いだし無理に合わせる必要も無いかと立ったままでいた。

 刀奈も注意するつもりは無かった様で、襖を開けると昴也に入室する様に目で合図する。

 

 軽く目礼して中に入ると、そこには水色の髪を後ろに撫で付けた壮年の男性が座卓の上座に座っていた。恐らく彼が当主なのだろう。

 そしてその斜め後ろに昨夜会った布仏が控えていた。

 

 素なのか演技なのか判断が付かない柔和な表情をした当主らしき男の対面に、何の気後れも無く胡座を組む昴也。

 

 

「橘昴也だ。宿を貸してもらって感謝する」

 

「なに、娘の恩人に対する当然の礼だよ。私が更識家十六代目当主、更識楯無だ。橘昴也君、娘を――刀奈を助けて頂き感謝する。当家は君を歓迎するよ」

 

「そりゃどーも。で、あの連中はどうなったんだ?」

 

「聞きたいかな?」

 

「ま、大体想像はできるけどな。けしかけられた犬は兎も角、その飼い主は?」

 

「うむ、消えてもらったよ。文字通りね」

 

 

 かなり物騒な会話をお互い顔色一つ変えず、まるで明日の天気はどうかとでも言う気安さで会話を進める二人。

 

 

「ふむ、予想はしてたが、やっぱり只の名家とかじゃなかったか。単に古くから続く家にしちゃ、荒事に慣れてたみたいだったし」

 

「それを簡単に無力化した君が言うかい? 主家を裏切ったとは言え、彼らの実力自体は本物だよ」

 

「それは認める。たが、相手が悪かったってだけだ」

 

「――なら教えてもらいたいものだね。君が一体何者で、何の目的であの場所に居たのかを」

 

 

 不意に二人が纏う空気が一変する。真意を確かめんとばかりに、互いの瞳を覗き込む。

 口を挟める立場にない刀奈は、己の身体が震え出さない様に無理矢理押さえ付けるだけで精一杯だった。

 

 そこへ、それまで一言も発しなかった布仏が、助け舟とばかりに発言する。

 

 

「昴也君、君から預かった免許証を確認させてもらったんだが……これは、本物でありながら偽物だった」

 

「どう言う事かな、布仏?」

 

「材料や製法は完全に本物なのですが、登録された記録、それと本籍に該当する住所も存在していません。

 本物にしか見えない物を用意できるにしてはそれ以外の事が杜撰すぎるし、何よりそれを隠そうとした痕跡すらありませんでした。

 それと……もうひとつに関しては、正直に言って未だに信じられないのですが……」

 

 

 そこまで言って言葉に詰まる布仏に、楯無は構わず続きを促す。

 

 

「その免許証やスマートフォンの画像データに写っている顔と、今の昴也君の顔を照合した処……ほぼ完全に同一人物であると結果がでました」

 

「彼の肉親とかではなく?」

 

「ええ、理由は幾つかありますが、確定した一番の理由は耳の形です。これは指紋同様、一人一人同じものが無い上に整形で誤魔化せません」

 

「ふむ、(にわ)かには信じられないが……昴也君の方に心当たりは?」

 

「こっちが聞きてぇよ」

 

 

 憮然とした表情で答える昴也を、値踏みする様に見つめる楯無。

 

 

「では、改めて聞こう。橘昴也君――君が何者で、何故あの山中に現れたのかをね」

 

「……答える前に確認したい。これから言う幾つかの名前を聞いた事があるかどうか、誤魔化さずに教えてくれ」

 

 

 楯無は少し考えた後、無言で質問を(うなが)した。

 

 

「魔皇、逢魔、魔皇殻、殲騎、紫の夜、神帝軍、プリンシバリティ、グレゴール、ファンタズマ、ネフィリム、テンブルム、サーバント――以上だ」

 

 

 目を閉じたままの楯無は、昴也の発した言葉で己が記憶と一致するものがあるか慎重に熟考する。

 

 ――その結果。

 

 

「いや、無いな。強いて言うなら、一部特定宗教で使われている名前はあるが……それ以外は全くだ」

 

 

 その言葉に嘘も演技も混ざっていない事を見抜くと、昴也は盛大な溜息と共に大きく肩を落とした。

 

 

「薄々、そうなんじゃないかって自覚はしてたが……実際そうだって分かるとマジでガックリ来るな。

 ……あー、正直な話。俺自身嘘臭いとは思うんだが、どうやら俺は――

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 そして昴也は自分の過去を語り始めた。

 

 神帝軍に支配された、もうひとつの世界の事。

 

 魔皇の因子を持つ、ただそれだけで投獄された者達。

 

 身の危険を顧みず、我が主となる者の為に救助に来た逢魔達。

 

 魔皇として覚醒した自分を含めた者達による反抗。

 

 目的半ばで倒れた仲間、奪われた拠点。

 

 因縁の相手と出会い、戦い、そして決着。

 

 劣勢から僅かずつ状況を変えていき、遂に迎えた最終決戦。

 

 そして――あのテンブルムでの最後の爆発。

 

 

「てっきりアレで死んだと思ってたんだけどねぇ……気がつきゃ、俺一人こんなナリになって、あの山中で倒れてたって訳だ」

 

 

 語り終えた昴也は、既に冷めた茶を一息で飲み干した。

 

 そして言葉だけでは不充分だろうと、幾つかの魔皇殻とウエストバッグ内のアイテムの使い方を実演する事で、理解はしてもらえた。

 

 

「すまないね、頭の中で納得はしているんだが……どうにも染み付いた常識と言う物が邪魔してね」

 

「当事者の俺自身が半信半疑なんだ、その反応は間違いじゃねぇよ」

 

「しかし、分からないな」

 

 

 改めて淹れた茶を啜りながら、楯無は昴也に訊ねた。

 

 

「君達魔皇が、神帝軍とやらに対抗できる存在だと言うのは分かった。それ故に敵対関係と言うのもね。

 だが、対抗できると言うなら、それを以て交渉はできなかったのかな? 実際、そうできた相手も居たみたいじゃないか」

 

「いや、今でこそ奴らが言う所の『神』から新たに与えられた指令で多少は軟化してるが、連中にとって魔皇ってのは、遥か昔、『神』を裏切った原始の魔皇に連なる、不倶戴天の相手でしかなかった。

 それに、その魔皇が妨害した所為で、千年前に行われた侵攻は断念せざるを得なかったとなりゃ、最初から魔皇と敵対する以外の選択肢は皆無だったろうさ。

 

 それとな……どうしても、神帝軍の支配を認める訳にはいかない理由があった」

 

「それは?」

 

「神帝軍の支配地じゃな、極端に治安が良くなるんだよ。極端な話……一昔前のニューヨークのハーレム地区が東京並にな」

 

「それは……良い事では?」

 

「そりゃあ良くなるわなぁ。何せ――

 

 

 

 

 

 

 

 そこに住んでる連中は、神帝軍(奴ら)のエサとして、感情エネルギーをごっそり抜かれるからな」

 

「「「――!」」」

 

 

 空気が――凍った。

 

 

「神帝軍はな、定期的に人間の感情エネルギーを摂取しないと生きられないんだよ。だから地球に侵攻してきた。

 ああ、確かに連中の庇護の下でなら、何時までも心優しく、争いも無く、穏やかに暮らせるだろうよ。

 

 だがな、それって本当に生きてんのか?

 進歩や発展ってのは、感情が抑えられた状態でも起きるもんなのか?

 ただ与えられた平穏に疑問すら浮かばず、唯々諾々(いいだくだく)と流されて、その対価として感情を奪われるだけ……そんなの、そんなの人間じゃねぇッ!

 

 それは()()って言うんだッ!!

 

 だから俺達は戦ったッ! 戦わなきゃならなかったんだッ!!」

 

 

 誰も言葉を発しなかった――いや、何も言えなかった。

 

 それ程昴也から発せられた怒気は強烈だった。

 

 楯無は思った。これがもし自分達を騙す為の演技だとしたら、彼はオスカー物の名優だな、と。

 

 そして刀奈は、昴也のあの飄々とした行動の奥底に、これだけの激しい感情が渦巻いていたのかと、それを見抜けなかった未熟さを悔いた。

 

 

「そりゃ全ての魔皇が同じ想いだった訳じゃない。中にはゲーム感覚や暴れられるからってだけで戦った奴らも居た……ま、そんなのに限って早々に殺られてたがな。

 

 だが俺と仲間達は、人が人として当たり前に生きられる、そんな世界を取り戻す為に戦った。

 

 その結果を見られなかったのが――唯一の心残り、かな」

 

 

 楯無は昴也を静かに見つめた。

 

 彼はどれだけの地獄を見て来たのだろうと。

 

 実際に彼が言う通り成人していたとしても、殺し合いの日々で精神が疲弊しない筈がない。

 

 何時壊れるか分からない、昴也の精神的危うさを楯無は気付いていた。

 

 故に問うた。

 

 

「昴也君、これから君はどうするつもりだね?」




以上です。

さてさて、やっと自分が別の世界に来たと自覚した昴也。
彼は一体何を望むのでしょう?

では、また次回お会いしましょう。
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