真・転生無双 至高の武人伝   作:時語り

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熱男

 

旅先で出会った三人の少女。

そのうちの一人の徐晃から手合わせを求められ、応じた一刀。

審判の焔矢が開始の合図をすると同時に徐晃が先手を仕掛ける。

戦斧という重量のある武器にも関わらず、体のバネを生かした素早い動き。

この動きを見ただけで、一刀は徐晃の強さに期待を持った。

 

「ふっ!」

 

上段から一息で振り抜いた鋭い一撃。

とてもいい一撃だと思いながら、一刀は軽く避けた。

ところが、続けて繰り出してきた薙ぎ払いは大した攻撃でもなかった。

 

「うん?」

 

不思議に思いつつも烈火で防御しつつ、懐へ飛び込んで紅蓮を振るう。

勿論、刃を反してあるので当たっても斬れはしない。

 

「むっ」

 

咄嗟に反応して回避した徐晃。

しかし、ここでも一刀は疑問を感じた。

回避行動に出る際の反応はとても良かった。

それなのに、回避行動そのものおける足捌きがまるでなっていない。

反応が良かったから避けられはしたが、次の動作に繋がるものではない。

 

(これはひょっとして)

 

ある事に気付いた一刀はそのまま攻め込む。

徐晃は防戦一方になりつつも、隙を見て一撃を繰り出すが難なく防御され、そのままカウンターを浴びる。

そうなったらもう成す術は無くなり、トドメに烈火を峰打ちで肩に打ち込まれ、戦斧を落として膝を着いた。

 

「そこまで! 勝者呂迅!」

 

思ったよりも呆気ない幕切れに荀攸と陳登は目が点になる。

これまで町のごろつきや盗賊から自分達を守ってくれた徐晃があっさりと負けたのだから、驚くのも仕方が無い。

 

「嘘、香風がこんなにあっさり……」

「さすがは五本柱最強の人」

 

武術に関して素人の二人が一刀の強さに素直に尊敬の眼差しを送る。

しかし、武術を学んでおり徐晃の腕を直接体験した一刀の考えは違った。

今の手合わせは、徐晃が負けて当然の試合だったからだ。

 

「あのさ、ひょっとして我流?」

 

一刀からの問い掛けに徐晃は頷いて返す。

それを聞いて恋と焔耶もそういう事かと気付いた。

 

「どういう事? 何で香風が我流って気付いたの?」

 

訳が分からない荀攸が尋ねると、一刀達が解説する。

 

「正直言って彼女は良い素質を持っていると思うよ。体格の割に力も瞬発力もある。でも、武術の基本がなってない」

 

基本がなっていないと言われ、徐晃は少なからずショックを受けた。

 

「攻撃直後から次の攻撃への流れができてないな。だから、振り下ろしの後の薙ぎ払いが平凡以下な攻撃だった」

「足捌きも悪い。回避の後、反撃ができる動きじゃない」

 

続けざまに焔耶と恋からもダメ出しをされ、徐晃はがっくりと俯く。

これまでに出会った盗賊や町のゴロツキには勝っていたので、少なからず自信はあったのだが、それをへし折られた。

フォローしようと旅中での盗賊との戦いの事を陳登が指摘すると。

 

「その程度の奴なら通じただろうけど、一流の武人には今の手合わせみたいにあっさり負けるよ。持って生まれた才能だけで戦っているようなものだから」

 

トドメの一撃を一刀から受けた徐晃は膝を着いて崩れ落ちた。

確かに誰からも教えは受けていなかったが、なまじ負けていなかっただけに自信を持ってしまっていた。

後は夢である斧での飛行ができるように、名のある人の下でこれまでのような精進を重ねればいいと思っていた。

ところがそれは大きな勘違いだと気付かされた。

唯一の救いは、素質はあると言われたことだけだった。

 

「うぐぅ……」

 

普段はあまり感情を表に出さない徐晃は、初めて悔しさを露にしていた。

あまり頭が良くないと自覚している彼女にとって、武術だけが唯一の道だった。

我流とはいえ野生動物や暴漢を倒せていたので自信を持って、斧による飛行という夢のため修行の旅に出た。

その自信が全て幻想だという現実を突きつけられ、悔しさを出さずにはいられなかった。

 

「でも、さっきも言ったように素質はあるんだ。師匠の下で修行すれば、すぐに強くなれるさ」

 

最後に一刀が慰めの言葉をかけると、徐晃は顔を上げて本当かと目で訴える。

 

「慢心せず、一生懸命に打ち込めばね」

「……頑張る!」

 

希望が見えた徐晃は立ち上がって新たな決意を固める。

幻想ではなく本当の強さを手に入れたいと。

 

「じゃあ早速師匠に紹介状でも、と言いたいところだけど」

 

一刀が言葉を濁した理由は誰もが分かっていた。

手元には文を書く物が何一つ無く、山中なので物を売っている店も無い。

付近の町へ行けばあるだろうが、ぼったくられるのが目に見えている。

 

「この辺りでまともな商売をしていそうな場所というと……」

「近くでまともに機能しているのは漢中ぐらいかしら」

 

漢中ならばそう遠くないものの、一刀達の旅のルートからは少し外れることになる。

 

「漢中に寄るとなると、到着が数日遅れそうだな」

 

別に到着日を約束している訳ではないので、数日遅れること自体は問題無い。

道中の食事も訓練を兼ねて狩りをすればいいし、盗賊に遭遇しても戦力は揃っている。

 

「なら大丈夫だろう。君達もそれでいいかい?」

「アチシは文句は無いわ」

「右に同じく……」

「平気」

 

三人が同意してくれたので、一行は進路を変更して漢中へと向かう。

その道中で旅をした地の情報を交換し、各地の現状を知っていく。

貧しくギリギリの生活を強いられている場所が広い範囲にあり、まともなのは極一部の領地だけ。

そこへ余所の領民が移るものだから、別の領地の太守などがいいがかりを付けて攻め込む。

これにより各地で紛争が勃発し、盗賊に身を落とした輩の事もあって、どこも大変なのだそうだ。

同じように別の領地から多数の移民が来たことがきっかけで、一刀達も戦闘をした事がある。

勝利を納めてその地も管理することになった際、桔梗は余計な仕事が増えたと嘆いていた。

 

「そうやって領地が増えたせいで、細かいところに手が回らなくなって崩壊した場所もあるわ」

 

領地が増えたのはいいが、それを任せられる者が育っていなかったり、任せたら任せたで不正の嵐になったり。

それの対応に苦慮しているうちに、今度は元々の領地への対応が疎かになり、結果的に治安が悪化する例もあるそうだ。

 

「厳顔様のところはそういうのは?」

「亡くなった師匠の父親が人材育成に力を入れていたみたいでさ、人材には少し余裕があるんだ」

 

そしてその抜けた穴は経験の浅い者を入れ、今後のために鍛えている。

 

「そういう育て方って、人材に余裕が無いとできないよね」

「しかも育成だから、時間がかかるんだよな」

 

それでも、余所に比べればずっとまともに機能している。

経験が足りないだけで能力は鍛えられているので、ミスをしても混乱が少なく済んでいるお陰だ。

普段は文句を言いながら机仕事をしているにも関わらず、締める所は締める桔梗らしい仕事ぶりが発揮されている。

 

「その分、外部から来た人には相応の能力か素質が求められるけどね」

 

育成を主にしているだけに、外部から来た人材にはより高い能力か素質を持つ若者が求められる。

これはいつの世も同じだった。

 

「だから頑張ってね、三人とも」

「やってやるわよ。アホな叔母さんを鼻で笑ってやるためにも!」

「農政なら誰にも負けない自信がある」

「頑張る。いつか空を飛ぶためにも」

 

徐晃のは難しいんじゃないかと思いつつ、その事を一刀も焔耶も口にしなかった。

恋に至っては本気にしており、頑張れと励ましている。

そんなやり取りをしながら数日歩き続け、ようやく一行は漢中に到着した。

 

「これは思ったよりも活気があるな」

 

町中に入って受けた印象はそれだった。

 

「こっちでは変わった医術があるそうだけど、それの影響かしら」

 

その話を聞いたことが無い一刀達がどんな医術なのかと尋ねると、雄叫びを上げながら輝く鍼を刺して治療するそうだ。

本当にそれは医術なのかと、未来の医術を知る一刀は不安に思った。

鍼治療なのはともかく、叫ぶのと輝くのは何か変な宗教紛いの行為なのではないかと。

勿論、そんな事は情報を仕入れた荀攸達も信じきっていない。

そこへ。

 

「元気になれえぇぇぇぇっ!」

 

本当に雄叫びが聞こえてきた。

気になった一行が人ごみのできている場所へ向かうと、民家の中で赤毛の男が床に伏せている男に鍼を刺していた。

しかも本当に鍼が輝いており、治療を終えた後の男性の顔色は幾分マシになっていた。

 

「これで良し。だいぶ良くなったから、明日もう一回治療をすれば完治するだろう」

「あぁ……華佗先生。ありがとうございます」

 

満足気に立ち上がる男に病の男が礼を言う。

それを見届けた野次馬達も、さすがは先生だと口々に褒め称えている。

 

「ほ、ほらね」

「……本当だったんだ」

 

初めて見た医療行為に唖然としている一刀達を残し、周囲の人々は散っていった。

民家を出ようとした華佗と呼ばれた男は、突っ立っている一刀達に気付き話しかけてきた。

 

「やぁ、俺に何か用か?」

 

爽やかな笑みで話しかけられ、一刀達はようやく意識が戻った。

 

「い、いや、変わった医術だなって」

「お前達は余所から来たばかりか? いやぁ、俺も最初の頃は回りに疑いの眼差しで見られたもんだ」

 

当然だなと誰もが思った。

 

「おっと、紹介が遅れたな。俺の名は華佗! 病魔と闘う五斗米道の継承者! 夢は大陸全ての病を治す事だ!」

 

自身の夢を叫びながらポーズを決めた華佗を見て一刀は思った。

この人は痛い系の人か中二病患者なのではないかと。

他人の治療よりも、この人の治療の方が先なのではないかとも。

 

「ご、ごどうぇいどう?」

「違う! ゴットヴェイドォーだ!」

 

華佗は発音の違いを指摘し、何故かポーズを決めて正しい発音を聞かせる。

 

「ごどべいとう」

「ごとうぇとう」

「違う、違う、違あぁぁぁうっ!」

 

誰一人正しい発音をしないので、顔を激しく左右に振って発音の違いを叫ぶ。

 

「ゴットヴェイドォーだろ?」

 

周囲が上手く発音できない中、一刀だけが正しい発音をする。

それを聞いた華佗は一刀の手を握って叫んだ。

 

「友よ!」

 

一刀の華佗に対する印象はこれで固まった。

暑苦しい痛い系の男と。

 

「いやぁ、すまんすまん。同じ医術を使う仲間以外で、まともに発音できる奴には会ったのは初めてだったんだ」

「別に友人ができるくらいは構わないんだけどさ」

 

ツテや人脈は広い方がいいので、友人を作る事自体は決して悪くない。

問題は、その友人がどういう人物なのかだ。

人物的に見れば華佗は良い人物。

暑苦しい部分こそあるが、やっていることは善行で理想も高い。

おまけに治療の実績も残しているので、縁を作っておいて損は無い。

知り合いが病気になったり、自分達が怪我をした時に治してもらうためにも。

 

「それにしても、大陸全ての病を治すだなんて」

「無謀な理想だというのは分かっている。でもだからこそ、挑んでみる価値があるんだ」

「その意気込みは分かるな」

 

誰でも高い理想に挑む気持ちを一度は持ったことがある。

なので、無謀だとは思っても決して馬鹿にはしない。

 

「ところで、さっき鍼を光らせていたけど、あれはどうやっているんだ?」

 

実際の治療を見て目の当たりにした、治療に使う鍼が輝いている様子。

あれがどういう仕掛けなのか気になった一刀が仕組みを尋ねる。

 

「あれか。あれは気を鍼に集中させているんだ。その気を病魔にぶつけ、退治して治療するのが五斗米道の治療法なんだ」

 

説明を聞いて気功療法のようだと一刀は思った。

 

「気って何?」

「気というのは誰の体にも流れている力で、一部の武人はこれで体を強化したり気を飛ばす遠当という技を使うらしい」

 

恋からの質問に華佗が答えると、武の道を行く一刀達四人が反応する。

特に遠当てという技は、牽制や遠距離攻撃も使えるという意識を相手に持たせられる。

戦う術を増やし、戦術を広げる意味ではとても役に立つ。

 

「気って、俺達でも使えるようになるか?」

「俺は戦いに使う術は知らないが、気の扱いについてなら教えられるぞ。教えてやろうか?」

「是非」

「その前に厳顔様への紹介状書いてくれない?」

 

気は教わりたいが、先に約束をしたのは荀攸達の紹介状なので、そちらを優先することにした。

必要な物を揃えて桔梗への書を書き、手渡す。

 

「じゃあ早速、巴郡へ向かいましょう」

 

予定に無い遠回りをしたので、早く巴郡に行きたい荀攸が陳登と徐晃を急かす。

せわしない様子に陳登は溜め息を吐き、徐晃は気にせず頷く。

 

「徐晃は気を教わらなくていいのか?」

「二人の護衛が優先。それに私にはまだ早いと思う」

 

徐晃としては桔梗の下で腕を磨いた後、修業を終えて巴郡へ戻った一刀達に教わるつもりでいる。

今の自分に必要なのは気ではなく、全く身についていない基本を学ぶ事だと自覚している。

優先する順番としても間違っていないので、一刀達は納得して短い旅の仲間三人を送り出した。

 

「さて、じゃあ気を教えてくれないか?」

「その前に一つ聞きたい。お前達はしばらくここに滞在するのか?」

 

実は華佗も病魔を探しながら町から町へ旅をしているらしい。

今は知り合いの鍛冶屋に鍼を鍛えなおしてもらうために漢中を拠点にしているが、そろそろ旅を再開するつもりだそうだ。

 

「できれば早めに天水へ行きたいんだけど」

 

それを聞いた華佗は笑みを浮かべた。

 

「なんだ、だったら道すがら教えてやるよ。俺も次は北のほうにいる病魔を探そうと思っていてな」

 

幸運にも進む方角が同じだったので、一刀は一時的に華佗を仲間にすることにした。

恋も焔耶も気を覚えたいのでこれに同意した。

同時に、仲間に医者が加わったのを心強く思った。

 

「けれど、明日までは待ってくれ。さっきの病人に最後の鍼を打ってやらなきゃならないんだ」

 

勿論これにも同意し、一刀達は華佗が泊まっている宿に一泊することにした。

翌日、最後の治療を終えて完治したのを確認した華佗を仲間に加え、一刀達は改めて天水への旅を再開した。

 

 


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